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第十六話 分析と安定のハックマナイト


 ヒーローに休日はない。

 街中をのんびり歩きながらも、その宝石の視線は鋭く周囲を観察している。

 紫色の瞳を持ち、少年のような風貌の彼の名はハックマナイト。このシキオンの街を個人的に守る、『シキオンジェムズ』のメンバーの一人だ。


「ゴミも落ちてないし、汚れたところもなさそうですね。あそこの落ち葉掃きは、明日みんなとやる予定だから……」


 ちなみにシキオンの街は平和な為、シキオンジェムズの任務は主に清掃活動である。そんなハックマナイトが独り言を呟いていると、不意に後ろから声がかけられた。


「ハックマン! いいところに居たわね」


 呼ばれて振り返れば、そこにはボリュームのある金髪のツインテールをした、アレキサンドライトが立っている。印象的な濃い青と赤のオッドアイを細め、彼女は勝気な笑みを浮かべていた。


「アレキさん、こんにちは。どうしたんですか?」

「んふふ、これなーんだ?」


 そう言ってアレキは、手に持っていた紙袋を掲げる。袋にはロゴのようなものが描かれていたが、ハックマナイトが知るところではなかった。

 ただし彼には、状態変化に関連する優れた魔力がある。モノの分析や、変化を読み取ることはお手の物だ。アレキの問いがそれらの能力を踏まえたものであることを、ハックマナイトはすぐに察する。


「……カットされたケーキが二つですね。洗練されていて美しい見た目です」

「せいかーい。シークと食べようと思って外界で買ってきたんだけど、入れ違いで出かけちゃったみたいなのよね」


 ちょっと残念そうなアレキが、紙袋の中をちらりと覗いた。シークというのはCCクリソベリルの愛称で、アレキと仲のいい宝石である。


「でもすっごく美味しそうだったから、あたしは今すぐ食べたい訳よ。シークにはまた今度買ってくるから、ハックマン、一緒に食べない?」

「そんな、折角買ってきたのに悪いですよ。私の状態安定能力で鮮度を保たせますから、シークさんが戻るのを待ちましょう」

「もー、話聞いてた? あたしが今この瞬間に食べたいから、付き合ってってこと!」


 アレキはそう言うと、ハックマナイトを近くの共有スペースへ引っ張っていく。そこは誰でも自由に使用できる場所だったが、珍しく今日は誰もいなかった。


「そのケーキ、上質な材料と丁寧な作りで非常に魅力的なので私は嬉しいですけど……シークさんが落ち込むんじゃ?」


 連行されるハックマナイトがちらりと窺えば、アレキは共有スペースの扉の前で立ち止まる。


「……もういっこ、迷ったケーキがあったのよね。ちょっと高かったからやめたんだけど。次はあれを買ってくるわ」


 自らに宣言するように言って、アレキは扉を開けた。

 その横顔はもう既に、『次』の機会を待ちわびているように見える。


「ふふ。それは楽しみですね」


 そんなアレキに微笑むハックマナイトが後日、シキオンジェムズの仲間に同じケーキを買ってくるのは、また別の話。



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