3-10「灰色にしないと決めた日」
エイドとの二度目の出会い。
クレージュは自分の思いをぶつけた。
その日は、
特別な朝ではなかった。
空は曇り。
風は弱く、森は静かだった。
だが、
クレージュは分かっていた。
(……今日だ)
エイドが言っていた
“次”の時。
逃げ場はない。
先延ばしもできない。
クレージュは、
仲間たちの前に立つ。
「……来ます」
その言葉通り、
空気が変わった。
森の奥から、足音。
隠す気配はない。
威圧もない。
エイドが、姿を現した。
前回と同じ外套。
同じ歩き方。
だが、目だけが違う。
「……来たな」
「はい」
クレージュは、
視線を逸らさない。
「答えを聞きに来た」
「分かっています」
エイドは、
周囲を一瞥する。
「管理を受け入れるか」
「拒否するか」
「あるいは――」
「力ずくで、管理対象にするか」
その言葉に、
アーニャが身構える。
フレイは、一歩前に出た。
だが、
クレージュが手で制する。
「……戦いません」
静かな声だった。
「でも」
「逃げるわけじゃありません」
エイドは、
小さく息を吐く。
「では、答えを」
クレージュは、
一歩踏み出す。
「管理は、必要だと思います」
エイドの眉が、わずかに動く。
「放置も、危険だと思います」
「だから」
「俺は、そのどちらにもなりません」
森が、
一瞬だけ静まり返る。
「……矛盾だ」
「分かっています」
「でも」
クレージュは、
胸に手を当てる。
「灰色の村は、誰かの悪意で生まれたわけじゃない」
「善意と、恐怖と、焦りが重なった結果です」
「なら」
「次に必要なのは、力じゃない」
「待つことと、話すことです」
エイドは、
即答しなかった。
「……抽象的だ」
「そうですね」
「でも」
「俺は、暴走したら止められます」
「仲間が」
フレイを見る。
「世界が」
「そして――あなたが」
エイドの視線が、鋭くなる。
「……自分を、世界に預ける気か」
「はい」
「でも、鎖はつけません」
「首輪も、いりません」
「……厄介だな」
エイドは、初めて苦笑した。
「管理するには、自由すぎる」
「放置するには、危険すぎる」
「そうですね……その通りです」
エイドは、
しばらく黙って
クレージュを見つめた。
長い沈黙。
「……猶予を延ばそう」
「正式な管理対象にはしない」
「だが」
「監視は続けさせてもらう」
「それで、構いません」
エイドは、
小さく頷いた。
「……世界は、君を試す」
「そして」
「君も、世界を試すことになる」
◆
外套を翻し、
背を向ける。
「次に会う時」
「灰色になっていないことを祈ろう」
その言葉を残し、
エイドは森へ消えた。
◆
気配が消える。
しばらくして、
アーニャが息を吐いた。
「……生き延びたね」
「そのようですね…」
クレージュは、空を見上げる。
曇り空の向こう、わずかに光がさす。
「……灰色にはしません」
小さく、しかし確かな声。
フレイが、その背中を見る。
「……ああ」
「今度は、違う」
風が吹き、
木々が揺れた。
世界は、
何も変わっていない。
だが――
一つの選択が、
確かに刻まれた。
──灰色にしないと決めた日。
──それは、
英雄の誕生でも、
世界の救済でもない。
──ただ、
選び続ける覚悟が
生まれた日だった。
お読みいただきありがとうございます。
次回は幕間となります。




