9話 閉会式
15時半。
文化祭閉会式のため、体育館に全校生徒と教職員、そして保護者が集まった。
「それでは最後に、文化祭閉会の挨拶です。文化祭実行委員長、藤枝よろしく」
呼ばれて、俺は朝と同じように前にでた。
けれど、朝とは違い、緊張はほとんどない。
「これをもちまして文化祭閉会とします。皆さん、お疲れ様でした」
体育館に拍手が静かに広がっていった。
ずらずらと体育館を出て行く生徒たちを俺たちは見守った。
これで文化祭実行委員の仕事も、完全に終わった。
仕事が多くて大変だった。
正直、途中で投げ出したくなることもあった。
けれど、終わってしまえば、
楽しかった。
この文化祭の準備期間で多くの生徒と関わった。
普段話さないようなやつとも話したし、気付けばなかよくなったやつもいる。
あの忙しさも、今になれば悪くなかった。
そんな感慨にふけっていると、牧島が肩を組んできた。
「飯行こうぜ、飯!」
「あ、いいね。私も行きたい!」と黒崎。
「黒崎はバンドの方の打ち上げはないのか?」
「それは後日あるから今日は行ける!」
「よし、じゃあ、行くか」
三人でいけるのを確認した牧島。
「よし、今日は贅沢にサイゼリヤだ」
サイゼリヤは贅沢な店ではないぞ。牧島。
学校からこれまた数分歩いたところにサイゼリヤがある。
席に着くなり、黒崎は注文用タブレットを操作し、全員分のドリンクバーを注文した。
ご飯はそれぞれが頼む。その間にドリンクを取りに行った。
「はい、飲み物は全員あるね」
昨日と同様、飲み会の幹事をやるおじさんのモノマネだ。
「今日はご苦労さまでした。文化祭の成功を祝して乾杯!」
「「かんぱい」」
三人で軽くグラスを合わせ、メロンソーダを喉に流し込んだ。
「いやー、本当に疲れたなー」
俺は言うと、
「ほんとだね、お疲れだよ」
「二週間大変だったな。予算申請書。あれが特に大変だった。」
それぞれの口から、自然と愚痴がこぼれていく。
でも、さっき感じた事も口にしたくなった。
「でも、こうやって終わってしまえば、楽しかったよ」
「そうだね」
「だな」
「二人ともありがとな。助かったよ」
感謝を伝えると、二人は同時に眉を上げた。
「なんだよ急に」
「そうだよ。委員会だから当たり前でしょ」
「あー、もちろんそうなんだけど。お前らとやったから楽しかったなって思えたんだと思う」
「おいおい、照れるじゃねえか」
牧島が笑いながら肩を小突いてきて、黒崎も照れくさそうに笑った。
注文した商品が届いた。
サイゼリヤは安くて美味い。このミラノ風ドリアはその上、ボリュームがあって学生の見方だ。
話は自然とライブの話になった。
「ライブ凄くよかったぜ」
牧島が素直に褒めている。
俺もまったく同じ感想だった。
「他のメンバーが凄いだけだよ。練習もいっぱいしたのに、本番でめちゃくちゃ緊張したし、ミスもしてたよ」
黒崎の声には、少しだけ後悔がにじんでいた。
「え、全然分からなかったぜ。落ち込むほどじゃないだろ」
牧島がフォローする。
すると黒崎は、いつもの明るい口調で言った。
「うん、緊張もミスも後悔もあの一瞬でたくさんした。だけど、それを楽しむんだよ。ライブは。ねぇ、藤枝くん!」
そう。前にこいつに言ったのを思い出した。
俺もこの台詞は誰かからの受け売りだ。
「そうだな」
牧島だけがキョトンとしていた。
輪に入れなかったからか、牧島は黒崎に質問した。
「選曲。誰の提案であの曲になったんだ?」
「あー、二曲とも私の希望だよ」
牧島が続けて聞く。
「あの曲にした理由は?」
俺も気になっていたところだ。
選曲について少し意外だと感じた。『ラフ・メイカー』は確かに黒崎が好きそうだけど、『君という花』は今までフレグランスがコピーしてきた曲とは少し違う気がする。
黒崎はストローをくわえたまま、
「うーん、内緒かな」
「え、内緒とかあるのかよ」
牧島がツッコむ。
アジカン好きだから、そう思えば納得はする。
あまり深く考えないようにした。
注文したものを食べ終わったあとも、俺たちはしばらく話し続けた。
文化祭の裏話や、どうでもいい雑談まで、尽きる気配がなかった。
やがて時間となり、解散となった。
「お疲れ。また来週」
「藤枝くん、もう委員会の仕事ないよ」
黒崎に指摘されて、思わず苦笑いした。
つい、来週もこいつらと一緒に仕事をする気でいた。
...やっぱり、楽しかったんだな。
「そうだった。じゃあ、またな」
「おう、じゃあな」
「ばいばーい」
そう言い合って、三人はそれぞれの帰路についた。
帰宅した。
風呂に入って、いつも通りスマホでネットサーフィンをしていたところ、LINEの通知が入った。
その送り主に心臓が一気に跳ねた。
ポップアップには花の写真。
鈴木あやせだ。
開いてみると、メッセージは一行だけ。
「明日空いていますか?」




