11話 不安
7月下旬。
「はーい。テストやめてくださーい」
教室の前に座っていた担任が、やる気のない声でそう言った。
期末テスト期間は1週間。そして、今日がその最終日。
今、全教科のテストが終わった。
やっと終わった。長かった。
テストの出来はというと、まあ、いつも通りだ。
先生が答案用紙を回収し、教室を出て行く。
俺は机の上のものを鞄に放り込みながら、深く息をついた。
さて、帰るか。
4限終わりだし、家でダラダラしよう。
テスト期間中は通学時間も勉強をしたいので電車通学にしている。
最寄り駅へ向かって歩いていると、ポケットのスマホが震えた。
誰だろう。
画面を見ると「黒崎」だった。
応答ボタンを押して
「もしもし」
「藤枝くん、テストお疲れ!」
「お疲れ様。で、どうしたんだ?」
「えっと、今からご飯でも行かない?昼まだでしょ?」
「おっ、マジで。行く!どこ行くの?」
「まだ決めてないからとりあえず駅集合で!私はもういるんだけど、どれくらいかかる?」
ここからだと、、、
「3分くらいで着くよ」
「じゃあ、待ってるね」
通話が切れた。
黒崎とおそらく牧島も待っているんだろうな。
牧島はテスト後に答え合わせをしたがるタイプだ。
今日もその話になるんだろうなと少しだけ億劫になった。
待ち合わせ場所に着くと、すぐに黒崎を見つけた。
「おーす、おまたせ!」
「藤枝くん。はやいね。あれ?自転車は?」
「テスト期間は電車通学にしてるんだ」
「へーそうなんだ。じゃあ、ちょうどいいや。2駅離れたところのラーメン屋。あそこ行こうよ」
「あー、有名なあの店ね。いいよ!」
「じゃあ、行こー!」
黒崎が軽快に歩き出し、思わず声を上げた。
「おいおい、ちょっと待って。牧島がまだ来てないよ」
周りを見回しても牧島の姿はどこにもない。
「え?牧島くん来るの?」
「え?」
俺はてっきり牧島も来ると思っていたんだが、違った。
まさかの黒崎と二人きりだった。
「あれ?来るって言ったっけ?」
黒崎は顎に手を当てて会話を思い返している。
「いや、俺の勘違いだ。忘れてくれ」
「もしかして、嫌だった?ふたり」
黒崎が悲しそうに眉を下げた。
「いや、本当に違う。いつも3人でいることが多かっただろ。文化祭の時とか。だから、ほんと勘違い!」
俺は必死に弁明したら、納得してくれたらしい。
黒崎はほっとした。
「よかった。じゃあ、行こー!」
昼の電車は乗客が少ない。
しかし、なぜか窮屈に感じた。
黒崎とふたりでご飯。
女子とふたりでご飯。
これは俗にいうデートなのでは?
そう思った瞬間、頭の中が一気にパニックになった
こういうときって何を話せばいいんだ?
どんなテンションでいれば正解なんだ?
初めてふたりきりで出かけることになった俺の思考はショートしていた。
「藤枝くん?藤枝くん!」
はっと我に返る。
横を見ると黒崎が肩を揺すりながら、不思議そうに俺をのぞき込んでいた。
「どうしたの?」
「いや、考え事をしていて」
自分でも分かるくらい声が裏返っていた。
気持ち悪がられていないだろうかと不安になる。
だがそんな俺の心配なんかお構いなしに、黒崎はスマホを俺の目の前へ突き出してきた。
「ほら、これ見て!ラーメン屋ね。今日50円引きらしいよ。さらに!大盛り無料!絶対大盛りにするんだ」
「おーいいじゃん!ちょっと見せて」
黒崎のスマホを借りて、公式サイトのメニューを見る。
「うまそうなのばっかだな」
そんな他愛もない会話をしているうちに、電車は目的の駅に到着した。
駅を出て少し歩くとすぐにラーメン屋の前に着いた。
が、さすが有名店。
会社の昼休みの時間帯ということもあって、店の前には長蛇の列ができていた。
「うわ、めっちゃ並んでるな」
店の前には"1時間待ち"の文字。
うわー....どうするか。
「黒崎、どうす....」
言いかけた俺の声なんて届いていなかった。
黒崎は列を見ても、がっかりするどころか
「ね、ね、並ぼ!」
目がキラッキラしていた。
その勢いに俺はうなずくことしかできなかった。
「....お、おう」
1時間も話、持つのか....俺....。
凄く不安っ!




