4-11「燃えないはずの火」
突然起きた魔法を使った事件。
民主は六彩のせいだと疑う。
そこでクレージュはどう対応するのか…
王都の朝は、いつもより少しだけ騒がしかった。
市場の一角。
香辛料と果物の露店が並ぶ通りで、
人だかりができている。
「……何かあったんですか?」
クレージュが近づくと、
焦げた匂いが鼻を刺した。
露店の布が焼け、
木箱が黒く焦げている。
だが、不自然だった。
火元がない。
「突然、火が上がったんだよ!」
店主が叫ぶ。
「魔法でもなけりゃ、
あんな燃え方はしない!」
アーニャが低く言う。
「……魔力の残滓がある」
クレージュも感じていた。
これは事故ではない。
(試されてる……)
フレイが周囲を見渡す。
「怪我人は?」
「幸い、いない」
だが、恐怖は広がっている。
「六彩が戻ったからだ」
「魔力が不安定なんだ」
「やっぱり危険なんだ」
その言葉が、
通りの空気を冷やす。
クレージュは一歩前に出た。
「違います」
声は大きくない。
だが、はっきりと通った。
「これは、
意図的に混ぜられた魔力です」
手をかざす。
焦げ跡の上に、
淡い光が走る。
火属性ではない。
土と闇をわずかに混ぜた
不安定な“誘発型”。
「……誰かが、
魔力を置いていった」
ざわめきが起きる。
「じゃあ六彩のせいじゃ……」
「違います」
クレージュは、はっきり言った。
「俺がいるから、
起きたわけじゃない」
「俺を理由に、
起こされたんです」
その言葉に、
通りの視線が変わる。
恐怖から、
疑念へ。
フレイが、小さく言った。
「うまいな」
「え?」
「火を消しただけじゃない。
疑念の矛先も逸らした」
クレージュは、
小さく息を吐く。
(守るって、
こういうことか)
敵を倒すことではない。
恐怖が
誰かに向かないようにすること。
その時、
通りの端にいた男が、
そっと立ち去ろうとした。
アーニャが気づく。
「待って」
影のように動き、
男の腕を取る。
「……な、なんだ」
「靴底」
アーニャが地面を指す。
そこには、
焦げ跡と同じ魔力の残滓。
フレイが低く言う。
「仕事が雑だな」
男は、
震え始めた。
「頼まれただけだ!」
「誰に」
「……分からない!
金を渡されたんだ!」
王都の裏が、
確実に動いている。
だが、ここで暴けば――
また“危険な六彩”の物語になる。
クレージュは、
周囲を見渡した。
「衛兵を呼んでください」
「俺たちは、
これ以上関わりません」
「……逃がすのか?」
アーニャが問う。
「違う」
クレージュは首を振る。
「王都の問題は、
王都に返す」
それが、
第三の選択の一歩。
戦わない。
押し付けない。
だが、放置もしない。
その様子を、
遠くの建物の窓から見ている影があった。
白い手袋。
鋭い視線。
フランソワーズ=クレマン。
「……なるほど」
彼女は静かに呟く。
「守り方を、知っている」
これは偶発ではない。
誰かが
世論を動かそうとしている。
ならば。
王女の“沈黙”は、
ここで終わる。
王都は、
静かに火を抱え始めていた。
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