続・人生なんてこんなもんだよ
どうも、帰上空路です
自分的にはこの物語をまぁ綺麗にまとめられたかなって思います
何も考えず、ただ読むだけだと終始訳が分からないと思いますが、それもこの物語の醍醐味かなと思います、というか醍醐味だと信じたいです
それでは「人生なんてこんなもんだよ」の完結編をお楽しみください
窓から差し込む暖かい光、その光は眠りに誘う
聞かなくてはいけないはずの先生の声がだんだん小さくなる
午前の授業は適当にやりすごし、昼にはコンビニで買ってきた惣菜パンを食べる、最高の高校生活とはお世辞にも言えないが、中々に充実した生活と私は思っている
想像していた高校生活とは大分かけ離れてしまったが、それでも何か問題を起こすよりかはマシだと信じたい
そんな日常を送っていた私だったが、とある日、いつもとは違う授業が行われた
???「オレさ、テトリスめっちゃ上手いんだよ」
???「いやいや、オレの方が上手いよ、だってTスピンとかDT砲打てるし?なんなら連とかもすぐ組めるからマジで誰にも負けないよ?」
少し離れた所からクラスメイトの話声が聞こえる、いつもより鮮明に、なぜならテトリスは私の得意分野でもあるからだ
その時だった、担任だった小林先生がなぜかゲーム機を手に持ちながら教室に入ってきたのだ
常我「・・・ゲーム?学校に?」
教室にいる生徒全員がソワソワし始める、それに加えて先生の顔が「ん?何か問題でも?」といった表情をしているので教室はさらに困惑する
生徒が全員着席したのを見た先生は黒板にスクリーンを貼り付け、ゲーム画面を大画面で表示した
何が始まるのかと心待ちにしている生徒を横目に、先生はコントローラーを巧みに操作すると一つのゲームを起動した
誰もが知っている様々な形をした四角いブロックが現れ、誰もが知っているあのBGMが流れる、そしてそのゲーム内容も知っているだろう
そう、全世界が知っているパズルゲーム、テトリスだ
小林「三限と四限目の授業は数学Ⅱのはずですが、担当の先生が急遽来られなくなったので・・・私が代わりの授業をしなくてはいけなくなってしまいました」
教室のあちこちからクスクスという笑い声が聞こえる、この一文だけで生徒を笑わせるというのはさすが高校教師と言ったところか
小林「ですが私の専門は哲学なので誰も興味ない、さぁ困った!そうして考えた結果がこれです、ここでテトリス王最強決定戦をやりましょう!」
全員が一斉に歓声を上げた、それもそのはず、誰が授業内でテトリスをすると予想できるだろうか
???「おいマジかよッ!小林サイコーじゃんッ!」
???「されじゃあオレがお前より強いってことを証明してやるよ!」
生徒が口々に喜びの声を上げる中、私も心の中では飛び上がりたいほど嬉しかった、いつもは教室の隅で目立たない私だが、これで成果を上げれば一時的とはいえ人気者になるかもしれない
そう思うと口角が思わず上がってくる
小林「それじゃあ対戦相手はくじ引きで決めましょう」
そういうと先生は事前に用意していたであろう箱を取り出し、そこから二枚の出席番号が書かれた紙を引いた
そこには先ほどTスピンやらDT砲やらを豪語していた永橋 哲雄の番号である18と私の番号である8の紙があった
こんなにも教室が熱気に包まれ、しかもプレイヤーはクラスの人気者である永橋、口にはしなくともクラスの半数以上は永橋の事を応援しているだろう
しかしここで永橋を打ち負かせば私の評価は一気に上がることだろう、逆に評判が下がってしまう可能性も考えられるが、もうそんなことを考えているヒマはない
二人が教室の前方に向かって歩き出し、その姿だけを切り取ってみれば、さながらガーディアンズ・オブ・ギャラクシーに見えるだろう
永橋「古徳、対戦よろしくな」
常我「うん、お互い楽しめるような試合にしよう」
両者の手にコントローラーが握られ、大体の設定を終わらせた後、カウントダウンが始まる
