4-9「王女の聞いた声」
クレージュの宣言を聞いたリシェルが下す判断は…
王城の高い窓からは、王都の中央広場がよく見える。
距離はある。
人の表情までは分からない。
それでも、
声は――届いていた。
「……第三の選択を、
探させてください」
その言葉を聞いた瞬間、
リシェルは無意識に、窓枠に手を置いていた。
(……言ったのね)
予想していた。
それでも、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
彼は逃げなかった。
隠れもしなかった。
世界の中心で、
“決まっていない答え”をそのまま差し出した。
(無謀で……誠実で……)
そして、
とても彼らしい。
「王女殿下」
背後から、静かな声。
振り向くと、
年配の補佐官が立っていた。
「中央広場での件、
すでに報告が上がっています」
「……そうでしょうね」
隠せるはずがない。
「魔導院と軍部から、
それぞれ意見書が届いています」
「想像はつきます」
補佐官は一瞬、言葉を探すように間を置いた。
「……殿下は、
どうなさいますか」
リシェルは、すぐには答えなかった。
窓の外では、
人々が散り始めている。
日常へ戻る背中。
だが、その中に、
確かに“何かを考える背中”が混じっていた。
(彼は、
世界に問いを投げた)
ならば。
(王女である私は、
どう応える?)
「……公には、
何も出しません」
補佐官の眉が、わずかに動く。
「しかし――」
「その代わり」
リシェルは、はっきりと続けた。
「非公式の場で、
彼を守る動きを取ります」
「守る、とは?」
「管理の名の下に、
彼の選択肢が狭められないように」
「対話の場が、
潰されないように」
それは、
王女として非常に危うい立場だった。
明確な命令ではない。
だが、明確な意思表示だ。
「……よろしいのですか」
補佐官の声には、
心配が滲んでいる。
「間違えれば、
殿下ご自身の立場にも
影響が出ます」
「分かっています」
リシェルは、静かに頷いた。
「でも」
胸に、手を当てる。
「彼は、
間違える自由を
奪われるべき人ではありません」
補佐官は、しばらく黙っていた。
やがて、
深く頭を下げる。
「……承知しました」
一人になり、
リシェルは再び窓の外を見る。
クレージュの姿は、
もう見えない。
それでも。
(聞こえたわよ)
あなたの言葉は。
世界に向けた言葉であると同時に、
誰かに向けた助けを求める声だった。
(だから……)
王女として、
できることをする。
あなたの隣に立つことは、
まだできない。
けれど。
あなたが立ち続ける場所が、
消されないように。
白光の王女は、
静かに決めた。
剣を取らず、
声を荒げず、
それでも確かに――
立場を賭けることを。
物語は、
次の段階へ進む。
それは、
世界と少年の話であると同時に、
王女が“王女になる”物語でもあった。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




