4-5「正しい人々」
クレージュの知らないところで六彩への対処方法が
決められていく。
リシェルの思い、クレージュの思い。
そして正しいとされる人々の思いが交差し始めている。
王都オベールロワイヤルの中央区画。
白い石造りの建物が並ぶ一角に、魔導院はある。
外観は静かで、装飾も控えめだ。
だが内部には、王国でも指折りの魔導士と研究者が集っている。
その最上階。
円卓を囲む会議室には、いつもより多くの席が用意されていた。
魔導院の長。
軍部の代表。
王国評議会の使者。
そして――
記録係と、沈黙を守る護衛たち。
「……では、報告を続けます」
魔導院の研究主任が、淡々と口を開いた。
「六属性を同時に保持する個体。
観測された魔力量は、従来のSランクを大きく超過。
暫定ではありますが、SSS相当と判断しています」
ざわめきは起きない。
この場に集められた者たちは、すでに概要を知っていた。
「問題は、量ではありません」
研究主任は、視線を円卓に巡らせる。
「“制御”です」
「制御されていない、と?」
軍部代表の男が問い返す。
「いいえ。
本人の精神状態は、驚くほど安定しています」
「それは朗報だな」
「はい。
ただし――」
研究主任は、そこで一度言葉を切った。
「安定しているがゆえに、
外部からの強制介入が困難です」
沈黙。
誰もが、その意味を理解した。
「つまり」
評議会の使者が、静かにまとめる。
「命令に従う“兵器”にはなり得ない、ということか」
「現状では、そうなります」
軍部代表は、腕を組んだ。
「……厄介だな」
声には、苛立ちよりも困惑が滲んでいた。
「危険な存在だが、暴走していない。
だが、管理もできない」
「放置は論外でしょう」
別の評議員が口を挟む。
「灰色の村の件が示す通り、
異常は連鎖します」
「六彩が原因とは、まだ断定されていません」
「断定されてからでは遅い」
正論だった。
誰も、それを否定できない。
「ならば、どうする」
軍部代表が、低い声で言う。
「監視を強める。
接触を制限する。
行動範囲を把握する」
「それは、事実上の管理では?」
「“柔らかい管理”だ」
研究主任は、慎重に言葉を選ぶ。
「本人の意思を尊重する形を取りつつ、
王国としての安全も確保する」
「……綺麗な言い方だな」
誰かが、そう呟いた。
だが、誰も笑わない。
それが、最も現実的な案だと
全員が分かっていたからだ。
「王女殿下は、
この件に慎重な姿勢を示されています」
評議会の使者が言う。
「彼女は、
“対話の余地を残すべき”と」
「理想論だ」
軍部代表は、即座に切り捨てた。
「だが、無視もできん」
別の評議員が続ける。
「王女殿下が動けば、
民の感情も動く」
「……政治だな」
研究主任は、小さく息を吐いた。
「我々は、
感情ではなく事実を扱う立場です」
「事実とは?」
「六彩は、
現時点で“敵”ではない」
「だが、“味方”とも言えない」
円卓に、重い空気が落ちる。
「結論を急ぐべきではない」
研究主任は、静かに言った。
「彼は、
選択を先送りにしている」
「ならば――」
軍部代表は、机を軽く叩く。
「我々が、
世界の側として選択を迫るしかない」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
それが、
“大人たちの責任”だと
信じているからだ。
会議が終わり、
人々は静かに席を立つ。
廊下に出たところで、
評議会の使者が立ち止まった。
「……本当に、
彼は危険なのだろうか」
誰に向けたとも知れない独り言。
答えは、返ってこなかった。
一方その頃。
王都の一角。
同じ空の下で。
六彩の少年は、
自分がどれほど“正しく議論”されているかを
まだ知らない。
正論は、
いつだって静かに積み上がる。
そして気づいた時には、
逃げ道を塞いでいる。
六彩の扱いについては、
確実に“世界の側”へと傾き始めてい




