2-13「ひとつに絞る」
クレージュは自身の力の制御をマスターできそうなところまでになった。
だが、それを観測する者たちがいた。
そして…
ルーン塔の朝は、静かだった。
窓から差し込む光が、
床に刻まれた魔法陣を淡く照らしている。
研究塔の中層――
昨日と同じ実験室。
だが、
クレージュの心境は、
確かに昨日とは違っていた。
◆
「……もう一度、やる」
結晶柱の前で、
クレージュは静かに言った。
「確認するが」
ミレイアは、
魔導書を閉じながら言う。
「今回は、発動を狙う」
「はい」
「ただし――」
「六彩を“全部”使うな」
クレージュは、
小さく頷いた。
「……一つに、絞ります」
◆
アーニャは、
壁際に立ち、
腕を組んで見ている。
視線は鋭い。
だが、逃げる気はないようだな。
(……昨日より、
顔が落ち着いてる)
それだけで、
少し安心した。
◆
ミレイアが、
結晶柱に魔力を流す。
「観測、開始」
淡い光が、
柱の内部を満たす。
「いいか、クレージュ」
ミレイアの声は、
冷静だった。
「今回は、目的を一つだけ決めろ」
「守る、動かす、壊す――」
「どれでもいい」
「だが、迷うな」
◆
クレージュは、
目を閉じた。
(……守る)
昨日の光景が、脳裏をよぎる。
地面が抉れ、草原が薙ぎ倒され、アーニャが前に立った瞬間。
(……あれは、もう嫌だ)
◆
胸の奥に、
静かに意識を向ける。
六彩は、そこにある。
だが――呼び出さない。
(……風だけでいい)
その瞬間。
結晶柱の中で、
緑の光が、
はっきりと強まった。
他の色は、
淡く、
遠のく。
◆
「……反応確認」
ミレイアの声が、
わずかに上ずる。
「風属性、単独優位」
「他属性、干渉なし」
結晶柱の前に、
小さな風の渦が生まれた。
暴れないように。
荒れないように。
ただ、
そこにある。
◆
「……できてる」
アーニャが、思わず呟いた。
◆
クレージュは、
ゆっくりと目を開ける。
「……怖くない」
「それが、正解だ」
ミレイアは、
即座に言った。
「六彩は、恐怖に反応する」
「だが、今の君は――」
「選択している」
◆
風の渦が、
静かに消える。
結晶柱の光も、
穏やかに収束した。
クレージュは、
大きく息を吐いた。
「……疲れました」
「まぁ、当然だな」
ミレイアは、
即答した。
「制御は、無駄に神経を使う」
「慣れるまで、地獄だ」
◆
アーニャが、苦笑する。
「優しくない街、優しくない先生」
「それは、それは光栄だ」
ミレイアは、淡々と返した。
「だが――」
クレージュを見る。
「君は、初めて成功した六彩だ」
その言葉は、重かった。
「……初めて?」
「ああ。過去の六彩は、すべて――」
「力に選ばれ、力に呑まれた」
「だが君は違う」
「力を、選んだ」
◆
クレージュは、
小さく笑った。
「……まだ、全然ダメですけど」
「それでいい」
ミレイアは、
はっきりとした口調で言った。
「完成した六彩は、世界にとって災厄だ」
「未完成で、学び続ける六彩だけが――」
「生き残れる」
◆
一方、その頃。
ルーン塔から離れた丘。
黒衣の男が、小型の観測装置を閉じた。
「……確信した」
「制御を、始めている」
別の影が、低く答える。
「報告を?」
「上へ」
「――エイドに」
視線が、塔へ向けられる。
「……あれは、ただの災厄じゃない」
「選択する六彩だ」
◆
風が、
丘を吹き抜けた。
塔の中で、
クレージュはまだ知らない。
この小さな成功が、世界の天秤を大きく傾けたことを。
──六彩の少年は、
初めて“制御できる”と示した。
──それは、
希望であり、
同時に――
最も危険な証明だった。
お読みいただきありがとうございます。
制御を覚えたクレージュ。
それを確認した陰の組織。
ここからの展開はどうなるのか。
どうぞ、次回もお楽しみに。