3、2、1、画面上にでかでかとスタートの文字が表示される
それと同時に二人はコントローラーを凄まじい速度で叩き始める、使うボタンは十字キーとAボタンだけ、そのシンプルさが故に連打する速度も速くなっていく
試合が始まってから数秒しか経っていないが、ここで両者の癖がだんだんと現れていく
永橋ははちみつ砲という開幕テンプレを組み始め、全消しによる大ダメージを狙うが、それに対して私はただ単に四列を一気に消すだけのテトリス積みを永遠に繰り返していく
単純な事をただ繰り返すだけの私と、複雑な積み方で大小様々なダメージを与え続ける永橋、テトリスというゲームを名前だけ知っている人が見ても、どちらが強いかなんて一目で分かるだろう
しかし私には隠された力というの持っている、それは速さだ
この試合を見ている人たちは、永橋の何をやっているのか分からずとも見ているだけで楽しめる戦い方に目を取られて、私に残された数少ない武器である速さという物を持っていることに気付かない
試合時間が一分を過ぎた所で観戦していた人達はだんだんと気付き始める
あの手この手で攻撃しているはずの永橋が受け身の体制になっているばかりか、少しばかり攻撃を受け始めている
???「おい・・・この下にある灰色のブロックって攻撃を受けているってことだよな?こんなに上手そうな操作してるのになんで食らってるんだ?」
???「一体どうし・・・分かった!古徳君のブロックを積む速度が速いんだ!単純なテトリスを物凄いスピードで消しているから複雑で難しい操作をゆっくりしている永橋君よりも沢山攻撃出来ているんだッ!」
その一言で観客は次第に私の操作するコントローラーに注目してくる、そしてその速度を見た人から歓声が沸き上がる
???「おぉっ!何だこのスピード!?」
しかしここで問題が起きる、極度の集中状態は時に想像もしないミスを生み出す、そんな現象が今ここで、私が起こしてしまった
手から汗がにじみ出た結果、十字キーがとても滑りやすくなり、思いもしない操作ミスをしてしまった
ブロックが一つ左にズレ、取返しのつかないミスをしてしまった
常我「あぁっ!」
その一瞬で教室内がざわつく
このたった一つのミスで状況がこれ以上ないくらいきつくなる、一度ミスをしてしまったからにはすぐさまショックから立ち直り、リカバリーをしなくてはいけない
今まで私が有利だっが、どちらが勝ってもおかしくないところまできてしまった
そしてついに決着がついた、画面上に「勝ち」と「負け」と表示され、それが見えた瞬間に両者の動きが止まった
私の画面には赤、オレンジ、白の三種類で描かれた「勝ち」の文字、永橋の画面には黒、紫、青の三種類で描かれた「負け」の文字
それが表示され、その0.02秒後には喜びと落胆の声が同時に広がる
その内容がどうであれ、私は嬉しかった、心臓が震えて体中がその喜びに包まれた
体中の震えはやがて指先の一点に集中され、徐々に痛みを伴ってくる
誰かから頭を撫でたり、肩を軽く小突かれたりするが、それに構ってはいられないほど痛みが強くなっていく
ついにはコントローラーから手を放してしまい、手のひらで指先を抑えるとそこからドロっとした感覚が広がる
何かと思い、手のひらを見てみるとそこには赤い液体がべっとりと張り付いており、それが血と分かるのに時間はかからなかった
そして私は思い出した、私がこのように上手く行っている時は大抵・・・
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夢であると
私が目を覚ますとそれに気づいたクラスメイトが蜘蛛の子を散らすように逃げていった
眠い目を手で擦ると、指先にあの痛みが走る
その痛みに驚き、手を見てみると指と爪の間から血がにじみ出ていた
常我「・・・え?」
しかも片手だけではない、十本の指全てから血が流れている
今いる場所は家庭科室、そして今日の授業はバッグの裁縫、裁縫をするには針を使う
