3話 救世主
黒崎がペンを置く。
俺たちは、どんな凄いイラストが描けているのだろうと固唾を飲み込む。
「じゃじゃーん、どうよ」
黒崎が得意げに紙を掲げてきた。
そこに描かれていたのはーー顔らしきものがあり、目があり、胴体があり、四本の足と尻尾が”あるらしい”ことだけは分かる。
だが、それが何の生物なのかは、全く分からない。
「黒崎、、、これは、、、なんだ?」
「猫だよ」
「クソ下手くそじゃねぇか」
思わず叫んでしまった。
「いやー、それほどでもないよ」
いや、褒めてねぇよ。
「すごい、俺よりも下手なやつがいるとはな」
牧島はなぜか感心していた。
「つまり、私も下手くそってことだ」
黒崎がしれっと言う。
「立て看板、、、終わったな」
牧島と俺が同時にうなだれた。
そんな俺たちの絶望など気にも留めず、黒崎が口を開く。
「そうそう、そのことなんだけどね」
なんだよ、黒崎。もう希望なんて残ってないだろ。
「さっきこっち来るときにね。黒辺先生に会ってね。例年、立て看板は美術部に依頼してるらしいよ」
「それを先に言ってくれよ」
なぜか照れる黒崎。よく分からん奴だ。
ともあれ、悲惨な結果は回避出来そうだ。
黒崎は思ってたのとは違う形で俺たちの救世主となった。
次の日の放課後。
黒崎と俺とで美術部に依頼をしに、美術室に向かって歩いていた。
「別に藤枝君来なくても。私、後輩いるから頼んでおいたのに」
「こういうのは、委員長の俺が行ったほうがいいと思うんだよね」
というのは、半分建前だ。本当はデスクワークから逃げたかっただけだ。
その仕事は牧島に押しつけた。ごめんよ。
「そういえば、残り二人、、、名前なんだったけ。どうしたんだろうな?」
委員は五人いたのに、実働は三人になってる。
「あー、確か二人は吹奏楽部なんだよ。練習が忙しくて来られないっぽいよ。ほら、文化祭でも演奏があるしね」
そうだったのか。それは仕方ない。
「黒崎も軽音部だろ。文化祭の曲。練習大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。家でも弾いてるし、慣れてる曲だしね」
「でも、あんま無理すんなよ。委員会の仕事は俺と牧島で回すからさ」
「えへへ、ありがと。優しいね」
ふっと笑った。
その笑顔があまりにも自然で、無邪気。無防備でーー
こっちの心臓に悪い。
そうこうしているうちに、美術室の前まで来ていた。
扉の向こうから、絵の具の匂いと、かすかな話し声が漏れている。
軽くノックする。
「失礼しまーす。文化祭の立て看板の件で来ましたー」




