2-20「境界線」
第二章、最終話です。
クレージュはどんな決断をするのか?
夜明け前の空は、
薄い群青色に染まっていた。
ルーン塔の屋上。
冷たい風が、
石の縁をなぞる。
クレージュは、
手すりに寄りかかり、
街を見下ろしていた。
眠れなかった。
(……ここが、境界なんだ)
隠れるか。
管理されるか。
それとも――自分で立つか。
足音が、
背後から近づく。
「……早いな」
ミレイアだった。
「眠れませんでした」
正直に答える。
「だろうな」
彼女は、クレージュの隣に立った。
しばらく、
言葉はなかった。
「……結論は出たか」
ミレイアが、静かに問う。
クレージュは、
ゆっくりと頷いた。
「はい」
「六彩を、隠しません」
「管理される前提で、生きることもしません」
「でも――」
「力を誇るつもりも、振り回すつもりもない」
言葉を選び、続ける。
「制御を学び続けます」
「失敗も、恐れも、全部含めて」
「俺の人生として」
ミレイアは、
空を見つめたまま言った。
「……危険な線を選んだな」
「分かってます」
「それでも――ここで引いたら」
「俺は、ずっと逃げ続けることになってしまう」
「それは、生きてるって言えません」
◆
沈黙。
◆
やがて、
ミレイアは小さく息を吐いた。
「……なら」
「しばらく、私も同行しよう」
クレージュが、目を見開く。
「え……?」
「正式な護衛でも、弟子でもない」
「だが――」
「制御の研究は、現場でしか進まない」
「君は、最高の“未完成例”だ」
クレージュは、
思わず笑った。
「……褒められてます?」
「研究者的にはな」
◆
その時。
屋上の扉が、
きぃ、と音を立てて開いた。
「……話、終わった?」
アーニャだった。
「ええ」
クレージュは、振り返る。
「アーニャ」
「俺、この先も進む」
「危ない道だけど」
アーニャは、即答しなかった。
代わりに、腰の短剣を確認し、
一歩前に出る。
「……今さらでしょ」
「逃げるなら、とっくに逃げてるだろ?」
そして、
はっきりと言った。
「私は、仲間として一緒に行く」
「守るとか、守られるとかじゃない」
「隣に立つ」
クレージュは、胸の奥が、
じんわりと温かくなるのを感じた。
「……ありがとうございます」
「礼は、生き延びてからだ」
三人は、
並んで街を見下ろす。
空が、ゆっくりと明るくなっていく。
◆
その頃。
街道の向こう、丘の上。
一人の男が、
夜明けを迎えていた。
エイド=クロウフォード。
彼は、ルーン塔を見据え、
低く呟く。
「……境界線を、越えたか」
管理か、
放置か。
そのどちらでもない選択。
「……厄介だ」
だが、
彼の瞳にあったのは、
嫌悪ではなかった。
「しかし――」
「見届ける価値は、ある」
◆
風が、
丘を吹き抜ける。
ルーン塔の屋上で、
クレージュは一歩踏み出した。
ここから先は、
誰も正解を知らない。
だが――
選ばなければ、
進めない。
──六彩の少年は、
境界線に立ち、
自分の道を選んだ。
──それは、
世界にとって危険で、
同時に――
希望でもある。
お読みいただきありがとうございます。
次回は第三章の前に幕間となります。
是非、お読みください。