血が流れている現状、目を覚ました瞬間に逃げたあの人たち、そこかしこに置いてある針
全てがつながった、しかし先生に報告したり仕返しをすると言った気力はない
そうして私は椅子から立ち上がり、血を流しながら数歩歩き、窓の外に見える夕焼けの景色を見ながらぼそっと言った
常我「私の人生って・・・何なんだ・・・」
そう言った私はその場に倒れ、意識を失っていたという
そんな目に合いながらも、私は無事に大学まで進学できた
一体どうして自分がここまで来れたのだろうか
感情が死んでしまったのか、全てを諦めたのかは分からない
だが一つだけ分かっている事がある、今は大学に行く時間だ
中学から使い続けているお気に入りの自転車に乗りながら大学に向かうこの時間は以外と苦痛ではない、むしろ好きと言ってもいい
更にイヤホンを耳につけ、藤井風の音楽を聴きながら風を浴びると心が洗われる
だからだろう、今まで嫌がっていたあの月曜日がこんなにも待ち遠しい
週末に入るたびに後何時間で大学に行けるかとつい考えてしまう、勉強が出来る訳でもないし、友達や彼女もいない、しかし一秒でも長く大学に居たい
周りの人は髪染めやらピアスやらで学校生活を謳歌しているが、私にそんなものはない
髪も染めないしピアスも開けない、タトゥーなんてもってのほかだ
成績も悪く、人間関係もなく、これと言った趣味もなく、地味な服をずっと着て、外見的な個性もない
そんな私がなぜこんなに学校が好きなのか、その答えは少し考えれば分かるものだが、知りたくない、認めたくない
だから私は思考を放棄した、ありとあらゆる考えを捨てた、恐らく勉強が出来ない事や人間関係が形成されない原因がここにある
しかし私は幸せだった、周りの事を考えずに自分のしたい事だけをする
その行動に知性というものはまるで感じられなかったが、そんなことは知ったこっちゃなかった
頭の中には今見ている景色や感情しか残っておらず、それについて言葉や理性的な考えは存在しなかったし、存在する意味も無かった
やがて私は、部屋に退学通知書を残して失踪した
イヤホンから流れる椎名林檎と宮本浩次の獣ゆく細道を聴きながら私は町中を踊りながら歩いていた
「この世は無常」から始まり、素晴らしいメロディーが終わりまで続く、こんな名曲を二週間前まで知らなかったなんて信じられない
それに対して最近の曲はyoutubeやtiktokでバズるため、ネタや中身のない歌詞ばかりなので嫌いだ
ボサボサの髪でゆらゆらと歩くその姿は不審者以外の何者でもない
どこを見てもスマホのレンズが私の顔を映す
それにいちいち反応しては拉致があかない
そして今日は行く所がある、解弱精神医療センターだ
いつも通り私はわざと大きな音を出して正面玄関を開ける、それに驚いた人たちの視線が私に集まる、それが気持ちいい
そして案内された部屋に入ると、先に座っていた職員が待っていた
この人は・・・確か岡崎みたいな名前だったはずだ
岡崎「お久しぶりです、古徳さん」
常我「どうも・・・毎週の事ですけどね、最近変わった事とか、日記は書いてるかとか聞いてて飽きたりしないんですか?」
岡崎「こんな仕事を十年もやってれば飽きますよ、ですが・・・お金というものが発生する限りやらなくてはいけないのでね、飽きたなんて言葉は八年前に諦めましたよ」
常我「ならもう辞めませんか?この病院で治療を受け始めた二回目の時点で『あっ、きっと私はこのままじゃ治らない』と悟りましたよ、だからと言って他の方法があるのかと聞かれたら困りますけどね」
そう言いながら私は机にあるペンを一つ手に取り、キャップを取り、中にあるインクを吸い始める
岡崎「・・・飲んでも問題ないインクに変えておいて正解でしたよ」
飲み干したペンを床に放り投げ、何事もないかのように話を戻す
常我「そうだ、へへっ・・・ここに来るとき面白いアイデアが思いついたんですよ」
岡崎「・・・面白いアイデアですか?」
