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Dawn Raid 3



 樹々の向こうに複数の緑色の人影がちらちら覗く。

 射線が通っている一人にIRレーザーを向ける。減音された発射音が控えめに響き、パシ、パシと生肉を引っぱたいたような着弾音が返ってきて、透明人間に肩を突き飛ばされたかのようにマント姿の上体がねじれる。二本脚モンスターでもちょいちょい見た反応だ。9ミリ弾が骨格の末端を直撃してバランスを崩したのだ。

 そして、すでに幾つも反響している怒声や悲鳴にマント氏の「エドュ!」だか「レビュ!」だかと助けを求めるような声が加わる。

 交戦開始から一〇分。

 主観では時間が伸び縮みして永遠と一〇秒のあいだのどこか。

 状況は刻一刻と悪化の一途をたどりつつある。

 まず、うんざりするほど標的が多い。

 正面攻撃の際に限られた時間で確認しただけでも、カーブ気味の街道を埋め尽くす二列縦隊の成員は軽く数百プラスアルファ。その大多数はハルドガルドで散々目にした軽甲冑のエクサリオ歩兵。先頭の脇に騎兵が数騎。隊列後方の荷馬車の脇に数騎。悪路のためか、騎乗せずにハラスの手綱を引いてその横を歩いていた。

 攻撃下にあると察した隊列は今、姿勢を低くしたり樹の陰に隠れたりして警戒態勢を取っている。

 次なる問題は、射距離。

 発砲音をマスクしてくれる雨音があるといっても、射線が通る位置からの発砲(たいてい三〇メートル以内)は充分に可聴範囲で、後進世界の住人には減音された発射音を銃声と認識できようはずもないが(そうと知らなければ銃社会の一般市民も隣人が釘打ち銃で日曜大工でもしているんだろうと考える)、死傷者を生む投射兵器らしき異音が連続している事実に変わりはなく、銃撃のたびに幾つもの顔が発砲地点のほうを向き、命令らしき声が伝達され、遮蔽物を利用しながら進み出た幾つもの半個分隊規模の兵士が連携して包囲網の構築に動く。

 ワンオペの攻撃と警戒、NODの狭い視野、たくさんの死角ときては、その全員を撃ち倒そうと一地点に長く留まれば留まるほど忍び寄られてブスリといかれる危険が指数関数的に増す。

 そのため、数発撃ったら即、移動しなければならないのだが――

 ――予想していたとおり地形が良くない。

 街道の東側はすぐそこまで沼地が広がっていてほぼ行動の余地ゼロ。いくらか行動の余地がある西側にしても沼地が複雑に入り組んでおり、街道から七〇メートル以上離れるのは〝深い泥に胸まではまって動けない〟式のヘマの素。

 よって、攻撃後に大きく距離を取るヒット&ランは能わず。

 よって、採れる選択肢は街道と並行に前進または後退。

 奇襲前に記憶したマップによれば、あと一〇〇メートルほどで街道脇の沼地が遠ざかり、幾らか自由に動ける地点に出る。

 というわけで、この一〇分間そうしていたようにアキラは前進を採る。

 早歩きで。

 走るとNODが上下にがくがく揺れるし、いろいろ装着して重くなっているヘルメットが首の筋肉に負担をかけるし、何より、転倒しかねない。

 側面防御・兼・嫌がらせに催涙手榴弾を隊列のほうへ投げる。

 暗視と肉眼の両視野が、進路前方で遠投された光を捉える。

 光る何か。これも大問題。

 青色に発光して辺りをぼうっと照らし出すのは、何かファンタジーな物体。適応した夜目と雨に濡れた夜の森では六〇ワットの裸電球も同然。希少品なのか、幸い、数は多くないっぽい。でなければ、とっくに魚の餌みたいにばら撒いて街道一帯を隙間なく青い光で包んでいるだろう。個体差もあるようで、投光半径は約一メートルから五メートル。

 数が多くないといっても、点々とした明かりは移動経路を制限し、油断すると姿を見られてしまう。 

 光度が高くないといっても、ものによっては光子障壁を生み、暗視視野を逆光の影絵にしてしまう。

 青い光にチラとも照らされないように、遮蔽物を最大限に利用する。

 光子障壁に対抗するために、キジK1-10の出力を上げる。

 数十メートルに渡って街道上の隊列が丸見えの地点に行き当たり、三三連のデカい棒マグが空になるまで引き金を引く。胸甲や鉄兜を捉えた着弾音がカン、カンと何度も響く。

 また新たな怒声、悲鳴、助けを呼ぶような声。

 トータルで何人減らせた?

 死亡ないし重軽傷で五〇人くらいか?

 濡れそぼった減音器カバーがしゅーと微かな音を立て、暗視視野に湯気が映る。

 暗闇の弾倉交換に少し手間取ったのち、前進を再開する。

 左斜め前方に緑色の亡霊。

 IRレーザーでマーク、倒れるまで五連射。

 その傍を通り過ぎる際にイタチの最後っ屁を未然に防ぐべく後頭部に一発。

 青い光を隠す中腰のシルエット。

 レッドドットで照準、三連射。

 背後から複数の人声。

 火花を散らさない民生用OC手榴弾を後方にゆるく投擲。

 白いもくもくから咳き込みつつ出てきた兵士に四連射。

 ほんの少し進むと進路を点々と跨ぐ数珠つなぎの青色発光。

 街道のほうへ発煙手榴弾を投じて目隠し。

 二〇歩も行かないうちに樹の陰で待ち伏せる三つの亡霊。

 VTAC1‐5ドリルで排除。

 立ち上がろうした一人の頭部に止めの一発。

 NODの明るい視野に黒い霧がぱっと散る。

 ISトランクで催涙手榴弾と弾倉を補充したとき、近場の幹に矢が突き立つ音が小さく響く。

 これも問題と言えば問題。

 アキラが攻撃するたびに、その発射音を目印に弓兵が矢を放ってくる。断じて油断ならないが、めくら撃ちも同然。そして、長弓に新たな矢をつがえようとする姿は大きなシルエットの静止標的。アキラは弓兵の体側にレーザーを据えて発砲する。

 地面がやや隆起した目的地点に辿り着くと、さらに南下して最後尾を目指す前に、容易い獲物になりかけている一直線の行動パターンを崩すべく、ランダムな前後左右の動きとランダムな銃撃を組み合わせる。

 ランダムに動きすぎたせいでニアミスが発生する。

 投げられた青色発光物体が樹に跳ね返って偶然にも足元にぽとりと落ち、照らし出された少年乱射魔めがけてどこからともなく現れた兵士が剣を手に突っ込んできて、あろうことかG17のスライドが開放ポジションでロックされたタイミングと重なり、アキラはグロックから手を離してグロックキラーを抜く。

 別の足元照明に照らされた兵士の胸にドットを重ねて二発。頭に一発。

 一目散に後退してグロック10ミリに再装填する。耳の奥で鼓動がバクバク打っている。調子に乗りすぎた、と自戒する。もうひと押しというところで死んだら悔やんでも悔やみきれない。

 もうひと押し。

 なんだかんだで〝闇から訪れる死〟作戦は上手く運んでいる。 

 今しがた、隊列には統制の乱れが垣間見えた。南へ向けてぱらぱらと持ち場を離れる兵士を怒鳴ったり取り押さえたりするのはパニックへの対処と見ていいだろう。立て直される前に士気を打ち砕かないと。ストレスにさらし続けないと。間断なき攻撃で――

 何か騒がしい、とアキラは耳を澄ます。

 激しい雨音をついて微かに聞こえてくる。

 街道のほうで人声が入り乱れている。

 統制崩壊か? と期待を胸にそろそろと近づく。

 肉眼の周辺視野にちらちらした動きが映る。すぐ右手の隆起が低くなっている箇所を境に、森の地面を覆い尽くさんばかりの水面と小波。んん? 一分前に通りかかったとき、こんなのあったか? いや。絶対なかった。

 胸騒ぎを覚える。

 さらに騒ぎへと近づく。

 若干視界が開けて――

 ――胸騒ぎに勝る未来予測なし。

 目に飛び込んきた地獄絵図はドラマチックな三つの要素から成る。(1)薄い森のそこかしこにおびただしい数の気色悪い怪物。(2)襲われているエイブル1。(3)行く手や横手を覆う水面が速い流れとなってみるみる水位上昇。

 あたふたと見回してから、アキラは暗視視野が上下に揺れるのも構わず駆け戻り、四、五本の幹が螺旋に絡み合うひときわ大きな樹に飛びつく。NODの視野と焦点では目隠しでボルダリングに挑むようなものだが、手掛かり足掛かりは山ほどあって、木肌もまあまあ乾いている。ツリーハウスの土台にぴったりな幹が解けている箇所を目指してうねる幹をつかみ、足をかけ……。今や巨木の根本まで水が押し寄せており、その嵩が秒単位で増し、足下を何かが流されてゆく。そっちに気を取られた拍子にNODの先端をガツンと幹にぶつけてしまい、正しく作動したマウントの安全機構が単眼暗視装置を跳ね上げ、ちょっ、今はやめて、落ちる、とエイブル1との交戦にまさる冷や汗をかかされる。

 暗視装置を引き下ろして最後の二メートルをよじ登る。足が挟まってしまいそうな幹の隙間に気をつけて立ち上がり、頭を突き出す。高さは……三階くらい? もうちょい低い? これで大丈夫か?

