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6話 文化祭前日

 文化祭前日。

 俺と牧島は、いつもの視聴覚室にこもった。

「よし......これで終わり!はー、やっとだ!」

 キーボードのEnterキーを押した瞬間、前進の力が抜けて、背もたれにずるっと沈み込む。


「おつかれ!これで全部片付いたな」

 牧島が肩をぽんっと叩きながら笑った。

 ようやく、長かった作業から解放された。


「疲れたろ。マクドでも行かね?前夜祭ってことでさ」

 マクドか。最近言ってなかったな。

「いいじゃん。あ、せっかくだし黒崎も誘おうぜ」

 一緒に頑張ってきた仲間だしな。

「もちろん。でもあいつ、部活じゃなかったか」

 時計を見たる。

 今は18時。部活はたしか18時までだったはずだ。ちょうど終わった頃だろう。

「今なら上がってるはず。LINE送っとくわ」

 スマホで黒崎にメッセージを送る。

 秒で既読がつき、同時に「行く!」と返信。

 はやっ。テンションの高さが文字から伝わってくる。

「黒崎も行くって。軽音部の部室まで迎えに行こうぜ」

「もう来たのか、相変わらずの早さだな。」

 同じ意見だ。


 俺と牧島は帰る準備をして、視聴覚室を施錠し、軽音部の部室に向かった。

「鬼の返信スピードだな、あいつ」

 牧島が笑って言った。

「しかも、テンションいつも高いよな、それがいいところなんだけど」

 さっきの返信を思い出して、思わず微笑んだ。

「でもあいつ、中学の時は静かだったんだぜ」

「えっ、あの黒崎が?嘘だろ」

 牧島と黒崎は同じ中学だったことを思い出す。

「な、意外だろ。最近のあいつ楽しそうだから。俺も嬉しいんだよな」

「なんだこいつ」

 軽くあきれながらも、どこか優しい言葉だった。


 音楽室に近づくにつれ、重厚な低音が響き渡っていた。

 まっすぐ伸びた廊下で共振して、ベースの音が大きく聞こえてきた。

「あれ、まだ誰か演奏してる。しかもベースだけだ」

 もう部活は終わってるはずなのに。

 少し開いた扉から中を覗いたら、黒崎がいた。

 一人で、黙々と真剣な顔でベースを弾いていた。

 いつもの軽いノリとは違う、集中した横顔だった。

 俺たちは邪魔をしないようにそっと離れようとした瞬間、俺の肩が扉に当たった。

 その音で黒崎がこちらを振り向く。

「あ、藤枝くんと牧島くん。来てくれたの?ごめん、すぐ片付けるね」

 黒崎は慌てて演奏をやめて、ストラップを肩から外した。

「こっちこそごめん。めっちゃ集中してたのに邪魔して」

「それは大丈夫だよ。もう終わろうとしてたし」

 黒崎は、ベースをケースに仕舞い、シールドを八の字に巻いていく。


 ベースアンプだけが残っていたので、俺はそれを持ち上げて黒崎に声をかけた。

「このベーアン、どこに仕舞えばいいんだ?」

「いいよ、自分でやるから置いといて」

 そうは言われてもな、見てるだけってのも落ち着かない。

「いやいや、ベーアンって重いだろ。持つわ」

「ありがと...じゃあ、頼んだ!」

 黒崎が指さした棚の方へ、アンプを運んだ。


「透って音楽詳しかったっけ?」

 ああ、確かこいつには言ってなかったか。

「藤枝くんもね。ベースを弾けるんだよ」

 なぜか黒崎が誇らしげに言う。

 やっている、というより"やっていた"が正しい。

 親が弾いていたから興味本位で触っていただけだ。

 高校に入ってからは触る頻度も減って、今じゃ月に一度触ればいいほう。



「雑談はマクドでしようぜ。腹が減った」

 牧島が腹を鳴らせた。

「そうだな。黒崎、忘れ物ないか?」

「うん、大丈夫だよ。食うぞー」



 学校から五分ほど歩いたところにあるマクドへ向かった。

 久しぶりのマクドで、俺はメニューを前にしばらく迷った末、結局いちばん安いハンバーガーセットに落ち着いた。

 牧島はビックマックセット。体格のいいこいつには似合っている。


 そして黒崎はーー倍ビッグマックのセット。

 一番小柄なこいつが、一番でかいのを頼んでいる。

「お前、それ食えるのか」

「全然平気だよ。むしろ藤枝くんのそれ少なくない?」

 俺と牧島は顔を見合わせた。

 マジかよ。


「では皆さん。飲み物をお持ちください」

 黒崎が低い声を出した。

 飲み会のおじさん幹事のモノマネのつもりだろう。


 俺たちはソフトドリンクを手に取る。

「明日の文化祭の成功を祈って、かんぱい!」

「「かんぱい」」

 コーラを喉に流し込み、ハンバーガーをかじる。

 うまい。


 黒崎が倍ビックマックにかぶりついた瞬間、牧島がニヤッと笑った。

「さっきの演奏ガチだったな」

 黒崎の手がピタリと止まる。

「えっ....見てたの?うわ、はずっ」

 耳まで赤くなって、ハンバーガーで顔を隠す。

 その反応があまりにも素直で、思わず笑ってしまう。


 俺は演奏の感想を正直に伝える。

「いや、普通に上手かったぞ」

「....ほんとに?なんか、そう言われると嬉しいな」

「で、何の曲やるんだ?」

 牧島がポテトをつまみながら聞く。

「それは明日のお楽しみ」

 曲までは分からなかったが、なんとなく心当たりがあった。

「アジカンじゃないの?」

「えっ?あれだけで分かったの?」

 黒崎が目を丸くする。

「いや、アジカン好きだったから、そうなのかなって」

「もしかして、まんまとのせられた?」

 口を尖らせる。

「明日、楽しみにしているよ」

「うん、絶対来てね」

 ふと、テーブルを見ると、黒崎のトレイは既に空になっていた。

 食べるのも早いのか。


 そのあともしばらく雑談をして、そろそろ解散することになった。

「じゃあな、明日は頑張ろうぜ」

「そうだね。がんばろ!」

「藤枝くんも明日の開会式がんばってね」

「あ」

 すっかり忘れていた。

 俺は開会式のスピーチをしなきゃいけないんだった。

「お前、その顔...さては忘れていたな」

「う、うん」

 一気に肩が重くなった。

 帰って原稿を書く仕事が増えた。

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