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Escapades 2




 一キロの彼方から誰かが呼んでいる。

 激しく肩を揺さぶられて、アキラは重いまぶたをゆっくりとしばたく。雲一つない蒼い空が見え、覗き込む男の顔が見える。逆光になった白い顔と白金色の胸甲。どちらも土と泥で汚れ、長い頭髪が乱れている。アキラは肘を突いて体を起こすと、ぼんやりした頭で考える。耳鳴りがする。体は動く。どうやら怪我はしていない。

 男が何か言う。その口が大きく動いている。怒鳴っているようだが、よく聞こえない。「無事か?」と尋ねているようだ。アキラは漫然と相手を見上げる。男の注意はすでにアキラから逸れ、腕を振り立てながらがなっている。

 定まらない視線を辺りに巡らせる。先ほどまで南門のあった場所が瓦礫の山と化し、市壁に大穴。その付近にはなぎ倒された人、人、人。草地のあちこちにクレーターが穿たれ、黒い土が露出している。

 遠い人影がばったりと地に伏す。這いずる姿や、剣を支えに立ち上がろうとする姿がある。倒れている者は多いが、立っている者も多い。ふらふらと夢遊病患者のように、あるいは機敏に、または仲間に支えられて、兵士たちがてんでばらばらの方向へ動き回っている。そこかしこで、泥と血にまみれた将校が、泥と血にまみれた部下を掌握しようと努めている。

 混乱の極みにある生存者の足元に、雑多なものが散乱している。倒れたまま動かないたくさんの人体、大小の瓦礫、抜き身の剣、曲がった槍、ひしゃげた兜、壊れたマスケット銃、折れた矢。それから、持ち主のいない腕や脚。

 被害は崩れ落ちた南門の周辺と、陣の中央に集中しているようだ。左翼と右翼の部隊が駆け足でやって来て、負傷者を助けつつ防衛線の穴を埋めていく。何をするでもなく呆然と辺りを見回している兵士の姿も目立つ。被害の大きさに恐れおののいているかのように。自分たちの目にしている光景が信じられないかのように。数メートル先にオーグ隊長が横たわっている。腰から下がない。妙な感触を覚えて、アキラは肘の下に目をやる。誰かの破れた腹と、こぼれ出たはらわた。恐怖と胸のむかつきが意識の底で蠢く。

 見回すうちに、朱色の法衣が目に飛び込んでくる。土をかぶり、両腕を広げて仰向けに倒れている。カラン。眠っているように見える。その表情は穏やかで、薄く開かれた両目から覗く灰色の瞳が虚空を見つめている。

 アキラはカランへ手を伸ばす。しかし指先が僧服の肩に届く前に、不意に現れた二つの人影が視界を遮る。一人は兵士で、一人はミハイロ。ミハイロがかぶりを振りながらカランを見下ろし、次いでアキラのほうへ屈む。声をかけられるが、まだ頭がぼんやりとしている。耳鳴りも続いている。

 ミハイロと兵士が無声の議論を始める。カランとアキラのことを巡ってやりあっているようだ。表情と身振りでそうとわかる。しまいには兵士が〝好きにしろ〟という風に片手を振り、どこかへ走り去る。ミハイロがその背中を睨みつけてから、法衣の背中と膝裏に腕を差し入れて恭しく抱き上げる。その拍子にカランの頭が外側にがくんと垂れる。頭頂部に傷。血まみれの短い頭髪の奥から、カリフラワー状の組織が顔を覗かせるほどの、深い傷。

 ミハイロが安心させるようにうなずきかけてきたときも、カランを抱えて市壁のほうへ駆けていったときも、アキラはろくに反応できない。思考はのろく、心の動きはさらにのろい。ミハイロはカランをどこへ連れて行ったんだ? なんのために? カランはもう死んでいるのに……

 そこへ、天から火が降ってくる。火の玉が何十発も、雨あられと。火の玉はおよそ拳大で、いかにも炎といった具合にめらめらと燃えている。そして大地とキスするなり、土くれを数メートル吹き飛ばす。

 その光景を、アキラは無感覚の分厚いベールを通して眺める。立て直されたばかりの横列を火の玉が襲い、次々と血煙が上がる場面を。四肢がもげ、肉片が飛び散り、胴体に直撃を食らった兵士が水風船のように破裂する様を。大地にへばりついている負傷者や死者がさらに切り刻まれるところを。逃げ出そうとする者やそれを押し止める者を。

 アキラはのそのそと立ち上がり、覚束ない足取りで市壁のほうへ歩く。ミハイロのあとを追いたかったのだ。しかし一方的に殺戮されている兵士の列が進路を塞いでいる。どうしたものかとアキラは立ち止り、また歩を進める。今や目と鼻の先に、ぼろぼろの兵士たちの顔が居並んでいる。何人かは険しい形相で〝早く来い〟と腕を振り、何人かは狂人を見るような目でアキラを見ている。

 と、横合いから腕をつかまれて、地面に引きずり倒される。やあ、ミハイロ。そのまま後ろ向きにずるずると引っ張られる。

 音が戻ってくる。

 無数の炸裂音。悲鳴。絶叫。怒声。

 頭の霞が急速に晴れて――

 ――アキラは時間差のショックとパニックに見舞われる。

 支離滅裂な思考の中に、重傷を負ったカランの姿が鮮烈に浮かび上がる。ミハイロに肩をつかまれる。辺りを見ると、防護板や盾を掲げて屈みこんでいる兵士たちの姿。

「若いの、大丈夫か?」ミハイロがアキラの目を覗き込む。

「ああ、うん、だいじょぶ」

「怪我はないかね?」

「と思う」

 ミハイロが呆れたように笑う。「びっくりしたよ、まったく。おまえさんのところへ戻ろうとしたら、当の本人が火の玉がわんさか降ってる中をぼやぼや歩いているんだから」

 不意に辺りが静かになる。負傷者の悲鳴やうめき声は聞こえるが、炸裂音が途絶えている。風の壁の轟轟いう音も聞こえない。

「おや、火の玉がやんだね」

「何が起きたの? つまり、さっき降ってきた火。火の玉って何?」

 ミハイロが不思議そうな顔になる。「もちろん魔法さね」

 魔法。アレが。

 めちゃくちゃだ。

「ありゃエクサリオの攻撃だよ。魔法の撃ち合いは珍しくないが、あんなひでぇのはお目に――」

「ミハイロ、カランは?」

「中に運んだ」と親指で〝元〟南門のほうを指す。「さっきまではなんとか通れたからね」

「今は?」

「もう通れん。あのでけぇ門扉が斜めに引っ掛かって、瓦礫を塞いでるんだ。隅っこに人が通れるくらいの隙間があったんだが、アミピダス様を中の連中に渡してすぐ、その隙間も埋まっちまった。瓦礫が崩れたんだ。でっけえのがごろごろと」

「カランは……まだ生きてるの?」

「最後に見たときは、辛うじてね。微かに息をされていたよ。でも、わからん。一応、中の連中にお医者様に診せるように言っておいたが」

「瓦礫を越えて中に入れそうかい?」

 ミハイロが小刻みに首を振る。「無理だ。あそこは敵の矢に狙われとる。門扉をどかそうとした兵隊さんがどんどん射られてた。おれがこっちに戻るときは、門扉を乗り越えようとしたモンがやっぱり射られてた。胸壁の連中が何本か縄梯子を落としたが、あれを生きて登るのは――」

「西門だ!」将校のものらしき命令がしじまを破る。「我々はこれより西門へ向かい籠城する! 二列縦隊で堀に入れ! 急げ!」

「よし、ついていこう」とミハイロ。「怪我人には悪いが、もうどうにもできん」

 立てる者が一斉に動きだす。皆、負傷した僚友に手を貸しているが、貸せる手は限られている。助かる見込みのない者や動かせない重症者は置き去りにされる。アキラとミハイロは、腿から出血している兵隊を両脇から支えて撤退の流れに加わる。騎兵隊の生き残りが先行して堀の横手を駆けてゆく。左翼部隊と中央の残存兵は指揮官の指示に従って真反対へ、東門へ向かいだす。

 堀に下りる寸前、アキラは四〇〇メートル先の麦っぽい畑のほうへ視線を投げる。なんの動きもない。人っ子一人見当たらない。最初の火の玉からここまで、エクサリオ軍はちらともその姿を見せていない。頭がぱっくりと割れたカランの姿を脳裏から振り払い、実際的なことを問う。

「なんでエクサリオは今、何もしてこないんだろう?」とアキラ。

「さてね」とミハイロ。

「悪いな、二人とも」負傷兵が言う。「もう少し早く歩いてくれて構わん。痛みは我慢できる」

「そうしたいが、おれたちがバテてしまうよ、兵隊さん」

 空堀の中を進むあいだ、アキラは高さ二・五メートルの土壁と青空を神経質に何度も見上げる。移動中に攻撃されないのはありがたいが、何もなさすぎて不気味だ。数百メートルも行くと、足元にちらほらと落伍者が現れる。彼らの多くはすでに息がない。仲間の手で運ばれてきたものの、予想以上に怪我が酷かったらしい。

「それにしても、あいつらどんな魔術を使ったんだ?」と負傷兵。「軍に入って一〇年になるが、あんなの見たことがねえ」

「一番最初のあれかね?」ミハイロが尋ねる。

「ああ。火球のように見えたが、普通のそれよりずっと明るくて、まるで小さな太陽だった。距離も破壊力も桁違いだ。五〇パドの厚みがある市壁を吹き飛ばすなんざ、信じられん」