 イルミネーターが荒ぶる水面を泳ぐ怪物を照らし出す。

 プルトニウムまみれの水場で爆発的な突然変異を繰り返したかの如きミュータント触手タートルズと、プルトニウムの影響がより濃厚と見受けられるミュータント触手ウーパールーパーと、どちらかというと偉大な自然美の趣すらあるミュータント触手ゲコゲコ。

 どれも大きい。三種の中で一番小粒な蛙もどきで体長一メートルくらいある。

 装備を捨てたらしいエクサリオ兵が流されてきて、すいすい泳ぐ山椒魚もどきに捕食される。あっちの樹では蛙もどきと木登りレースをする女兵士が追いつかれて断末魔の悲鳴を――

 アキラは自分の巨木を見下ろす。張り付いている数匹の蛙もどきにG17のIRレーザーを向けてすべて撃ち落とす。どうやらこの巨木は蛙もどきのにわか人気スポットになったようで、一匹また一匹と流されてきては、こちらへ進路を変更する新手が後を絶たない。大半は志半ばで下流へ押し流されるも、両棲モンスター界のトップスイマーたちが何匹も初心貫徹してみせる。

 あっちの次はこっち、こっちの次はそっち、という具合に足場の悪い避難所をもたもた移動して四方から下を覗き込み、ぬらぬらしたやつに銃弾を食らわせる。太い枝の陰になって射線を上手く取れない個体をなんとか落下させると、その蛙もどきはバシャンと水中に没さず、腹が水面から出たままで――

 浅くなってないか?

 なっている。

 数匹の射殺体が運び去られずに残っており、水流に先刻までの勢いがない。平たい甲羅を露出させて歩く亀もどきの姿もある。

 次第に眼下の木の根があらわになり、泥に覆われた大地が顔を覗かせる。見える範囲では、地面が四分に水が六分。蛙もどきがばしゃばしゃ飛び跳ね、キモくてデカい魚がびちゃびちゃ跳ね、山椒魚もどきが泥を掻き分けて水に潜り込む。背嚢らしきどろどろが幾つか転がっており、長靴らしきどろどろと持ち主不在の脚も一本。

 遠い声。

 別の方向からも声。

 エクサリオ兵の生存者。

 交わされる声が増える。

 結構いる。

 と思ったら、絶叫が交じる。続いて悲鳴とがなり声。

 不意にハラスに乗った騎兵が現れて、こんな真っ暗闇の悪路でも奇跡的に事故を起こさずフルスピードで駆け抜ける。騎馬が樹々の向こうへ消え、遠ざかる水音が消える。

 ほどなくして、あらゆる声が途絶える。

 耳に痛いほどの静寂。雨音。

 アキラは憐憫の情を催す。つい先刻まで殺し合いを演じていた相手とはいっても……この世の地獄のろくでもない夜の森でけたくそ悪いモンスターに食い殺されるだなんて、一回限りの試みである生の終焉としては、あんまりだろう。

 他人のことを同情していられる立場でもないが。

 樹の上から動くに動けない。

 無い知恵を絞ろうとPDAを叩き起こし、ようやく洪水の原因に察しがつく。東側の森の奥に横たわるモンスターカントリー版の五大湖。その湖よりも海抜が約三〇メートル低い現在地。浅い渓谷の地形。鉄砲水の方向。たぶん合ってる。大雨の影響で湖が氾濫するか一部決壊するかして、そこに棲息する両棲モンスターごと、流れ込んできたに違いない。

 巨木の幹が濡れている高さは……二メートルないぐらい?

 簡易広域マップの等高線を子細に調べる。二〇メートル刻みの等高線の中間点、さらにその中間点、と目分量で分割していき、付近一帯よりも大地が約二メートル高くなっている箇所に書き込み機能で点々と印をつけていく。かなりざっくりとした目安だが、北に七〇〇メートル行けば水害地域/ワクワク両棲ランドを脱出できる公算大。

 アキラは眼下の地獄を見回す。水面で光る怪物の目。泥の上を這う影。七〇〇メートル。ちょっと試してみる気にはなれない。

 もう一つの気掛かり、ケヴのいるビバーク地点は……おそらく安全だと踏む。周囲よりも六〇メートルほど高いからだ。鉄砲水はビバーク地点の二キロから三キロ手前を流れ去ったはず。両棲どもが数キロの陸の散歩と洒落こむことはないはず。

 念のためにケヴに告げ知らせようとPTTボタンを押す。応答なし。小指の先っぽサイズの〝切り株〟アンテナのせいかもしれない。障害物のせいかもしれない。高低差のせいかも……違うだろ、ケヴさんはイヤプロをしてない。

 ケヴに充ててテキストをしたためていると、通知が届く。

 あんな事故同然の形でも、エイブル1の中和ポイント及びポイント券。

 目を通し終えるか終えないかのうちに、もう一通。


                       【至急】

        ・ユーエリカ自然科学アカデミー名誉会員/ウィグラム大学自然学部客員教

         授ペリス=カザルゥを救助しミッション2に同道してください

        ・救助の成功率を高めるためにロープ(添付図解参照)とグローブ(反潤滑

         /減摩滅/高把握)を用意してください

        ・用意完了後、南東へ向けて合図(添付図解参照)をしてください

         *ペリス=カザルゥはチームメンバー候補ではありませんが人柄と能力は

          保証します。

         *ペリス=カザルゥに貸与した装備は500m制限の対象外となります。

         *ペリス=カザルゥは冒険者装備を着用しており、合流時は誤射に注意し

          てください。

          日本語による合言葉:〝吾輩は――〟〝――猫である〟

         *救助失敗に際してペナルティは発生いたしませんが最大限の援助と努力

          を期待します。


 わけを説明してくれ、とアキラは思う。

 大学の先生がこんなところで何を? エクサリオ軍の協力者? それとも、お姉さんみたく事情アリ系?

 逡巡の末、指定のグローブと、キャンプ用品のカテゴリーで登山ロープを買う。といっても、この不安定な場所で受け取りコマンドが機能するかどうか。する。出現したISトランクががたっと音を立てて傾ぐ。

 ロープとグローブ。意図はわかる。上から懐中電灯で補助しても木登りは転落の危険がある。濡れた手は滑る恐れがある。でもマジな話、助けた瞬間に刺されないか? 信じていいんだろうな、くそ宇宙人。

 ロープワーク初体験のアキラは準備にもたつく。最短焦点距離二五センチのNODは手作業に向いておらず、結局、最低光度で点したペンライトを口にくわえて、添付図解に従い手頃な太い枝にロープを……。不慣れな上に、よじ登るのに具合が良かろうと選んだ直径一四ミリのロープが微妙に太すぎて作業がしづらく、何度もやり直す羽目になる。輪を作って、二つ目の輪を通して、二つ目の輪に三つ目の輪を――くそ。輪を作って、二つ目の輪を通して……

 ようやく〝追い剥ぎ繋ぎ〟完成。手でぐいと引いてから、少しずつ体重をかけて固定具合を確かめる。間違えて引っ張ると結び目が解けてしまう〝滑り輪〟側を、買い足したナイフで短く切断しておく。

 そして近場の両棲モンスターの駆除に乗り出す。

 さすがにあのサイズの山椒魚と甲羅は9ミリJHPじゃ撃ち抜けまい、と奇襲前に仕舞っておいたスラグ装填SX4を出し、9ミリを10ミリと交換する。

 SX4のミニIRを起動して一部が覗いている甲羅に照射する。

 雨音をつく銃声が夜の森を走り抜ける。

 濁った水面に黒い血が広がり、触手から力が抜けて漂う。亀はスラグで殺せる。

 すぐそこの水辺で光る目を狙って撃つ。着弾の水柱に続いて触手がだらんとなる。山椒魚も殺せる。

 樹上から目視可能な半径五〇メートル弱の怪物すべてに銃弾を送り込む。銃声に群がってきやしないかと二分ほど待つ。死角が多すぎて〝クリア!〟と断言するのは難しいが、これ以上のことはできない。

 さらに一分待ってから、ロープの束を南東方向の巨木の根本に落とす。どさり。へし折って点灯したケミカルライトを、片端に巻き付けたパラコードでもってぐるぐる回す。そしてロープ束の傍に落とす。さらに一〇本のケミカルライトを投下すると、命綱が蛍光緑の弱い光に頼りなく照らし出らされる。

 要救助対象がコレに気づかなかったらそれまで。ぼくは努力した。

 と、樹々の陰から人影が出てくる。

 マントとフードで体を覆った人物。フードがまくれ上がる。禿頭。胸まで届く長い髭。老人か? 小さな刃物を手にこけつまろびつ近づいてくる。救助対象なのか確信を持てず、アキラはその動きをIRレーザーでマークし続ける。もう一人増える。やはりマント姿で年若い。どっちだ?

