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1-9

配達に出たクレージュは街中で怪しい人物と遭遇する。

そしてその時また魔法を…


クレージュとリシェルの出会いから始まる物語。

今回もお楽しみください。

(明日……少しだけ、勇気を出してみたい)


 その想いが、

 少女の胸をそっと温めていた。



 …時間は巻き戻り

 王都の朝は、いつもより少し騒がしかった。


 商業通りを歩く人々の声に、

 微妙なざわつきが混じって聞こえる。


(なんか……雰囲気が違う?)


 クレージュはパンの配達袋を肩にかけながら首を傾げた。


 昨日はとても平和な一日だった。

 マリアやティロと会い、街の温かさに触れ、

 夜はフレイの美味しいスープで締めくくった。


(でも今日は……空気が少し、ざらついてる)


 そんな気がした。


 



 


「おっ、クレージュじゃねぇか!」


 商人のサミュエルが手を振る。

 威勢の良い元気な声だが、笑顔の裏に少し強張りがあった。


「サミュエルさん、おはようございます。

 なんか今日は……街の雰囲気が違いません?」


「お、おう……気づいたか」


 サミュエルは声を潜める。


「昨夜な、裏通りで何人かが襲われたらしい」


「え……!」


 クレージュは驚いて声を上げた。


「まだ詳しいことは分かってねぇが……

 “黒いフードの連中”がうろついてたって話だ」


「黒いフード……」


 クレージュは無意識に背筋を伸ばす。


(反王政組織……?)


 そんな言葉がふと脳裏をよぎったが、

 もちろんこれは自分の憶測でしかない。


「気をつけて歩けよ、クレージュ。

 パン屋の新入りが怪我したら、フレイの兄貴に殺される」


「はは……そうですね。でも気をつけます」


 軽い調子で返したが、心の奥は不安に揺れていた。


 



 


 配達を終え、店に戻る途中だった。


 曲がり角で、小さな悲鳴が聞こえた。


「いやっ……やめてください!」


「金を出せ! 抵抗するな!」


 路地裏に女性が押し込まれている。

 黒いフードの男が二人。


(まずい……!)


 クレージュの身体は自然に動いていた。


「やめろ!!」


「……ガキ?」


 男がこちらをにらみつける。


「そっちのほうこそ、何やってんだよ!」


「関係ねぇだろ。すっこんでろ!」


 男はナイフを抜いた。

 その刃がきらりと光る。


(どうする……!?)


 フレイの言葉がよみがえる。


──「魔法を使うな。街中じゃ目立つ」


 けれど、このままでは女性が危ない。


(……くそ)


「やめろって言ってんだ!」


 クレージュは地面を蹴った。

 足元の土がわずかに揺れ、衝撃で男の体勢が崩れる。


 “土魔法の初歩”が反応した。


(使っちゃった……!)


 だが時間は稼げた。

 女性は逃げる。


「てめぇ……!」


 男が怒りで突進してくる。

 ナイフが一直線に振り下ろされ──


「おらよ」


 鈍い音が響いた。


 男の背後から伸びた大きな拳が

 そのまま後頭部を叩き、昏倒させた。


「……フレイさん!!」


「ったく、お前は本当に目ぇ離すとこれだな」


 フレイがもう一人の男も蹴り飛ばす。

 地面に沈んだ二人を確認し、ため息をつく。


「クレージュ。

 言ったな? 力を使うなって」


「……すみません。でも、放っておけなくて」


「それが悪いとは言わねぇ。

 だが──お前の力はまだ未完成だ。

 魔法に振り回されて死ぬのは、まっぴらだろ?」


「……はい」


 フレイは倒れた男たちを縛りながら続ける。


「黒フードの連中……動きが妙だな。

 ただのチンピラじゃねぇ。連携してやがる」


「組織……なんですか?」


「かもしれんな。

 とにかく、しばらくは気をつけて動け」


 フレイの声は低く、鋭かった。

 その目には“戦士の本能”のような警戒が宿っている。


(フレイさんでも警戒する相手……?)


 そう思うと、ぞっと背筋に寒気が走る。


 



 


 ブラハム堂へ戻る道。

 クレージュは歩きながら、

 手のひらに残った微弱な土の魔力を見つめた。


(……俺のせいで、もっと大きい事件を呼んじゃうかも)


 街に潜む影。

 謎の黒フードたち。

 未熟な自分の力。


 全てが、心をざわつかせる。


 理由は分からないけれど、

 心の奥がぎゅっと締めつけられる。


(守れたらいいのにな……)


 思わず口の中で呟き、

 自分でも驚いた。


 



 


 夕方、店の裏口でフレイが言う。


「クレージュ。

 今夜から“回避の基礎”を教える」


「え?」


「戦うだけが強さじゃねぇ。

 死なねぇための“逃げ方”を覚えろ」


 フレイは振り返らずに続けた。


「街が騒がしくなってきた。

 ……嫌な予感がする」


 その背中には、かつての冒険者の影が宿っていた。


(……俺も、もっと強くならなきゃ)


 クレージュは静かに拳を握った。

クレージュは改めて自身の能力について考える。

フレイはそんなクレージュに訓練を提案。

クレージュは少しずつ強くなっていけるのか?


ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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