2-19「観測の終わり」
鐘の音は、
思ったよりも早く止んだ。
ルーン塔の中庭に、
奇妙な静けさが戻る。
ざわめきも、
慌ただしさもない。
――それが、
逆に不気味だった。
◆
「……街が、
落ち着きすぎてる」
アーニャが、低く言う。
「警戒が解除されたわけじゃない」
ミレイアは、空を見上げながら答えた。
「むしろ――次の段階に移った」
クレージュは、
無意識に拳を握る。
「……観測が、終わった?」
「そうだ」
ミレイアは、はっきりと言った。
「回収者は、もう“調べ終えた”」
「君が何者か」
「どこまでできるか」
「どれだけ危険か」
その一つ一つが、
胸に落ちてくる。
「……結果は?」
アーニャの問いに、ミレイアは一瞬だけ間を置いた。
「……“未確定”だ」
「だが」
「未確定という判断は、最も厄介だ」
クレージュは、
小さく息を吐いた。
「……次は、どうなるんですか」
「選別だ」
即答だった。
「放置するか」
「管理するか」
「――排除するか…だ」
最後の言葉が、
空気を切る。
アーニャが、一歩前に出た。
「……排除?」
「可能性の話だ」
ミレイアは、
落ち着いたままだ。
「管理できないと判断されれば、そうなる」
「それが、彼らの“最終手段”だ」
クレージュは、視線を落とす。
(……俺は、まだ未完成だ)
(制御も、選択も)
(それでも……)
拳を、ぎゅっと握る。
(それを理由に、消されるのは……)
納得できなかった。
◆
その時。
◆
塔の入口で、
別の研究員が駆けてきた。
「ミレイア様!」
「……何だ」
「外縁部の結界に、正式な通告が」
ミレイアの表情が、わずかに引き締まる。
「……来たか」
研究員は、小さな魔導板を差し出した。
そこには、簡潔な文言が刻まれている。
『観測段階、終了』
『対象は、引き続き注視下に置く』
『次回接触時、最終判断を下す』
アーニャが、歯を食いしばる。
「……次、会ったら終わりってこと?」
「いや、違う」
ミレイアは、
板を閉じながら言った。
「次は、逃げられない。ということだ」
◆
沈黙。
◆
クレージュは、
空を見上げた。
雲ひとつない、青。
「……俺」
小さく、
だがはっきりと言う。
「隠れるつもりはありません」
「制御も、学び続けます」
「でも――」
視線を戻す。
「管理される前提で、生きるつもりはありません」
ミレイアは、その言葉を聞き、
わずかに目を細めた。
「……覚悟は、できているようだな」
「ええ、まぁ…」
クレージュは苦笑いをしながらそう答えた。が…
その答えに、迷いはなかった。
遠くで、風が鳴る。
◆
同じ頃。
街の外れの高台。
一人の男が、街を見下ろしていた。
黒衣の無駄のない佇まい。
「……観測は、終わった」
エイド=クロウフォードは、
低く呟く。
「次は――」
彼の視線が、ルーン塔へ向く。
「判断の番だ」
風が、
彼の外套を揺らした。
──観測は終わった。
──静寂は、嵐の前触れだ。
六彩の少年は、
もう“試される存在”ではない。
これからは――
選ばれる存在になる。




