4-19「枠の中の自由」
クレージュとリシェルは久しぶりにゆっくりと話す機会を得た。
そしてお互いの気持ちを話し始めるのであった。
会談が終わった後。
王城の回廊は、昼の光に満ちていた。
だがその光は、どこか遠い。
クレージュは一人で歩いていた。
正式決定。
王都防衛協力任務。
自由は守られた。
条件も通った。
それでも――
胸の奥に、微かな重さが残る。
「……クレージュ」
後ろから声がした。
振り向くと、リシェルが立っている。
今日は王女としての装いではない。
簡素な淡色のドレス。
それでも、立ち姿は揺らがない。
「少し、話せるかしら」
「はい」
二人は城の中庭へ向かった。
噴水の水音が、緊張をやわらげる。
しばらく沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは、リシェルだった。
「……本当に、よかったの?」
真っ直ぐな問い。
王女ではなく、一人の少女の声。
クレージュは少し考える。
「分かりません」
正直な答え。
「枠に入った気もします」
「でも」
空を見上げる。
「枠の中に入らないと、
守れないものもある」
リシェルは目を細めた。
「あなたは、
本当に責任を避けないのね」
「避けたら、
たぶん後悔します」
静かな笑みが、リシェルの口元に浮かぶ。
「条件を出したのは、立派だったわ」
「対等でなければ協力じゃない、なんて」
「少し緊張しました」
「嘘ね」
「……少しだけ」
二人の間に、柔らかな空気が戻る。
だがリシェルの瞳は、まだ真剣だった。
「あなたが受けたことで、
均衡は保たれた」
「でも同時に」
一歩、近づく。
「あなたは、
国の一部になった」
その言葉は重い。
クレージュは頷く。
「分かってます」
「怖くない?」
少しだけ、声が揺れた。
「怖いです」
迷いなく答える。
「でも」
彼は、ゆっくりとリシェルを見る。
「一人で背負うよりは、
今の方がいい」
その言葉に、リシェルの胸が小さく震えた。
「……私は」
言いかけて、止まる。
王女としての立場。
個人としての想い。
どちらで話すべきか、一瞬迷う。
「私は、
あなたを守ると決めた」
静かに言った。
「でも今日、
あなたは自分で自分を守った」
クレージュは少し困ったように笑う。
「守られてるのも、分かってます」
「フランソワーズさんも動いてくれた」
リシェルは目を見開く。
「……気づいていたの?」
「少しだけ」
「ありがとうって、伝えてください」
その自然な言葉に、
リシェルは小さく息を吐く。
「本当に……」
「何ですか?」
「あなたは、
面倒な人ね」
「え?」
「理想も現実も、
両方取ろうとするから」
クレージュは少し考えてから言う。
「どっちかを捨てたら、
きっと後悔します」
沈黙。
噴水の水が跳ねる。
リシェルは、そっと視線を落とした。
「ねえ」
「はい」
「もし、いつか」
顔を上げる。
「王国とあなたが対立したら?」
空気が、止まる。
クレージュは少しだけ目を細めた。
「その時は」
答えはすぐには出ない。
「……話します」
「最後まで」
リシェルは、静かに頷いた。
「それなら」
ほんのわずか、笑う。
「私は安心できる」
風が吹く。
白光の王女と六彩の少年。
二人は、同じ方向を見ている。
立場は違う。
だが視線は、ずれていない。
「枠の中でも、
自由でいて」
リシェルが言う。
「はい」
クレージュは頷く。
「あなたも」
それは命令でも誓いでもない。
ただの約束。
均衡は保たれた。
だが――
均衡は、いずれ揺らぐ。
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