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配達に出たクレージュは街中で怪しい人物と遭遇する。
そしてその時また魔法を…
クレージュとリシェルの出会いから始まる物語。
今回もお楽しみください。
(明日……少しだけ、勇気を出してみたい)
その想いが、
少女の胸をそっと温めていた。
…時間は巻き戻り
王都の朝は、いつもより少し騒がしかった。
商業通りを歩く人々の声に、
微妙なざわつきが混じって聞こえる。
(なんか……雰囲気が違う?)
クレージュはパンの配達袋を肩にかけながら首を傾げた。
昨日はとても平和な一日だった。
マリアやティロと会い、街の温かさに触れ、
夜はフレイの美味しいスープで締めくくった。
(でも今日は……空気が少し、ざらついてる)
そんな気がした。
◆
「おっ、クレージュじゃねぇか!」
商人のサミュエルが手を振る。
威勢の良い元気な声だが、笑顔の裏に少し強張りがあった。
「サミュエルさん、おはようございます。
なんか今日は……街の雰囲気が違いません?」
「お、おう……気づいたか」
サミュエルは声を潜める。
「昨夜な、裏通りで何人かが襲われたらしい」
「え……!」
クレージュは驚いて声を上げた。
「まだ詳しいことは分かってねぇが……
“黒いフードの連中”がうろついてたって話だ」
「黒いフード……」
クレージュは無意識に背筋を伸ばす。
(反王政組織……?)
そんな言葉がふと脳裏をよぎったが、
もちろんこれは自分の憶測でしかない。
「気をつけて歩けよ、クレージュ。
パン屋の新入りが怪我したら、フレイの兄貴に殺される」
「はは……そうですね。でも気をつけます」
軽い調子で返したが、心の奥は不安に揺れていた。
◆
配達を終え、店に戻る途中だった。
曲がり角で、小さな悲鳴が聞こえた。
「いやっ……やめてください!」
「金を出せ! 抵抗するな!」
路地裏に女性が押し込まれている。
黒いフードの男が二人。
(まずい……!)
クレージュの身体は自然に動いていた。
「やめろ!!」
「……ガキ?」
男がこちらをにらみつける。
「そっちのほうこそ、何やってんだよ!」
「関係ねぇだろ。すっこんでろ!」
男はナイフを抜いた。
その刃がきらりと光る。
(どうする……!?)
フレイの言葉がよみがえる。
──「魔法を使うな。街中じゃ目立つ」
けれど、このままでは女性が危ない。
(……くそ)
「やめろって言ってんだ!」
クレージュは地面を蹴った。
足元の土がわずかに揺れ、衝撃で男の体勢が崩れる。
“土魔法の初歩”が反応した。
(使っちゃった……!)
だが時間は稼げた。
女性は逃げる。
「てめぇ……!」
男が怒りで突進してくる。
ナイフが一直線に振り下ろされ──
「おらよ」
鈍い音が響いた。
男の背後から伸びた大きな拳が
そのまま後頭部を叩き、昏倒させた。
「……フレイさん!!」
「ったく、お前は本当に目ぇ離すとこれだな」
フレイがもう一人の男も蹴り飛ばす。
地面に沈んだ二人を確認し、ため息をつく。
「クレージュ。
言ったな? 力を使うなって」
「……すみません。でも、放っておけなくて」
「それが悪いとは言わねぇ。
だが──お前の力はまだ未完成だ。
魔法に振り回されて死ぬのは、まっぴらだろ?」
「……はい」
フレイは倒れた男たちを縛りながら続ける。
「黒フードの連中……動きが妙だな。
ただのチンピラじゃねぇ。連携してやがる」
「組織……なんですか?」
「かもしれんな。
とにかく、しばらくは気をつけて動け」
フレイの声は低く、鋭かった。
その目には“戦士の本能”のような警戒が宿っている。
(フレイさんでも警戒する相手……?)
そう思うと、ぞっと背筋に寒気が走る。
◆
ブラハム堂へ戻る道。
クレージュは歩きながら、
手のひらに残った微弱な土の魔力を見つめた。
(……俺のせいで、もっと大きい事件を呼んじゃうかも)
街に潜む影。
謎の黒フードたち。
未熟な自分の力。
全てが、心をざわつかせる。
理由は分からないけれど、
心の奥がぎゅっと締めつけられる。
(守れたらいいのにな……)
思わず口の中で呟き、
自分でも驚いた。
◆
夕方、店の裏口でフレイが言う。
「クレージュ。
今夜から“回避の基礎”を教える」
「え?」
「戦うだけが強さじゃねぇ。
死なねぇための“逃げ方”を覚えろ」
フレイは振り返らずに続けた。
「街が騒がしくなってきた。
……嫌な予感がする」
その背中には、かつての冒険者の影が宿っていた。
(……俺も、もっと強くならなきゃ)
クレージュは静かに拳を握った。
クレージュは改めて自身の能力について考える。
フレイはそんなクレージュに訓練を提案。
クレージュは少しずつ強くなっていけるのか?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。




