1話 面倒事 (改)
高校生は勉強に励み、部活に汗を流し、恋愛を頑張るらしい。
婉曲的な言い方をするのは、つまり、俺はそのどれにも当てはまらないからだ。
勉強は程ほどにしかやらず、部活には所属さず、彼女を作ろうともしたこともない。
三年生になった今でさえ、その事実に特別な感情は沸かない。ただ、静かに、目立たず、平和に学生生活を終えられればそれで良いと思った。
その日のホームルームで文化祭の話題が持ち上がった。
うちの高校は七月に文化祭と行われるという、少し変わった日程だ。
とはいえ内容はと言えば、焼きそばや射的だの、シンプルな出し物ばかり。
しかも、三年生の俺たちは受験を控えているため、出し物をする必要すらない。
だから、先生が前で文化祭について話しているのも、ほとんど入ってこなかった。
まぁ、関係ないしな、と半分寝かけた頭でぼんやり思っていた。
ホームルームが終わり、帰ろうと席を立ったそのときーー
「おい、藤枝~」
けだるそうな声が背中を刺した。
振り返ると、うちの担任・中村先生が立っていた。
「なんですか」
なんかやったかな俺、と不安になった。
「お前、文化祭実行委員になってくれないか?」
あまりにも突然で、思考が一瞬止まった。
文化祭運営委員。
その名の通り、文化祭を運営する委員のことだ。例年、三年の各クラスから一人が選ばれ、文化祭のサポートをする。
それに、、、俺が?
「な、なんでですか?」
声が裏返った。
「だって、お前、部活入ってないし、暇だろ」
いや、暇じゃねぇよ。と言い返したいところだが、実際のところ、勉強くらいしかすることがないので反論の言葉が喉でつかえた。
そうだ、勉強を理由にすれば。
「いや、帰って勉強したいのでやりたくないんですけど、、」
「この前の定期テスト、クラス一番じゃなかったか。ちょっとくらいしなくても余裕だろ」
ぐっ。
勉強はそこそこしかしていないつもりだが、成績は常に上位をキープ出来ていた。
畜生、それがここで裏目に出るとは。
「ともあれ、他に頼める奴はいないんだ。やってくれ。よろしく」
「あっ、ちょっと待っ、、、」
言い訳をする間もなく、先生は教室を去っていった。
マジかよ、、、
頭がじわじわ重くなる。
次の週の放課後、選ばれた文化祭実行委員の会議が視聴覚室で行われた。
扉を開けると、牧島一と黒崎薫の姿が見えた。
「おー、お前達も委員になったのか」
「うん。この前の定期試験でクラス一位だったから、やってくれって言われたよ」
不満そうに言ったのは牧島だ。
一年の時同じクラスで、テストのたびに勝負をふっかけてきた相手だ。
ちなみに、一度も勝てたことがない。
勉強が出来るうえに高身長で爽やか顔のイケメン。天から二物どころか三物も与えられているうらやましいやつだ。
というか、こいつも俺と同じ理由で委員にさせられたのか、かわいそうに。
「えー、私はやりたいって言ったよ。委員、楽しそうじゃん。」
黒崎も一年生の時のクラスメイトだ。席が隣になってからよく話すようになった。
ショートカットで日焼けした肌から運動部っぽさが漂うが、実は軽音部でベースをしている。そのギャップにまだ慣れない。
そのあと、初対面の二人が入ってきたので軽く挨拶を交わした。
会議開始予定時刻ギリギリになって、体育教員の黒辺がやってきた。
「あー、遅くなって悪いね。じゃあ、会議を始めるね」
会議では、文化祭の準備期間にやることと、当日にやることが説明された。
模擬店の予算の確認、器具の貸し出し方法、チラシや立て看板の作製...思ってたより仕事は多そうだ。
20分ほどの説明が終わり、俺は小さく背伸びをした。
やっと帰れると思った瞬間。
「えー最後に、文化祭実行委員の委員長を決めてね」
空気が凍った。
委員長。
開会宣言をしたり、構内を見回ったり、表に立つ仕事が多い。
絶対になりたくない役職だ。
「あの、どうやって決めるんですか」
牧島が聞いた。
「あー、何だっていいよ」
黒辺の適当さに、全員が微妙な顔になる。
「まあ、ここはじゃんけんでいいんじゃないかな」
黒崎が言った。
「黒崎は委員長したくないのか?こういうの好きそうじゃないか」
委員会に志願したくらいだし、てっきりやる気満々だと思ってた。
「いやー、リーダーっぽいのって結構苦手なんだよね」
思わず黒崎の顔を見た。
まさか、そんな返しがくるとは思ってなかった。
「じゃあ、ここは公平にじゃんけんで決めるか」
牧島が提案した。
「そうだな」
他の人たちも賛成した。
「勝ちが委員長って事でいいか?」
「あー、それでいいよ」
全員で五人。
委員長になる確率は五分の一。
...頼むから負けてくれ。
「最初はぐー、じゃんけん、ほい」
勝ってしまった。
「藤枝君が委員長決定ね。よろしく」
黒辺はそう言い残し、さっさと部屋を出て行った。
「色々手伝うからがんばろ」
親指を立てて笑う。
...いや、笑えない。
最悪だ。