 二人がほぼ同時に発光地点に辿り着き、若者が老人を突き飛ばしてロープにとりつく。

「吾輩は!」

「ねこである!」尻餅をつかされた老人が日本語で応じる。「雨宮アキラかね?」

 アキラは10ミリで若者の顔面を撃ち抜く。人体が降ってきて老人がビクッとする。その膝にアキラはジップロックを落とす。またビクッとする。

 弾かれたように見上げたしわくちゃ顔にアキラは言う。

「袋の中の手袋をはめて、ロープを登ってください」

 ジップロックの開封にもたついてから、老人が刃物で切り裂く。

 おっと。

「ナイフを遠くに捨てて。ほかにも武器があるなら全部」

 刃物が放り捨てられる。「もう持っとらんぞ」

「登って!」

 老人がよじ登り始める。が、すぐにずり落ちる。ロープから離れて、なぜかグローブを脱ぎ、地べたに尻をつく。

「何してんです? 急いで」

「泥で滑って登れんのだ!」応じながら両手で膝丈の長靴をつかむ。

 濡れてきつくなっているのか、泥が原因か。懸命に引っ張っているが、なかなか脱げない。あの様子じゃ朝までかかる。

 アキラは胸の中で罵り、散弾銃を背中に回して不格好にロープを滑り降りる。後頭部を失った若者冒険者を踏んづけてしまい軽くバランスを崩す。老人のブーツ脱がしを手伝い、やっとこさ片方が抜ける。もう片方も力任せに引っこ抜く。

「ほら登って。ていうか、登れます?」

「馬鹿にするでないわ」

 グローブを嵌め直した老人が予想外に軽い身ごなしでロープを登りだす。アキラは自動散弾銃を手に歩哨に立つ。登る裸足がヘルメットよりも高くなってから、自分は樹にとりつく。一五分前と同じように。図らずもNODをぶつけた挙句の一時的な暗視視野喪失まで再現して。

 避難所に這い上がる際、先着した老人の手が伸びてくるのをアキラは目にし、一瞬、突き落とされるんじゃないかと不安に駆られる。けれども、相手はアキラの腕をつかんで這い上がるのを手伝う。礼を言うアキラに老人が〝なんでもない〟という風に手を振る。

「どこか怪我してませんか?」

「しとらん……と思うが」グローブとマントを脱いで、「光る棒、まだあるかね? こう暗くちゃわからん」

 暗視視野でもわかりづいらい。

 アキラはNODを切ってペンライトを点す。

「それが地球の道具か。魔法より魔法じみとるな」

 言いながら、老人が自分の体をまさぐる。革の胸当ての下に手を入れて撫で、腹を撫で、両の手の平を光にかざす。赤色はない。脇や背中、腰、脚も撫で下ろす。

 効率的に怪我をチェックする賢いやり方に感心しつつ、アキラは老人の顔色を窺う。その緑色の瞳に、同僚や友人や知り合いを殺された恨みの色はなく、ただただ懐中電灯への好奇心が爛々と燃えている。

「怪我はないようだ」疲れた笑み。「お救いくださりお礼申しあげる、お若いの。ところで、エクサリオの部隊はどうなったね? 全滅か?」

 アキラは口ごもる。誤魔化しようがない。相手も察しているだろう。

「ええ」と短く答える。

 そして半歩下がり身構える。

 けれども、老人が「誰それの仇!」と激発することはなく、にやりとして「ざまぁ見ろだわい」と述べる。

「あー、カザルゥ教授? あなたはどこの誰で、こんな場所で何をしていたのか、教えてもらえると助かるんですが?」

「おお、失礼。遅ればせながら、小生、しがない学究ペリス=カザルゥと申す。以後お見知りおきを」

 と、優雅に一礼してみせる。

 その言動を見るに、インストールされた日本語が軽くバグっているというよりは、もともと芝居がかった御仁のようだ。

 自己紹介を返したアキラに、カザルゥが難癖をつける。

「良くないの、地球の坊や」

「〝良くない〟とは?」

「おまえさんの下の名前はありふれた女性名アイラまたはアティラ、アフィナが変形した男性名と言えなくもない響きがある。聞いた者はそのように勘違いするだろうて。よって問題にならん。だが、名字は異質すぎる。あれこれ詮索されたくなくば、今後は下の名前だけ名乗りなさい。名字を持っとらん者はまだまだ多い。その点に関しては深く突っ込まれんだろう」

「なるほど。で、あなたはどこの誰で、何をしてたんですか?」

「わあっとる、わあっとる。わしは耄碌しとらんぞ。戦女神からどう聞いておる?」

「アカデミー会員の大学教授ってことだけです」

「ふむ。ちょっと足元を照らしてくれんか?」

 カザルゥが幹に腰を下ろして、肩掛け鞄を大事そうに抱える。

「長話しとる場合でもなし、簡単に、でいいかね?」

「もちろんです」

「わしの専門は薬草学と調剤で、特にモンスターカントリーの草花を研究しておる」

「すみません、ちょっと待って。あなたは薬を作る人なんですね? 熱冷ましとかありませんか?」

 カザルゥの影絵が小首を傾げる。「フロレターリ准尉の姿が見えんが、熱を出しておるのかね?」

「高熱です」

「容体を見てみんとわからんが、ああ、下げられるとも」

 アキラはビバーク地点に飛んで帰りたい衝動に駆られる。PVS14を下ろして避難所から身を乗り出し、見回し、耳を澄ます。雨音を除いて異様に静かだ。でもきっとそこら中にいる。ダメだ、焦るな。

「どうしたね? 出るのか?」

「あー、いえ」外に目を向けたまま、「ちゃんと聞いてますから先を続けてください」

「今年の初夏に、ロフトの冒険者村をフィールドワークの拠点にしておる学究仲間から、北の植生に関する興味深い頼りが届いた。戦争の話は耳にしておったんだが、矢も楯もたまらず採取旅行に出て――面白い話を聞かせてやろう。三日前に、いや、もう四日前か、冒険者村でおまえさんとフロレターリ准尉を見かけたぞ」

「え、マジですか?」と振り返る。

「窓辺で書き物をしておったらふと目に入ったんだ。見慣れん人種の子だな、と思ったんでよく憶えとるよ。男装のお嬢さんと御者台に座っておったろ? 栗色の短髪で背の高そうな」

「ぼくらで間違いなさそうですね」

「それが運の尽きよ。まあ、わし自身の落ち度とも言えるし、採取が捗るかもしれんという点ではツイていたとも言えるが」

「どういうことです?」

「わしはジェダ=オーメンスの加護を授かっておっての。占いの加護だ。的中率七割くらいで、どこに行けば探し物が手に入るのか、直感的にわかる。一度でもこの目で見た相手なら、人間もそこそこの確度で捜せる。おまえさんの頭がただの飾りでないのなら、話の先が見えたはずだが?」

「ええ。でもどういう経緯で?」

「長逗留で手持ち不如意に陥ったわしは、宿から蹴り出される前に個人的経済危機の立て直しを図ったのだ。若い頃によく使った手でな、冒険者相手の占いだ。お求めの獲物はあっちへ行くと吉と出ておる、お探しの宝物はそっちへ行けば見つかる公算が高い、お代はこれこれ、といった具合だ。最初は面白半分の冷やかしでも、成功例が出だすと誰も彼も目の色を変えよる。小遣い稼ぎを始めて一〇日とせんうちにわしは冒険者村で一番の人気者になった。

 そこへおまえさんとフロレターリ准尉がやって来て、おまえさんらを捜すエクサリオの騎兵がやって来て、日暮れ前に捜索隊がやって来て、占いの噂を聞きつけた指揮官がわしの宿へやって来た。あやつら、半数以上が冒険者の背景を持つ特別隊でな、少々毛色が変わっとった。ロフトの要衝を手中に収めんとする大作戦の真っ最中でなければ、あの一〇倍は頭数を揃えておったろうよ」

「でしょうね。ハルドガルドが落ちた段階で、秘密兵器がロフト製じゃないことは判明しただろうし。じゃあ出所を突き止めようってなるだろうし」

「連発マスケット。モンスターカントリーで人狩りを敢行する原動力足りえんよ。まず任命された指揮官が要らぬ危険を冒さんよう手を抜く。少々の褒美くらいでは兵も従わん。夜中の大脱走は確実だ」

