3-4「灰色の村(後編)」
灰色の村での出来事を聞いたクレージュの新たな決意は…
夜は、思ったより早く訪れた。
村の外れで焚いた小さな火。
その光は、灰色の地面にほとんど色を与えない。
クレージュは、火を見つめながら、フレイの言葉を待っていた。
「……続きだ」
フレイが、低く切り出す。
「魔物は、思ったより早く村に入った」
「俺は、正面から抑えた」
「数を減らしながら、逃げ道を作るつもりだった」
枝が、ぱちりと鳴る。
「……だが」
「背後で、魔力が揺れた」
クレージュの背筋が、ひやりとする。
「気配は、弱かった」
「弱かったが――とてつもない魔力量だった」
フレイは、
焚き火の向こうを見る。
「……あいつだ」
「恐怖と、焦りと、守りたいって気持ちが」
「全部、一度に溢れたんだよ」
クレージュは、
無意識に拳を握った。
「……止めには、行かなかったんですか」
「行ったさ」
即答。
「斬りながら、叫びながら」
「『下がれ』ってな」
「『任せろ』って」
フレイの声は、少しだけ、
掠れていた。
「……だが、あいつは聞かなかった」
「聞こえていなかったんだ」
「世界が、狭くなってた」
◆
焚き火の炎が、
小さく揺れる。
「最初に起きたのは、光だった」
「治癒でも、攻撃でもない」
「拒絶だ」
アーニャが、息を呑む。
「魔物が、近づけなくなった」
「だが同時に――」
「人も、近づけなくなった」
クレージュの胸が、締めつけられる。
「次に、地面が沈んだ」
「家が傾き、道が割れた」
「逃げ場が、消えた」
「水が、溢れ」
「火が、燃え」
「風が、暴れた」
フレイは、
淡々と並べる。
だからこそ、重かった。
「……止めたかった」
「だが」
「俺が、近づいた瞬間」
「――闇が、落ちた」
風が、
一段強く吹いた。
「闇は、飲み込むものじゃなかった」
「切り離すものだった」
「音も、匂いも、色も」
「全部、外に追い出した」
◆
クレージュは、目を閉じる。
「……だから、この村は」
「色がない」
「焼けたわけじゃない」
「壊れたわけでもない」
「ただ――“残らなかった”」
◆
長い沈黙。
◆
焚き火の火が、
弱まっていく。
「……彼は」
クレージュが、ようやく口を開く。
「その少年は、どうなったんですか」
フレイは、すぐには答えなかった。
「……分からない」
「倒れたのは、見た」
「だが――」
「死体は、なかった」
「魔力の痕跡は、途中で消えた」
クレージュの胸が、強く脈打つ。
「……俺は」
「そこで、剣を下ろした」
「守れなかった」
「斬れなかった」
「選べなかった」
フレイは、
焚き火を見つめたまま言う。
「……だから、剣を捨てた」
「判断を、先延ばしにするためじゃない」
「もう一度、選ぶためにだ」
クレージュは、
深く息を吸った。
「……フレイさん」
「俺は、その少年と同じ力を持ってます」
フレイは、
ゆっくりと頷く。
「ああ……知ってる」
「でも」
クレージュは、地面を見つめる。
「同じ結末には、しません」
その声は、少し震えていた。
だが、決意の言葉であった。
「……ああ」
フレイは、小さく答える。
「そのために、そうならないために
俺はここにいる」
◆
夜風が、
焚き火の残り火を揺らした。
灰色の村は、
闇の中に沈む。
だが――
完全な静寂ではない。
クレージュは、胸の奥で、
六彩が静かに息づくのを感じていた。
──灰色の村は、
災厄の記録ではない。
──選択が、
追いつかなかった場所だ。
──そして、
その続きを生きる者が、
今、ここにいる。




