4-7「王女の沈黙」
クレージュについて会議が行われる。
リシェルは言葉を発したい…が、それは軽率にはできない。彼女は沈黙を選ぶ。
王城の会議室は、昼下がりでも冷えていた。
窓から差し込む光は柔らかいはずなのに、
長い卓を囲む人々の言葉は、どこか硬い。
「現状では、さらなる観測が必要です」
「王女殿下のご懸念も理解できますが……」
「国としての安全を優先すべきかと」
次々に投げられる意見を、
リシェルは黙って聞いていた。
否定しない。
肯定もしない。
ただ、視線を落とし、
一つ一つの言葉を胸の中に置いていく。
(皆、正しい)
そう思う自分がいる。
魔導院の理屈も、
軍の危機感も、
評議会の政治的判断も。
どれも、この国を守るためのものだ。
「……王女殿下」
名前を呼ばれ、顔を上げる。
「何か、ご意見は?」
一瞬、言葉が喉まで上がる。
“対話の余地を残すべきです”
“彼は兵器ではありません”
どちらも、
もう何度も口にした言葉だ。
そして、
その度に返ってくる反応も、
分かっている。
「……現時点では」
リシェルは、慎重に言葉を選んだ。
「判断を急ぐことが、
必ずしも最善とは思えません」
「沈黙もまた、
選択の一つだと考えます」
空気が、わずかに動いた。
逃げだと捉える者。
理解を示す者。
苛立ちを覚える者。
全てが混じった視線が、
一斉に向けられる。
「承知しました」
最終的にそうまとめられ、
会議は終わった。
回廊を歩きながら、
リシェルは小さく息を吐く。
(……怖い、わね)
正直な感情。
間違えれば、
誰かが傷つく。
動かなければ、
誰かが勝手に決める。
どちらも、
王女として背負うべき重さだ。
部屋に戻り、
窓辺に立つ。
王都が、
いつも通りに広がっている。
そのどこかに、
クレージュがいる。
今この瞬間も、
何かを見て、
何かを考えているのだろう。
(あなたは、
動こうとしている)
それは、
不思議と分かる。
彼は、
流されることを嫌う。
だからこそ、
自分で選ぼうとする。
(……だから、
私はまだ動かない)
王女が軽率に動けば、
彼の選択肢を狭めてしまう。
味方になることも、
敵になることも、
今はまだ早い。
「沈黙は、
逃げじゃない」
そう自分に言い聞かせる。
沈黙は、
耐えること。
見極めること。
そして――
決定的な瞬間に、
言葉を持つための準備だ。
リシェルは、
胸元のペンダントに触れた。
白光が、
淡く応える。
(あなたが選ぶ時、
私は隣に立てるだろうか)
答えは、
まだ出ない。
だが、
その問いを捨てるつもりはなかった。
王女の沈黙は、
無ではない。
それは、
嵐の前に張り詰めた、
確かな意志だった。




