4-18「差し出された枠」
王城で差し出された枠の話し。
クレージュはどういう判断を下すのか。
王都オベールロワイヤルの朝は、いつも通り静かに始まった。
だがその静けさの裏で、決定はすでに下されていた。
クレージュのいるブラハム堂に、王家の紋章入り封書が届いたのは午前九時。
厚手の羊皮紙。
封蝋は王国正式印。
「……来たか」
フレイが低く呟く。
クレージュは、ゆっくりと封を切った。
内容は簡潔だった。
六彩の少年クレージュ=ブラハム殿
王都防衛協力任務についての協議を求む
本日正午、王城第三応接間にて
命令ではない。
召喚でもない。
“協議”。
だが選択肢は実質ひとつ。
「行きます」
迷いはなかった。
「当然だな」
フレイは腕を組む。
「だが忘れるな。
向こうは国だ」
「はい」
クレージュは静かに頷く。
(逃げない)
王城。
第三応接間は、必要以上に豪奢ではない。
だが空気は張り詰めている。
室内には三者がいた。
軍部代表。
魔導院長。
そして――
リシェル=フォン=オベール。
白光の王女は、静かにこちらを見ていた。
フランソワーズは、その背後に立っている。
「来てくれて感謝する」
軍部代表が口を開く。
「本日は、王国としての提案だ」
クレージュは、椅子に座らず立ったまま答える。
「聞きます」
魔導院長が書類を広げる。
「王都防衛協力任務」
「正式な軍属ではない」
「だが王都内において、
魔力異常・大規模災害・対魔物戦闘時の
限定的出動権を与える」
軍部代表が続ける。
「対価として」
「王都滞在の自由保証」
「活動資金の支給」
「そして――」
一瞬、間を置く。
「定期的な魔力量測定と報告」
部屋の空気が、重くなる。
“信頼”という名の枠。
拘束ではない。
だが監視は含まれる。
「拒否権はありますか」
クレージュが静かに問う。
軍部代表は即答しない。
「形式上はある」
「だが?」
「王都外での活動は制限される可能性がある」
率直だった。
つまり――
受けなければ自由が狭まる。
リシェルが口を開く。
「強制ではありません」
その声は、王女としてではなく、個人に近い。
「あなたが選ぶべきことです」
軍部代表の視線がわずかに動く。
だが否定はしない。
クレージュはゆっくり息を吸った。
(役割か)
(枠か)
「一つ、確認させてください」
全員の視線が集まる。
「これは、俺を管理するための制度ですか」
沈黙。
魔導院長が先に答えた。
「違う」
「王都を守るための制度だ」
軍部代表も続ける。
「だが同時に、
我々が安心するための制度でもある」
正直な答えだった。
クレージュは頷く。
「分かりました」
そして、静かに言った。
「受けます」
空気が変わる。
だが次の言葉で、再び張り詰めた。
「ただし、条件があります」
軍部代表の眉が動く。
「聞こう」
「六彩の全開使用を義務化しないこと」
「出動判断は、
必ず現場で俺に委ねること」
「そして」
視線を、リシェルへ。
「灰色の村と同様の事案が起きた場合、
俺だけに責任を押し付けないこと」
沈黙。
これは要求だ。
軍部代表は低く息を吐く。
「……随分と対等だな」
「対等でなければ、
協力じゃありません」
魔導院長が、ゆっくりと頷いた。
「妥当だ」
軍部代表はしばらく考え、
そして言った。
「条件を受け入れる」
その瞬間、
両者の均衡が確定した。
リシェルは、静かに息を吐く。
フランソワーズは、微かに目を細める。
エイドは、遠く塔の上で呟いた。
「……選んだな」
クレージュは、椅子に腰を下ろす。
これで自由は守られた。
だが同時に――
王都の一部になった。
枠は、差し出された。
そして自ら、その枠に足を踏み入れた。
だがそれは拘束ではない。
条件付きの、対等な協力。
だが物語は、まだ終わらない。
枠の中で動く六彩は、
次に何を証明するの
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