5話 お披露目
ついに、文化祭開催日まで残り五日となった。
委員会のタスクも着実に片付き、このままいけば大きな問題はなさそうだ。
そして今日は、美術部に依頼していた立て看板を受け取る日でもある。
俺と黒崎は並んで美術室へ向かった。
「立て看板、どんな感じになってるかな。私、楽しみ!」
黒崎の声が弾んでいるのが分かる。
「そうだな。俺も楽しみだ」
足取りが軽い。
美術室のドアをノックする。
「失礼します。藤枝です。立て看板を受け取りに来ました」
中へ入ると、部屋の中央に鈴木ともう一人。
たしか、物静かな一年生の、、斎藤さんだったか。二人が並んで立っていた。
「はい。ちょうど準備できたところです」
鈴木は淡々とした口調だが、どこか誇らしげな響きがある。
その横には、布をかぶせられた大きな板ーー大きさ的に、おそらくこれが立て看板なのだろう。
黒崎が一歩前にでる。
「あやせちゃん。どう?良い感じにできた?」
期待に満ちた声で尋ねる。
布の下に隠された作品を前に、胸が高鳴った。
「はい、結構時間が掛かりましたが、その分、頑張って良い物が出来たと思います」
鈴木の言葉には熱がこもっているのがわかる。
「はやく、はやく見せてよ」
黒崎が子供みたいに駄々をこねる。
気持ちはわかる。
はやくみたい。
「では、お見せしますね」
鈴木が布の端にそっと手を添えた。
俺たち二人は息を呑む。
ゆっくりと、慎重に。
鈴木が布を引いた。
布が滑り落ちる音が、やけに大きく聞こえた。
その瞬間、鮮やかな色彩が視界に飛び込んできた。
夜空を背景に、祭りの光景が鮮やかに描かれている。
金色の提灯がうかび、灯りが柔らかく広がっていた。
中央には太鼓。
その周囲では踊り子たちの影が重なり、今にも踊り出しそうな躍動感がある。
夜の熱気とざわめきが絵の中からあふれ出してくるようだ。
「...すごい」
感動で思考は止まり、口から出たのは陳腐な言葉だけだった。
横にいる黒崎も目を丸くして絵に見入っている。
「いや、ほんとに凄いよ。特に、この提灯の灯り...すごく温かみがある」
「これに色を塗ったのは斎藤さんなんですよ」
鈴木がそう言うので、彼女の後ろに隠れるように立っている斎藤へ視線を向ける。
物静かな、この子が、本当に?
驚きと感心が湧き上がった。
「すごいよ、斎藤さん。この色使い。正直、美術のことはよく分からないけど。ほんとに感動した」
自然と感情が言葉になった。
すると、斎藤さんが初めて、声を出した。
「そんなふうに言ってもらえると、えっと...嬉しいです」
小さな声。
斎藤は視線をそらし、指先で自分の袖口をそっとつまんだ。
「私は先輩からもらった、あの下手な絵を綺麗にして下書きをしました」
「下手くそは余計だって」
容赦のない攻撃に思わず苦笑いする。
「冗談ですよ。でも、気に入ってもらえたなら安心しました」
鈴木も僕たちの反応にほっとしたように微笑んだ。
「本当にありがとう!すごくいい立て看板になったよ」
「いえいえ。あ、そうだ。美術部の展示、よかったら見に来てくださいね」
こんなすごい絵を描いたのだ。
むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
「もちろん、観に行くよ」
これで立て看板の仕事はひとまず完了だ。
あとは、これを文化祭当日まで倉庫に保管するだけだ。
「黒崎、持って行くぞ」
返事がない。
黒崎のほうを向くと、ぽかんと口を開けたまま完全に固まっていた。
「おい、黒崎?」
「えっ、あ、なに?どうしたの?」
「どうしたのじゃない。今、魂どっか行ってたぞ」
あまりの感動に魂が抜けていたらしい。
「ほら、倉庫に運ぶぞ」
「あ、うん。もっていこー!」
復活した黒崎と大きな立て看板を二人で大切に持って倉庫に向かった。




