2-6
夜明け前の街は、静かだった。
人の気配は少なく、
通りには薄い霧がかかっている。
◆
宿の一室で、
クレージュは浅い眠りから目を覚ました。
(……?)
理由は分からない。
だが、
胸の奥が、わずかにざわついていた。
◆
窓の外。
街の外壁近くに、
小さな灯りが二つ。
(……こんな時間に?)
見張りにしては、
配置が妙だった。
◆
クレージュは、
そっとベッドから起き上がる。
剣に手を伸ばし――
そこで、止めた。
(……今は、動くな)
理由は、
直感。
◆
一方、その頃。
街の外れ、
古い倉庫の影。
◆
「……動いた。確認した。」
低く、抑えた声。
◆
黒衣の人物が、
手元の装置を操作していた。
金属と魔石で組まれた円盤。
淡い光が、
ゆっくりと脈打っている。
◆
「魔力波形、
未登録型」
「属性反応、
複数……?」
◆
もう一人が、
数値を読み上げる。
「……六、だな」
◆
短い沈黙。
「……誤測定ではない」
「断言できる」
◆
二人は、
視線を交わした。
◆
「回収対象候補」
「レベルは?」
「――S以上」
◆
空気が、
一段冷えた。
◆
「……報告を」
「本部へ?」
「そうだ」
◆
黒衣の一人が、
低く言う。
「“六彩の兆候を確認”」
◆
その言葉は、
慎重に選ばれていた。
◆
「対象の正体は?」
「不明」
「年齢推定?」
「……若い」
◆
装置の光が、
ゆっくりと収束する。
◆
「直接接触は?」
「――まだ」
◆
即答だった。
「観測を優先する」
◆
「……了解」
◆
二人は、
音もなく倉庫を離れた。
まるで、
最初から存在しなかったかのように。
◆
再び、宿の一室。
クレージュは、
窓辺に立っていた。
(……気配が、消えた)
理由は分からない。
だが、
何かが“通り過ぎた”感覚だけが残る。
◆
胸の奥で、
六彩が、ほんの一瞬だけ反応した。
目覚めることなく、
だが確かに――
触れられた。
◆
(……今のは……)
クレージュは、
無意識に拳を握る。
◆
朝。
ギルド前の通りで、
アーニャと合流した。
「……寝不足?」
「少し」
正直に答える。
◆
アーニャは、
一瞬だけ周囲を見回した。
「……昨夜、
街の外で変な連中を見たって話がある」
「変な?」
「冒険者でも、
盗賊でもない」
◆
声を落とす。
「……回収屋かもしれない」
◆
クレージュの胸が、
小さく鳴った。
(……やっぱり)
◆
「まだ、
直接動いてはいない」
「でも――」
アーニャは、
クレージュを見る。
「見られてる」
◆
クレージュは、
静かに頷いた。
「……分かりました」
◆
だが――
彼はまだ知らない。
この“観測”が、
すでに一人の男を動かしていることを。
そして――
遠く離れた場所で、
剣を捨てた男と、管理する者が
再び向かい合おうとしていることを。
──六彩の少年は、
まだ狩られてはいない。
だが、
照準は、確かに定められた。




