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街に着いたクレージュとアーニャはギルドへと向かう。
冒険者登録を済ませ酒場で腰を下ろしアーニャと話す。
その中で少し引っかかるワードがアーニャの口から出て…
街が見えたのは、
夕方近くだった。
◆
「――あれが、次の街」
アーニャが、
顎で前方を示す。
石壁に囲まれた中規模の街。
門の周囲には、
行商人、旅人、冒険者が行き交っていた。
「思ったより……人が多いですね」
「街道の分岐点だからね。
情報も、金も、面倒事も集まる」
アーニャは、
少しだけ肩をすくめた。
◆
門をくぐると、
空気が一変した。
人の声。
金属の音。
酒と汗の匂い。
(……生きてる)
王都とは違う。
整ってはいないが、
ここには現実がある。
◆
「まずは――」
アーニャが歩き出す。
「ギルドだ」
◆
冒険者ギルドの建物は、
街の中央にあった。
大きな木造。
掲げられた剣と盾の紋章。
中に入ると、
一斉に視線が集まる。
◆
「……新人か?」
カウンター越しに、
年配の受付係が声をかけた。
「ええ。
仮登録」
アーニャが答える。
「名前は?」
「クレージュ」
「職は?」
一瞬、迷う。
「……剣士です」
◆
受付係は、
じっとクレージュを見た。
「……魔力は?」
「……あります」
「量は?」
アーニャが、
横から口を挟む。
「測らない方がいい」
「……?」
「面倒になる」
◆
受付係は、
少し考え、肩をすくめた。
「分かった。
仮登録でEランク」
金属の札が、
カウンターに置かれる。
◆
「……E?」
「最下位」
アーニャは、
さらりと言った。
「でも、
自由に動ける」
◆
ギルドの掲示板には、
無数の依頼が貼られていた。
討伐。
護衛。
採取。
◆
「最初は、
これなんかいいぞ」
アーニャが指差したのは、
小規模な魔物討伐。
「危険度は低い。
でも――」
「でも?」
「油断すると死ぬ」
◆
その言葉に、
冗談はなかった。
◆
酒場スペースで、
二人は腰を下ろした。
「……ギルドって、
もっと整然としてると思ってました」
「理想だね、それ」
アーニャは、
木のカップを傾ける。
「ここは、
“強い順に偉い”場所」
「ランクで?」
「ランクと――
実績」
◆
「……力があれば、
上に行ける?」
クレージュの問いに、
アーニャは少しだけ黙った。
「……上には行ける」
「でも?」
「目立つ」
◆
クレージュは、
無意識に剣に触れた。
「目立つと……
何が起きます?」
「変なのが、寄ってくる」
低い声。
「国。
貴族。
宗教。
……回収屋」
◆
「……回収屋?」
アーニャの尻尾が、
一瞬だけ止まった。
「詳しくは知らない」
「でも、
力を持つやつを
“保護”するとか言って、
連れていく連中」
◆
胸の奥が、
かすかにざわつく。
(……回収)
言葉が、
妙に引っかかった。
◆
「だから――」
アーニャは、
クレージュを見た。
「力は、
必要になるまで使うな」
◆
「……はい」
短く答える。
◆
その夜。
宿の一室で、
クレージュは天井を見つめていた。
王都。
リシェル。
フレイ。
そして――
この街。
(……世界は、
思ってたより狭くて……
ずっと、厳しい)
◆
それでも。
歩みは、
止めない。
六彩の少年は、
“冒険者”という仮の姿で、
世界へ足を踏み入れた。
──それが、
後戻りできない選択だとも知らず
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ今年も終わろうとしてます。
みなさんお身体に気をつけて良い年を迎えてください!




