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2-2

アーニャと旅をすることとなったクレージュ。

二人の前に盗賊が現れ…

街道は、緩やかな下り坂に差しかかっていた。


 木立が増え、

 道幅は少し狭くなる。


 アーニャは足を止め、

 手のひらを軽く上げた。


「……ここから先、気を抜かないで」


「盗賊、ですか」


「たぶん。

 逃げ場が少ない」


 尻尾が、

 小さく左右に揺れている。


 



 


 二人は、道の端に寄って歩いた。


 クレージュは、

 剣の柄に触れながら、周囲に意識を向ける。


(……いる)


 草の擦れる音。

 呼吸の乱れ。


 隠れている――

 それだけは、はっきり分かった。


 



 


「……数は?」


「三。

 たぶん、弓が一人」


 アーニャは、

 声を落として言う。


「正面から来たら、

 あんたは盾役」


「……俺が?」


「他に誰がいるの」


 



 


 次の瞬間――


「止まれ!」


 木陰から、

 男が飛び出した。


 粗末な革鎧。

 剣は手入れされていない。


 そして――

 少し遅れて、弓の影。


 



 


「金と荷を置け。

 命までは取らねぇ」


 盗賊の声は、

 慣れた響きだった。


 



 


 アーニャは、

 半歩前に出る。


「……クレージュ」


「はい」


「力、使うな」


「……分かりました」


 即答だった。


 



 


 盗賊が、

 動いた。


 剣を構え、

 まっすぐ突っ込んでくる。


 


「――っ!」


 


 クレージュは、

 剣を抜いた。


 構えは、

 フレイに教わった通り。


 派手さはない。

 だが、軸がぶれない。


 



 


 剣と剣がぶつかる。


 鈍い音。


 


「……っ、硬ぇな!」


 盗賊が顔を歪める。


 


(……重い)


 腕が、じんと痺れる。


 だが、

 踏みとどまる。


 



 


 背後で、

 矢が放たれた。


「クレージュ、伏せ!」


 


 反射的に体を沈める。


 矢は、

 肩口をかすめて地面に突き刺さった。


 



 


 その瞬間――

 胸の奥が、強く反応した。


(……今なら、止められる)


 六彩が、

 静かに囁く。


 



 


 だが――

 クレージュは、踏みとどまった。


(……使わない)


 ここで使えば、

 相手は吹き飛ぶ。


 だが、それは

 “戦い”ではなく

 “排除”になる。


 



 


 クレージュは、

 一歩前に出た。


 剣で、

 相手の剣を弾く。


 そして――

 体当たり。


 


「ぐっ……!?」


 


 盗賊が、

 後ろによろける。


 



 


 その隙を、

 アーニャが逃さなかった。


 


 ――一閃。


 


 短剣が、

 盗賊の足元を裂く。


 


「うわっ……!」


 


「殺さない。

 動けなくするだけ」


 冷静な声。


 



 


 残りの盗賊が、

 動揺する。


「ちっ……!

 やっぱりやべぇぞ、こいつら!」


 



 


 だが、

 弓の男が矢を番え直した。


 


「……っ!」


 


 その瞬間――

 クレージュの判断が、遅れた。


 



 


 矢が、

 一直線に飛ぶ。


 


「――アーニャ!」


 


 考える前に、

 体が動いた。


 


 一歩、踏み出す。


 



 


 六彩が、

 “守る”に反応した。


 


 風が、

 矢の軌道を逸らす。


 ほんのわずか。

 だが、致命的に。


 


 矢は、

 アーニャの肩を外れ、

 木に突き刺さった。


 



 


 世界が、

 一瞬静まった。


 


「……今の」


 アーニャが、

 振り返る。


 


「……風?」


 


 クレージュは、

 息を整えながら、頷いた。


 


「……無意識に、少しだけ」


 



 


 盗賊たちは、

 完全に戦意を失っていた。


 


「……逃げるぞ!」


 


 草をかき分け、

 姿を消す。


 



 


 静寂。


 


 クレージュは、

 膝に手をついた。


 


(……やっぱり、使うと……)


 息が、

 少し重い。


 



 


 アーニャが、

 じっと見つめてくる。


 


「……ねえ」


 


「はい」


 


「今の、

 “使った”って言う?」


 


 クレージュは、

 少し考えてから答えた。


 


「……守るために、

 反応しただけです」


 



 


 アーニャは、

 小さく笑った。


 


「……変な人」


 


「え?」


 


「でも――」


 


 尻尾が、

 ゆっくりと揺れた。


 


「嫌いじゃない」


 



 


 二人は、

 再び歩き出す。


 


 戦いは終わった。

 だが、

 選択は、続いていく。


 


 力を使わない勇気。

 使わざるを得ない覚悟。


 


 六彩の少年は、

 その狭間を歩き始めていた

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