「うむ、あんなのは見たことがねえ」前を行く兵士が同意する。

「一流の魔術師の先生の中には、一人で街を一つ落とした方もいると聞くがね?」とミハイロ。

「そりゃ伝説だ」と負傷兵。「少なくとも、現代にはそんな魔術師、いないのは確かさ。これまでにエクサリオの連中と二度戦ったが、あんな魔術にはお目にかかったことがない」

「魔術といえば、味方の魔術師の先生方はどうしたんだろうね?」とミハイロ。「反撃した様子はなかったが」

「あのたわけた魔術でやられたんだろう。門の真上に配置されていたからな」

 当たり前のように魔法について議論する異世界人たち――アキラはそっとかぶりを振り、自分の反応に顔をしかめる。順応しろ。古い常識を捨てろ。これまでやってきたように。これまでやってきた以上に。どうやらここは想像していた以上にファンタジーなくされ異世界なのだから。

「あとからたくさん降ってきた火の玉は?」アキラは尋ねる。「あっちは普通ですか?」

「普通だ」と負傷兵がうなずく。「うちの魔術部隊がやられてなきゃ、簡単に防げたはずさ」

「防ぐ……どうやって?」

「風だよ。強い風で火球を逸らすんだ。優秀な魔術師なら、逸らすどころか、何百パドも向こうまで風で流しちまう。矢なんかもそうだ」

 ああ、あの風の壁か。

 アキラは無知を埋めるための質問をもっとしたくなるが、負傷兵が疲れた様子を見せたので別の機会に取っておくことにする。あとでミハイロに訊いてみよう。

 男たちの足音の反響と、うめき声と、ぼそぼそした話し声が空堀を満たす。一五分が過ぎ、市壁の角が近づいてくる。アキラはカランの容態に気を揉む。助かるんだろうか? それともあの傷じゃ…… 

 そのとき、攻撃の第三波に襲われる。

「ピア‐ボウルレェェェット!」胸壁の物見が注意を喚起する。

 頭上で市壁が爆発し、堀の中に――長い隊列の上に――大小の瓦礫が降り注ぐ。爆発音が連鎖する。動くに動けない状況で生き埋めになりそうだ。アキラの右耳に〝ガツン〟と鈍い音が聞こえ、ぬるい液体が頬に跳ねる。見ると、負傷兵の前頭部がへしゃげている。ミハイロが一秒前まで負傷兵だったものを脇に突き飛ばして、アキラに叫ぶ。

「登れ、若いの!」

 すでに多くの兵が堀の土壁に取り付き、仲間の手を借りて草地に這い上がっている。土壁はろくに手掛かりがなく、もろいが、ミハイロが尻を押してくれたおかげで、アキラの指先が草地を捉え、懸垂の要領でなんとか体を引き上げる。石材の破片や塊が降り続けており、気が気でないものの、草地にべったりと伏せて、下に目いっぱい片腕を伸ばし、今度はミハイロが這い上がるのを手伝う。

 爆発が続く。明らかに第二波よりも威力の高い火の玉が畑のほうから飛んできている。市壁は持ちこたえているが、壁面にいくつもの深い凹みが穿たれている。角の尖塔から物見が叫ぶ。

「壁から離れろ! 西門へ走れ!」

 その警告/鼓舞を最後に、尖塔が物見もろとも崩れ落ちる。

 二人が全力疾走の流れに加わったとき、今度は矢が飛んでくる。周囲の者がばたばた倒れ、流れ矢がひゅん空気を切り裂く。どこから飛んできているのかよくわからない。アキラは全方位から射られているように感じる。

「若いの、姿勢を低くしろ! もっと姿勢を――」

 ミハイロの声が断ち切れ、その大きな体がアキラの腰にぶつかる。助け起こそうと伸ばしたアキラの手が途中で止まる。タルノーの指物師の側頭部と右の眼窩に、深く突き立った矢。よほど強い衝撃だったのか、首がおかしな具合にねじれている。ミハイロ、故郷に帰るんじゃなかったのかい? 家族に会うんじゃ?

 悲しみに暮れている暇はない。

 アキラはミハイロに別れの一瞥を投げ、市壁の角へ向けて全力疾走する。けれども、角を曲がり切らないうちに西門へ辿り着くのは不可能だと悟る。対岸の森に配置されている弓兵が、逃げ惑うロフト兵を狙い撃ちにしているからだ。西側の空堀に避難しようにも、そちら側でも火球の的にされている市壁が瓦礫を降らせている。畑へ逃げるのは? 遮蔽物のない開けた地形を四〇〇メートルほど走って? 論外だ。畑へ転進した兵士は片っ端から射られてる。南門のほうへ戻ろうとしている兵士も片っ端から射られている。

 となると、活路は一つ。

 ――矢が飛んでくるほうへ走り、ハルドワイネン河に飛び込む。

 正直なところ、アキラはやりたくない。とっくにそれを試みているロフト兵たちが死体の山を築きつつあるからだ。しかも見たところ、一〇人に一人も成功していない。

 判断力麻痺に陥りかけたとき、地べたを這い進んでいる兵士に三本の矢がほぼ同時に命中するのを目撃し、次いで、死体の陰に隠れている者の周囲に次から次へと矢が降りかかるのを目撃する。ここには逃げる場所も隠れる場所もない。動け、動け、動け。

 アキラは最善の――であってくれ――退路を目指し、河までの一三〇メートルを駆ける。最初の一〇メートルで正面を走る者が「うっ」と声を漏らして前のめりに倒れ、次の一〇メートルで横を行く者が額から矢を生やしてつんのめる。アキラは自分を狙って放たれた矢が真っすぐ飛来し、耳を掠めて飛び去るのを見る。そして恐慌状態の意識の隅で違和感を覚える。対岸の森まで優に五〇〇メートル。弓兵たちはその森の端から、射角を取らずに矢を放っている。常識的に考えて、棒状の物体を水平に飛ばすにはちょっと遠すぎないか? 狙い澄ました一矢が脇腹を掠めた瞬間、違和感は忘れ去られる。脚がピストンのように動き続けている。幾度となく負傷者または死体に足を取られかける。ハルドワイネン河まであと八〇メートル。あと四〇メートルというとき、今にも飛び込もうとしていた数人が相次いで射られて大地や河面に倒れ伏すのを目の当たりにし、決定的かつ全面的に判断を誤ったのではないか、とのそら恐ろしい疑惑と後悔の念に囚われ、しかし手招きをしている波のうねりはもうそこで、束になって飛んでくる矢ももうそこで、アキラは信じてもいない神だか仏だか、とにかく形而上的な何かに祈りながら、崩れた飛び込みのフォームで宙に身を躍らせる。

 青灰色に濁った水面で腹と胸と顔面を激しく打つ寸前、対岸の森に先ほどよりも多くの人影があるのをアキラは見――

 水流に揉まれて上下左右の感覚を失う。無我夢中で手足をばたつかせて、ちらちらと踊る仄かな明かりを目指す。水面から顔が出る。咳き込みながら空気を貪っていると、風を切る音と共に辺りの水が不自然にちゃぷちゃぷ跳ね始めて、アキラは自分が鴨打ちの的になっているのを悟る。忌々しい矢がなおも熱烈な接吻をせがんでくるので、俄かに発症した水恐怖症に抗って水中に戻る。半ば溺れるようにして潜水し、洗濯物の気分を嫌というほど味わってから、どうにかしてふたたび河面から顔を出す。だいぶ下流に流されている。自分を射殺そうとした連中の姿はもう見えない。矢も飛んできていない。でも森の中にまだ大勢いるかもしれない。左岸へ戻るべきか? 畑の奥深くに陣取っているはずのエクサリオ軍のことを考えるとそれも……。迷ったときは前進しろ。計画どおりにやれ。アキラは流木にしがみつき、危険を冒してバタ足で対岸を目指す。

 河面にしなだれかかっている下生えを両手でつかんだときには、息も絶え絶え。そのまましばらく休み、今にも萎えそうな腕に力を込めて、岸に這い上がる。そこは薄い木立で、草地の向こうに森が見える。ここまでは概ね予定どおり。追っ手はなく、怪我もなく、怯え切っていてはいても命がある。逃亡資金の詰まった革袋は、奇跡的にも、まだ首からぶら下がっている。当初の予定と異なるのは、右岸がエクサリオ軍のテリトリーになっていること。そんな危険な場所を身をさらして走りたくない。かといってここに永遠に留まってもいられない。森に動きはない。進め。

 念入りに左右を確認し、木立から飛び出す。森にたどり着くまでに想像上の射手に一〇〇回ほど狙いをつけられて、想像上の矢を同じ数だけ食らったが、現実には何事もなく草地を渡り切る。シダ植物に似た茂みの中に潜り込み、息を整える。いいぞ、とアキラは自分を褒めてやる。耳を澄まし、首をそろそろと伸ばす。付近に人の気配はない。ますますいいぞ。さあ、次は南だ。トゥルイーエン市が制圧されている可能性はある。カランの生死が不明の今――ボディブローのような心痛――カルナリーを目指す意義も薄れている。でもほかに行く当てがない。着いてから考えよう。

