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第五話 コーネルピンの変身


「やあやあ、そこを行く忍びの方。ちょっと道をお尋ねしてもよいかな?」


 街の広場を歩いていたセレンディバイトは、そんな声が聞こえて足を止めた。振り返ればそこには、絵本に出てきそうな二足歩行の猫が立っている。


「……ほう。また変身の腕を上げたでござるな、ルピン殿」


 忍び装束に似た衣装をまとうセレンが微笑むと、ルピンと呼ばれた喋る二足歩行の猫は、腰に手を当てて頬を膨らませた。


「もー、セレンってば。ちょっとくらい引っかかってよー」


 そう応えながら猫は瞬く間に、赤茶色の外ハネミディアムヘアを揺らした、人間の女性の姿に変わる。色鮮やかな布がスカーフのように首に巻かれていて、快活な雰囲気によく似合っていた。


「変化の術は忍者にとっても基本でござる。つまりは術を見抜くことも、拙者の得意技なのでござるよ」

「くっ……忍びの者、恐るべし!」


 忍者オタクなセレンの言葉に、大袈裟なリアクションで応える彼女の名は、コーネルピン。時々によって色が違って見える瞳が特徴の、変身能力を持つ宝石である。


「でも、これならどう?」


 そう言うや否や、ルピンはパッと姿を消した。

 ……ように見えたが、彼女は再び何かに変身している。


「おおっ、これは凄いでござる!」


 しかしセレンは、ルピンが何に変身したのかすぐに分かった。

 ただ、その変身したものが予想外であり、彼女は目を見張って感嘆する。


「でしょー?」


 と、自慢げな声が聞こえる先は。

 広場にある噴水の近くで、鮮やかにきらめく虹であった。


「お見事でござる、ルピン殿。これは拙者も、負けていられないでござるよ!」


 そう言って何かの印を結びながらセレンが魔力を高めると、噴水を覆うドームのような黒い影が出現する。影は壁のように周囲の光を遮り、覆われた内部は真っ暗闇となった。


「わっ!? セレン、ずるーい!」


 暗闇の中でルピンの声と、彼女のものと思しき足音が聞こえる。それを耳にしたセレンは、さっと影の壁を解いた。そしてそこに居たのは、虹から元の姿に戻ったルピンである。

 彼女の変身能力は、光のない場所では無効になってしまう性質だった。


「ふふ。使えるものは何でも使うのが忍びでござる」

「むー……それなら私も、次は恐竜になってみせる!」


 今はまだちょっと無理だけど! と続けつつも、ルピンの頭の中には既に沢山の恐竜が渦巻いている。彼女はとても自由な性格であった。


「それは楽しみでござるな」


 セレンは笑ってルピンに近づき、彼女に持っていた金平糖をお裾分けする。


「わー、綺麗!」

「宝石みたいでござろう?」

「輝く色は皆、光から生まれる美しさってね」


 ルピンはお礼を言って金平糖を受け取ると、早速一つを頬張った。


「んー! 美味しー」


 幸せそうなルピンの様子に、何だか街に降り注ぐ日差しまで柔らかくなった気がする。セレンは自らも金平糖を口に放り込み、優しいシキオンの空に目を細めた。


 後日、ルピンが何故か外界で恐竜の着ぐるみを買ってくるのは、また別の話。



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