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2-6

夜明け前の街は、静かだった。


 人の気配は少なく、

 通りには薄い霧がかかっている。


 



 


 宿の一室で、

 クレージュは浅い眠りから目を覚ました。


 


(……?)


 


 理由は分からない。

 だが、

 胸の奥が、わずかにざわついていた。


 



 


 窓の外。


 街の外壁近くに、

 小さな灯りが二つ。


 


(……こんな時間に?)


 


 見張りにしては、

 配置が妙だった。


 



 


 クレージュは、

 そっとベッドから起き上がる。


 剣に手を伸ばし――

 そこで、止めた。


 


(……今は、動くな)


 


 理由は、

 直感。


 



 


 一方、その頃。


 


 街の外れ、

 古い倉庫の影。


 



 


「……動いた。確認した。」


 


 低く、抑えた声。


 



 


 黒衣の人物が、

 手元の装置を操作していた。


 金属と魔石で組まれた円盤。


 淡い光が、

 ゆっくりと脈打っている。


 



 


「魔力波形、

 未登録型」


 


「属性反応、

 複数……?」


 



 


 もう一人が、

 数値を読み上げる。


 


「……六、だな」


 



 


 短い沈黙。


 


「……誤測定ではない」


 


「断言できる」


 



 


 二人は、

 視線を交わした。


 



 


「回収対象候補」


 


「レベルは?」


 


「――S以上」


 



 


 空気が、

 一段冷えた。


 



 


「……報告を」


 


「本部へ?」


 


「そうだ」


 



 


 黒衣の一人が、

 低く言う。


 


「“六彩の兆候を確認”」


 



 


 その言葉は、

 慎重に選ばれていた。


 



 


「対象の正体は?」


 


「不明」


 


「年齢推定?」


 


「……若い」


 



 


 装置の光が、

 ゆっくりと収束する。


 



 


「直接接触は?」


 


「――まだ」


 



 


 即答だった。


 


「観測を優先する」


 



 


「……了解」


 



 


 二人は、

 音もなく倉庫を離れた。


 


 まるで、

 最初から存在しなかったかのように。


 



 


 再び、宿の一室。


 


 クレージュは、

 窓辺に立っていた。


 


(……気配が、消えた)


 


 理由は分からない。

 だが、

 何かが“通り過ぎた”感覚だけが残る。


 



 


 胸の奥で、

 六彩が、ほんの一瞬だけ反応した。


 


 目覚めることなく、

 だが確かに――

 触れられた。


 



 


(……今のは……)


 


 クレージュは、

 無意識に拳を握る。


 



 


 朝。


 


 ギルド前の通りで、

 アーニャと合流した。


 


「……寝不足?」


 


「少し」


 


 正直に答える。


 



 


 アーニャは、

 一瞬だけ周囲を見回した。


 


「……昨夜、

 街の外で変な連中を見たって話がある」


 


「変な?」


 


「冒険者でも、

 盗賊でもない」


 



 


 声を落とす。


 


「……回収屋かもしれない」


 



 


 クレージュの胸が、

 小さく鳴った。


 


(……やっぱり)


 



 


「まだ、

 直接動いてはいない」


 


「でも――」


 


 アーニャは、

 クレージュを見る。


 


「見られてる」


 



 


 クレージュは、

 静かに頷いた。


 


「……分かりました」


 



 


 だが――

 彼はまだ知らない。


 


 この“観測”が、

 すでに一人の男を動かしていることを。


 


 そして――

 遠く離れた場所で、

 剣を捨てた男と、管理する者が

 再び向かい合おうとしていることを。


 


──六彩の少年は、

 まだ狩られてはいない。


 だが、

 照準は、確かに定められた。

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