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いよいよ第一章最終話となりました。

クレージュはある選択を

リシェルはそっと、でも力強く何かを決意し、

フレイは自分のはずべき事をクレージュに伝えた。

地下水路を抜けた先で、

 朝の光が差し込んでいた。


 長く続いた闇のあとだからこそ、

 その光は眩しく、温かい。


 



 


 オベールロワイヤル郊外の森。


 クレージュは、

 リシェルの隣を歩いていた。


 互いに無言だったが、

 沈黙は気まずくない。


 地下で交わした言葉も、

 戦いの中で感じた想いも、

 まだ胸の奥で整理しきれていなかった。


 



 


「……ありがとうございました」


 先に口を開いたのは、

 リシェルだった。


「命を、救っていただいて……」


 王女としての言葉。

 だが、その声はどこか震えている。


 


「……違います」


 クレージュは、首を振った。


「俺は……

 行きたかったから、行っただけです」


「……それでも」


 リシェルは、一度立ち止まる。


 白い朝光が、

 彼女の髪を淡く照らしていた。


「それでも、

 わたしにとっては……

 忘れられないことです」


 



 


 森を抜けると、

 王都の外門が見えてきた。


 すでに王城の兵が配置され、

 周囲は厳戒態勢に入っている。


 「…その…、リシェが王女様だなんて知らなくて…。」

 クレージュはポツリと呟いた。


 「クレージュ。私は王女です。でもあなたとはこれから先も今と変わらずお話ししたり、パンを一緒に食べたりしたいです。」

 リシェルは、一瞬悲しそうに目を伏せたが、何かを決意したかのようにクレージュの瞳をまっすぐ見つめそう伝えた。


 「いいんですか?僕みたいな平民の男となんて…」


 「そんなの決まってます」

 リシェルはイタズラっぽく笑い


 「私がそう望むのですから、いいのです」


 二人はクスッと笑い出した。


 「僕は、もっと強くなるためしばらく王都を離れます。」


 リシェルは全てわかっていたかのように

 「ええ、お気をつけて」と、一言だけ言葉を発し、王城へと再び歩き出した。


 



 


 フレイは、

 少し離れた場所で立ち止まった。


「……ここから先は、

 俺の役目じゃねぇ」


 クレージュが振り返る。


「フレイさん……」


 


「王女は王都へ。

 お前は――」


 一瞬、言葉を切る。


「……もう、

 パン屋の見習いじゃ済まねぇ」


 



 


 王城の騎士たちが駆け寄り、

 リシェルを囲む。


「殿下、ご無事で……!」


「フランソワーズは!?」


「現在、治療中です。

 命に別状はありません」


 


 その言葉に、

 リシェルは胸を撫で下ろした。


 



 


 別れの時が、

 近づいていた。


 


「クレージュ」


 リシェルが、

 そっと名を呼ぶ。


 


「……はい」


 


「今日のことは、

 王国として正式に調査されます。

 あなたの存在も……

 きっと、隠しきれません」


 


「……ですよね」


 覚悟は、できていた。


 


「だから……」


 リシェルは、

 ほんの一瞬だけ、王女ではなくなった。


 


「次に会う時は……

 “王女”としてではなく……

 “リシェ”として、

 会いたいです」


 



 


 クレージュは、

 はっきりと頷いた。


「はい。

 その時は……

 ちゃんと、名前を呼びます」


 


 リシェルは、

 小さく笑った。


 



 


 騎士たちが、

 リシェルを王城へ導く。


 振り返ることなく、

 だが一歩一歩、確かに前へ進く。


 



 


 残されたのは、

 クレージュとフレイ。


 


「……行くのか」


 フレイが言う。


 


「はい」


 即答だった。


「知らないことが、多すぎます。

 俺の力のことも……

 あいつらのことも」


 


「だろうな」


 フレイは、

 懐から革袋を放った。


「路銀だ。

 剣の手入れも忘れるな」


 



 


「フレイさんは……

 一緒に来ないんですか?」


 


 フレイは、

 苦笑した。


 


「俺は、ここに残る」


 


「……どうして」


 


「“帰る場所”を守るのも、

 立派な戦いだからだ」


 



 


 しばらく、

 二人は黙っていた。


 


「……ありがとう」


 クレージュが言う。


 


「何度も言うな。

 柄じゃねぇ」


 



 


 太陽が、

 完全に昇った。


 


 クレージュは、

 剣を背負い、

 王都とは逆の道を見つめる。


 


(……行こう)


 守りたいものが、

 できたから。


 知りたい真実が、

 生まれたから。


 



 


 その背を、

 フレイが見送っていた。


 


「……行け」


 


「――必ず、生きて戻れ」


 



 


 クレージュは、

 振り返らなかった。


 


 ただ、

 一歩を踏み出す。


 


 それは逃避ではなく、

 選択だった。


 


──六彩の少年は、

 白光の王女と再び会うために。


──そして、

 自分自身を知るために。


 


 旅立った。

お読みいただきありがとうございます。

次回より第二章スタートとなります。

引き続きよろしくお願いいたします。

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