常我「面白い考え方って意味ですよ、もし私の人生が何かしらの物語になるとしたら喜劇か悲劇のどちらだろうって」
岡崎「喜劇か悲劇・・・それでどちらだと思うんです?」
それから私は五秒ほど考えてから答えた
常我「私の人生は・・・悲劇がニ割、喜劇が八割と言ったところですよ、この意味が分かりますか?」
この以外な答えに岡崎は驚いた
岡崎「ほう・・・それについて私は深く触れるべきですか?」
常我「この二割という部分は私が今この場にいるという事、ここは私が体験した中でもっとも最悪な場所だし、ここに通わなくてはいけないという事実も最悪です」
岡崎「そうですか、では残りの八割は?」
常我「私は大学から退学通知を受けて家出しました、そのおかげで在学中に感じていた自分の気持ちに気付けたんです、それからその気持ちを基準に、気の済むまで行動した結果がこの喜劇です」
岡崎「・・・それなら質問なんですが、あなたの物語が今終わるとするならば、それはハッピーエンドですか?それともバットエンド?」
その言葉を聞いた瞬間に私は立ち上がり、椅子を蹴り始めた、殴り始めた、とにかく壊したかった
誰が見ても異様な光景、だが岡崎はそれを見ても冷静に対応する
岡崎「あとで受付の人に『自分で壊しました』と言っておいてくださいね、そうじゃないと経費で落ちませんから」
バラバラになった椅子の残骸を見つめながら、私は一つの特に尖っている破片を手に取った
そして破片で自分の腕を切り付け、傷口から出てくる血を指先に取り、岡崎の目の前でその血を舐めてみせた
常我「この血ですが、ハッピーに見えます?それともアンハッピー?」
この時、岡崎は今までにない、本能的な恐怖を感じながらも表情を崩さず、質問した
岡崎「・・・分かりません」
常我「そう、正解は『分からない』です、この物語を良いと思うのか悪いと思うのかなんて人の感じ方次第です、それにあーだこーだ言うのは・・・おこがましいと言うべきか、愚かと言うべきか、共感性羞恥と言うべきか」
その後、私は誰もいない病院のテラスに向かった
右手にはここに来る途中で買ってきたサンドイッチを持ち、左手には何かを持つような仕草をしている
これは見えないものを持っているだとか、幻覚か何かで見えているものを持っているという事でもない、この左手で掴んだ人の首の感覚がどうしても忘れられないだけだ
そうして私はサンドイッチを食べながら、まるで誰かに話しかけるような声量で言った
常我「人生なんてこんなもんだよ」
???「午後のニュースをお届けします、本日の午前12時17分に解弱精神医療センターにて職員の一人を首を絞めて殺害したと見られる男性、古徳常我容疑者23歳を警察が逮捕しました」
???「また、古徳容疑者は逮捕される数秒前に睡眠薬とアルコールを同時に飲んでいたため、現在は意識不明となっていますが、警察の一人が意識がなくなる瞬間を録音していました、その録音内容は以上となっています」
常我「先生・・・答えは見つかったよ、こんなことになるくらいなら・・・正面から受け止めて苦労すれば良かった・・・」
???「警察は現在も捜査を続けており、更なる情報が望まれます、いやぁ~怖いですね、これについて先生はどう思われますか?」
先生「そうですね、ただ・・・今言える事としましては、彼は一つの道だけを信じて進み続けたという事ですね、他の道を歩こうとせず、ただひたすらに」
最後まで読んで下さってありがとうございます、帰上空路です
この物語はかなり考察要素の強い作品になっていると思うので、それもお楽しみいただけると幸いです
余談ですが、自分の書く作品って登場人物が勝手に動き始めるんですよ、主人公が椅子の破片で自分を傷つけた時なんか「こいつマジぃ?」って思いましたね、いやぁ怖い怖い
以上で終わりになりますが、もしご要望があれば解説編でも書こうかなと思っています
それでは、またどこかでお会いしましょう