 河を泳ぎ渡る際に半キロ近く流されたため、大して進まないうちに森の切れ目に達する。アキラは木陰から正面の畑を観察し、次いで河向こうの畑を観察し、また正面の畑を観察する。丈高い似非麦畑まで、約一〇〇メートル。アキラは納得がいくまで辺りを走査し、姿勢を低く保って野原に踏み出す。

 すると、二〇歩も行かないうちに真後ろで音がして、男が二人、転がるようにして森から出てくる。濡れそぼったシャツとズボン――ロフト兵に違いない。河を渡る際に重い武具を脱ぎ捨てたのか、どちらも手ぶらだ。二人組がアキラをちらりと見、走り続ける。両者とも息を切らし、両者とも森を振り返っている。その森から完全装備の兵士が三名、がさがさ音を立てながら走り出てくる。対岸にいた兵士たちと同じ恰好だ。お揃いの鉄兜と胸甲、灰色のシャツとズボン。エクサリオ兵。

 エクサリオ兵たちは石弓と投げ斧でもって、瞬く間に二人のロフト兵を仕留める。太矢に後頭部と首を射抜かれたほうが抱擁するようにアキラにぶつかり、地面に押し倒す。

 のしかかる死体を脇に転がしたとき、髭面のエクサリオ兵が剣を抜くのをアキラは目にする。ほかの二名は半円を描いて緩く散開し、見物の構えだ。アキラは畑へ逃れるべく、立ち上がりながら振り返る。あろうことか、その畑のあちこちから数十名のエクサリオ兵が姿を表す。畑と森を分け隔てる野原には騎馬の影、河べりにも複数の歩兵の影。つまりぼくは、右岸を北上している部隊の真正面に飛び出したわけか……。アキラは激しくうろたえながら髭面の兵士に向き直る。一番手薄そうなのは森だが、得物を手にした筋骨逞しい三人の兵士が立ちはだかっている。フェイントをかけたら抜けるだろうか? ほんの数秒前に凄い腕前を披露した投げ斧の兵士と石弓の兵士の攻撃をかいくぐって?

 髭面の兵士が決まりきった仕事を片づけるかのような調子で進み出る。

 アキラは絶望の大波に押し流されるのを感じる。今にも気力が萎えそうだ。一縷の望みをかけて河のほうへ走ろうとするも、右端にいる兵士がこれ見よがしに石弓を胸に抱きかかえてアキラの動きを掣肘する。髭面が近づいてくる。死に物狂いで抵抗しようにも、剣を持った相手に素手で飛びかかれる気がしない。せめてナイフの一本でもあれば。石でもいい。しかしこの野原には石ころ一つ落ちていない。

 何か身を護るものがあれば。なんでもいいから武器が――

 すると、長テーブルが現れる。

 どこからともなく、ぽんと。


 アキラは面食らう。

 眼前に突如出現した長テーブルは、白いゴム張りの天板と鈍色のステンレスの脚から成る、何かの作業台。天板の上に黒い物体がいくつか載っている。アキラの視線はその黒い物体に釘付けになる。この後進世界には不似合いな、そして存在するはずのない、角ばったフォルムの自動拳銃。

 夢でも見てるのか?

 髭面の兵士もまた、面食らっている。足が止まり、ひょいと剣先で作業台を指して、アキラに声をかける。髭面の兵士の言語は、篠原が時おり口にするお国言葉を彷彿とさせる。フランス語なんて欠片もわからないが、なんにしろ、異質で、音楽的な響きを持つ、カエルっぽいしゃべり方だ。相手がロフト語に切り替える。アキラはただ見つめ返す。ロフト語は喋れない。

 今度は片言のリュシナリア語。

「おまえ、やた?」

 アキラは首を振る。

「なにだ、これは?」

 ほかの二人の顔も同じことを尋ねている。

 アキラは答えずに拳銃と弾倉を取り上げる。想像していたよりも重い。弾倉に込められている実包が陽光をきらっと反射する。見るからに本物だが、アキラには気にする余裕がない。なぜ本物の拳銃が魔法のように現れたのかも、どうでもいい。とにかくこれが、命綱だ。アキラはぎこちない手つきで銃把の尻に肉厚の弾倉を挿そうする。つっかえて先っぽしか入らない。焦るな、前後が逆だ。今度は弾倉が滑らかにはまり、パチっと小さな音を立てる。

 どうやら、髭面の兵士はずば抜けて頭の回転が速いらしい。アキラの手元のセミオートマチックと、自分の胸に革帯で固定してある火打式の短筒を見比べたのも束の間、表情から不可解そうな色が消えて、はっと認識の光が宿る。

 そして俄かに剣を構え、アキラに駆け寄る。

 頭の一部が命じる――撃て。

 別の一部が疑問を呈す――ほんとに撃てるの、これ?

 いいから撃て! 殺されるぞ!

 殺されたくない一心でアキラは髭面の兵士に銃口を向ける。引き金と一体構造の安全装置のことは知識として知っているが、そうと気づかないままトリガーセイフティに人さし指をかける。指の腹の下で小さな突起が沈んだことも、それによってストライカーの内部安全装置が解除されたことも、もちろん、気づいていない。

 相手はすぐそこまで迫っている。

 アキラは引き金を引く。

 何も起きない。

 うんともすんとも言わない。

 髭面の兵士との距離は二メートルを切っている。銃口を向けられて相手は一瞬たじろぐが、何やらもたもたしている愚か者に切っ先を突き込むべく、ぐいと腕を引く。

 アキラは裏切られた気分で今にも繰り出されんとする刀身を見つめる。

 出し抜けに、過去に観たアクション映画や、ゲームプレイ中の再装填モーションがよみがえり、先の頭の一部がわめく――スライド! スライドを引け! トイガンと同じだ!

 トイガンに触ったのは小学五年生の夏に一度きりだが、ともかくアキラはスライドを引き、銃口を向け直して引き金を引く。ど素人の片手撃ちでも、射程八〇センチでは外すほうが難しい。馬鹿デカい爆竹じみた銃声と共に拳銃が小さく暴れ、カンと音を立てて胸甲に小さな穴を開ける。髭面の兵士が自分の胸を見下ろし、がくりと片膝を突く。しかし命も闘争心も失っておらず、下がり始めていた腕をやおら上げる――剣を持つほうの腕を。

 アキラはさらに二度、発砲する。

 右胸と右頬の背後でピンクの霧がぱっと散り、髭面の兵士がその場にくずおれる。

 死んだ。

 いや、殺した。

 ぼくはいま人を――

 作業台が跳ね上がってその角がしたたかに腹を打ち、アキラは拳銃を取り落としかける。厚さ二センチかそこらの天板の側面に矢尻が食い込んでいる。右の兵士が舌打ちしたそうな顔で石弓を捨て、剣を抜く。もう一人はとっくにこちらへ向かってきている。

 たちどころに罪悪感が認識の平野の彼方へ飛び去って、生存本能に突き動かされるまま駆け寄ってくるエクサリオ兵に銃口を向け、何発も外したあと、拳銃を両手で構え直して跳ね上がった銃口を下げ、やたらめったら引き金を引く。

 三人めが倒れたとき、スライドが後退状態でロックされる。

 弾切れ。

 苦みのある異臭がつんと鼻をさす。少し金属的で、燃えたプラスチックに似ていなくもない強い臭い。一拍遅れて臭覚と拳銃が結びつく。燃えた発射薬の臭い。漂う燃焼ガスの臭い。

 もう一拍遅れて二つの点を悟る。一、銃声が周りの注意を派手に引いた。二、畑から現れた大勢の兵士が駆け足でこちらに――

 アキラは足元を見、作業台から叩き落された弾倉の一つを拾い上げる。もう一つは見つからないが、探している暇がない。

 ダッシュして森の中に飛び込む。

 見通しの悪い下生えの中をがむしゃらに駆けながら、このまま直進するわけにはいかないことに思い当たる。半キロも行けば、市壁の角を狙い撃ちにした弓兵の一団にぶつかる。それ以前に、三人組の仲間と鉢合わせするかもしれない。なら河か? アキラは即座に却下する。先ほどの河泳ぎで溺れかけた記憶は新しく、浮き輪代わりの手頃な流木が見つからなければ、今度こそ溺死する。そうでなくとも、矢で狙い撃ちにされる。

 西。西へ行け。市壁から確認したとき、森の西側にも穀倉地帯が広がっていた。あそこへ逃げ込んで、追っ手を撒いて、南下するのだ。出たとこ勝負の域を出ないが、どんな計画でも、無計画よりはいい。

 肩越しに背後を振り返る。何も見えない。が、声がする。追っ手がカエル言葉で声をかけ合っている。おそらく距離は詰められていない。むしろ引き離しているはずだ。こっちは身ひとつで、連中は重そうな武具を着けている。リードは保てる。

 そこで進路を斜めに取り、森の西側の穀倉地帯を目指す。数百メートルで木立を抜け、野原を一気に渡り、似非麦畑の中へ身を躍らせる。高さ一・七メートルほどの麦っぽい植物はタンポポじみた穂を実らせている。予想していたが、二メートルほどしか視界が利かない。しかも穂に体が擦れると綿毛が目印のパン屑のようにふわふわ舞い落ちて、畑に入った者がどこをどう歩いたのかが一目瞭然になる。なお悪いことに、畑に入るときに麦っぽい植物を踏み荒らしてしまっている。そしてダメ押しとばかりに、石弓で殺されたロフト兵の血が――地面に押し倒されたときにたっぷり浴びた彼の血が――麦っぽい植物を点々と汚している。アキラは完全に息が上がるまで走りに走り、倒れるようにして両手両膝を突く。

 激しくあえいでいるうちに、いくから呼吸が落ち着いてくる。

 耳を澄ます。

 穂がさらさらと風に撫でられている音だけが聞こえる。

 血なまぐさいイメージが脳裏で弾ける。髭面の兵士の頬に開いた丸い穴。石弓の兵士の砕けた眼窩。投げ斧の兵士の首元から噴水みたいに噴き出した血と、その口からこぼれた血。

 おまえが殺した、と心の声が囁く。

 ああ、ぼくが殺した。

 おまえは三人も殺した。

 殺されかけたんだ、ああするしかなかった。

 おまえは引き金を引いた。

 殺らなきゃ殺られてた!

