3-5「管理することを選んだ男」
六彩の力を知るからこそ、彼は「管理」を選択した。
そして、その決意は揺らぐことはない。
その記録は、
表に出ることはなかった。
灰色の村――
正式な地名も、
国家の記録も残らない場所。
だが、
エイドはその名を忘れていない。
石造りの部屋。
窓のない執務室。
机の上には、
一枚の報告書。
「……六属性反応、同時発生」
彼は、淡々と文字を追う。
「感情起因。未制御。暴走」
そこまで読んで、紙を伏せた。
「……やはりな」
誰に向けた言葉でもない。
部屋には、彼一人しかいない。
それでも、エイドは独り言をやめなかった。
「六彩は、個人が抱えるには重すぎる」
彼は、窓のない壁に視線を向ける。
そこに映るのは、過去の記憶だ。
◆
――村。
――逃げ惑う人々。
――光。
――闇。
すべてが、一瞬で“切り離された”。
「……誰も、間違ってはいなかった」
呟きは、自分自身への確認だった。
力を持った少年も。
守ろうとした剣士も。
逃げた村人も。
だが――
結果は残った。
「世界は、結果で壊れる」
だからこそ。
エイドは、“管理”を選んだ。
自由ではない。だが、
放置よりはいい。
選択肢を奪う。
だが、犠牲は減る。
「……それでいい」
机の引き出しから、
別の書類を取り出す。
そこには、新たな名前があった。
《六彩反応確認個体》
識別名:クレージュ=ブラハム
エイドは、
わずかに眉を動かす。
「……若いな」
だが、同情はしない。
同情は、判断を鈍らせる。
「この力は、持つべきではない」
◆
「世界の側で」
ペンを取り、
指示を書き込む。
《接触準備》
《敵対行動は取らない》
《本人の意思確認を優先》
その文言に、迷いはなかった。
「拒否された場合――」
一瞬だけ、ペンが止まる。
「……その時は、その時だ」
エイドは立ち上がり、外套を羽織った。
彼は悪ではない。
だが、味方でもない。
「六彩は、再び“灰色”を生む」
「それだけは、許されない」
扉の前で、一度だけ立ち止まる。
「……頼むぞ」
誰に向けた言葉かは、分からない。
少年にか。
過去にか。
それとも、自分自身にか。
扉が、静かに閉じられた。
世界は、今日も平然と回っている。
その裏側で、一人の男が“自由を制限する決断”をしたことを誰も知らない。
──灰色の村を繰り返さないために。
──彼は、
管理者になることを選んだ。
エイドの管理が六彩の少年、クレージュへと向かっていく。灰色の村の出来事をそれぞれの立場でそれぞれの想いを抱かせ進んでいく。
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