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2-18「小さな成功」

クレージュは今日も制御の訓練。

そして、ミレイアに言われた方法を試す。

朝の光が、

 ルーン塔の窓から差し込んでいた。


 昨日までの重さが、

 少しだけ抜けている。


 クレージュは、

 自分の手を見つめながら、

 小さく息を吐いた。


(……今日は、怖くない)


 


 実験室――

 と呼ぶには少し生活感のある一室。


 机。

 簡素な椅子。

 湯を沸かすための小さな炉。


「今日は、

 危ないことはしない」


 ミレイアは、

 最初にそう言った。


「……はい」


「六彩の制御訓練だが、目的はただ一つ」


「生活魔法として使う」


 アーニャが、眉を上げる。


「……それって」


「火を爆発させない。

 水を溢れさせない」


「誰も傷つけない、

 最小単位の行使だ」


 クレージュは、

 静かに頷いた。


 


「ぼくに……できますか?」


「やる前から疑うな」


 ミレイアは、笑みを浮かべ

 即答する。


「できなければ、ここで終わりだ」


 



 


 炉の前。


 冷えた鍋が置かれている。


「目標は、火を灯すだけ」


「いいか、煮立たせるな。温めるな」


「灯すだけだ」


 クレージュは、深く息を吸った。


(……一つ)


(火だけ)


 胸の奥で、六彩が、静かに応じる。


 赤。


 ほんの、わずか。


 次の瞬間――


 炉の中で、小さな火が灯った。


 揺れない。

 暴れない。


 ただ、

 そこにある。


 



 


 沈黙。


「……」


 



 


 アーニャが、

 最初に声を出した。


「……すごい」


 クレージュは、

 驚いたように瞬きをする。


「……え?」


「いや、ほんとに」


「これ、誰でもできそうで」


「一番、できないやつ」


 ミレイアは、

 炉を見つめたまま言った。


「暴れない火は、力を抑えている証拠だ」


「六彩は、“やりすぎる”力」


「それを、ここまで絞った」


 クレージュは、

 ゆっくりと火を消す。


「……いつもみたいに疲れない」


「当然だ」


「これは、六彩の“自然な使い方”だからだ」


 ミレイアは、

 少し考え――言葉を続ける。


「六彩は、戦うための力じゃない」


「生きるための力だ」


 アーニャが、腕を組んで頷く。


「……それなら、まだ救いがある」


 



 


 次は、水。


 小さな器に、

 ひび割れた傷を模した布。


「洗うだけ」


「治すな。溢れさせるな」


 クレージュは、

 再び集中する。


 青。


 ごく薄く。


 水が、

 布を静かに濡らした。


 滴ることもなく、

 ただ染み込む。


「……完璧だ」


 ミレイアの声に、

 珍しく感情が混じる。


 クレージュは、

 少しだけ照れたように笑った。


「……こんな感じで、いいんでしょうか」


 


「ああ、いいに決まってる」


「これができなければ、何もできない」


 アーニャが、クレージュの肩を、軽く叩いた。


「……初めてだね」


「え?」


「力を使って、誰も怖がってないの」


 その言葉に、クレージュは、

 胸の奥が温かくなるのを感じた。


(……これなら)


(壊さずに、生きていける)


 



 


 その時。


 ミレイアが、

 ふと視線を上げる。


「……外が、騒がしいな」


 遠くで、鐘の音。


 規則正しい――

 警戒の合図。


 アーニャの表情が、

 引き締まる。


「……回収屋か?」


 ミレイアは、

 小さく息を吐いた。


「……いいや」


「観測が、終わった音だ」


 



 


 クレージュは、

 炉の消えた火を見つめた。


 小さな成功。


 だが――

 それは確かに、

 未来へ続く一歩だった。


 


──六彩の少年は、

 初めて“何も壊さずに”

 力を使った。


 


──それは、

 世界を変えるには小さすぎる。


 


──だが――

 生き方を変えるには、

 十分だった。

いよいよ制御ができるきっかけが成功しました。

これから回収者たちとの戦いが始まるのでしょうか?

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