「ケヴさんが――スパイ狩りが本命だった?」

「いやいや。その前に一つ確認なのだがね、ハルドガルド郊外でエクサリオ騎兵に損害を与えたのはおまえさんで合っとるか?」

「ええ、まあ、身を護るために仕方なく」

「討ち死にした騎兵の中に第七王女がおったそうだぞ」

 なんと。

 アキラはカザルゥに向き直る。

「確かに女性がいましたけど……でもなんで王女が?」

「道中にあやつらから聞き出したところによるとだ、武神の加護を授かった第七王女カエリテは軍人を志し、ネマルク戦線で初陣を踏んだ。男まさりの目覚ましい活躍、特別扱い無用と平民の上官の下に就く実直な姿勢、格下と看做されがちな歩兵にも分け隔てなく接する態度、足りないものはないかと訊いて回る気配り――そういった人柄と実力、麗しい外見が相まって、カリスマと化していたようだの。カエリテ王女の話をする兵は皆、自分の肉親を殺されたかのように憤っておったわ」

 固定観念、とアキラは思う。エクサリオ兵はろくでなし集団だと考えてた。でももちろん、いいやつだっているに決まってる。又聞きの王女様は友達になりたい人ナンバー1だ。ぼくはそんな人を殺したのか……

 カザルゥが続ける。「王女落命の事後対応をしくじったときに降りかかる処分やら、自己保身の計算やら、単なる職務的義務感やら、そういうものを超えた熱意で人狩りに取り組んでおったよ。この場で占うだけでは不充分である、同行せよ、とわしを脅すくらいにな。あとはもう不快な出来事の連続だ」

 不快な出来事の連続をカザルゥが手短に物語る。

 砦ルートの方々に散っていた人間狩り部隊の再集結で一日潰れ、〝この時期はえてして長雨になる、水場を避ければ怪物は滅多に出ない〟との予測から雨脚が強くなるのを待って出立し、幾度も遭遇した大量殺害現場の死骸の状態は〝そう離れていない、相手の歩みは鈍い〟ことの証左で、休息と食事で万全の体制を整えたのち夜明け前の奇襲で片を付けるとの断が下され……

「真夜中をだいぶ回ってから行軍を再開したんだが、襲撃を受けているとの報が伝わってきて、しばらくすると今度は怪物が現れ、隊列が瓦解し……わしはとにかく逃げた。真っ暗な中、闇雲に。するとだ、戦女神メイシア=ウギ=アルマ=クフに御目通りを許された」

「どんな神さまでした?」

 ケヴが語ったのと同じ外見の相手、同じ風景、同じ口止め、同じ意図による日本語インストール、同じテレパシー的な意志伝達、同じ命令。

「雨宮アキラとケヴィイム=フロレターリに同行して協力しろ、との仰せだった。状況が状況だったというのもあるがね、地球という名の別世界、高度な科学技術、異世界人――あんな魅惑的なものを垣間見せられてはな! 一も二もなく承諾したとも。気づいたら森の中に戻っておったよ。指示のあったとおり近くの木に登り、生きた心地がせんままひたすら合図を待った。改めてお礼申しあげるぞ、お若いの」

「どういたしまして」アキラは左肩を撫でながらぼんやりと応じる。

 その切っ先が肩を掠めた、少女と言ってよい年頃の女騎兵。くるりと馬首を巡らして、また剣を振り下ろそうとした。太陽を背負った影絵にカービンの銃口を向けて……あれがカエリテ王女? あれ以外に女騎兵は見た憶えがない。たぶんそうなんだろう。

 国家の重要人物の殺害犯となれば……

 でも相手はCIAやモサドじゃない。監視カメラに神経を尖らせる必要もなければ、携帯端末やら何やらを追跡される心配もない。ドゥカティの展示場に紛れ込んだスーパーカブみたいに浮きまくってる人種的特徴は如何ともしがたいけれど、はっきり顔を見られているわけでもなし、この広い後進世界、逃げきってしまえばそうそう見つかりっこない。

 本当か?

 まあ、あとで考えよう。

「おまえさんのことはひとまず置いておくとして」とカザルゥ。「これからどうするね?」

 いい質問だ。

 ぼくも誰か頼れる人に同じことを訊きたい。


 頼れる人がいないアキラは取り得る選択肢を検討する。

 ろくなものがない。

 とりあえず、いつでも出られるように準備しておく。

 眼下のケミカルライトの明かりに怪物が集まってくる様子がないので、照明代りの数本を胸の高さの幹の隙間にねじ込む。そして、両親という実例から学者なる生き物が際限なき知的探求心の塊であることを熟知しているアキラは、ケヴのときのように釘を刺す。

「いろいろ見慣れないものがあると思いますが――」

「わあっとる、わあっとる。わしのささやかならざる好奇心を満たしとる場合ではないことくらい承知しておるとも、お若いの」

 カザルゥは言を違えず、足の計測やゴアテクス製マウンテンブーツ(数日の雨中・雪中活動なら問題なし)の試し履き、スポーツドリンクとプロテインバーの簡単な食事のあいだ、サイズは合っとるぞ、美味いのこれ、と感想を口にするにとどまる。PDAのデジタル無線機能との互換性および費用面から選んだDTR(高性能ウォーキートーキー)、PTTボタン、イヤプロには目を白黒させるも、実際的な事柄を問うにとどまる。

 カザルゥの胸当てになんとか装着した無線機ポーチをアキラは指さす。

「繰り返しますが、いじらないでくださいよ? 交信できなくなりますから」

「子ども扱い、甘受しよう。ただし度を越えれば、アイレアーナのように噴火するかもしれんぞ?」

「アイレアーナ?」

「『紳士と淑女』という喜劇に出てくるキレやすい太っちょだ」

「なるほど。あと武器……マスケットを撃った経験とかあります?」

 ダメ元で訊いてみたら、一度だけある、との返事。

「マスケットやピストルが市井で売られるようになった五年ほど前に、隣人の成金に撃たせてもらった。狩りに良さそうだと思ったんだが、妻に大反対されての」

 考え込むアキラにカザルゥが続ける。

「おまえさんが何を悩んどるのか、わかるよ。わしとしても地球の銃には大いに関心があるのだがね、少し手ほどきを受けたくらいで使いこなせるものでもあるまい。違うかね?」

「ええ、まあ。撃つだけなら簡単なんですけど、そこが怖いというか」

「どんな武器もそういうものだ。もし妻の反対がなければ、マスケットを狩りに持って行く前に、最低でもひと月は練習しておったろう。自分の手足の延長になるまでな。でなければ、うっかり自分を撃つか、狩猟仲間に鉛玉を食らわせかねん。生兵法は大怪我の基だ。そのSHOPとやらに斧はあるかね?」

「斧? 木を伐ったりする斧ですか?」

「荒事の場ではありふれとるぞ。農家の八男坊ではお先真っ暗だと一四歳で冒険者になったときも、のちに兵士になったときも、さらにのちに研究者としてモンスターカントリーに舞い戻ったときも、わしは常に手斧を使ってきた。今回の採取旅行にも愛用の得物を持ってきておったんだが、あやつらに命じられて宿に置いてくる羽目になっての」

 カザルゥは波乱万丈の人生を送ってきたらしい。ずいぶん武闘派の学者先生もいたもんだ。

 キャンプ用品の斧のリストを見せる。ないよりはマシといった顔だ。一部の『SNAFU』プレイヤーが斧殺人鬼みたいに振り回していた、レスキュー活動などに使われるガーバー社のダウンレンジトマホークを見せる。教授の顔が輝く。教授の試し振りはホームセンターで見かけるような及び腰の試し振りではない。老人らしからぬ膂力で鋭い風切り音を立てる。バランスが素晴らしい、とますます顔を輝かせる。

「ところで、箱を出したり消したり……もう我慢できんから訊くぞ。それ、原理はどうなっとる?」

「ぼくにもさっぱり」

「戦女神の御業、というわけかね?」

「のようなものです」

「ふむ。布があると良いのだが」

「何に使うんです?」

「握りの部分に厚みをもたせたい」

 アキラはグリップテープを渡す。ぐるぐる巻きつけながらカザルゥが言う。

「あとは刃物だな。あるかね?」

 もちろん、ある。

 反応が良かったKaBarナイフとボウイナイフの二本が、カザルゥの胸当てと革帯に加わる。緑色の光に照らされた完全武装の老人の姿は、良く言えば、血に飢えたベテラン兵に見える。悪く言えば、森の奥深くに隠れ住む変人に見える。

 と、雨脚が弱まる。

 カザルゥが首を巡らせる。

「あの音……」

「しっ」

 NODの使用に差し障るケミカルライトを下に放り捨て、四方を観察し、付近の物音が途絶えてからアキラは所見を述べる。

「おそらく、地形とあいつらの習性のおかげで、ここから逃げられます」

「いなくなったのか?」

「ええ。見えたやつはぜんぶ南と西に行きました」

「ほう? 水棲の怪物には明るくなくてな。どういうことかご教授くださるかね?」

「この辺りは全体的に南と西の海抜が少し低くなってます。実際、さっきよりも水嵩が減ってて、今はだいたい地面が八割に水が二割。聞いた話だと、両棲モンスターはたっぷりした水場から離れないそうですし、水は低きに流れる、みたいに本能で理解しているのかどうかはともかく、状況的に、そういうことなんじゃないかなと」

