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2-15「失敗した六彩」

ミレイアから六彩制御の失敗した過去を聞いたクレージュ。だが、そんな不安があっても制御を諦めない。

熱が引いたのは、

 翌日の昼近くだった。


 クレージュは、

 まだ少し重たい体を引きずりながら、ルーン塔の奥へと案内されていた。


 



 


「……ここは?」


 石造りの通路は、

 今までよりも暗い。


 壁に刻まれたルーンも、

 ほとんど光っていなかった。


「記録庫だ」


 ミレイアは、淡々と答える。


「研究成果ではない」


「失敗の記録だ」


 



 


 扉が、低い音を立てて開いた。


 中は広く、天井まで届く書架が並んでいる。


 古い紙の匂い。

 魔力の残滓。


「……全部、六彩ですか」


「そうだ」


 ミレイアは、

 一冊の分厚い書を取り出す。


「六彩は、この世界で最も研究され、最も恐れられた存在だ」


「だが――」


「成功例は、一つもない」


 その言葉は、

 静かだった。


 だからこそ、

 重い。


 ミレイアは、最初の書を開く。


 



 


「記録一号」


「北方国家の魔導士」


 ページには、簡潔な文字でこう記されていた。


『火と風の共鳴により、

 都市の外壁を破壊』


『当人は制御不能に陥り、

 精神崩壊』


「……精神崩壊」


 クレージュが、小さく呟く。


「次」


別の書。


「水と闇の六彩」


『治癒を目的とした魔法行使中、

 負の感情が増幅』


『周囲の生命活動を停止』


 



 


 アーニャが、

 思わず眉をひそめた。


「……事故?」


「本人は、救うつもりだった」


 ミレイアは、

 淡々と続ける。


「だが、六彩は感情に反応する」


「善意も、恐怖も、区別しない」


 



 


 さらに、

 別の記録。


「制御を試みた例もある」


『属性を順番に使用』


『同時使用を回避』


『結果、魔力循環が破綻』


『当人、自壊』


 



 


 クレージュは、

 思わず視線を逸らした。


「……みんな、頑張ってたんですよね」


 ミレイアは、

 少しだけ黙り――頷いた。


「だからこそ、失敗した」


「六彩は、力を“使うもの”ではない」


「生き方そのものに、影響する」


 クレージュは、拳を握る。


「……じゃあ、俺も」


「同じ末路かもしれない」


 ミレイアは、否定しなかった。


「可能性は、高い」


 



 


 沈黙。


 



 


 その空気を、

 破ったのはアーニャだった。


「……でも」


「この中に、“逃げようとした例”は?」


 ミレイアが、

 ゆっくりと視線を向ける。


「……ない」


「全員、

 “どう使うか”だけを考えた」


「どう生きるか、考えなかった」


 クレージュの胸に、

 小さな衝撃が走った。


(……俺は)

 

(使いたく、なかった)


(壊したく、なかった)


 ミレイアは、

 静かに言葉を重ねる。


「だからこそ、回収者が生まれた」


「管理という名の、封印」


「それが、この世界の選んだ答えだ」


「……正しいんですか」


 クレージュは、問いかけた。


 ミレイアは、

 即答しない。


「……分からない」


「だが、犠牲は減った」


「それが、彼らの正義だ」


 



 


 クレージュは、

 深く息を吐いた。


「……でも」


「俺は、この中に入りたくない」


 ミレイアは、

 クレージュを見つめる。


「なら――」


「新しい例になれ」


「記録に残る、最初の成功例に」


 その言葉は、重く、

 だが逃げ道を残していた。


 クレージュは、

 小さく笑った。


「……難しそうですね」


「だから、価値がある」


 



 


 書庫を出る時。


 クレージュは、

 最後に棚を振り返った。


(……ここに、終わりを置かない)


 その決意は、静かだった。


 だが――確かなものだった。


 


──六彩は、

 災厄として記録されてきた。


 


──しかし、

 記録は過去であり、

 未来ではない。


 


 六彩の少年は、

 その一行を書き換えるために、

 歩き続ける。

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