4-16「六彩を使わない戦い」
倉庫街の灰色は、止まっただけだった。
広がりは抑えられている。
だが、魔力の流れはまだ残っている。
「根があると言ったな」
魔導院長が、低く言う。
「はい」
クレージュは、地面に触れたまま答えた。
「これは“奪う魔法”じゃない」
「王都の魔力を、
どこかへ“送っている”」
周囲がざわつく。
「送る?」
「回路が地下に伸びています」
フレイが、短く言った。
「罠か」
「おそらく」
問題は一つ。
この回路を切れば、
魔力が暴発する可能性がある。
六彩を使えば、
力で押し潰せる。
だがそれは――
管理派に最高の口実を与える。
(ここで暴れたら終わる)
クレージュは、ゆっくり立ち上がる。
「地下に降ります」
「危険だ」
「だから、
抑えてやります」
魔導院長は、じっと少年を見る。
(……試されている)
だがそれは、悪意ではない。
“見極め”だ。
地下通路。
石壁に沿って、
淡い灰色の線が走っている。
確かに、流れている。
魔力が。
「……集約点は、前方三十歩」
クレージュは目を閉じる。
六彩を使えば、
一瞬で終わる。
だがそれはしない。
選ぶのは三属性。
風で流れを読む。
土で圧を均す。
水で過剰魔力を分散させる。
「……始めます」
ゆっくり、両手を広げる。
暴れない。
制御する。
灰色の流れが、わずかに乱れる。
地下が震える。
「持つか!?」
フレイが叫ぶ。
「持たせます!」
歯を食いしばる。
六属性すべてを解放すれば楽だ。
だが。
(それは違う)
王都での最初の証明は、
“強さ”じゃない。
“選択”だ。
流れが、変わる。
奪われていた魔力が、
ゆっくり地へ戻る。
灰色が、消えていく。
最後に、
中心部が淡く光った。
そして――
静寂。
「……終わった」
魔導院の魔導士が、震えた声で言う。
「暴発なし。
被害拡大なし」
クレージュは、壁にもたれた。
汗が、頬を伝う。
「六彩は?」
魔導院長が問う。
「使っていません」
「三属性のみ」
「最低出力です」
沈黙が落ちる。
それは疑念ではない。
“理解”だった。
地上に戻ると、
すでに噂は広がっていた。
「六彩が暴れた」ではなく。
「六彩が止めた」。
空気が、変わる。
だが――
王城。
軍部代表が、報告を受けていた。
「……六彩を使わずに?」
「はい」
「制御下での三属性運用」
軍部代表は、低く息を吐いた。
「最悪だ」
「危険で、
かつ理性的」
「放置できん」
魔導院長が静かに言う。
「ならば」
「枠を与えるしかない」
王国は、決断する。
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次回もお楽しみに。




