4-4「再会」
リシェルと再会を果たすクレージュ。
だが、お互い以前とは違うという事を理解するだけであった。
王都の通りは、相変わらず人で溢れていた。
市場の喧騒。
呼び込みの声。
馬車の音。
どれも見慣れたはずの光景なのに、
クレージュは、どこか落ち着かない。
(……視線、増えたな)
気のせいではない。
はっきりと分かる。
直接声をかけられることはない。
だが、噂を確かめるような目が、
通りすがりに刺さる。
「王都ってさ」
隣を歩くアーニャが、軽く言った。
「噂が空気みたいに漂ってるよね」
「……ですね」
「吸ったら最後、
どこに行っても付いてくる」
クレージュは苦笑した。
灰色の村を出てから、
こういう感覚には慣れたと思っていた。
だが、王都は違う。
ここは“世界の中心”だ。
一つの話題が、
あっという間に意味を持ってしまう。
その時だった。
通りの向こう、
人の流れがわずかに割れる。
護衛の騎士。
控えめだが、隙のない動き。
その中央を歩く、
淡い光をまとったような少女。
(……リシェル)
一瞬で分かった。
ドレスではない。
だが、立ち姿が違う。
周囲の空気が、
自然と整えられている。
「……あ」
アーニャも気づいたらしい。
「王女様、だね」
クレージュは、足を止めた。
向こうも、
こちらに気づいたようだった。
視線が、合う。
ほんの一瞬。
リシェルの表情が、
わずかに和らいだ気がした。
だが、すぐに整えられる。
王女としての顔。
(……近いのに)
距離は、数歩しかない。
それなのに、
以前よりも遠く感じた。
「……クレージュ」
リシェルが、名前を呼ぶ。
それだけで、
胸の奥が少し揺れた。
「お久しぶりです、
リシェル様」
自然と、言葉が変わる。
敬称。
距離。
リシェルの瞳が、
一瞬だけ揺れた。
「……元気そうで、何よりです」
「はい。
そちらも」
当たり障りのない会話。
周囲には、
護衛と通行人。
王女と少年。
それ以上でも、
それ以下でもない立ち位置。
「王都に戻られたと聞きました」
「ええ。
少し、用事がありまして」
用事。
その言葉の裏にあるものを、
二人とも理解している。
「……忙しそうですね」
クレージュがそう言うと、
リシェルは小さく笑った。
「王都は、
人を休ませてくれませんから」
その言葉に、
クレージュは頷くしかなかった。
沈黙が、落ちる。
嫌な沈黙ではない。
だが、以前のような軽さもない。
(変わったんだ)
自分が。
彼女が。
世界が。
「……無理は、なさらないでください」
クレージュは、
それだけを言った。
王女に対して、
少し不躾な言葉かもしれない。
だが、
嘘ではなかった。
リシェルは、
一瞬驚いたような顔をしてから、
ゆっくり頷いた。
「あなたも、
同じです」
短い言葉。
だが、重みがある。
護衛の騎士が、
そっと一歩前に出る。
時間だという合図。
「では……」
「はい」
リシェルは、
一度だけクレージュを見つめた。
言葉にしない想いが、
そこにあった気がする。
そして、
彼女は歩き出す。
人の流れに溶けていく背中を、
クレージュは見送った。
「……思ったより、
普通だったね」
アーニャが言う。
「普通、ですね」
そう答えながら、
クレージュは胸に残る違和感を
否定できなかった。
再会はした。
言葉も交わした。
それなのに。
(同じ場所には、
もう立ってない)
それが、
少しだけ――
寂しかった。
だが同時に、
分かってもいた。
彼女は、
王女として前に進んでいる。
自分も、
自分の選んだ道を進んでいる。
「……行きましょう」
クレージュは、
前を向いた。
再会は、
ゴールではない。
ここからが新たなスタート
二人の再会がどんな形であれ叶いました。
これから二人の物語はどうなっていくのか…。
次回もお楽しみに。




