4-1「王都への帰還」
第四章の始まりです。
これからもよろしくお願いいたします。
王都オベールロワイヤルの城門が見えた時、
クレージュは、無意識に息を整えていた。
高い城壁。
幾重にも重なる塔。
往来する人々と馬車の列。
旅の途中で見てきた街とは、規模が違う。
ここは、国の中心だ。
「……相変わらず、人が多いな」
フレイが、どこか懐かしそうに呟く。
「やっと帰ってきたって感じだな」
アーニャは城壁を見上げ、素直に声を出した。
「灰色の村とは、真逆だね」
その言葉に、クレージュは何も返さなかった。
代わりに、城門の向こうへ視線を向ける。
色がある。
音がある。
生きている世界が、確かにそこにある。
(……戻ってきた)
そう思うと同時に、
胸の奥に、わずかな違和感も生まれていた。
城門をくぐると、視線を感じる。
露骨ではない。
だが、確かにある。
好奇。
警戒。
噂を確かめるような目。
「……見られてますね」
クレージュが小さく言うと、
アーニャが肩をすくめた。
「そりゃそうでしょ。
この街、噂の回り方が異常に早いんだから」
「六彩の話も?」
「もう出回ってると思うよ。
名前は出てなくても、“危険な力を持つ少年”くらいはね」
フレイは、何も言わずに歩いている。
だが、その視線は周囲を鋭く捉えていた。
「王都はな」
しばらくして、フレイが口を開く。
「何も起きてないように見えて、
常に何かが動いている」
「……管理者の目も、ですか」
クレージュの問いに、フレイは頷いた。
「間違いなくな」
それを聞いても、クレージュは立ち止まらなかった。
足取りは、むしろ安定している。
逃げない。
隠れない。
エイドとの出会いの時で決めたことが、まだ胸の奥で熱を持っている。
ブラハム堂に荷を下ろした後、
王都の通りを歩く。
市場では、いつも通りのやり取りが交わされている。
「新鮮な果物だよ!」
「今朝届いたばかりだ!」
パン屋から漂う香ばしい匂い。
笑い声。
言い争う声。
平和だ。
だが、完全ではない。
掲示板の前に、人だかりができている。
「……冒険者募集?」
アーニャが覗き込む。
「いや、違う」
クレージュは、紙に書かれた文字を読んでいた。
「王都周辺での魔力異常、注意喚起……」
小さな張り紙。
だが、見逃せない。
(……灰色の村と、同じ匂い)
確証はない。
だが、無関係とも思えなかった。
「王都は、世界の中心だ」
フレイが言う。
「ここで起きることは、
必ず外へ広がる」
「だからこそ……」
クレージュは、張り紙から目を離す。
「ここで、逃げるわけにはいきませんね」
フレイは、少しだけ笑った。
「言うようになったな」
アーニャが、前を歩きながら振り返る。
「これからって感じ?」
「……そうですね」
クレージュは、城の方向を見上げた。
あの場所に、リシェルがいる。
王女として、
世界の側として。
(同じ街にいる)
それだけで、少しだけ心が落ち着く。
だが同時に、
ここからが本番だという予感もあった。
王都は、待ってくれない。
世界は、動いている。
その中心で、
自分は何を選ぶのか。
クレージュは、歩き出した。
灰色にしないと決めた、その先へ。




