4-10「王都に潜むもの」
クレージュの宣言があり
そして色々なものたちが動きはじめている。
クレージュのこれからは…
灯りは増え、
人の数は減り、
代わりに影が長く伸びる。
クレージュは、その影の中を歩いていた。
家へ戻るだけの道。
見慣れたはずの通り。
それでも、
背中がざわつく。
(……視線)
確信に近い感覚だった。
「クレージュ」
アーニャが、小さく声を落とす。
「三つ。
屋根の上に一つ、
路地に二つ」
「……気づかれてます?」
「気づかせてる感じ」
フレイが、ゆっくりと周囲を見渡す。
「脅しだな」
「管理でも、
捕縛でもない」
「“様子を見る”ための圧」
足を止めると、
影も止まった。
再び歩き出すと、
距離を保ったまま動く。
露骨すぎる。
(……誰の差し金だ)
魔導院か。
軍か。
それとも、もっと裏の連中か。
「……逃げません」
クレージュは、そう言った。
「分かってる」
フレイの声は落ち着いている。
「だが、
ここで何か起きると」
「はい。
“正当化”されます」
六彩は危険だ。
だから管理すべきだ。
その理屈を、
現実にしてしまう。
「……じゃあ、どうする?」
アーニャが問う。
クレージュは、
一瞬だけ考えた。
そして。
「……立ち止まります」
その言葉に、
影が動いた。
路地の奥から、
三人の男が姿を現す。
顔は隠していない。
武器も、抜いていない。
だが、
魔力の気配はある。
「……少年」
一人が、静かに言う。
「話がある」
「公の場で?」
クレージュが問い返す。
男は、首を振った。
「非公式だ」
「それは、
あなたたちにとって
都合がいいだけです」
沈黙。
その返しは、
想定外だったのだろう。
「我々は、
君を排除したいわけではない」
別の男が言う。
「だが、
自由にさせるわけにもいかない」
「管理を?」
「……柔らかい形でな」
クレージュは、
一歩も動かなかった。
「俺は、
今日、言いました」
「分からないままでも、
話し続けたいと」
「それを、
夜道で囲む形で
伝えに来るのは」
視線を、まっすぐ向ける。
「対話じゃありません」
空気が、
一段階冷える。
「……生意気だな」
「事実です」
フレイが、
一歩前に出た。
「これ以上は、
引け」
「ここで何かあれば、
お前たちの立場が
一番悪くなる」
男たちは、
短い視線のやり取りを交わす。
そして。
「……今日は、
ここまでだ」
そう言い残し、
影に溶けるように消えた。
静寂が戻る。
アーニャが、
深く息を吐いた。
「……はあ。
胃に悪い」
「すみません」
クレージュは、
小さく頭を下げる。
「いや」
フレイは、
ゆっくり首を振った。
「よくやった」
「殴らず、
逃げず、
言葉を通した」
「……でも」
クレージュは、
夜空を見上げる。
「始まりですね」
「そうだ」
フレイは、
低く言った。
「ここからは、
“何も起きない”という選択肢はない」
王都は、
何事もなかったように眠っている。
だがその裏で、
確実に線が引かれた。
少年を
「話し合う存在」と見る者。
少年を
「制御すべき存在」と見る者。
そして――
少年を
「消すことで解決しようとする者。
そしてそれらは、
静かな均衡を失った。
ここからは、
誰かが動けば、
必ず何かが壊れる。
それでも。
クレージュは、
歩みを止めなかった。
逃げないと、
決めたからだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




