3-3「灰色の村(前編)」
フレイが灰色の村の出来事を話し始めた。
全てが崩壊し灰色一色となったその村で…
クレージュはどう思うのだろうか。
その村は、
地図にも、
正式な名にも残らない場所だった。
街道から外れ、半日ほど山を越えた先。
畑は小さく、家々は低い。
裕福ではないが、
暮らしていくには足りていた。
◆
「……ここだ」
フレイは、歩みを止めた。
クレージュとアーニャは、
言葉を失った。
瓦礫はない。
焼け跡もない。
だが――
そして色がない。
土は灰色。
草も灰色。
石壁も、
どこか色褪せている。
空だけが、
不自然なほど青かった。
◆
「……何も、
残ってないんですね」
クレージュの声は、低かった。
「残らなかった、が正しい」
フレイは答える。
ゆっくりと、
村の中へ足を踏み入れる。
かつて、人の気配があったはずの道。
今は、風の音しかない。
「……ここにいた」
フレイは、一軒の家の前で立ち止まる。
「俺が来た時、あいつは――」
言葉を探すように、
少し間を置いた。
「……年の割に、静かな子だった」
「自分から前に出ることは、ほとんどなかった」
家の壁に、手を触れる。
「力があるなんて、誰も思ってなかった」
「変わってる、とは言われてたがな」
フレイの声は、淡々としている。
だが、抑えているのが分かる。
「……どんな子だったんですか」
クレージュの問いに、フレイは、ゆっくり息を吐いた。
「……よく、周りを見てた」
「誰が疲れてるか」
「誰が困ってるか」
「自分に何かできるか」
「……それで、余計なことまで背負い込む」
小さく、苦笑する。
「俺は護衛として、村に滞在してた」
「魔物が出る、って話でな」
「剣は、振る機会がなかった」
「それが、平和だと思ってた」
◆
村の中央。
広場だったと思しき場所。
石の名残が、円を描いている。
「……ここで」
フレイは、視線を落とした。
「最初に、異変が起きた」
クレージュは、息を詰める。
「魔物は、群れだった」
「数も多く、動きも早い」
「俺一人じゃ、厳しかった」
「……それでも」
「村人を逃がす時間は、稼げた」
そこで、フレイは言葉を切る。
「……あいつが、前に出た」
風が、
広場を吹き抜ける。
「剣も持たず」
「呪文も知らず」
「ただ――」
「守りたい、って顔で」
クレージュの胸が、強く脈打つ。
「……止めなかったんですか」
「止めたさ」
即答だった。
「だが、言葉が足りなかった」
「何もかもが…足りなかった」
フレイは、
拳を握る。
「俺は、剣を持ってた」
「だから、斬れば済むと思った」
「……あいつに、考えさせる前に」
「俺が、全部背負えばいいと」
◆
沈黙。
◆
「だが――」
フレイは、視線を上げる。
「それは、間違いだった」
クレージュは、
何も言えなかった。
フレイは、
広場の中央を見つめる。
「……あいつは、選んだ」
「俺に任せる、という選択じゃない」
「自分が、やる、という選択を」
その先の言葉は、
まだ語られない。
風が、灰色の地面を撫でる。
クレージュは、足元を見つめた。
(……同じだ)
守りたいと思った。
力があるなら、
使うべきだと思った。
でも――
自分には、もう何もできない。
フレイは、
ゆっくりと振り返った。
「……今日は、ここまでだ」
「続きは――」
「夜に話す」
クレージュは、小さく頷いた。
夕暮れが、
村を包み始める。
色のない大地に、
長い影が伸びた。
──この村は、
戦場ではなかった。
──英雄の失敗でもない。
──ただ、
選択が重なった場所だった。




