2-14「制御の代償」
制御の訓練の後、クレージュは体を壊した。
それは「代償」だと聞かされる。
そして、アーニャはそんなクレージュを見て…
異変に気づいたのは、
昼を少し過ぎた頃だった。
「……寒い」
クレージュは、
毛布にくるまりながら呟いた。
額は熱い。
だが、指先は冷たい。
呼吸は浅く、胸の奥が、ひりつくように痛む。
「……やっぱり来たか」
ベッドの脇で、
ミレイアが静かに言った。
「来た……って?」
声を出すだけで、喉が焼ける。
「反動だ」
アーニャは、
濡らした布を絞り、クレージュの額に乗せた。
「……無茶しすぎ」
「……成功、したのに……」
弱々しい声。
「成功したからだ」
ミレイアは、
腕を組み、壁にもたれる。
「六彩は、“混ざる力”だ」
「それを無理やり一つに絞った」
「君の体と精神が、追いついていない」
◆
クレージュは、
天井を見つめた。
(……やっぱり、
簡単じゃない)
「……俺、間違ってますか」
◆
一瞬、
室内が静まり返る。
◆
「間違ってはいない」
ミレイアは、即答した。
「だが――代償は、必ず発生する」
「制御とは、安全装置じゃない」
「選択の精度を上げる行為だ」
◆
アーニャが、低く言った。
「……つまり?」
「迷わなくなった分、消耗が増える」
「今までは、六彩が勝手に逃げ道を作っていた」
「今は、君が責任を持って選んでいる」
◆
クレージュは、
小さく笑った。
「……それって、大人になるみたいですね」
「そうだな。似ているかもしれない」
ミレイアは、否定しなかった。
「そして――大人になる過程は、
大抵、辛い」
アーニャが、黙って水を差し出した。
クレージュは、それにゆっくりと口をつけた。
「……それでも」
「……僕は続けます。やめません」
その言葉は、弱々しいが、
揺れていなかった。
「……壊すより、ずっとマシです」
◆
ミレイアは、
しばらく彼を見つめ――
小さく息を吐いた。
「……やはり、君は厄介だ」
「歴代の六彩は、力を恐れなかった」
「あるいは、恐怖を力で塗り潰した」
「だが君は――」
「恐れたまま、前に進もうとしている」
◆
その夜。
クレージュは、
高熱にうなされながら、
夢を見た。
◆
見知らぬ荒野。
崩れた街。
焦げた大地。
そこに立つ、
少年とも青年ともつかない影。
六つの光が、体から溢れている。
「……やめろ……」
影は、
誰かに向かって叫んでいた。
だが、
声は届かない。
次の瞬間。
光が暴走し、世界が白く染まる。
◆
クレージュは、
飛び起きた。
「……っ、はぁ……」
汗だくの体。
荒い呼吸。
アーニャが、すぐそばにいた。
「……恐ろしい夢でも見たのか?」
クレージュは、
小さく頷いた。
「……俺、ああなりたくない」
アーニャは、少しだけ黙り――
そして、静かに言った。
「……なら、一人で抱えるな」
「選択するなら、一緒に考えてやる」
「それが、仲間でしょ?」
クレージュは、
目を閉じた。
「……ありがとうございます」
その言葉に、
返事はなかった。
だが――
アーニャは、静かに目を瞑っているだけであった。
◆
──制御には、代償がある。
──選択には、責任が伴う。
それでも――
六彩の少年は、
選ぶことをやめなかった。
お読みいただきありがとうございます。
クレージュとアーニャの距離が少し縮んだみたいです。
これからの冒険にもプラスになるでしょう。