 そうとも……殺らなきゃ殺られてた。そしてたぶん……また同じ状況になったら、ぼくはきっと同じことをする。ここから生きて脱出するために。

 クソったれ異世界め。

 にしても、とアキラは手の中の拳銃に目を落とす。なんでこれがいきなり現れたわけ? どうして地球の銃がぽんと? なぜ? どいういう理屈で? 何か……関係のありそうなことを思い出せそうだが、すっと出てこない。どこで何を聞いたんだっけ……?

 強風がざあっと吹き抜けて、心の表面に浮上しかけていた答えがするりと意識の外へこぼれ落ちる。逃走を再開しなきゃ。ここへ来るまでに、注意力散漫な小学二年生男児でも難なく追跡できるほどの痕跡を残している。しかもぼくは彼らの仲間を三人殺してる。ちょっとやそっとじゃ放っておいてくれないだろう。でもその前に、やっておくことが一つ。

 アキラは空の弾倉を引き抜こうとする。びくともしない。ちくしょう、抜けろ、と拳銃をいじくり回しているうちに、空弾倉がぽろっと脱け落ちる。オーケー、ぼくは今どこを触った? ゲーム知識のマガジンキャッチと実物のそれ――グリップ脇のボタン――がようやく一致する。挿し直した弾倉が、マガジンキャッチを押すことでするっと抜ける。

 もう一つの稼働部位、スライドロックレバーも知識と実物が一致する。下げると、スライドのロックが解除されてパシャっと剥き出しの銃身を覆い隠す。上げると、スライドを後退状態でロック。

 スライドが後退状態のときに銃身が上向きに斜めるは、なぜだ?

 ゲームでしこたま銃器と弾薬と周辺機器の知識を仕入れたアキラだが、あくまでプレイに必要なものに限られるため、モダンな自動拳銃の基本設計である傾斜銃身については完全に知識から抜け落ちている。

 スライドを何度か引いたり戻したりしたのち、たぶん壊れてないと信じることにする。銃身が上向く角度は一定だし、スライドを戻すときにヘンな引っかかりはないし、銃を振っても微かにカチャカチャいうくらいで中の部品が脱落しているような音はしない。うん、たぶん、壊れてない。これが仕様くさい。 

 気になると言えば、スライド側面の〝PPQ〟なる刻印。見覚えのある字面だが……まあいい、と予備弾倉を手に取る。好奇心から実弾をよく見、妙なテーブルが出現したときには気づかなかったものに気づく。弾頭に幾何学的な窪み――フルーイッド・トランスファー・モノリスク弾。どこのブランドのものかはわからないが、この特徴的な形状は間違いなくFTM弾だ。ゲームのテクニカルデータで何度も見た。口径は? イジェクションポートから覗く薬室外面に刻印を発見――9ミリ。何発入ってる? 弾倉背面に並ぶ覗き穴の最下段、左上に17。ちっぽけな弾が一七発。もう一つの弾倉を回収できなかったのが悔やまれる。もうこいつの出番は来なければいいとも思う。

 スライドを閉鎖ポジションにしてから、アキラは実包入りの弾倉を挿し込む。安全装置がどこにあるのかはわからず仕舞いだが、スライドさえ引かなければ薬室は空の状態に保たれ、暴発の危険はないので良しとする。

 拳銃が手元にあるのは心強い。

 しかし、その心強さは幻想だ。

 先の一件は運が良かっただけだ。たかだか四、五メートルの距離で何発も外しながらあの三人を倒せたのは、本当の本当に、運が良かった。この次、追っ手に追いつかれたら、おそらくそこが人生の終着点になる。〝さっさと逃げろ〟と心の声がせっつく。

 アキラは空を見上げて、少し傾いている太陽を指標におおよその方位の見当をつける。

 今はとにかく、右岸を北進していたエクサリオ軍部隊と、その上流の河辺に配置されている弓兵の一団と、あの三人組のようにロフト兵狩りだか偵察だかをしているかもしれない兵隊をことごとくかわし、振り切って、連中のレーダーから消えなくてはならない。エクサリオ軍が右岸に展開している部隊の総数など知る由もないが、やってのけなくては。

 南下するのはそのあとだ。

 まず西へ。

 と、足を踏み出しかけて、悪くなさそうな手を思いつく。

 居場所を喧伝している山ほどの痕跡を途切れさせ、さらには追っ手に先入観を抱かせる、一挙両得の手だ。ふと喉の渇きを覚えたので、即席の行動計画に微修正を施す。可能なら、戦争のせいで無人になっているであろう村や集落に寄り道して、飲み水と食料と衣類を調達する。

 殺人者にして逃亡者にして空き巣。

 サイッテーだ。

 それもこれもこのクソったれの……

 アキラは北西と思われる方角へ似非麦畑の中を小走りに進む。ぐいぐい距離を稼ぎたい衝動をねじ伏せて、時おり足を止めてはじっと耳をそばだて、また走る。追いつかれるのはいやだが、不注意で窮地に陥るのはもっといやだ。哨戒中のエクサリオ兵の真正面に飛び出すとか、そいつの背中にぶつかるとか、何かの動物の尻尾を踏んづけるとか……。この畑は切れ目なく延々と広がっているのではないかと不安が膨らみ始めたとき、南北に走る農道に出る。安堵のため息を漏らし、先刻の閃きを実行に移す。

 単純な手だ。

 工程その一、向かいの畑に入る前に、農道を数十メートル、できれば一〇〇メートルほど南に移動し、踏み荒らさずにそっと畑に侵入する。工程その二、穂から綿毛を落とさないように深く身を屈めたまま二、三〇メートル奥へ進む。工程その三、〝あばよ〟と手を振って西へ向けて突っ走る。行程その四、新たな農道にぶつかり次第、一から三を繰り返す。

 狙いどおりにいけば、農道からぱっと見たぐらいでは獲物/逃亡者/下手人がどこに入り込んでどこへ向かったのかわからなくなる。ひょっとしたら、道なりに逃走したと騙せるかもしれない。たとえ騙せずとも、追っ手はそれまでの進路、北西に捜索の手を伸ばすだろう。集団心理による思考停止と錯誤はゲームじゃよくあった。こちらの動きをすべて読まれたときは……まあ、時間稼ぎくらいにはなるはずだ。

 アキラは工程その一すら達成できずに終わる。

 ツキに見放されたとしか言いようがない――丈高い植物を折ったり踏んだりせずになんとか体の半分を潜り込ませたとき、農道の北側にぶらりと現れた騎馬の影。二〇〇メートルは離れているものの、騎手の首の動きから補足されたのがわかり、アキラは慎重にも慎重を期したスローモーションをかなぐり捨てて委細構わず畑に突っ込む。騎兵が何やら大声を張り上げるのが聞こえ、追り来る蹄の音が聞こえる。その重い音がどんどん近づき、ハラスの息遣いまで聞こえてくる。一騎じゃない。二騎いる。もう追いつかれる。何度めかに振り仰いだとき、至近にハラスの鼻面と、その上でサーベルを振りかぶっている騎兵の姿。アキラはスライドを引き、振り向き様に横っ飛びして、植物越しに乱射する。ほんの二秒前までアキラがいた場所をハラスが駆け抜ける。誰も乗っていない。息つく暇なく、もう一騎の音が近づいてくる。アキラは深い茂みの中に倒れ込んだまま音がするほうへ銃口を向ける。背の高い麦もどきが邪魔で何も見えない。蹄の音もやんでいる。明らかに相手は警戒している。アキラは息を殺して待つ。

 ふと疑心暗鬼に駆られる。最初の騎兵に果たして弾は当たったんだろうか? 落馬のふりをして隙を突こうとしているのでは? ぼくは何発撃った? 五発? 六発?

 アキラはそっと弾倉を抜き、残弾を確認してから挿し直す。残り八発。と、薬室の一発。びっくりトリガーの典型だ。胸の中で三〇を数え、ゆっくりと立ち上がろうとした瞬間、揺れ動く穂先の上にハラスのたてがみと、石弓を構える騎兵の上半身がぬっと現れる。アキラと騎兵の視線が絡み合う。両者とも、やや明後日の方向に得物の狙いをつけている。アキラは相手の目に恐怖を認め、相手もぼくの目に恐怖を見ているのだろうかと疑問に思い、さっと振り動かされた石弓の狙いが定まるより早く、騎兵に向けて何度も引き金を引く。命中弾は一発だが、それで充分。目と目のあいだを撃ち抜かれた騎手が後ろ様にハラスから落ち、密生する植物の向こう側へ消える。

 拳銃も消える。

 弾切れの拳銃がすうっと、煙のように手の中から。

 そして第二の作業台が目の前に出現する。

 新たな殺人の余韻で感情の動きが鈍っているにも関わらず、アキラは心底ぎょっとする。そろそろと腰を上げて、狐につままれた気分で天板を見下ろす。枯草色の自動小銃が一挺に、厚みのある半透明の弾倉が二つ。

 マジで何がどうなって――

 アキラの目が、マガジンウェルの白い文字に留まる。


   XM‐2038

   Cal.6・8x51 CASELESS

   00000001


 XM2038?

