2-12「混ざる力」
力の制御に向かって取り組み始めたクレージュ。
「制御」について改めて教えられ、そして…
ルーン塔の内部は、
外観から想像していたよりも広かった。
石造りの通路。
壁一面に刻まれた無数の魔法陣。
淡く光るルーン文字が、静かに脈打っている。
「……全部、
稼働してるんですか」
クレージュが、
思わず尋ねた。
「一部だけ…かな」
ミレイアは、
歩きながら淡々と答える。
「常時動かしていたら、街が吹き飛ぶ」
「……え」
「冗談ではないぞ」
ミレニアがニコニコした顔で答えた。
アーニャが、
小さく肩をすくめ
「やっぱり、
優しくない街」
と、ポツリと言った。
◆
三人は、
塔の中層にある広間へ入った。
円形の床。
中央に、
透明な結晶柱が立っている。
「魔力観測用の触媒だ」
ミレイアが説明する。
「一応無害…ではある。
暴走させなければ、だが」
◆
クレージュは、
一瞬だけ息を呑んだ。
「……やらなきゃ、
ダメですか」
「ここまで来て、
今さら?」
ミレイアは、
振り返らずに言う。
◆
クレージュは、
ゆっくりと結晶柱の前に立った。
◆
「……何をすれば」
「何もしなくていい」
ミレイアは、
はっきりとした声で言った。
「使おうとするな」
「え?」
「六彩は、君の意思で発動していない」
「発動“してしまっている”んだ」
◆
クレージュの眉が、
わずかに動く。
「……だから、制御できない…」
◆
ミレイアは、
結晶柱に手をかざす。
「まずは、どう混ざっているかを知っていこう」
◆
次の瞬間。
結晶柱が、
淡く光った。
そして、
火の赤。
水の青。
土の黄。
風の緑。
光の白。
闇の紫。
六色の光が、
柱の内部を流れる。
「……きれい」
アーニャが、
思わず呟く。
◆
「普通は、こうはならないんだ」
ミレイアの声が、低くなる。
「属性は、分離する」
「だが――」
◆
結晶柱の光が、
ゆっくりと変化する。
六色は、
境界を失い始めた。
溶けるように。
絡むように。
互いを侵さず、
しかし確実に。
「……混ざっている」
ミレイアは、
息を詰めた。
「しかも――調和している」
◆
クレージュは、
無意識に胸を押さえた。
「……俺、何もしてない」
「だからだ」
ミレイアは、はっきりと言う。
「六彩は、単一属性の集合ではない」
「状況に応じて、最適な比率で混ざる力だ」
◆
アーニャが、
目を細める。
「……じゃあ、昨日の暴発は」
「“逃げたい”と“守りたい”が同時に走った結果だ」
「方向が、定まらなかった」
◆
クレージュは、
息を吐いた。
「……じゃあ、俺が悪いんじゃない」
「悪くはない」
ミレイアは、訂正する。
「だが――未熟だ」
その言葉は、
冷たいが、
誠実だった。
「制御とは、抑えることではない」
「選択を一つに絞ることだ」
◆
クレージュは、
ゆっくりと頷いた。
「……守るなら、守る」
「逃げるなら、逃げる」
「両方を選ぶと、力が迷う」
「その通り」
ミレイアは、初めて、わずかに微笑んだ。
「……君は、面白い」
「え?」
「六彩は、歴代すべてが失敗した」
「だが――」
「君は、失敗を恐れている」
その言葉は、
重かった。
「恐れる者は、学べる」
◆
クレージュは、静かに答えた。
「……学びます」
「壊さないために」
◆
結晶柱の光が、
ゆっくりと収束する。
六彩は、
再び静まった。
だが――
確かに、
一歩前に進んでいた。
──六彩の少年は、
力を振るう前に、
考えることを学び始めた。
──制御とは、
選択の連続




