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3-3「灰色の村(前編)」

フレイが灰色の村の出来事を話し始めた。

全てが崩壊し灰色一色となったその村で…

クレージュはどう思うのだろうか。

その村は、

 地図にも、

 正式な名にも残らない場所だった。


 街道から外れ、半日ほど山を越えた先。


 畑は小さく、家々は低い。


 裕福ではないが、

 暮らしていくには足りていた。


 



 


「……ここだ」


 フレイは、歩みを止めた。


 クレージュとアーニャは、

 言葉を失った。


 瓦礫はない。

 焼け跡もない。


 だが――

 そして色がない。


 土は灰色。

 草も灰色。

 石壁も、

 どこか色褪せている。


 空だけが、

 不自然なほど青かった。


 



 


「……何も、

 残ってないんですね」


 クレージュの声は、低かった。


「残らなかった、が正しい」


 フレイは答える。


 ゆっくりと、

 村の中へ足を踏み入れる。


 かつて、人の気配があったはずの道。


 今は、風の音しかない。


「……ここにいた」


 フレイは、一軒の家の前で立ち止まる。


「俺が来た時、あいつは――」


 言葉を探すように、

 少し間を置いた。


 「……年の割に、静かな子だった」


「自分から前に出ることは、ほとんどなかった」


 家の壁に、手を触れる。


「力があるなんて、誰も思ってなかった」


「変わってる、とは言われてたがな」


 フレイの声は、淡々としている。


 だが、抑えているのが分かる。


「……どんな子だったんですか」


 クレージュの問いに、フレイは、ゆっくり息を吐いた。


「……よく、周りを見てた」


「誰が疲れてるか」


「誰が困ってるか」


「自分に何かできるか」


「……それで、余計なことまで背負い込む」


 小さく、苦笑する。


「俺は護衛として、村に滞在してた」


「魔物が出る、って話でな」


「剣は、振る機会がなかった」


「それが、平和だと思ってた」


 



 


 村の中央。


 広場だったと思しき場所。


 石の名残が、円を描いている。


「……ここで」


 フレイは、視線を落とした。


「最初に、異変が起きた」


 クレージュは、息を詰める。


「魔物は、群れだった」


「数も多く、動きも早い」


「俺一人じゃ、厳しかった」


「……それでも」


「村人を逃がす時間は、稼げた」


 そこで、フレイは言葉を切る。


「……あいつが、前に出た」


 


 風が、

 広場を吹き抜ける。


 


「剣も持たず」


「呪文も知らず」


「ただ――」


「守りたい、って顔で」


 クレージュの胸が、強く脈打つ。


「……止めなかったんですか」


「止めたさ」


 即答だった。


「だが、言葉が足りなかった」


「何もかもが…足りなかった」


 フレイは、

 拳を握る。


「俺は、剣を持ってた」


「だから、斬れば済むと思った」


「……あいつに、考えさせる前に」


「俺が、全部背負えばいいと」


 



 


 沈黙。


 



 


「だが――」


 フレイは、視線を上げる。


「それは、間違いだった」


 


 クレージュは、

 何も言えなかった。


 


 フレイは、

 広場の中央を見つめる。


「……あいつは、選んだ」


「俺に任せる、という選択じゃない」


「自分が、やる、という選択を」


 その先の言葉は、

 まだ語られない。


 風が、灰色の地面を撫でる。


 クレージュは、足元を見つめた。


(……同じだ)


 守りたいと思った。


 力があるなら、

 使うべきだと思った。


 でも――

 自分には、もう何もできない。


 フレイは、

 ゆっくりと振り返った。


 「……今日は、ここまでだ」


「続きは――」


「夜に話す」


 クレージュは、小さく頷いた。

 夕暮れが、

 村を包み始める。


 


 色のない大地に、

 長い影が伸びた。


 


──この村は、

 戦場ではなかった。


 


──英雄の失敗でもない。


 


──ただ、

 選択が重なった場所だった。

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