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2-17「逃げる選択肢」

ミレイアからのある提案が。

クレージュはそれを聞き改めて決意をする。

ルーン塔の中庭は、

 昼下がりの光に包まれていた。


 白い石畳。

 低く整えられた植栽。

 研究塔特有の、静かな空気。


 クレージュは、

 ベンチに腰掛け、

 ぼんやりと空を見上げていた。


 頭は、

 はっきりしている。


 だが――

 胸の奥が、重い。


(……管理)


 昨日聞いた言葉が、

 何度もよみがえる。


 隔離。

 観測。

 回収。


(……正しいのかもしれない)


 世界を守るため。

 犠牲を減らすため。


 理屈としては、

 理解できた。


「……それでも、納得できない」


 小さく呟いた声は、

 誰にも届かない。


 



 


 足音。


 



 


 ミレイアが、

 中庭へ入ってきた。


「……休んでいるようだな」


「はい」


 クレージュは、

 正直に答えた。


「……考えてました」


「だろうな」


 ミレイアは、隣に立つ。


 しばらく、

 二人とも何も言わない。


「……逃げる選択肢もある」


 不意に、

 ミレイアが口を開いた。


 クレージュは、視線を上げた。


「ルーン学派は、中立だ」


「正式に庇護すれば、回収者も、

 簡単には手を出せない」


「あるいは――」


「力を、封じる方法もある」


 その言葉に、クレージュの胸が、きゅっと締めつけられる。


「……六彩を、封じる?」


「完全ではないが、抑制は可能だ」


「魔力の流れを、意図的に歪める」


「だが二度と、今のようには使えなくなる」


 



 


 沈黙。


 



 


「……それなら」


 クレージュは、

 ゆっくりと口を開いた。


「誰も、傷つかないですよね」


 ミレイアは、

 答えなかった。


「……でも」


 クレージュは言葉を続ける。


「それって、俺が俺じゃないっていうか“存在しない”のと、同じじゃないですか」


 ミレイアが、

 静かに目を細めた。


「……どういう意味だ」


「六彩があるから、俺は狙われてる」


「でも、六彩があるから、助けられる人もいる」


「全部を消したら、楽になります」


「でも――」


「それは、

 “逃げる”ってことですよね」


 ミレイアは、

 しばらく黙っていた。


「……逃げることが、

 悪とは限らない」


「生き残るために、

 必要な時もある」


 その言葉は、真実だった。


 だが――

 クレージュは、

 ゆっくりと首を振った。


「……俺」


「守りたいものが、もうあるんです」


 


「そう…なのか?」


「アーニャとか」


「この街の人とか」


「まだ、

 知らない誰かとか」


「そして…」


クレージュはリシェルを思い浮かべた。


 ミレイアは、

 一瞬、言葉を失った。


「……それは」


「一番、

 危険な理由だ」


 クレージュは、苦笑する。


「……そう…ですかね」


「でも、それがないと」


「俺、何のために生きてるか、

分からなくなる」


 



 


 沈黙。


 



 


 やがて、

 ミレイアが小さく息を吐いた。


「……選ぶ覚悟は、

 できているようだな」


「はい」


「逃げません」


「でも――」


「戦うために、

 残るわけでもありません」


「……?」


「壊さない方法を、探します」


「管理でも、放置でもない」


「第三のやり方を」


 ミレイアは、

 クレージュを見つめ、

 そして――

 小さく笑った。


「……やはり、面倒な六彩だ」


「だが」


「嫌いじゃない」


 



 


 その頃。


 中庭の入口で、

 アーニャは二人の様子を、

 黙って見ていた。


(……決めた顔だ)


 それでいい。


 迷った末に出した答えなら。



 クレージュは、

 立ち上がる。


「……行きましょう」


「どこへ?」


「学ぶところまで、学びに」


「制御も、選択も」


 



 


 空は、

 澄んでいた。


 

──逃げる選択肢は、

 確かに存在した。


 


──だが、

 六彩の少年は、

 それを選ばなかった。


 


──選ばなかった理由は、

 とても単純で――

 とても危険だった。

お読みいただきありがとうございます。

クレージュは新たに決意を固めこの先へと進むことを決める。そして…

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