 あのXM2038?

 数ヵ月の時を越えて、アキラの脳裏にXM2038自動小銃のスペックがよみがる。弾倉抜きの本体重量二・五キロ。有効射程八〇〇メートル。最大装弾数四五発。推奨装弾数四〇発。本体を軽量化しすぎな上にA2〝鳥籠〟フラッシュハイダーのままでは反動がクソな、そしてプレイヤーに銃器の基本的なセットアップ方法を学ばせるためにわざと欠陥だらけにしてある、最新鋭カービン。

 このカービンなら何千発も撃ったことがある。

 ゲームの中で。

『SNAFU』のシングルプレイで。

 アキラは口径の表示を見つめる。そう、XM2038は6・8ミリ口径だった。使用弾薬はケースレス277フューリー。現実世界ではまだ実用化されていない弾。

 弾倉を一つ取り上げて、中に収まっているライフル弾を確認する。薬莢なし。弾頭のみ。弾丸の尻の部分は発射薬を成型した黒い円筒形。これまたゲームのカタログスペックのイメージ図そのままだ。そこではたと思い出す。PPQ‐M2。ワルサー9ミリ。シングルプレイで米軍シナリオを選択したときのサイドアームの一つ。アメ軍シナリオの主人公、ジャレット〝ジャンピィ〟ペニャ少尉の私物。

 じゃあ何か? 『SNAFU』に登場する近未来架空銃器と実在銃器がぽんぽん出現してるのか? なぜ?

いや、もちろん、ぼくを助けるために。そうだろ? そうとしか思えない。

 でも、どこの誰がどうやってこんなモンを瞬時に? まるでSF映画じゃん。SF……超科学……宇宙人。宇宙人? 宇宙人の仕業か? 誰にせよ、なんでわざわざ『SNAFU』の武器を……

 アキラは空いているほうの手で口元を覆う。その視線は今、自動小銃でも弾倉でもなく、ゴム張りの作業台に注がれている。

 ――薄暗い屋内射撃場に横一列に並ぶ仕切りの付いた作業台。異なる銃火器が置かれた幾つもの白い天板の作業台。隠しシナリオを開放すべく射撃訓練の満点評価に何度もトライしたチュートリアルの風景――

 農道のほうから声が聞こえて白昼夢が破れる。慌ててXM2038と二つの弾倉をひっつかみ、太陽の位置を確認しながら命がけの鬼ごっこを再開する。

 数分後、アキラは先ほどのトリックに名誉挽回の機会を与える。具合のいいことに、今度の農道は十字路だ。追っ手は一瞬、どこを捜すべきか混乱するだろう。できれば永遠に混乱させておきたいが、それは叶わぬ夢というものなので、配られたカードで最善を尽くすことにする。十字路に人影がないのを確認してから、南へ伸びる道を全力で七〇メートルほど走り、首尾よく畑に潜り込んで、その奥深くからふたたび西進。自動小銃は走るのに邪魔な上、拳銃よりずっと重いが、アキラの意識はとうにそこにない。

 進行方向正面にある、木立を頂く丘。

 あの丘に行けばより効果的に足跡を途切れさせてしまえる。そして南または南西へ転進する。それとも、もうひと工夫凝らすべきだろうか。例のトリックを交えつつ、距離的・時間的優位を確保できる場所まで西か北西へ進み、次いで南へ向かうのはどうだ? 

 利点:ぼくがどうしようもなく南へ行きたがっているのを悟られずにエクサリオ軍を撒けるかもしれない。

 欠点:そこまでの大回りは体力面に少なからず不安が残る。

 難しく考えすぎか? あの丘で素直に南へ向かうべきか? アキラの脳の半分は安全圏に逃れる方法を考え続ける。もう半分は先の白昼夢のことを考え続ける。チュートリアルじゃん、と。

 意図はともかく、出現する武器の順序がチュートリアルに準拠している。ワルサー9ミリときて、お次はXM2038。本当にこれが〝チュートリアル〟なら、次に出現するのは、XM2038の銃身をさらに切り詰めたXMなんちゃらSBRになるはず。そして最後にM67破砕手榴弾。

 で、チュートリアルが終わったら? シングルプレイの米軍シナリオに突入? あの黙示録的な世界観の? 異世界に迷い込んだように、今度はあの世界へ?

 おそらくそれはない、とアキラの悟性が控えめに断じる。これを仕組んでいるのがどこの誰であれ、そいつは剣と魔法のくされ世界でぼくに近未来架空兵器を投げ与えている。現実版の米軍シナリオをやらせるつもりなら端からそうしているはずだ。では何をさせるつもりだ? リアルFPS? 異世界に放り出されたことと言い、マジで宇宙人か何かが関与してる? 陰険な灰色のチビどもが地表で右往左往する地球人/モルモットの姿をマザーシップのモニターで観戦しながら指さして笑い――

 それはさておき、と理性の声がオーバードライブ気味の想像に割り込む。一度どこかでカービンの使い方を確かめておいたほうがいいぞ。

 もっともな意見だ。アキラはこれまで、本物の銃器やトイガンに興味を抱いたことが一度もない。興味を抱いた銃はマウスの左クリックで撃つ銃だけだ。このXM2038カービンにしても、具体的に何をどう操作するのかは極めて曖昧。そこを確かめておかないと、拳銃のときと同じ轍を踏むことになる。

 畑を出、丘のふもとの雑木林に入り、西側の斜面へぐるっと回り込んでから、汗だくのアキラは自分に三分間の休憩を許す。喉の渇きが強くなっているが、我慢するしかない。三時間ぐらいじっとしていたいが、三分で間に合わせるしかない。今現在のリードは一〇分がせいぜいだろう。

 人間、集中すればたいていのことはできるものだ。アキラは一分四〇秒でXM2038の基本中の基本操作について把握する。

 セレクターレバーと引き金の相関関係――SAFEは安全装置、SEMIは単射、AUTOは連射。取説がなくとも、これくらいはわかる。ワルサー9ミリをいじくり倒したばかりなので、マガジンキャッチにまごつくこともない。セレクターとマガジンキャッチは両側にあり、左利きのアキラでも支障なく操作できる。

 安全装置をかけたまま弾倉を挿入して、マガジンウェルの脇のボタンを押し込み、自由に着脱できるかどうか試す。FPSの再装填モーションで腐るほど目にした光景を基に、折り畳み式リアサイトの真下の突起に人さし指と中指をかけて、何センチか引く。動く。指を離す。戻る。これに違いない。 

 その動く突起、チャージングハンドルをめいっぱい引くと、ダストカバーが自動的にひらいて、XM2038においては排莢のためではなく、放熱および給弾不良解消のために設けられているイジェクションポートから空の薬室が覗く。ハンドルをリリース。アキラは薬室の装填状況に確信を持てず、再度、チャージングハンドルをめいっぱい引く。ケースレス弾が一発だけ排出され、宙をくるくる回転し、ぽとりと落ちる。きちんと装填されているようだ。

 当然ながら、アキラは正しい射撃姿勢も、正しい頬付の方法も知らない。それでも素人なりにカービンを構えてみる。すぐ様、正確な射撃を可能ならしめる最重要ユニットの電源が入っていないのに気づく。アキラはオン/オフ表示のあるボタンを見つけると、ゲームなら常時作動していたホロサイトを手動で起動する。ガラスだか強化プラスチックだかの小窓に投影された緑色の円とその中心のドットを、近くの木に重ねる。よし。ほかにもあちこちに謎めいた可動部位があるが、放置するしかない。とにもかくにも試している暇がない。片方の弾倉に嵌められているバンド状の器具に、予備弾倉を並列に挿せるのを発見しただけでも、めっけもの。おかげで、右手が予備弾倉でふさがったまま重いカービンを操らずに済む。

 道先の地形と追っ手の動向を確認すべく、アキラは斜面を駆けあがる。頂上の薄い木陰から、稜線に姿をさらさないように注意して、周囲を見渡す。直ちにその顔が強張り、胸の中でぼそりとつぶやく。マジサイアクなんですけど……

 丘の南側は、数百メートル先で麦っぽい畑が途切れている。その向こうには、根菜だか葉物だかの、ほとんど目隠しのない連綿と広がる畑。

 そしてエクサリオ軍が至る所にいる。

 見える範囲だけで長い隊列が三つ。

 A集団は南東、ハルドワイネン河沿いの細い森の端を北上中。B集団は南南西、見晴らしの良い農道をやはり北上中。C集団は南西、この辺りで一番高くて広い丘に展開中。

 おまけに、点在する建物を一軒ずつ調べている分隊規模の歩兵があちこちにいるし、明らかに偵察目的の軽騎兵が二騎から五騎のチームでそこらを駆け回っていているし……

 アキラはA集団の向こう、左岸へ目を凝らす。現在地がハルドワイネン河から一キロ離れているのと、河辺の森と、高低差の関係で、様子はまったくわからない。高い市壁はちらっと見えるが、人影がない。戦闘音らしきものも聞こえてこない。

 でもきっと、左岸にも右岸と同数かそれ以上の軍勢がいるのだろう。

 二個レホヴァントラム?