「今すぐ出るのか?」

「日が出るのを待ちます。もう夜明けですし」

 アキラの右目が微かに色を捉える。天候のせいでとても薄暗いが、朝には違いない。

 暗視視野よりも肉眼のほうが良く見えるくらい明るくなるのを待ってから、ヘルメットを仕舞い、日中用イヤプロを着け、泥に覆われた地面にコーンやアスパラの缶詰を放り投げる。どこも泥は浅く、そこかしこの水溜まりも浅く、缶詰は半分埋もれたり沈んだりする程度だ。

 両棲モンスター探り・兼・地形探りの缶詰をISトランクから〝引っつかみ〟バッグに補充して準備を整えるアキラを、カザルゥが横から覗き込む。日の下で見るカザルゥの顔はダヴィンチの自画像を思わせる威厳があるものの、見間違いようのない疲れが淀んでいる。

「あー、一時間くらい仮眠を取ってから出ますか?」

「フロレターリ准尉のことが気掛かりで仕方ないのだろう? わしなら大丈夫だ。そんなヤワではない」

 カザルゥが革マントをまとい、フードを深く被る。アキラは雨除けに犬のクソ色のキャップを被り、その上からイヤプロを着け直す。

「では手筈どおりに」

 ロープを伝い降りて、回収したカザルゥの長靴を自動メンテナンスの洗浄にかける。今や霧雨が舞う程度で、嫌に静かだ。巨木の周囲を慎重に偵察しながら、特に大きな水溜まりに缶詰を投げ込む。水底に当たって弾み、濁り水の鏡面に波紋を広げる。アキラはPTTボタンを押す。

「何か動きは見えますか?」

「何も」樹上のカザルゥが答える。

「オーケー。来てください」

 散弾銃を肩付けした射撃用意姿勢で待つアキラのもとにカザルゥがやって来て、手にしているものを見せる。

泥に汚れた鞘付きのナイフ。

「用心のために捨てるよう言ったのだろ? 思い出の品なので――」

「どうぞ持っててください」


 石畳のおかげで少しは歩きやすかろうと二人は街道に向かう。

 深い泥に潜む両棲野郎にガブリといかれてはことなので、先導するアキラは二〇メートルごとに缶詰を投げて地面の状態を確かめる。缶詰がすっかり沈んでしまう地面や水溜まりには、一キロ入りの特大缶を投げ、それでも間に合わないときは減音器付きグロックで何発も銃弾を撃ち込む。予想に反して、街道に近づけど人間狩り部隊の残余物はまるで見当たらない。何もかも水に押し流されたようだ。あるのは泥と水のみ。

 さすがは元冒険者にして元兵士といったところか、カザルゥは一切無駄口を叩かず、もじゃもじゃ眉毛の下で両眼が油断なく周囲を精査している。

 泥に埋もれた靴が硬い敷石を捉えると、二人は進路を北に変える。

「ここから二・五キロで森を抜けます」アキラは囁く。

「承知した」カザルゥが囁き返す。

 特に劇的な出来事もなく、化け物ゲコゲコ一匹見ないまま洪水の跡を通り抜けて雨に濡れた路面に出る。さらに一・五キロ強で木立が切れる。森の中に比べれば雨天でも目に眩しいほど明るく、霧雨がダイヤモンドダストのように煌めく。幾分リラックスしたアキラはカザルゥに尋ねる。

「どんな薬で熱を下げるんですか?」

「薬草を煎じるんだよ」カザルゥがマントの下の肩掛け鞄をポンと叩く。「何をどう配合するかは診断してからになるが、よほど特殊な病状でなければ手持ちで間に合うはずだ」

「何か用意したほうがいいものとか……?」

「湯だな。だが乾いた枝を探すのは骨だろうて」

「お湯ならすぐわかせます」

「地球の道具でかね?」

「地球の道具で。ほかに要るものは?」

「清潔な布と着替え、綺麗なコップ。ぜんぶ用意できるかね?」

「いくらでも」

「わしからも一つ訊きたいんだが」

「なんなりと」

「地球の銃は何を飛ばす?」

「鉛や胴で出来た弾です」

「ふうむ」と眉根にしわを寄せる。「死骸の検分に付き合わされたんだが、銃器による損傷と見られる傷跡の中には貫通していないものあった。しかし何も出てこんかった。わしもそうだが、エクサリオの連中は首を傾げとったよ。もし連発マスケットで殺されたのでなければ、どうやればこんな傷になるんだとな」

 え? なぜ……ああ、500m制限。撃った銃弾のことなんて考えもしなかったが、同じ理屈が働いてるに違いない。

「思い当たるふしがあるという顔だね?」

「装備は全部、使用者が――」

 アキラは不意に言葉を切り、緩い坂道の先に目を凝らす。

「誰かいる」

「ん? どこに?」

「教授、こっち」

 カザルゥの背を押して横手の森に走り、木陰に引っ張り込む。アサルトパックから出した双眼鏡を構えて、アキラは胸の中で罵る。

「エクサリオ兵です。見えにくいけど三、四人。ビバークサイトの木立の前」

「フロレターリ准尉がいる場所だな?」

「そう。来てください」

 森林線から奥まった場所を小走りに進む。何度か足を止めて覗き見るうちに、状況がはっきりと見て取れる位置に出る。今度は声に出して罵る。ビバーク地点の木立から馬車が出されており、傍に泥まみれの兵士が四名。その足元には草地に横たわるケヴ。装備を剥いでいるところからして、連中もここに来て間もないようだ。一人がグロックを矯めつ眇めつしている。

 装備を剥ぐだけに止まらず、ぐったりしたケヴのブーツが脱がされ、ズボンに手がかけられる。

 アキラは汚らわしさと憤怒を覚える。おまえらそれ以上その人に触れてみろ……

 双眼鏡をカザルゥの手に押しつけ、貸与PDAの無線機能を同時会話にする。

「これ、望遠鏡と同じです」と抑揚のない声で言う。「ここからあいつらを見ていてください。ぼくは何百メートルか進んで木立の北側、あいつらの死角に回ります。でも森を出て野原を渡るときに見られ――」

「けだものどもめ」双眼鏡を覗くカザルゥが嫌悪感を滲ませてつぶやく。

「教授、あいつらがぼくの動きに気づいた素振りがあったら――」

「承知した。行きなさい」

 アキラはその場を離れて森の中を駈ける。まどろっこしい。でもこうするしかない。でないとケヴを人質に取られて詰む。

 イヤプロからカザルゥの声が流れる。

「ウィズメルがおる。いま木立から出てきた。あやつ生きておったか。気をつけろよ、お若いの」

「誰です、それ?」足を止めずにアキラは問う。

「元一等級の冒険者だ。槍か何かの加護を授かっておって、人間離れした動きをしよる」

「見た目は?」

「歩兵将校の蒼い上着で金髪の若い男だ」

 息を整えてから、「位置に着きました。連中、ぼくに気づいてますか?」

「気づとらん。急げ。女性をほとんど裸にして、今――」

「くそが」

 森を出、ダッシュで野原を渡り、姿勢を低く保って木立沿いに動く。SX4のボルトハンドルを引いてリリース。グロックのプレスチェック。エクサリオ語の言い争うような声。カザルゥの低い静かな声。

「あやつらまで、だいたい五〇歩……四〇歩……」

 外縁部の樹木を通してちらちら姿が見える。もう一〇メートルもない。

 が、全員を一気に撃ち倒せる射界が開けていない。

「大丈夫だ、気づいておらん」カザルゥが言う。

 アキラは散弾銃を構えてじりじりと大きな藪を回り込む。

 蒼い上着の男が馬車を指さして怒鳴り散らし、向かい合う兵士が何やら言い返し、そのすぐ手前では、三人の兵士が力なく抵抗する全裸のケヴを羽交い締めにして、股を開かせ、背を向けて立つ一番手前の一人が自分のズボンを下ろそうと――

 アキラは半ケツ野郎の背骨の位置にスラグを撃ち込み、ケヴの片膝を抱え込んでいる兵士の頸部反対側に大輪のピンクミストを咲かせ、羽交い締め野郎の額を狙って外すも次弾が頬の辺りをごっそりえぐり、その頃には反応して向かってきていたもう一人の膝抱え込み野郎に二発撃ち込んで(図らずも)鼠径部をひき肉にし、やはり反応して抜き身のサーベルを手にした言い合い野郎のどてっぱらに特大の風穴を開けて地面に沈める。

 初心者ショットガンナーにしては悪くない成果だが、弾が切れる。アキラがグロック10ミリに持ち替えた隙を突いて、ファッションモデルが霞むほどハンサムな蒼い上着の男、ウィズメルがケヴを後ろから抱きかかえて盾にする。ケヴを引っ張り上げるようにして立ち上がり、その首にナイフを当てて何やら怒鳴る。背の高いハンサム野郎だ。ケヴよりも頭半分高い。

