2-8
街道を外れ、
二人は草原の奥へと退いていた。
◆
「……追ってくる?」
クレージュが、
息を整えながら尋ねる。
「来る」
アーニャは、
即答だった。
「さっきのは、
“警告”じゃない」
◆
足を止め、
周囲を確認する。
「試された」
◆
「試す……?」
「どれくらい危険か。
どれくらい制御できてるか」
尻尾が、
ぴんと張る。
「回収屋とは、
そういう連中だ」
◆
草原の風が、
一瞬止んだ。
◆
「……来る」
◆
空気が、
歪む。
目には見えない“圧”が、
地面を撫でた。
◆
「――伏せて!」
◆
次の瞬間。
地面に、
淡い光の線が走った。
拘束陣。
◆
光が、
足元から立ち上がる。
「っ……!」
クレージュの体が、
重くなる。
◆
「……対魔拘束」
アーニャが、
歯を食いしばる。
「魔法を使うと、
逆に締まる!」
◆
草原の向こうから、
二人の黒衣が現れた。
◆
「抵抗するな」
落ち着いた声。
「これは、
保護のための処置だ」
◆
「ふざけるな!」
アーニャが、
短剣を投げる。
だが――
刃は、
空中で止められた。
◆
「……物理も制限下」
淡々とした報告。
◆
「対象、
反応低下」
◆
クレージュの視界が、
狭くなる。
(……動けない)
◆
その瞬間――
胸の奥で、
六彩が強く反応した。
◆
(……やめろ)
止めようとする意志とは裏腹に、
力は、
“逃げ道”を探し始める。
◆
風が、
拘束陣の隙間を揺らす。
土が、
陣の縁を押し上げる。
光が、
魔力の流れを照らす。
◆
「……多属性反応、急上昇」
黒衣の一人が、
声を上げる。
◆
「制御できていない!」
◆
「抑制を――」
◆
その時だった。
「――離れろ!!」
アーニャが、
クレージュの前に飛び出した。
◆
次の瞬間。
六彩が、弾けた。
◆
爆発ではない。
だが――
空間が、
“押し広げられた”。
◆
風圧。
土煙。
光の奔流。
◆
拘束陣が、
音もなく砕け散る。
◆
「……っ!!」
回収者たちが、
距離を取る。
◆
クレージュは、
膝をついた。
(……今の……)
◆
周囲には、
深く抉れた地面。
草原は、
円状に薙ぎ倒されている。
◆
「……これが、
“制御できていない六彩”」
アーニャの声は、
震えていた。
◆
クレージュは、
自分の手を見る。
(……俺が、
やったのか……)
◆
回収者の一人が、
低く言った。
「……危険度は、
想定以上だ」
◆
「強制回収は――」
◆
もう一人が、
首を振る。
「今は無理だ」
◆
「……撤退する」
◆
二人は、
霧のように後退した。
◆
静寂。
◆
クレージュは、
立ち上がれなかった。
「……俺、
危なかったですよね」
◆
アーニャは、
短く息を吐いた。
「……あんたじゃない」
◆
「力が、
危ない」
◆
そして、
真っ直ぐ見つめる。
「でも――」
◆
「それでも、
あんたは止めようとした」
◆
クレージュは、
ゆっくりと顔を上げた。
◆
「……それだけで、
十分だよ」
◆
風が、
再び草原を撫でた。
◆
六彩は、
静かに沈んでいく。
まるで――
自分の力に怯えたかのように。
──捕まえるという選択。
──逃げるという選択。
──そして、
制御するという、
まだ見ぬ選択。
六彩の少年は、
その重さを初めて知った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。