 その一〇倍かそこらはいる。

 大軍勢だ。

 奇襲作戦じゃない。侵攻作戦だ。

 マジのマジでサイアクだ。

 アキラは視線を下げて、畑の中のバックトレイルに注意を向ける。追っ手らしき人影がいくつもある。狙いどおり十字路の辺りで足跡を見失ったようだ。でもそのうち発見してこの丘に向かってくるだろう。B集団もじきこの丘の近くにやって来る。

 動かなきゃ。

 北と西を見やる。

 北と西は、地平線まで続いているかのような穀倉地帯だ。集落とおぼしい家屋の集まりが幾つも認められ、その傍には川または水路を示す水車小屋がある。

 打てる手は二つ。

 このクッソ広い似非麦畑の中で追っ手を完全に撒いたあと――

(1)野営でも始めそうなC集団を迂回する大回りコースで南下。

(2)どこかに隠れて日没を待ち、闇夜に乗じてハルドワイネン河沿いに南下。

 どっちにするかは状況次第。

 まず追っ手を撒かないと。

 当座の方針を定めたとき、遠いチラチラした動きがアキラの目を引く。軽騎兵が鞍の上に直立して、手旗信号を盛んに繰り出している。その隣では、お仲間がこの丘に望遠鏡を向けている。

 あちこちで手旗信号がリレーされるのと同時に、比較的近場で散開していた偵察騎兵が動きを変える。二騎がアキラの丘の東斜面へと一直線に駆け、ほかの偵察騎兵が北斜面と南斜面に回り込み始める。B集団方面から接近中の三騎は、西斜面を窺える位置だ。

 発見されたのか? 向こうからは見えるはずのない藪の中にいるのになんで――

 ここでやっとアキラは己の失態を悟る。辺りをよく見ようと夢中になるあまり、いつの間にか、肩から上が完全に藪から突き出ている。

 なんたるクソ間抜け。

 西側の斜面を転げるようにして駆け下り、ふもとの雑木林から外の様子を窺う。XM2038を見下ろし、セレクターの半分だぞ、と自分に言い聞かせる。いざというときは、セレクターを半分だけ回し、単射の位置に合わせて、発砲だ。間違ってもAUTOまで回すなよ。ゲームの経験から判断するに、このカービンは連射だとろくに制御できなくなる。

 ゲーム……実在するはずのない架空兵器。コレぜんぶ夢なんじゃ? とアキラは虚しい疑惑/願いを抱く。しかし悲鳴を上げている生存本能とカービンの重みが、クソみたいな現実をひしひしと突き付けてくる。単独行動ときて複数の敵。ゲームでさえかなりの苦境だというのに、リアルではいかほどのものなのか。

 雑木林の外の動きに注意しながら、三か月以上前の記憶を必死に掘り起こす。この不可解きわまる火器支給現象が『SNAFU』のゲームシステムに則っているなら……いま手元にあるXM2038は、距離三〇〇メートルに零点規正されているはず。少なくとも、『SNAFU』に登場する自動小銃のデフォルト設定はそうなっていた。弾はどうだった? ケースレス6・8ミリ? んなもんシングルプレイでしか使ったことがない。もちろん弾道データも憶えていない。でも……デフォの照準設定で三〇〇メートル以内の近距離を撃つ場合、ベルトの高さを狙った憶えがある。標的の腰にドットを重ねて発砲。胸の辺りに命中。たぶん、それでいけるはず。

 騎兵グループの一部が視界の中に現れる。ハラスを停め、丘を見上げる。そしてアキラの期待に反して頂上へ向かわず、平地で広くばらけ始める。

 読み誤った! 包囲する気だ! 

 さらなる騎兵や歩兵が到着したら、その輪が完成してしまう。輪が完成する前にアキラはそっと忍び出ようとする。この雑木林は畑と接しているし、麦っぽい植物がこちらの姿を隠してくれるし、第一、丘を丸ごと一つ、十数人ぽっちで万全の監視下に置くのは無理がある――と、計算を働かせたものの、姿勢を低くして林から出たとたん、すぐ横の細木にガンと音を立てて矢が突き刺さる。 

 アキラは畑に駆け込む。

 直ちに複数の蹄の音が追いすがる。騎手の一人が何か叫ぶ。〝いたぞ!〟とでも言ったに違いない。

 今回、アキラはぎりぎりまで追いつかれるのを待たず、穂先の隙間から覗く先頭の軽騎兵に向けてカービンを構える。ドットを重ねて、発砲――それだけのことがなんでこんなに難しいんだ? ドットを騎手に重ねようにも、酸欠気味の肺が空気を貪るたびに照準が上下左右にぶれて、狙いが定まらない。何より、〝また命を奪うのか?〟との抜き差しならない葛藤がある。しかし相手はサーベルを抜き放ち、こちらの命を奪う気満々で突撃してくる。ままよ、とアキラは引き金を引く。

 一ミリも動かず。

 安全装置! 安全装置を外せ、この馬鹿!

 アキラは焦る親指でセレクターを回転させる。三〇メートルの距離に迫った騎馬に向けて、ふたたび引き金を引く。

 秒間一三発の発射速度で弾丸がばらまかれ、銃口がどんどん上を向き、6・8ミリ弾の反動を受け止めるには軽すぎるカービンの重量と、初めて体験したライフル弾のキックと、お粗末な立射姿勢のせいでアキラの上半身が仰け反り、しまいには尻もちをつく。銃弾の多くは青空へ旅立つが、最初の〇・五秒で穴だらけにされたハラスと騎手がどすんと重い音を立てて植物の海に沈む。

 立ち上がる暇もなく至近に別の騎馬が現れる。

 アキラはろくに狙いも定めず、拳銃より重い引き金を小刻みに引く。

 ハラスの優美な首筋の背後でぱっ、ぱっ、ぱっと赤い霧が幾つも弾け、数発が騎手の背中側にもぱっ、ぱっと赤い霧を散らせる。

 お次は左側に、羽根飾りのついた三角帽。

 アキラはそちらに銃口を振り、発砲する。

 結局、尻もちをついたまま七騎を撃退してのける。

 半透明の弾倉を確認する。残り二五発かそこら。最初の弾倉はとっくに空だ。けたたましい銃声のせいで耳が痛い。五人めのサーベルがかすめた肩も痛い。病院に駆け込みたいレベルの出血だが、ぼろ着の切り口から覗く裂傷は、ごく浅い。二の腕を伝い落ちるぬらぬらしたやつはそのうち止まるだろう。止まってくれ。残りの連中はどこだ?

 立ち上がり、首を伸ばして騎兵隊の残党を探す。残りの四騎は雑木林の際、距離一二〇メートルの地点に停止中。二騎はハラスの上に騎手の姿があるものの、ほかの二騎はハラスの上に乗り手の姿がない。流れ弾に当たって落ちたとか? 

 穂が大きく揺れるのを視界の端で捉え、弾かれたようにそっちを見る。騎馬突撃になぎ倒された植物と、大地に血を吸わせているハラスの向こうに、騎兵装束の二人の男。二人とも目立つ三角帽を脱いでおり、両者の手には短銃身のマスケット銃。ほんの一〇メートル先にいる二人組を、アキラは愕然とした面持ちで見つめ返すことしかできない。そういうことか。ハラスを下りて、徒歩で忍び寄ったのか。相手の銃はこっちを向き、ぼくの銃は地面を向いてる。もう駄目だ。

 騎兵二人が引き金を引く。

 信じがたいことに、この至近距離で一方は鉛玉をはずし、もう一方に至っては、マスケット銃が火を噴かずに終わる。相手の様子からして、故障か何からしい。アキラはカービンを振り上げて腰だめで連射する。なぜそうしたのか自分でもよくわからないまま、折り重なるようにして倒れた二人の騎兵に歩み寄る。一人は即死、一人は虫の息。その青い瞳が読み取りがたい感情をたたえてアキラを見上げる。長くはかからない。二、三度立て続けに血を吐いたのち、その青い瞳は、死者のみが見ることを許されたどこかに据えられる。

 終わりにしたい、とアキラは心の底から願う。殺されそうになるのも、殺すのも、もう終わりにしたい。銃を放り捨てて投降しよてみようか。無駄だ、血が流れすぎてる。間違いなく八つ裂きにされる。だから? これ以上赤の他人を手にかけるくらいなら、いっそのこと殺されるほうが――

 落ち着け。

 本当に、殺される覚悟があるのか? 死んですべてを終わりにしたいのか?

 本気か?