 ウィズメルがリュシナリア語に切り替える。

「マスケットを捨てろ! さもなくば女を殺す」

 アキラは捨てない。

 恐れていた人質シチュエーションだが――

 ――捨てるとゲームオーバー。

 パイが丸々露出しているのもゲームオーバー。

 ケヴの頭部の横にすっかり出ているウィズメルの顔面にドットを重ねて引き金を引く。

 ケヴもろともウィズメルがくずおれる。

 アキラはケヴに駆け寄って助け起こす。先のスラグ射撃による派手な返り血を浴びてどろどろだが、ナイフを当てられていた首筋は無事だ。目につく怪我もない。意識もある。

「大丈夫? ケヴさん?」

「立たせてくれ」ケヴが言う。

 アキラは裸の腰を支えて立たせる。まだ熱がある。肌が燃えるように熱い。

 ケヴがアキラのホルスターからTP9を抜き、右頬を失って痙攣する羽交い締め野郎に銃口を向ける。

「汚ねえ手で人の体をベタベタ触りやがって」

 言いながら、弾が切れるまで羽交い締め野郎を撃つ。人相がわからないほど損壊した頭部が草地に赤い池を作る。空弾倉が二人の足元に落ちる。

「弾」

「へ?」

「弾、入れろ」

 アキラは言われたとおりにする。ケヴがスライドを閉鎖ポジションに戻し、こぼれ出た自分の内臓を女の子座りで抱える半ケツ野郎に同じ処置を施す。股間を押さえて叫び出した膝抱え込み野郎も同じ運命を辿る。9ミリの予備弾倉が尽きたので、言い合い野郎は命乞い虚しく10ミリ弾で頭部を派手に砕かれる。

 ふと見ると、すぐそこにカザルゥがいる。マントを脱いでケヴの肩にかける。

「誰、この爺さん?」ケヴが尋ねる。

「紹介はあと。ケヴさん、ほかにいましたか?」

「こいつらだけ」

「もしかして森の中とかに――」

「いや、よくわらんが五人で生き残る方法をどうこう言い争ってた」

「おっけ。いったん下ろします。テントは?」

「ぶっ壊さたよ」と呻く。「引きずり出されたとき、ナイフか何かで裂いたとこから――」

「新しいの出します。体も拭かないと」

「若いの」横からカザルゥが言う。「水では寒かろう。湯が要る。沸かすのにどれくらいかかるね?」

「一リットルくらいのぬるま湯なら五分で――」

 通知が来る。

〝気温の低下に鑑み〟とかナントカで、湯がアンロック。湯温五〇度。二ガロン入りポリタンクで、同量の安い水より若干割増しの三・五ポイント。

 気温の低下、ね。どうせ見てるんだろう? ファインプレーじゃないか、くそ宇宙人。

「どうした? 何をやっとる?」

「今すぐ」

 アキラは湯と水のポリタンクを数個ずつ出し、湯のポリタンクの中身を四分の一ほど草地に捨て、水を注ぎ込む。ちょっとぬるいが、熱すぎるよりはいいだろう。口から薄くのぼる湯気を見ながら、カザルゥが清潔な布も出せとせっつく。

「それは? 石けんのように見えるが」

「石けんです。こっちはタオルと着替え」

「あとは任せなさい」とカザルゥ。「坊や、馬車に寝床を用意するんだ」

 アキラの視線に浮かぶものを正確に読み取って、カザルゥが不快げに鼻を鳴らす。

「わしゃ医者だぞ。孫娘と変わらん小娘の裸なんぞなんとも思わんわ。看病にも慣れておる」

 ためらうアキラにケヴが血濡れの小さな笑みを投げる。

「銃、貸せよ。このジジイが妙な真似したら殺すから」

「信用してくれて感謝に堪えんね」カザルゥが天を仰ぐ。「地球の坊や、フロレターリ准尉のことが心配でならんのはわかるがね、今すぐ彼女に必要なのは温かい寝床だ。よろしいか?」

「じゃあ……お湯が冷めたら無線で連絡してください」

「いや、それだけあるなら汚れを拭き取るよりも浴びせるほうが早い。冷める前に使い切ってしまうよ。ほら、行きなさい」

 後ろ髪を引かれる思いでアキラはビバーク地点に向かい、無残に破壊された偽装タープとテントを片して仮宿を再建する。


 フガジを発見したのはビバーク地点から一〇〇メートルほど南だ。

 体中の深手がその奮闘を物語っている。

 アキラはフガジのまだほんのり温かい骸を撫でる。手に血がつくのも構わず触手の生えた首を撫で下ろし、薄く開かれたままの出目金を閉じてやる。いなくて寂しいと思う日が来るなんて思いもしなかった。きみが戦ったおかげで、連中の足を止めたおかげで、ぼくはギリギリ間に合った。どうもありがとう。

 シャベルを買って穴を掘り、横たえたフガジの亡骸をたくさんの食べ物で彩る。これでもう二度とお腹を空かせることはないだろう。土をかけているところへカザルゥがやって来る。

 フガジを眺め下ろして、「おまえさんの言っていたペットかね?」

「です。ケヴさんの具合、どうですか?」

「流感、というのがわしの見立てだ」

「教授の薬が効くのにどれくらいかかります?」

「いや、呑ませとらん」

「呑ませてない? あんなに熱が高いのに」

「フロレターリ准尉はすでに地球の薬を呑んだという話だったのでな、薬草茶を飲ませたらどんな結果になるかわからんので――どうしたね?」

 アキラはかぶりを振る。「地球の薬はヤバいんですよ。やめろって言ったのに、なんで呑むかな」

「危険な薬なのか?」

「体質に合わないときは毒になりかねません。教授から見ておかしなところ、ありませんでした? 風邪の症状とは違う部分とか」

「むしろ快方に向かう兆候しかなかったがね。高熱があるのに汗をかかん者はしばしばそのままぽっくりいってしまうが、フロレターリ准尉は大量に発汗しておる。体がちゃんと機能しとる証拠だよ。あれなら明日の朝に元気に起き上がっても不思議ではない」

「ならいいんですけど」

「きみ、いたずらに思い煩うよりは手を動かしなさい。まだやることが残っておろう」

「です、ね。教授、馬車の運転できたりしませんか?」

「できるとも」

「一つ手伝ってほしいことがあって」

 手伝ってほしいことを説明しながら、アキラは土をかけ続ける。盛り土をシャベルの腹でポンポンと均し、短く黙祷を捧げる。

 丁重な埋葬はここまで。

 幾つか買い物をして、厚手の防水布の上に五つの死体を転がし、精神衛生のために別の防水布を被せる。これまた精神衛生のために、毛髪付きの頭皮やら頭蓋骨の破片やら灰色物質などが散乱する一角に防水布を被せてペグで固定しておく。登山ロープで死体載せ防水布を荷台後部に連結する段になると、アキラの手作業を見かねたカザルゥが取って代わる。歩兵技能の基礎の基礎であるロープワークを軍隊で仕込まれたのだそうだ。

 カザルゥの操縦する馬車が人間の徒歩くらいのスピードで進みだす。下を三重にした防水布が摩擦で裂ける徴候はなく、六本のロープを別々に通した円環が引きちぎれる徴候もない。たびたび馬車を停めてもらってチェックしながら、アキラはおニューのガジェットを手に防水布の横を歩く。

 未だ氾濫中のニーミ川に洗われるジグザグ道を半分ほどくだり、水棲や両棲の怪物がいないかと注意しながら濁流の傍まで馬車を寄せて、死体載せ防水布を切り離す。

「これどうぞ」とガジェットを手渡す。

 アキラ自身が対象物になることでガジェットのコンセプトを呑み込んでもらったのち、困惑と驚愕の入り混じった表情を浮かべるカザルゥに言う。

「坂の上から三六〇度を見ててください。特にケヴさんがいるビバークサイトのほう。この辺りにモンスターはいないはずですし、エクサリオ兵の生き残りがいる様子もありませんでしたけど、一応念のため。もし何かそれっぽいのを見つけたら教えてください」

 カザルゥが馬車で離れる。アキラは死体の覆いを取り払う。歩兵装備カテゴリーの救命胴衣を〝半〟首無し死体の腰に装着して、一体ずつ濁流の中へ転がす。水を感知した救命胴衣が炭酸ガスを放出して自動展開すると、アキラは偽装タープの残骸から回収したポールでもって死体を流れの中に押す。両脇の下を浮き輪に支えられた死体が一体、また一体と速い流れにさらわれてゆく。

 死者への敬意に欠けたやり方かもしれないが、輪姦未遂犯どもにそんな上等なものをかけてやる必要を、少なからぬ労力を払って墓を用意してやる必要を、アキラはまったく覚えない。500m制限で救命胴衣が消失する頃には何キロも離れた下流のどこかに流れ着き、魚か怪物の餌になっているだろう。

 ぼくの業の深さは底なしだな、とアキラは思う。この世の地獄を脱出する日が来たら、カルマ銀行の取り立ては苛烈なものになるに違いない。

 そして胃液を吐く。心ゆくまでゲーゲーやってから口をゆすぎ、死体運搬に使用した防水布を一枚残らずデリートして、大丈夫かと心配するカザルゥに大丈夫と返す。大丈夫うんぬんを言うなら、カザルゥ教授こそ電池切れ間近に見える。

