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一日一話

05/11 梟

作者: 熊と塩

「『月も眠る丑三つに、世界を遍く宝石は身を隠すであろう』……」

 警視庁警備部・内海警部は、読み上げた語の記されたカードを翻し、舌打ちをした。

「怪盗フクロウ。間違い無く、奴の犯行予告ですね」

 国立新美術館館長は脂汗をかいていた。

 怪盗フクロウは、今日本を騒がしている大泥棒だ。世界的に有名な美術品ばかりを狙い、狙った品は確実に盗まれる事で知られる。その素性は誰も知らないが、盗まれた美術品は闇市でさえ取り引きを拒む様な代物ばかりである事から、金銭が目的でないだろう、という推測される。

「やはり、そうですか……他にここから解る事は?」

「奴は予告文に必ず日時まで指定してきますから、『月も眠る丑三つ』とは、午前二時過ぎに新月を迎える夜、という事でしょう」

「つまり?」

「明日です」

 明日、と館長は絶句した。

「こちらからも質問させて頂きますが、この『世界を遍く宝石』とは何か、心当たりはありますか」

「それは、<梟の泪>でしょう」

「フクロウの?」

「ええ。梟の泪は世界最大、最高の輝きを持つアレキサンドライトです。現在当館で開催中の<世界の貴石展>の目玉として展示しているのですが……」

「成る程、奴にとっては、うってつけのお宝、と言ったところでしょうか」

「笑い事ではない!」

 そう声を荒げたのは、梟の泪の持ち主である資産家だ。

「あの宝石の価値を解っているのか。そうナメてかかるから、アンタ方警察は、たかがコソ泥なんぞに何度もいい様にされるんだ!」

 この言い草が、内海の琴線に触れた。

「ナメちゃいませんよ。奴の事をたかがコソ泥とも思っていません。我々警察には長年のノウハウと、プロとしての自信があります。だが奴はその上を行くのです。奴もまた、盗みのプロなのでしょう。それに、これまでの犯行を阻止出来なかったのは、一部、非協力的な依頼主が原因でもあった」

「それは責任転嫁だ!」

「事実ですよ。フェイクを守らされ、本物をまんまと盗まれるという茶番を演じさせられた事もある」

 睨み合う所有者と内海の間に、まあまあ、と館長が割って入った。

「兎も角、兎も角ですな。当館から展示品を盗まれたとあっては、国の沽券に関わります。どうか、どうか宜しく……」


 梟の泪は中央展示室の真ん中に展示されていた。ご説明しましょう、と館長が説明を始める。

 閉館後は防犯装置が起動する。まず古典的なものからでは、展示台の感圧センサー。これは梟の泪の重量を記憶し、それからほんの一ミリグラム、百分の一秒間の変化にも反応する。展示台を覆うガラスは厚さ四センチの防弾ガラス。フロア内には幾筋もの赤外線レーザーが張り巡らされ、それらは最新のセンサー技術でもって、ランダムに動く。

 夜間、これらの防犯装置をかいくぐり梟の泪を盗み出す事は、到底不可能と思われた。しかし内海には、この条件下であっても、フクロウは盗みに入るという確信があった。

 フクロウは最初の犯行から、自らの犯行回数を六度と明言していた。そして、今回がその六度目なのである。そして最後を飾るには、梟の泪は相応しい品であった。


 翌晩、美術館には万全の警備体制が敷かれた。しかしそれは、梟の泪所有者にとってである。警察の警備部隊と雇われた民間の警備員達との間には、マネジメントなど存在しなかった。いざという時に起こる混乱が起きるのは明白である。内海には既に予測していた事態だったが。

 警備室でモニターの前に立つ内海。その横で、館長と所有者は時計を気にしている。

「もう二時半ですよ。一向に現れる気配はありませんが……」

「ハッ、それは当然ですよ館長。この厚い警備を前にしては」

 その時だ。警備室のモニタが全て暗転し、何も写らなくなった。動揺する最中、パッと画面が映し出される。表示されたのは、犯行予告のカードにあったのと同じ図柄、怪盗フクロウのシンボルマークだった。

「これは……ッ」

「警備システムがハッキングされてるんだよ、あんたらのシステムが!」

 警視庁が単独で警備に当たるならば、警備システムはネットワークから切断し、孤立状態にしていたところだが、今回はそうもいかなかった。内海の提案は、警備会社に却下されてしまったのだ。

 所有者が慌てふためき、無線のマイクを引ったくる。

「中央展示室だ! 全員、梟の泪を守れ!!」

 この一言で現場は混乱した。民間の警備員達はそれぞれ持ち場を離れ、中央展示室に集合し、警察の警備員はそれによって生まれた空白を補完するのに奔走、中央展示室のセンサーが警備員に反応し、警報を鳴らしまくる。照明は非常灯さえ点灯せず、暗闇の中を警備員達は右往左往する。

 内海は堪らず警備室を飛び出していった。


 システムの回復は不意に訪れた。突然全館の照明が点き、警備員達を照らし出す。

 中央展示室には、梟の泪があった。ケースを破られた形跡も無い。館長、所有者、そして警備員達はほっと胸をなで下ろした。

 だが、

「た、大変だッ」

 俄に動揺が走った。梟の泪と中央展示室の展示物、それらを除く全ての宝石が、姿を消していたのだった。

 ダイヤモンド、アメジスト、ルビー、サファイア、エメラルド、ターコイズ。ありとあらゆる展示品が、盗み出されてしまった。

 呆然とする一同の中で、内海は乾いた笑いを漏らした。

「『世界を遍く宝石は身を隠す』……そうか、そういう事か」

一日一話・第十一日。

また日付跨いでるよ……。

犯人はこの中に居る!という設定で書いていたけど、結末は大きく省略。

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