4-13「崩れ始める均衡」
いよいよクレージュをめぐり均衡が崩れはじめた。
リシェルの判断は?そしてクレージュは…
王都の中央塔、その最上階。
魔導院と軍の合同会議室は、
いつもより空気が重かった。
机の上には、三枚の報告書。
一つ目。
中央市場での魔力誘発事件。
二つ目。
非公式勢力の一部拘束。
三つ目。
“近衛騎士団の非公開出動”。
軍部代表が、書類を閉じた。
「……王女が動いた」
魔導院長は、ゆっくりと頷く。
「正確には、
王女直属の近衛が」
「違いはない」
軍部代表の声は低い。
「王家が“介入”したという事実が重要だ」
部屋の端で、別の男が口を開いた。
「六彩の少年が広場で語った直後、
市場での事件。
そして近衛の動き」
「偶然とは言い難い」
「……つまり?」
「王女殿下は、
少年側に立った」
沈黙が落ちる。
「それは危険だ」
軍部代表が言い切った。
「王女が個人に肩入れすれば、
国家の判断が揺らぐ」
魔導院長は、慎重に言葉を選ぶ。
「しかし、
彼は敵対行動を取っていない」
「昨日の衝突でも、
致命的な力は使っていない」
「だからこそだ」
軍部代表は机を軽く叩いた。
「制御可能なうちに、
枠をはめるべきだ」
「“枠”とは?」
「王都滞在の制限。
定期的な魔力量測定。
公的監視下への登録」
それは――
事実上の“半管理”。
「それでは、
王女殿下と正面衝突になります」
「避けられん」
部屋の奥で、
それまで黙っていた男が口を開いた。
黒い外套。
顔は影に隠れている。
「……まだ早い」
その声は、落ち着いていた。
全員の視線が向く。
「管理は最終手段だ」
「焦れば、
彼は完全に離れる」
軍部代表が睨む。
「では放置するのか」
「違う」
男は静かに続ける。
「選択肢を削るのではなく、
選択肢を“用意する”」
「用意?」
「王国側からの“協力要請”という形だ」
「公的な任務。
王都防衛の補助。
限定的な活動許可」
魔導院長が目を細める。
「……取り込む、ということか」
「彼は“道具”を嫌う」
男は言う。
「だが“役割”は拒まない」
その言葉に、
室内の空気が変わる。
「王女殿下は?」
「公的任務であれば、
否定はしにくい」
軍部代表が、低く笑う。
「なるほど」
「王女と正面衝突せずに、
少年を枠内に入れる」
男は、ゆっくりと立ち上がる。
「ただし」
「彼が拒めば」
一拍。
「その時は、
本格的な管理へ移行する」
それは、宣告に近かった。
同時刻。
王城の一室。
リシェルの前にも、
同じ報告が届いていた。
“王国防衛協力要請案”。
(……来た)
剣ではない。
拘束でもない。
“善意の枠”。
フランソワーズが、横で言う。
「うまい手です」
「ええ」
リシェルは静かに答える。
「拒めば、
王国に背を向けた形になる」
「受ければ、
管理への第一歩」
白光の王女は、書類を閉じた。
「……均衡が、崩れ始めたわね」
一方、クレージュはまだ知らない。
自分が次に立つ場所が、
すでに用意されつつあることを。
ここからは、
思想戦から“制度戦”へ移る。
そしてその中心に、
六彩の少年は立たされる。
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