4-17「用意された役割」
クレージュの行動に誤算を感じる者たち。
そして彼らはどう動くのか…
王都オベールロワイヤルの中央塔。
その最上階で、再び会議が開かれていた。
窓の外には、整然と並ぶ街並み。
だが室内の空気は、静穏とは程遠い。
机上に並ぶ報告書の最上段には、こう記されている。
倉庫街魔力異常事案――六彩少年による制御完了。
軍部代表が、書類を閉じた。
「……想定外だ」
魔導院長が静かに応じる。
「暴発を恐れたが、
彼は六彩を使わなかった」
「三属性のみで制御」
「しかも地下回路を解析し、
流れを逸らした」
軍部代表の声は低い。
「つまり、理性がある」
「ええ」
「そして技術もある」
沈黙。
重いのは“安心”ではない。
“扱いづらさ”だ。
「危険な存在は管理できる」
軍部代表が言う。
「だが――」
「危険で、なおかつ正しい行動を取る存在は、
管理が難しい」
その言葉に、室内の誰も反論しない。
魔導院長が、ゆっくりと指を組む。
「彼は“第三の選択”を掲げた」
「そしてそれを、
現実で証明した」
「となれば」
「民意は、彼に傾く」
それは王国にとって、両刃だ。
制御不能の英雄は危険。
だが放置すれば、独立した象徴になる。
軍部代表が、決断するように言った。
「枠を与える」
「だが拘束ではない」
「役割だ」
魔導院長が頷く。
「王都防衛協力任務」
「限定的な公的活動権」
「そして、定期報告」
軍部代表が目を細める。
「監視ではない」
「“信頼”という形での管理」
言葉は柔らかい。
だが構造は明確だ。
王国の枠内に入れる。
同時刻――
王城の私室。
リシェルは同じ報告を読んでいた。
「……やはり」
小さく息を吐く。
フランソワーズが控えている。
「王国は動きます」
「ええ」
リシェルは視線を落としたまま続ける。
「取り込む形で」
「管理ではなく、
協力の名目で」
フランソワーズは静かに言う。
「拒めば敵対」
「受ければ枠内」
「巧妙です」
リシェルは、ゆっくり立ち上がる。
窓から見える王都は、穏やかだ。
だがその裏で、
少年の未来が設計されている。
「……どう思う?」
王女ではなく、
一人の少女としての問い。
フランソワーズは迷わない。
「彼は受ける可能性が高い」
「なぜ?」
「責任を拒まない性格だからです」
リシェルは、静かに目を閉じる。
それが一番怖い。
彼は力を誇示しない。
だが責任からも逃げない。
(だから、取り込まれる)
一方――
エイドは塔の上から、王城を見ていた。
「決断が早いな」
隣に立つ部下が言う。
「管理派が動きました」
「協力要請という形で」
エイドは、わずかに口元を上げる。
「予想通りだ」
「どうされますか」
「何もしない」
部下が驚く。
「放置ですか」
「違う」
エイドの目は冷たい。
「これが最初の分岐だ」
「彼が自ら枠に入るのか」
「それとも、条件を出すのか」
「拒絶するのか」
塔の上の風が強くなる。
「彼が選ぶ」
「私はそれを見る」
王都ではすでに、
噂が広がり始めていた。
“六彩は必要だ”
“王国と組むべきだ”
“いや、自由であるべきだ”
思想が分かれる。
均衡は、確実に傾いている。
夜。
クレージュは宿の窓辺に立っていた。
倉庫街の事件は終わった。
だが胸の奥が、ざわつく。
「……何か来る」
フレイが背後で言う。
「王国か?」
「たぶんな」
沈黙。
「受けるのか?」
クレージュは、すぐには答えない。
窓の外の王都を見つめる。
(守るための枠か)
(それとも、
縛るための枠か)
まだ答えは出ない。
だが確実に、
“役割”は用意されつつある。
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