 ビバーク地点の樹にハラスを繋いでから、アキラは仮眠を勧める。

「お言葉に甘えようかの。おまえさんは?」

「まだやることがいろいろ」

「わしに手伝えることなら――」

「いえ、休んでください。あっと、その前に、イヤプロ外してもらえます?」

 もっと早くに用意しておくべきだった耳栓型の能動イヤプロ、アクシル社製XコアGen3をISトランクで出す。耳マフ型ほどではないにしろ、音響効果が向上しているとの謳い文句に嘘偽りなしの逸品。カザルゥの耳孔にぴったり合うようにサイズ違いのプラグを幾つか試してもらう。これなら耳マフ型のように就寝時の邪魔にならない。

「このあと銃を撃つ予定なんですが、気にならない程度に小さく聞こえると思います。うるさかったら言ってください」

「今なら、ぎゃんぎゃん夜泣きする赤子の隣でもぐっすり眠れるよ」

 カザルゥが例の芝居がかった一礼をして専用テントの中に消える。

 アキラはもう一つのテントに入り、就寝中の女性に触れるのをためらってから、プラグを何度も交換してケヴの耳孔にXコアを挿す。本体をタップ。外殻を通して緑色の光が点る。

 濡れ髪の寝顔に何か異常はないかとしばし見つめる。汗。快方の兆候。カザルゥの言葉を信じることにしてテントをあとにし、エクサリオ兵の一部が残る草地に大量の土を被せる。

 雨脚がふたたび強まる。

 ほんのいっときのつもりが、半時間ほど雨雲を見上げ続ける。

 鎮静効果は、ある。

 けれどもやっぱり、実際的な物事に心を砕くほうが健康に良さそうだ。

 木立の外縁で受信トレイをひらく。

 ウィズメルの射殺でちょうど総キル数五〇〇に達して、銃身長一〇インチ以下のモデルのSMG(短機関銃)開放。SMG開放によりフルオート機能を持つ拳銃、ホログラフィックサイト、ドットサイトの拡大鏡、マイクロプリズム、破砕手榴弾、閃光衝撃手榴弾、TIカメラがそれぞれ開放。

 それから、SMG開放のボーナスポイントが四〇〇〇。エイブル1の中和ポイントが四〇〇〇、ポイント券が六五〇〇。

 つい先刻、アンロック一段階目では最高品質のTIカメラ(センサー解像度640x480ピクセル、レーザー測距計モジュール付きで三五〇〇ポイント)と諸々を買ったことで、ポイント残高は一万五〇〇〇弱。その他購入予定品――グレードを落とした予備のTIカメラ、カザルゥの衣類や消耗品――があるため実質的な残高は一万前後。

 アキラは下唇を噛む。一万ポイントは自分用のSMGを揃えるには充分以上の予算だが、ケヴの分もとなると少々キツイ。

 10ミリ口径、フルオート機能を持つ軍/法執行機関モデル、メーカーリスト、と画面を進めて、高信頼性・低反動発射機構・グロック型弾倉対応・クマちゃんマップで活躍した度合いを基準に、候補を二つに絞る。SPC10。ヴェクター。

 お高すぎるSPC10は外し、減音器対応モジュラーハンドガードのヴェクターGen3CBRでいく。

 ビバーク地点から数十メートル離れた場所に安物のタープを張って雨除けにし、安物のピクニックテーブルにヴェクターを置く。ストックの調節、ドライファイア、雨でぐしゃぐしゃにならないゴム製の人型標的を一〇メートル先に設置。

 ヘンテコな銃だ。SF戦争映画に出てきそうな外観もさることながら、片手で持ち上げるとフロントヘヴィで扱いにくい印象なのに、構えるとバランス良く両腕の中に収まる。

 撃ちごたえもヘンテコ。

 引き金を引いたアキラの顔に困惑が浮かび、次いで口角に小さな笑みが浮かぶ。

 奇妙な反動。なれどソフト。

 取説を読んだときは半信半疑だったのだが、現実に反動は肩を突かず、下へ逃げていき、かと言って銃の保持にはなんら差し障りなく、銃口の跳ね上がりはあるかなしかのレベル。

 引き金もいい。軽くて滑らかな遊びのあとに明白な〝壁〟が現れ、「そっから先はバンといくぞ」と教えてくれる。より直截的な一段階トリガーを好む者もいるが、アキラは二段階トリガーを甚く気に入る。一段階はどのタイミングでバンといくのか微妙にわかりづらく、ちょっと落ち着かないのだ。

 引き金の短いリセットも手伝って子気味よく撃つ。

 一〇発目で反動の体感が変わり、デッドトリガー。

 判明した原因は、銃でも弾でもなく、自分自身。サポートハンドの自然なポジションは〝ここをつかめ〟と言わんばかりの長いマグウェルで、すると、親指の自然なポジションはボルトリリースのそば。どうやら、うっかり押してボルトを開放ポジションでロックしてしまったらしい。

 同様の操作ミスが何回か続く。サポートハンドの位置をハンドガードに変える。左手はともすると脳の指示を無視してこのSMGを支えやすいマグウェルに吸い寄せられる。

 解決策1:徹底してハンドガードをつかむ癖をつける。左手はとても嫌がっている。

 解決策2:ボルトリリースに触れない癖をつける。親指は〝努力はするが何も約束できない〟と言っている。

 解決策3:垂直フォアグリップ導入。

 うん、やっぱフォアグリップはしっくりこない。でも操作ミスの可能性は消えた。

 三〇連のデカい棒マグを挿す。

 連なる弾の印――フルオート――にセレクターを合わせたことで遊びの消えた引き金を引き絞る。強めのマッサージ機と同程度の振動/反動が優しく肩を揺さぶり、僅か二秒で撃ち切り、標的の胸部中央には重なり合う虫食い穴。

 満足したアキラは照準装置の選定にかかる。

 といっても、ブランドの一つは端から決まっている。

 ホログラフィックサイトの王者、EOテク。NODと併用するつもりはないので、若干割安のNV非対応かつ自分で手入れをするときに脱着が簡単そうなレバー固定式のEXPS2をチョイス。レチクルは周辺光の変化に強い赤色。拡大鏡は同ブランドの定番、G33。

 セットアップの際、これでもう何度目になるのかわからないゲームとリアルの違いにアキラはぶつかる。

 アイリリーフ:完全な鏡内像に必須の、目と接眼レンズの適切な距離。

 アバター経由で調節できなくもないが、手ずから行うほうが早い。マニュアルどおり、このSMGで使用頻度が高いであろう射撃姿勢――膝射と立射――でNPOAドリルを行い、頬骨がストックに載っている位置に防水テープを貼って、毎回必ずその一点に頬を置くストックウェルドの目印にしたあと、拡大鏡をレールの遠い位置に載せ、鏡内像からリング型の影や不鮮明さが消えるまで自分のほうへ引き寄せる。何度か前後させて二重、三重にチェックし、拡大鏡を少し押して一番近いレールの溝に噛ませ、スローレバーを閉じ、NPOAドリルでさらにアイリリーフをチェック。鏡内像がピリッと鮮明になるまでジオプターを調整。アバター経由でホロサイトを装着。ゼロ距離を一〇〇メートルに再設定。

 アキラは標的を二五メートル刻みで階段状に二〇〇メートルまで設置すると、ピクニックテーブルの上に載せたアサルトパックにヴェクターを据えて椅子に座り、ベンチレスト射撃の要領で狙いをつける。

 最初は拡大鏡を横に倒したホロサイトの視野のみで撃つ。

 次は拡大鏡を上げた三倍率視野で撃つ。

 それから、耐水メモ帳と油性ペンを手に雨の中へと踏み出して、標的を一つ一つ点検していく。もちろん、拳銃弾で遠距離の精密射撃など端から期待していない。ほしいのは、どの距離でどの高さを狙えば散弾パターンを描く着弾点の大多数が胸部の辺りに落ち着くのか、という大づかみな着弾落差データだ。

 ベンチレストと標的のあいだを行ったり来たりするうちに、アキラは『SNAFU』の〝射撃場〟が恋しくなる。リアルタイムで着弾点を教えてくれるカメラとモニターと弾道ソフトがほしい。二〇〇メートルくらいなら余裕で着弾点を視認できる四〇倍率のスポッティングスコープがほしい。

 どちらもないので、撃っては歩き、撃っては歩き、穴だらけの標的をちょくちょく取り換え、撃っては歩きを繰り返す。合間合間に周囲に目を光らせて警戒を怠らず、ちょっと足を伸ばしてニーミ川の様子も見に行く。氾濫は収まる気配がない。きっと雨音のおかげだろう、銃声が届くか届かないかの距離にあるジュリエット6からゴブリン偵察班が現れる気配もない。

