1-19
いよいよクレージュとフレイは敵地に侵入した。
そんな中敵との交戦でクレージュの力の片鱗が顔を出した!
夜明けの光が、オベールロワイヤルの外れを淡く照らしていた。
旧水門――
今は使われていない、古い地下水路の入口。
苔むした石段の先から、
冷たい空気が静かに流れ出している。
「……ここか」
クレージュは喉を鳴らし、
剣の柄を強く握った。
「そうだ。
嫌な匂いが、はっきり残ってやがる」
フレイは低く言い、
視線を闇の奥へ向ける。
「覚えておけ。
地下は視界が悪い。
音と気配を信じろ」
「……はい」
◆
二人は水路へ足を踏み入れた。
石壁に反響する足音。
滴る水の音。
かすかな鉄の匂い。
クレージュの胸が、またざわついた。
(……近い)
リシェルの白光が、
かすかに“こちら”を引いている。
(……間違いない)
◆
数分も進まないうちに、
フレイが片手を上げた。
「止まれ」
クレージュは即座に足を止める。
水路の曲がり角。
その先から、
人の気配――二つ。
「……来るぞ」
◆
影が動いた。
「侵入者だ!」
黒いフードの男が飛び出し、
短剣を構えて突っ込んでくる。
次の瞬間――
「下がれ、クレージュ」
フレイが一歩前へ出た。
剣が一閃。
速い。
重い。
無駄がない。
(牛丼屋の宣伝文句のようだが)
金属音が一つ響き、
男の短剣が弾き飛ばされた。
「なっ――」
言葉を発する間もなく、
フレイの拳が腹に叩き込まれる。
男は壁に叩きつけられ、
崩れ落ちた。
◆
「……すげぇ」
思わず声が漏れる。
「見るな。
次が来る」
フレイの声は、鋭い。
◆
もう一人の敵が、
背後から魔法を放った。
――闇の弾。
「クレージュ!」
「……っ!」
考えるより早く、
体が動いた。
剣を前に出す。
次の瞬間――
剣の周囲に、淡い光が集まった。
火の熱。
風の流れ。
光の粒子。
それらが、
“自然に”重なり合う。
闇の弾が――
霧散した。
◆
「……は?」
敵の男が、目を見開く。
「今の……魔法……?」
クレージュ自身も、
何が起きたのか理解できていなかった。
(……え?)
ただ、
“そうしたら止まる”と
思っただけだった。
◆
「……クレージュ」
フレイが、ゆっくり振り返る。
「今の、意図してやったか?」
「……い、いえ……
正直……何も考えてなくて……」
フレイは一瞬、言葉を失った。
そして――
小さく、笑った。
「……そうかよ」
◆
敵は動揺していた。
「な、なんだあいつ……!」
「六彩……本当に……」
その言葉を最後まで言わせず、
フレイが前に出る。
「退け」
低い声。
次の瞬間、
敵は戦意を完全に失い、
水路の奥へと逃げ去った。
◆
静寂が戻る。
水滴の音だけが、
ゆっくり響く。
「……大丈夫か」
フレイが問う。
「は、はい……
でも……今の、なんだったんですか……」
フレイは顎に手を当て、
しばらく考え込んだ。
「……説明は後だ」
そして、真剣な目で言う。
「だが一つだけ確かだ」
◆
「お前の力は――
制御しようとすると、暴れる。
守ろうとすると、応える」
クレージュは息を呑んだ。
「……守る、ために……」
「そうだ」
フレイは頷く。
「それがお前の“使い方”だ」
◆
再び、歩き出す。
地下水路の奥へ、
さらに深く。
クレージュの胸の奥で、
六彩は静かに、しかし確かに目を覚ましていた。
(……行ける)
怖くないわけじゃない。
でも、もう立ち止まれない。
白光は、
確かにこの先にある。
◆
その頃――
さらに奥の牢。
リシェルは、
胸元の小さな温もりに気づいていた。
(……近づいてる……?)
白光が、
わずかに、確かに揺れた。
──闇の底で、
六彩と白光は、
再び近づき始めていた。
リシェル救出作戦が始まった。
フレイ、クレージュはリシェルのところまで辿り付けるのか…




