4-6「王都の裏側」
王都の裏ではウワサが広がるのが早い。
そこでクレージュとフレイが聴くことは…
王都オベールロワイヤルには、二つの顔がある。
一つは、誰もが知る表の顔。
王城、評議会、魔導院、整った石畳と規則正しい秩序。
そしてもう一つは、
誰もが知っていて、誰も語ろうとしない裏の顔だ。
夕暮れが近づく頃、
王都の中央区画から少し外れた路地は、別の空気を纏い始める。
昼間の喧騒が引いた後、
静けさの中に“気配”だけが残る。
クレージュは、フレイと並んでその路地を歩いていた。
「……ここ、王都ですよね?」
思わず確認するように言うと、
フレイは短く笑った。
「王都だからこそ、だ」
石壁は少し崩れ、
明かりは必要最低限。
それでも人の出入りは絶えない。
冒険者。
行商人。
顔を隠した者たち。
誰もが、
“公式では扱えない話”を抱えている。
「噂は、
こういう場所から広がる」
フレイが低い声で言う。
「城や魔導院より、
よほど正直にな」
店とも倉庫ともつかない建物の前で、
フレイは足を止めた。
扉を軽く叩く。
決まった回数。
しばらくして、
中から声がした。
「……今日は誰の紹介だ?」
「昔の借りだ」
フレイが答える。
扉が、きしりと開いた。
中は薄暗く、
香草とインクの匂いが混じっている。
机の向こうにいたのは、
年齢不詳の男だった。
鋭い目。
だが、敵意はない。
「久しいな、フレイ」
「生きてたか」
「お互い様だ」
男は、クレージュに視線を向ける。
「……で、こっちが噂の?」
「本人だ」
男の目が、
一瞬だけ真剣になる。
「なるほど。
派手さはないな」
「派手なのは、
だいたい後から付く」
フレイの言葉に、男は小さく笑った。
「王都は今、
ざわついてる」
男は椅子にもたれ、語り始める。
「六彩。
管理者。
灰色の村」
「表では名前を伏せて、
裏では全部繋がってる」
クレージュは黙って聞く。
「怖がってるのは誰だ?」
そう問いかけると、
男は即答した。
「全員だ」
「民も、貴族も、魔導士も」
「違いは一つだけ」
「“備えたい理由”が違う」
「兵器にしたい者。
制御したい者。
消したい者」
その言葉に、
クレージュの眉がわずかに動く。
「……消す、ですか」
「ああ」
男は頷く。
「灰色の村の真相が、
完全に公になればな」
「責任を問われる連中が、
必ず出てくる」
「そいつらは、
“原因そのもの”を
消したがる」
フレイが、低く唸った。
「やっぱり、
そういう話か」
「王女殿下は?」
クレージュが尋ねる。
男は少し考え、
慎重に言葉を選んだ。
「……板挟みだな」
「味方につけば、
政治が荒れる」
「距離を取れば、
民が騒ぐ」
「黙っていれば、
誰かが勝手に決める」
クレージュは、
小さく息を吐いた。
(簡単な選択なんて、
一つもない)
「監視は?」
「もう始まってる」
男は、
壁際に目をやる。
「表向きは、
“偶然居合わせた冒険者”」
「裏では、
管理者の網だ」
「ただし――」
「ただし?」
「まだ、
手は出してこない」
「様子見だ」
「君が、
どう動くか」
その言葉に、
部屋の空気が少し張り詰めた。
「……ありがとう」
クレージュは、頭を下げた。
「知れてよかったです」
「知るのは、
危険でもある」
男は言う。
「だが、
知らないまま選ばされるよりは、
ましだろう」
外に出ると、
空はすでに夕焼けに染まっていた。
王都は、
何も変わらない顔で人を飲み込んでいる。
「……裏側って、
こんなもんなんですね」
クレージュの言葉に、
フレイは頷いた。
「理屈と恐怖と、
ほんの少しの善意」
「それが混ざると、
厄介になる」
クレージュは、
遠くの城を見上げる。
あの中でも、
別の議論が進んでいるはずだ。
(選ばされる前に、
選ばなきゃいけない)
王都の裏側は、
静かに、
だが確実に動いていた。
そしてそれは、
いずれ表へ滲み出る。




