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3-4「灰色の村(後編)」

灰色の村での出来事を聞いたクレージュの新たな決意は…

夜は、思ったより早く訪れた。


 


 村の外れで焚いた小さな火。

 その光は、灰色の地面にほとんど色を与えない。


 クレージュは、火を見つめながら、フレイの言葉を待っていた。


 


「……続きだ」


 フレイが、低く切り出す。


「魔物は、思ったより早く村に入った」


「俺は、正面から抑えた」


「数を減らしながら、逃げ道を作るつもりだった」


 枝が、ぱちりと鳴る。


「……だが」


「背後で、魔力が揺れた」


 クレージュの背筋が、ひやりとする。


「気配は、弱かった」


「弱かったが――とてつもない魔力量だった」


 フレイは、

 焚き火の向こうを見る。


 


「……あいつだ」


「恐怖と、焦りと、守りたいって気持ちが」


「全部、一度に溢れたんだよ」


 クレージュは、

 無意識に拳を握った。


「……止めには、行かなかったんですか」


「行ったさ」


 即答。


「斬りながら、叫びながら」


「『下がれ』ってな」


「『任せろ』って」


 フレイの声は、少しだけ、

 掠れていた。


「……だが、あいつは聞かなかった」


「聞こえていなかったんだ」


「世界が、狭くなってた」


 



 


 焚き火の炎が、

 小さく揺れる。


「最初に起きたのは、光だった」


「治癒でも、攻撃でもない」


「拒絶だ」


 アーニャが、息を呑む。


「魔物が、近づけなくなった」


「だが同時に――」


「人も、近づけなくなった」


 クレージュの胸が、締めつけられる。


「次に、地面が沈んだ」


「家が傾き、道が割れた」


「逃げ場が、消えた」


「水が、溢れ」


「火が、燃え」


「風が、暴れた」


 フレイは、

 淡々と並べる。


 だからこそ、重かった。


「……止めたかった」


「だが」


「俺が、近づいた瞬間」


「――闇が、落ちた」


 


 風が、

 一段強く吹いた。


 


「闇は、飲み込むものじゃなかった」


「切り離すものだった」


「音も、匂いも、色も」


「全部、外に追い出した」


 



 


 クレージュは、目を閉じる。


「……だから、この村は」


「色がない」


「焼けたわけじゃない」


「壊れたわけでもない」


「ただ――“残らなかった”」


 



 


 長い沈黙。


 



 


 焚き火の火が、

 弱まっていく。


「……彼は」


 クレージュが、ようやく口を開く。


「その少年は、どうなったんですか」


 フレイは、すぐには答えなかった。


「……分からない」


「倒れたのは、見た」


「だが――」


「死体は、なかった」


「魔力の痕跡は、途中で消えた」


 クレージュの胸が、強く脈打つ。


「……俺は」


「そこで、剣を下ろした」


「守れなかった」


「斬れなかった」


「選べなかった」


 フレイは、

 焚き火を見つめたまま言う。


「……だから、剣を捨てた」


「判断を、先延ばしにするためじゃない」


「もう一度、選ぶためにだ」


 


 クレージュは、

 深く息を吸った。


「……フレイさん」


「俺は、その少年と同じ力を持ってます」


 フレイは、

 ゆっくりと頷く。


「ああ……知ってる」


「でも」


 クレージュは、地面を見つめる。


「同じ結末には、しません」


 その声は、少し震えていた。


 だが、決意の言葉であった。


「……ああ」


 フレイは、小さく答える。


「そのために、そうならないために

俺はここにいる」


 



 


 夜風が、

 焚き火の残り火を揺らした。


 灰色の村は、

 闇の中に沈む。


 だが――

 完全な静寂ではない。


 クレージュは、胸の奥で、

 六彩が静かに息づくのを感じていた。


 


 ──灰色の村は、

 災厄の記録ではない。


 


──選択が、

 追いつかなかった場所だ。


 


──そして、

 その続きを生きる者が、

 今、ここにいる。

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