 アキラは足元の亡骸を見下ろす。その穏やかな顔を。精気の抜けた瞳を。

 いやだ……死にたくない。

 ぼくは生きたい。

 何をおいても生きたい。

 大音声が響く。残りの二騎がいる方向だ。付近の友軍を呼んでいるのか、不意打ち要員に安否を問うているのか……。アキラは穂を揺らさないように注意深く一〇メートルほど横手に移動し、小尾板をしっかりと肩付けしてXM2038を構え、皮肉な思いでセレクターをSEMIに合わせてから、望遠鏡を覗いている左の騎兵に狙いをつける。右の騎兵は今、石弓ではなくサーベルを手にしている。彼らを見逃すべきか迷いを覚え……冷酷無情な判断を下す。こちらを補足している騎兵の存在は危険すぎる。

 鼓動が、どこか遠い世界で激しく打っている。

 肉体は概ね、意思の統御下にある。

 鼓動が落ち着き、ドットのぶれが止まる。

 望遠鏡がまともに自分のほうを向いた刹那、アキラは発砲する。発射炎と跳ね上がった銃身に視界を遮られ、カービンが自重で元の位置に戻る。相手はまだハラスの上にいる。外したかと思いきや、次弾を発射する前にその上半身が傾いで、鞍からずり落ちる。最後の騎兵はすでに逃走を開始している。アキラはその少し前方を狙って撃つ。ミス。さらに何度か引き金を引くも、当たらない。しかし五発めか六発めで、蒼い上着が両腕を放り上げるようにしてホロサイトの視界から消える。乗り手を失ったハラスがそのまま駆けてゆく。

 アキラは弾倉を抜いてチェックする。残り二発。

 この二発を使い切れば、次の武器が現れるはず。でももし、と疑念がよぎる。もしこれがチュートリアルじゃなかったら? この火器支給現象が、あり得ない確率でたまたま連続して起こった現実世界のバグか何かで、ゲームシステムとは無関係だったら? 

 そのときは、残りたったの二発とはいえ、身を護るものがなくなるぞ。

 そのときは、最初にそうしようとしていたように、徒手空拳で逃げるまでだ。

 アキラは弾倉を戻し、地面に向けて二度、引き金を引く。

 五秒ほど待つが、M2038が消失する気配はない。すこぶる確かな存在感でもって、両腕の中にしっかりとある。数え間違えたのかと思い、また弾倉を抜く。空。

 バグ終了、と頭の片隅が冷笑する。やっぱりか。クソったれ異世界に来てからというもの、ぼくの人生はケチのつきどおし――

 薬室。

 アキラはもう一度引き金を引く。

 薬室に装填されていたケースレス弾が地面に土埃を立てる。

 XM2038の質量が失せ、腕の中から消える。

 間を置かずに出現した第三の作業台から、SBR(短銃身ライフル)と弾倉をひったくるようにして取り上げてアキラは一目散に走りだす。

 ネットの匿名掲示板に書かれていたスローガンをふと思い出す。

 ――FPSは裏切らない。

 その意味はともかく、この援助は当てにしていいのかもしれない。

 

 SBRはカービンと外観がほぼ同じで、操作方法が同じで、弾倉も同じだ。

 でなければ詰んでいただろう。

 足を止めてSBRの使い方を確認する暇もなく、アキラは新手に補足される。偵察騎兵を殲滅した地点から五〇〇メートルも離れていない勾配をのぼっている最中に、二〇騎前後の軽騎兵がせまってくるのを認め、アキラは緩い斜面を一気に駆けのぼる。

 飲み水を得るべく進路の目印にしていた水車小屋はすぐそこだ。辿り着けば川か水路がハラスの障害になるかもしれない、と期待したのも束の間、畑を抜けるなりどうにもならないと判明する。農道脇の水路は、騎馬突撃を防ぐどころか、園児の突撃すら防げないほど幅が狭く、浅い。アキラはひと跳びで水路を越え、少しでも有利な地形を求めて水車小屋の奥の倉庫へ駈ける。

 その一〇歩めで時間が尽きる。勾配を登り切った騎兵隊がアキラを視認し、サーベルを抜いたり石弓を構えたりしている。速度を上げて突進してくる。

 アキラはチャージングハンドルを引いてセイフティを解除し、銃口を向ける。

 ゲームどおり、短銃身のSBRはカービンよりも反動が強い。

 連射も、XM2038より激しく暴れる。

 そして、銃声がめちゃくちゃやかましい。

 SEMIで右から左に速射すると、約三分の一はハラスが転倒したり、乗り手が落ちたりする。セレクターをAOUTまで回して、残りの三分の二に小刻みな連射を浴びせる。予備の弾倉を叩き込み、さらに連射する。人馬そろって農道に達したのは僅か一騎。致命傷を負ったのか、ハラスも乗り手も水路を堰き止めるようにして横たわったまま微動だにしない。畑に視線を転じると、ご主人様ぬきで元気そうに駆けているハラスが三頭。姿は見えないが、アキラを罪悪感をでいっぱいにするほど痛ましい鳴き声を上げているのが一頭。

 風がやむ。

 右手の穂が微かに揺れている。

 アキラは片膝を突き、セレクターをSEMIに戻して狙いをつける。植物のベールの向こうに人影が見えるなり発砲し、右太ももの端を削るも、相手が委細構わず畑を出て突進してきて、その動きを止めるためにもう一発食らわせる。

 SBRが消えて第四の作業台が現れる。

 四個のM67破砕手榴弾。

 破片が敵プレイヤーのHPと機動力を削る危害半径は一五メートル。即死または行動不能に至らしめる殺傷半径は五メートル。

 アキラは手榴弾を足元に落とし、作業台を蹴倒す。その陰に隠れて手榴弾を拾い上げる。

 使い方は、映画やゲームの投擲モーションでなんとなくわかる。

〝なんとなく〟が災いして、安全レバーを握り込まずにプルリングを引き抜いてしまう。金属音と共に〝スプーン〟が脱落するのを目にしたとたん、ミスを悟る。信管作動。慌てて投擲する。超軽量の砲丸くらいの重さの凶悪な鉄の塊が、まだ騎兵が潜んでいるかもしれない畑に消える。アキラは作業台の陰に伏せる。鈍い炸裂音。二発めのプルリングに指をかけながら体を起こし……息を呑む。畑から騎兵が現れたのだ。血まみれで、ぎこちない歩き方をしている。その顔面は剃刀で切り刻まれたかのようにズタズタ。そしてばたりと倒れる。

 ボロ雑巾のような騎兵の死体をアキラは見つめる。プルリングから指を離しかける。けれども、自分の命がすべてにまさる。今度は〝スプーン〟を握り込んでピンを抜き、投げる。手から離れた直後に安全レバーがリリースされ、そのタイミングで遅延信管が作動し、爆発音が響くまでに四秒ほどの間が空く。一投ごとに一〇メートル前後ずらし、三投めで人間の悲鳴を聞いたような気が……

 最後の一個を握りしめながら様子を窺う。

 アドレナリンが体内を駆け巡っているせいか、胸が早鐘を打ち、息が浅い。

 二〇数える。

 動きなし。

 アキラは震える手の中の手榴弾に目をやる。

 これを使い終わったら、次はどうなる?

 A:悪夢の米軍シナリオ開幕。

 B:米軍シナリオの初期装備出現。

 C:EU陸戦群シナリオ/ロシア陸軍シナリオ/人民解放軍シナリオのチュートリアル装備出現。

 Ⅾ:マルチプレイ開幕。

 E:マルチプレイの初期装備出現。

 F:マルチプレイの個人データ装備出現。

 D:何も起こらない。

 Aはおそらくない。Fもない気がする――ここまでおかしなことが続いたあとでは、なおさら。Ⅾもないと信じたい。異世界に迷い込んだ同胞と撃ち合いだなんて、救いがなさすぎる。きっとBかⅭかEかFのどれかだ。Fが望ましい。アーセナルには山ほどの武器が保管されてる。少々の追っ手ぐらい余裕で追い払えるありとあらゆる武器が。

 これが『CoD』や『BF』なら良かったのに、とアキラは混乱気味に思う。そしたら怪我が時間経過で自然治癒したり、衛生兵になって瀕死の重傷を瞬時に完治したりできたかもしれないのに。『SNAFU』にはそれがない。救急キットはあるものの、後送ヘリや後送車両の来援まで出血を止める役にしか……

 ごちゃついた思考を頭から振り払い、ホント頼むよ、Fでお願い、と運を天に任せる心持ちでアキラは最後の手榴弾を投擲する。炸裂音と共に苦し気なハラスの鳴き声がやむ。

 即席の遮蔽物/作業台が消える。

 入れ替わるようにして、新たな作業台が影を落とす。

 アキラは立ち上がり、天板の上の物体を見下ろす。ごついスマートフォンか、携帯ゲーム機に似ていなくもない。これは……? PDA? 取り上げて側面の電源ボタンをスライドさせる。スクリーンに明かりが灯り、完全武装の兵士の画像を背景に日本語の――日本語!――メッセージが表示される。


       WWⅢ:Situation Normal―All F#$%ed Up 特別編

                 ~雨宮アキラくんの異世界大冒険~


                     PART 1:

                    ESCAPADES


                    Mission 1:

         Run Through The Wheat-like Fields


        ・リアルタイム戦術マップの脱出ルートを辿りエクサリオ軍から逃れましょう     

         *状況の推移を反映し脱出ルートは随時変更されます

        ・ルート上に配置される逃走支援キットを活用し血路を開きましょう

         *ルート変更時は逃走支援キットの配置も変更されます

           

                 逃走支援キットの支給元を選択

                    ・合衆国陸軍

                    ・EU陸戦群

                    ・ロシア陸軍

                    ・人民解放軍

         *支給元をタップすると自動的にリアルタイム戦術マップが表示されます


 答えはまさかの、名指しオリジナル脱出イベント開幕。

 ざけやがって……

 アキラは夏の碧空を仰ぐ。UFOとかドローンとか、自分を監視している飛行物体がいるのではないかと思ったのだ。何もなし。いや……静止軌道上のスパイ衛星や母船の超望遠レンズが、地球人/モルモットのマヌケ面を捉えているのかも。

 スクリーンに顔を戻す。もう宇宙人の介入で決定だろコレ? それもとことん性格が悪いタイプの。〝雨宮アキラくんの異世界大冒険〟なる副題に悪意と嘲弄を感じる。

 ぼくらを異世界に放り込んだのもクソ宇宙人? そのせいで篠原は死に、成田はレイプされ、小林は行方不明になり、ぼくはとんでもない苦境に立たされてる? 宇宙人が諸悪の根源?

