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1-14

いよいよ黒い影が姿を現す!

そしてある計画を着々と進めているようで…

オベールロワイヤルの夜は、昼間の喧騒が嘘のように静かだ。


 石畳を撫でる風の音と、

 遠くで聞こえる酒場の笑い声が、

 街の平和を象徴するように広がっている。


 だが――その静けさの奥で、

 不穏な影が動いていた。


 



 


 王都の外れにある廃屋。

 かつて鍛冶場だったらしいが、今は黒く焦げた壁が残るだけ。


 その奥の薄暗い部屋で、

 男たちがフードを深く被りながら集まっていた。


「……王女は、連日城下へ外出している。

 護衛は一名。“あの女”だが……隙がないわけではない」


 中央の席に座る男が低く呟いた。


 “宵の魔導師”の異名を持つ、黒鴉の羽の幹部――ファルゴ。


「警備が薄いのは、王家の慢心か?」


「いや……王女自身の強い希望らしい。

 街を、自分の目で見たいと」


 ファルゴは薄く笑う。


「民の声を知りたい……か。

 ならば、我らの声も聞いてもらおうではないか」


 


「で、例の“六彩の少年”は?」


「あのパン屋の見習い……クレージュ。

 年齢十六。身寄りは店主のみ。

 身元に怪しい点は今のところないが……」


 別の男が報告書を開きながら続ける。


「王女と同じ日に、必ず街の同じ区域に現れる。

 そして……魔力の揺れ方が常人ではない」


「ほう……やはり“器”は活動を始めているか」


 ファルゴの目が鋭く光った。


「六彩の器。この世界で最も価値ある核。

 王女の白光と組み合わされば──

 王政の根幹を覆す“鍵”となる」


「計画を始めますか?」


「まだだ。

 まずは王女の行動パターンを完全に把握する」


 ファルゴは机の上に黒い羽根を置き、指で弾いた。


「動くのは……“その時”だ」


 



 


 同じ頃、〈ブラハム堂〉では――

 フレイが薪窯の火を見つめながら腕を組んでいた。


(……どうにも胸騒ぎがする)


 店内はもう片付き、

 クレージュは奥の部屋で寝息を立てている。


 だがフレイだけは眠れなかった。


(先日の黒い影……あの雰囲気。

 あれは街のチンピラの気配じゃねぇ)


 冒険者として修羅場をくぐってきた彼には、

 敵意の質で相手の危険度が分かる。


 まるで、

 “六彩の器の目覚め”を知っている者の気配。


(まさかな……十六年前のあれと関係あるってのか?)


 フレイの脳裏に、

 あの夜の記憶がよぎる。


――空間が裂け、光が漏れ、

 そこに赤子が転がり出た。


 普通では有り得ない現象。

 だが、その赤子は間違いなく“何かを背負っていた”。


(クレージュ……お前、何者なんだ)


 だが同時に、

 あの少年が不思議と“守りたい存在”であることも確かだった。


「……嫌な風が吹いてやがる」


 フレイは煙草に火をつけた。


 



 


 一方その頃――

 王城のリシェルの部屋の明かりはまだ灯っていた。


「今日も……会えた」


 机に頬を乗せ、

 少女は夢見るように微笑んでいた。


「名前……聞けばよかったな……」


 クレージュの姿を思い出すたび、

 胸がぽわっと温かくなる。


 しかし次の瞬間、

 胸がきゅっと締めつけられた。


(……今日、ちょっと怖かった)


 市場の途中で、

 視線のようなものを感じた。


 冷たくて、暗くて……

 あの少年とはまるで違う“何か”。


(気のせい……かな)


 そう思おうとしたが、

 胸の光が不安に揺れるのを止められなかった。


 



 


 とある路地裏。

 黒フードの男が闇の中に立っていた。


 その視線の先には、

 王城の塔の明かりが小さく灯っている。


「白光の王女……

 次に狙うのは、“あの場所”だ」


 男は黒羽根の刻印を指先でなぞり、

 薄く口角を上げた。


「動き出すぞ……

 ―影が満ちる“夜”が近い」

お読みいただきありがとうございました。

クレージュとリシェルがだんだん接近している。

そして、それを観察する黒い影。

…二人が出会った時、世界は動き出す。

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