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1-17

クレージュは何かが起こる予感があった。

そして街に視察に出たリシェルとフランソワーズが急に霧に包み込まれ…

その日の朝、

 オベールロワイヤルはいつもと変わらぬ顔をしていた。


 市場では商人たちが声を張り、

 子どもたちは石畳を駆け回る。


 昨日と同じ、平和な王都。


 ――だからこそ、

 誰も気づかなかった。


 



 


 王城の裏門から、

 小さな一行が静かに街へ出ていく。


 フードを被った少女――リシェル。

 その半歩後ろを、フランソワーズが油断なく歩いていた。


「殿下。

 本当に行かれますか?」


「はい。

 孤児院の子たちに会いたいです」


 それは王女としての務めでもあり、

 ひとりの少女としての素直な気持ちでもあった。


(……クレージュも、あそこで育ったって言ってた)


 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


 



 


 一方、〈ブラハム堂〉。


「クレージュ、今日は配達ないぞ」


「え?」


「市場が忙しくてな。

 外に出るなら、買い出しぐらいだ」


「……分かりました」


 そう答えながらも、

 クレージュの胸は落ち着かなかった。


(……嫌な感じがする)


 理由は分からない。

 ただ、胸の奥がざわざわして仕方がない。


 六彩の魔力が、

 眠りの浅い獣のように身をよじっていた。


 



 


 城下の孤児院は、

 王都の外れ、古い水路の近くに建っている。


「殿下、ここです」


 フランソワーズが周囲を確認する。


 人通りは少なく、

 静かすぎるほどだった。


「……少し、静かすぎませんか?」


「ええ。

 ですが、今のところ異常は――」


 その瞬間。


 石畳の下から、

 鈍い衝撃音が響いた。


 



 


「っ……!」


 地面が揺れ、

 足元の石板が沈み込む。


「魔法陣……!?」


 フランソワーズが叫ぶ。


 次の瞬間、

 視界を覆う濃い霧が噴き出した。


「殿下!!」


 白い光が瞬間的に走る。


 リシェルが反射的に魔力を放ったが、

 霧は光を吸い込むように広がった。


 



 


 ――遅れて届いた異変。


 〈ブラハム堂〉で、

 クレージュが胸を押さえてうずくまった。


「……っ!?」


 息が詰まる。


 胸の奥で、

 何かが“引き裂かれた”感覚。


(……消えた?)


 白く、柔らかかったあの感覚が、

 突然、遠くへ引き離された。


「クレージュ!?」


 フレイが駆け寄る。


「どうした!?」


「……リシェ……!」


 名前が、

 無意識に口からこぼれ落ちていた。


 



 


 霧の中。


 フランソワーズは剣を抜き、

 必死に周囲を探る。


「殿下!!

 返事をしてください!!」


 返答はない。


 代わりに、

 黒いフードの影が霧の奥に浮かんだ。


「……遅いな、護衛殿」


「貴様ら……!!」


 斬撃が走るが、

 霧は距離感を狂わせる。


 次の瞬間、

 複数の衝撃が同時に襲いかかった。


 



 


 霧が晴れたとき、

 そこにいたのはフランソワーズ一人だった。


 地面には、

 倒れた護衛数名。


 そして――


「……殿下……?」


 リシェルの姿は、

 どこにもなかった。


 



 


 王都に、

 わずかな異変が走る。


 だが、それはまだ噂にもならない。


 公式には、

 「王女は視察中」。


 誰も、

 “白光の王女が攫われた”とは知らない。


 



 


 夕刻。


 クレージュは、

 じっと空を見上げていた。


(……連れて行かれた)


 確信があった。


 理由は分からない。

 だが、胸の奥がそう告げていた。


 六彩の魔力が、

 静かに、しかし確実に目を覚ます。


(……俺が、行かないと)


 まだ力の使い方は分からない。

 敵が何者かも知らない。


 それでも。


 あの白い光が消えたままなのは、

 耐えられなかった。


 



 


 その夜、

 王都のどこかで、

 黒鴉の羽が静かに笑っていた。


「成功だ」


「白光は手中に。

 六彩は……すぐに動く」


「ええ。

 あの少年は、必ず来る」


 運命は、

 静かに歯車を噛み合わせる。


 


──白光が消えた街で、

 六彩の少年は、

 初めて“選択”を迫られていた。

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