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2-13「ひとつに絞る」

クレージュは自身の力の制御をマスターできそうなところまでになった。

だが、それを観測する者たちがいた。

そして…

ルーン塔の朝は、静かだった。


 窓から差し込む光が、

 床に刻まれた魔法陣を淡く照らしている。


 研究塔の中層――

 昨日と同じ実験室。


 


 だが、

 クレージュの心境は、

 確かに昨日とは違っていた。


 



 


「……もう一度、やる」


 結晶柱の前で、

 クレージュは静かに言った。


 

「確認するが」


 ミレイアは、

 魔導書を閉じながら言う。


「今回は、発動を狙う」


「はい」


「ただし――」


「六彩を“全部”使うな」


 クレージュは、

 小さく頷いた。


「……一つに、絞ります」


 



 


 アーニャは、

 壁際に立ち、

 腕を組んで見ている。


 


 視線は鋭い。

 だが、逃げる気はないようだな。


 

(……昨日より、

 顔が落ち着いてる)


 それだけで、

 少し安心した。


 



 


 ミレイアが、

 結晶柱に魔力を流す。


 

「観測、開始」


 淡い光が、

 柱の内部を満たす。


 

「いいか、クレージュ」


 ミレイアの声は、

 冷静だった。


「今回は、目的を一つだけ決めろ」


「守る、動かす、壊す――」


「どれでもいい」


「だが、迷うな」


 



 


 クレージュは、

 目を閉じた。


(……守る)


 昨日の光景が、脳裏をよぎる。


 地面が抉れ、草原が薙ぎ倒され、アーニャが前に立った瞬間。


(……あれは、もう嫌だ)


 



 


 胸の奥に、

 静かに意識を向ける。


 六彩は、そこにある。


 だが――呼び出さない。


(……風だけでいい)


 その瞬間。


 結晶柱の中で、

 緑の光が、

 はっきりと強まった。


 他の色は、

 淡く、

 遠のく。


 



 


「……反応確認」


 ミレイアの声が、

 わずかに上ずる。


「風属性、単独優位」


「他属性、干渉なし」


 結晶柱の前に、

 小さな風の渦が生まれた。


 暴れないように。

 荒れないように。


 ただ、

 そこにある。


 



 


「……できてる」


 アーニャが、思わず呟いた。


 



 


 クレージュは、

 ゆっくりと目を開ける。


「……怖くない」


「それが、正解だ」


 ミレイアは、

 即座に言った。


「六彩は、恐怖に反応する」


「だが、今の君は――」


「選択している」


 



 


 風の渦が、

 静かに消える。


 結晶柱の光も、

 穏やかに収束した。


 クレージュは、

 大きく息を吐いた。


 「……疲れました」


 「まぁ、当然だな」


 ミレイアは、

 即答した。


「制御は、無駄に神経を使う」


「慣れるまで、地獄だ」


 



 


 アーニャが、苦笑する。


「優しくない街、優しくない先生」


 

「それは、それは光栄だ」


 ミレイアは、淡々と返した。


「だが――」


 

クレージュを見る。


「君は、初めて成功した六彩だ」


 その言葉は、重かった。


「……初めて?」


「ああ。過去の六彩は、すべて――」


「力に選ばれ、力に呑まれた」


「だが君は違う」


「力を、選んだ」


 



 


 クレージュは、

 小さく笑った。


「……まだ、全然ダメですけど」


「それでいい」


 ミレイアは、

 はっきりとした口調で言った。


「完成した六彩は、世界にとって災厄だ」


「未完成で、学び続ける六彩だけが――」


「生き残れる」


 



 


 一方、その頃。


ルーン塔から離れた丘。


 黒衣の男が、小型の観測装置を閉じた。


「……確信した」


「制御を、始めている」


 別の影が、低く答える。


「報告を?」


「上へ」


「――エイドに」


 視線が、塔へ向けられる。


「……あれは、ただの災厄じゃない」


「選択する六彩だ」


 



 


 風が、

 丘を吹き抜けた。


 塔の中で、

 クレージュはまだ知らない。


 この小さな成功が、世界の天秤を大きく傾けたことを。


 


──六彩の少年は、

 初めて“制御できる”と示した。


 


──それは、

 希望であり、

 同時に――

 最も危険な証明だった。

お読みいただきありがとうございます。

制御を覚えたクレージュ。

それを確認した陰の組織。

ここからの展開はどうなるのか。

どうぞ、次回もお楽しみに。

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