 アキラは差し迫った大問題に注意を戻す。

 脱出イベント。

 ゲームのは楽しかったけれど、リアルのは今んとこ何ひとつ……

 水車小屋の陰から首を伸ばし、次いで背伸びして、来た道を窺う。勾配のおかげで割と遠くまで見える。銃声と炸裂音を聞きつけた軽騎兵の小グループがあちこちから接近中。加えて、たくさんの歩兵が駆け足で先の丘の辺りに集結しつつある。騎兵にしろ歩兵にしろ、距離はもう七〇〇メートルもない。

 アキラはPDAっぽいやつを手に急いで倉庫の裏手に回り、そっと似非麦畑に入って、真西と思われる方向へ走る。

 疲労が消し飛んでいるのは、恐怖とアドレナリンのおかげだ。

 しかし恐怖はスタミナの代わりにならないし、アドレナリンの泉も無尽蔵じゃない。

 そのうちガス欠になる。

 あるいは熱中症でヘロヘロになる。

 逃げても逃げても追いつかれる。

 アキラは一瞬、畑の中に身を潜めようかと考え、即時却下する。現状じゃ一時しのぎにもならない。人海戦術の捜索網の真っただ中で身動きが取れなくなっている一五分後の自分の姿がありありと目に浮かぶ。

 だからとにかく――

 ――リアルタイム戦術マップ。

 脱出ルート。

 コレの黒幕の性格がクソだろうと、凝りに凝ったお膳立てからして、そこは信じてもいいはず。

 ケツの四択はそう難しい問題じゃない。

 シングルプレイの逃走支援キットには武器が入っていた。黒幕野郎が寄越す逃走支援キットにも、きっと。でなきゃ〝血路を開け〟なんて文言、出てくるはずがない。

 今や意識的に記憶を掘り起こさずとも『SNAFU』のプレイ経験と知識がどんどんよみがえってくる。その経験と知識が告げる各陣営の銃火器の特徴は――

 ロシア陸軍の主武装であるAKシリーズとその派生・発展型はアリ寄りのアリ。雑に扱っても壊れないし、制御しやすい反動だし、近距離のパンチ力は大したものだし、命中精度も世間で信じられているほど悪くない。最大の難点は、戦時下の逼迫した兵站の都合でどのAKが支給されるのかわからないこと。純正ロシア製かもしれないし、ライセンス生産された同盟国製かもしれない。アクセサリーをふんだんに装着できる当代流かもしれないし、廃棄予定の骨董品かもしれない。AK神話を体現する高信頼性の個体かもしれないし、品質管理が杜撰な頃の信頼性に疑問のある個体かもしれない。うん、やっぱナシ。かなりギャンブルの要素が強い。

 人民解放軍の火器は意見の分かれるところだ。〝最の高〟と五つ星を付けるプレイヤーもいれば、〝所詮は西側の劣化コピー〟と鼻も引っかけないプレイヤーもいた。アキラ自身の評価は〝銃本体は悪くないけれど弾の性能がイマイチ〟。というわけで、ナシ。

 EU陸戦群は、アリ寄りのナシ。欧州諸国が個別に戦闘群を編成している関係上、資金力のある先進国の銃火器は高品質アクセサリーてんこ盛りのフル装備だが、そうでない国は特にお金のかかる照準装置が並みだったり旧式だったりする。最悪、アイアンサイトもあり得る。どの国の武器をもらえるのかは蓋を開けてのお楽しみ。ここもちょっとギャンブルの要素が強い。

 というわけで、良くも悪くも堅実かつ最新鋭の――ゲーム的視点では面白味に欠けるが、リアルでドツボに嵌まっている身にはこれほど頼りになるものもない――安定の米軍一択。

 アキラは足を止めて、息を入れながら〝合衆国陸軍〟をタップする。

 画面が詳細な電子地図になる。タスクバーに電子メールのアイコン。〝1〟とふられていて、確認しろと言わんばかりに点滅している。開くと、受信トレイに〝PDA〟と題された長文メッセージが一件。


                     【PDA】             

   当PDAパーソナル・デジタル・アシスタントは『WWⅢ:Situation Norma

   l―All F#$%ed Up』の諸機能を現実世界でシームレスにご活用いただくためのデバ

   イスです。基本的には『SNAFU』に登場する各国軍正式採用PDAの性能を大きく逸脱したデ

   バイスではありません。尚、PDAの機能は現在、〝リアルタイム戦術マップ〟と〝通信〟がアン

   ロックされています。

     *当PDAの喪失は作戦行動に大きな制約をもたらすため、紛失・損傷・損壊にくれぐれもご

      注意ください。

     *紛失・損傷・損壊の際は日付変更後(0000時)に補充機が用意されます。また、バッテ

      リー切れで充電器が手元にない際も補充機が支給されます。

     *当PDAの支給数は24時間ごとに2機(予備は後ほど至急)となります。特に異常がない

      場合は24時間経過後も補充機は支給されず、お手元のPDAを継続してご使用いただくこ

      とになります。

     *当PDAは継続使用に伴って蓄積される情報を常時共有しており、メイン機・サブ機・補充

      機を問わずストレスなくお使いいただけます。

     *当PDAが採用している耐衝撃構造は〝あらゆる衝撃への絶対的な強度〟を意味するもので

      はありません。高所から落とす、堅い物体へ投げつける、重量物を載せる、などの行為は誤

      作動や故障の原因となる恐れがあります。

     *当PDAが採用している耐水構造は水深30メートルが目安です。より深い水中でのご使用

      はお控えください。浸水して故障の原因となる恐れがあります。また、大きな傷・ヒビ・外

      装の一部欠落などが認められる場合は水気の多い環境でのご使用をお控えください。浸水し

      て故障の原因となる恐れがあります。

     *当PDAは内臓バッテリーで連続12時間ご使用いただけます。バッテリー残量を確認の上、

      サブ機と併用してください。

     *当PDAの正常作動環境は摂氏-20度から50度です。長時間の使用の際は環境によりバ

      ッテリーの著しい消耗または熱暴走の恐れがあります。バッテリーの節約および熱暴走防止

      にスリープモードを適宜ご活用ください。

      **デフォルト設定:最終操作から3分経過時、自動的にスリープ状態へ移行。

      **メッセージ受信時は自動的にスリープ解除。


 送信者は空欄で、受信日時は〝22Jul.14:23〟となっている。

 そっか、とアキラの眼差しが遠くなる。七月二二日。〝嵐の月の雲の日〟じゃなくて、七月二二日。くされ異世界に来てからだいたいそれぐらいの日数が経った気がする。七月二二日。夏休み。今年の夏は父さんの大学時代の友人を訪ねてミュンヘンに家族旅行する予定が――

〝通信がアンロック〟と言う割に、送信機能は見当たらない。受信機能だけっぽい。

 アキラはメールBOXを閉じて画面を電子地図に戻す。

 表示範囲は、隅っこにある距離示度からして、一・五キロ四方。縮小・拡大はできるものの、自分を中心とした一・五キロ四方の外へはスクロール不可。

 アキラは数歩動いてみる。

 その方向へ、表示範囲がごく僅かにズレる。

 なるほど、よくあるゲーム的なマップと、『SNAFU』のマップと、おんなじだ。

 ということは、レイアウトも、おんなじだだろう。地図上の濃緑色部分は森や木立。黄緑色は野原。射線の黄緑色は農耕地。茶色のラインは未舗装路。水色のラインは河川。蛍光ブルーの点線は移動/脱出ルート。〝UNIT‐1〟とふられた青い光点が自身の現在地。〝EK〟とふられた黄色い光点は逃走支援キットの配置場所。ゲームでは逃走支援キットのDZ(投下地点)の表示もあったが、これにはない。

 ともあれ、ルートは単純明快。真っ直ぐ行って、右。つまり、このまま畑の中を西進し、農道を二つ越えたところで北へ転進。表示範囲内のEKは二ヶ所。現在地からEK1まで約五〇〇メートル。EK1からEK2は直線距離にして一キロ弱。脱出ルートはEK2の先へと、表示範囲外へと、続いている。

 で、ルートは全長何キロなんだ? ぼくの体力はもつのか? どこかの時点でミッション2スタート? 逃走支援キットが〝配置される〟と書いてあったけれど、ゲームみたく、輸送機やヘリがDZにパラシュートで投下してくれる……? 

 アキラは考えるのをやめる。

 考えてもわからないことを、そこに行けば自ずとわかることを、いま考えても仕方がない。

 背の高い植物の海の中、背後に顔を向けて、耳を澄ます。

 軽騎兵が水車小屋前のフレッシュな殺人事件現場に到着したのか、複数の遠い蹄の音がやむ。

 猛追しくてくる気配はない――まだ。

 PDAをスリープ状態にし、アキラはふたたび走りだす。


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