 弾薬ごとのメモを整理し、ベンチレストを離れ、収集したデータを基に膝射や立射で近くから遠くへと標的を狙う。気づいたときには一発もジャムらずに四〇〇発近く費やしていて、信頼性の確認はとりまOK、パーツの慣らしも充分、とヴェクターをフィールドストリップにかける。

 総評:SMGは使える。

 ケヴ用にヴェクターをもう一挺用意。

 さらなる実験機材も用意。

 試射、データ取集、照準装置関連のゲームとリアルの違いにぶつかったのち、エイブル1夜間襲撃の戦訓を基にヴェクターとグロックで射撃ドリルを行う。

 五メートル間隔で並べた標的と並行に歩きながら足を止めずに撃ち、間隔を広げて配置した標的から標的へと走って止まって撃ってまた走り、間隔も射距離もランダムにした複数標的を膝射で撃ち、立射で撃ち、歩きながら撃ち、走って止まって撃ってまた走る。

 数本目の水をぐびぐびやりながら見回すと、人影が目に入る。ケヴ。ピクニックテーブルに並ぶ実験機材を物珍しそうに眺めている。

 アキラは小走りにタープの下に入る。 

「もう起きて大丈夫なんですか?」

「全快」と目を合わせずに言う。

「Iファクの薬、呑んだって聞きましたけど」

「昨日の昼前、おまえがテント出てすぐな」

「ケヴさぁん」つい責める口調になる。

「薬は薬だろ」

「地球の薬です。あなたが呑んだら――」

「戦女神の加護の薬だぞ。体に悪いわけねえよ」

「あの……マジな話、体調に違和感とかありません? 指が痺れるとか、胸がむかつくとか」

 ひょいと片手を振る。「なんも。ああ、ただ」

「なんです? やっぱ何かあるんですか?」

「いや、ひでぇ酔い方したみたいな状態が続いただけだ」

「言わんこっちゃない。ゼッタイ副作用ですよ、それ」

「心配ねえよ。さっき起きたら頭も体もしゃんとした。でもま、それまでは頭グラグラだったせいで、あのクソ馬鹿どもに不覚を取ったが」

 アキラはケヴの顔を覗き込む。素人目線で心的外傷のサインを探る。閉ざされた窓やドアの隙間から外界を窺うような態度、神経過敏、千ヤードの眼差し――どれもない。頭に寝ぐせがついていることを除けば、いつものカッコイイお姉さんだ。

 やっとまともに目が合う。怒りの色がある。

「書置き、読んだよ」ケヴが言う。「カザルゥから詳しい話も聞いた。万一のときはおまえ独りで逃げる約束だったはずだが?」

「川は氾濫、両サイドは沼」

「隠れるくれーできたはずだ」

「〝やれ〟と神託もあったし」

「不信心小僧が白々しい。神託だろうがなんだろうが――」

 ケヴが急に怒りを引っ込める。

 そしてアキラに向けて指先をちょいちょいと動かす。

「ちょっと来いよ」

「いやです。引っぱたく気でしょ?」

 アキラがかわす暇もなく、蜂のように刺すときのモハメドアリ並みの早業でケヴの手が伸びる。チェストリグをつかまれ、ぐいと引き寄せられ、引っぱたかれる代わりに、抱擁される。イヤプロが首にずり下ろされる。囁くようなケヴの声がアキラの耳をくすぐる。

「世話かけたな」

「あー……世話とか別に」

「いろいろ言ったが、感謝してる。もし捕まっていたら、まともな死に方はできなかったはずだ」

「殺されはしなかったと思いますけど。歩くオーバーテクノロジーなんだし」

「あたしの加護は失われるよ。子守りの役目をまっとうできなくなったときに。そうする意志がなくなったときに。地球の技術をいたずらに流出させようとしたときに。戦女神からそうお達しがあった」

「え、いつ?」

「カセリナに入った日の夜。通知で。別に言うほどのことじゃねえから黙ってたが」

「そう、なんですね」

 顎先が軽く埋もれている胸の谷間の感触に心臓がおかしなビートを刻みだす。ぴったり密着しているときには集まってほしくない場所に血が集まりだす。アキラは少し身をよじる。ケヴの抱擁が強まる。

「連発マスケット襲撃犯との関係、逃亡幇助、スパイ容疑、技術的利用価値皆無、第七王女の復讐に燃える有象無象。一〇〇パー確実に〝どうか殺してくれ〟と懇願するような目に遭っていたよ。もしさっさとナイフを心臓に突き込まれるのなら、そいつを一世一代の慈悲と呼ぶような目に」

 本能の雄叫びが静まる。

「気に入らないですね」

「何が?」

「だって、そういうときこそ地球の装備が必要でしょう? なのに取り上げるなんて、使えなくなったらポイ捨ての消耗品みたいな扱いじゃん」

「条件付きの加護は別に珍しい話じゃねえよ、不信心小僧。帝国軍の部下にもそういうやつがいた。軍隊くらいしか行き場のない力自慢のろくでなしなのに、いやに面倒見がいいんだよ、そいつ。巷の評判も良くて、〝これこれこういう風貌のぶっきらぼうだけどお優しい兵隊さんにこれを〟みたいに文やら差し入れやらが毎週のように届くんだ。あまりにも印象が乖離していて、興味半分に本人に訊いたら、加護を授かって何年かしたあと、神が夢枕に立って言ったそうだ。〝授けた加護でおまえが何をしようと構わんが、無力な者や弱者に手を差し伸べる器量を見せないのであれば取り上げる〟と。〝加護を取り上げられたくない、でもノルマがわからん〟と困ったそいつは、手当たり次第に人を助けることにしたんだと。最後には評判を聞きつけた教会にスカウトされて除隊したよ」

「言いたいことはわかりましたけど、でもやっぱり気に入らない」

「あたしはおまえのオマケみたいなもんだ。妥当だよ。なあ」

「はい?」

「もう一つ礼を言っとく。おまえのおかげで、あのクソ馬鹿どもに汚ねえモンを突っ込まれずに済んだ」

 ケヴの抱擁がさらに強まる。

「あの……大丈夫ですか?」

「大丈夫。いま思い出しても怒りが湧いてくるけど」

 あの光景を思い出すと、ぼくも怒りが湧いてくる。

「あいつら、ガチの馬鹿なんですか? 仲間が全滅したあとだってのに、何考えて……」

「自暴自棄になった兵隊なんてあんなもんさ」

 二人とも無言になる。

 今や完全に顎先が埋もれている柔肌に意識を乗っ取られて、アキラは生唾を呑む。鼓動がうるさい。鼓動しか聞こえない。そして度を失うあまり別にいま口にしなくてもいいようなことを口にする。

「PDA見ました? ケヴさんの装備、あいつらから回収して自動メンテ済み。破かれた服なんかはデリートしました。ほかはぜんぶ無事。まだチェックしていないのならあとで見ておいてください。それと――」

「えれー早口じゃん」

「その、離してくれません?」

 離してくれる様子はない。

「どう思います、教授のこと?」

「〝どう〟って?」

「助けろって通知が来たんで助けたんですけど、こう、印象とか」

「エロじじいじゃないのは確かだな。おかしなところもねえし。腹に一物あるやつは目を見りゃわかる。なあ、いつの間にかフガジとの繋がりが切れてたんだが、やっぱ殺されたのか?」

「はい。ケヴさんを護ろうとした跡がありました」

「残念だな。不思議とあいつのことが可愛く思えてきてたのに」

「ぼくもです。お墓、ていうほど立派なもんじゃないですけど、ちゃんと埋めてあります」

「あとで場所、教えてくれ。あいさつしてくる」

 また無言の時間が流れる。

「あー、カエリテ王女と顔見知りだったりします?」

「それ、本気で知りたいの?」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「落ち着かねえって感じだな」

「ぶっちゃけ、とても。ハグで感謝とか、慣れてないんです」

 くっくっ、とケヴが喉の奥で笑う。

 アキラの左腕でPDAがヴーヴー振動する。

「メッセ来たんですが」

「あたしもだ」

 抱擁が解かれる。

 自分のPDAをタップしながらケヴが尋ねる。

「なんだって?」

「家具がアンロック。イミフなんですけど。ケヴさんは?」

「同じ」

 大カテゴリーに〝Furniture〟が増え、その小カテゴリーは〝Tub〟と〝Washbasin〟の二つ。最初のリストに並ぶのは素材と形状がいろいろある浴槽。エリンス工房、ヴィガ&メック家具製作所、シェラジ工房……。なんじゃこりゃ? カタログスペックを出す。どれも実在する異世界製品らしい。故に、500m制限の対象外とある。

 くそ宇宙人のファインプレー第二弾、とアキラは思う。

 しかし価格帯は、木製の折り畳み式で三万ポイントから。銅製の脚付きで二〇万ポイントから。

「たっか。何これ?」

 ショックに顔を歪めるアキラに、ケヴが確認する。

「気になってたんだが、〝高い、安い、フツー〟といったおまえのこれまでの発言からして、装備はどれも地球の市場価格に、ポイントは地球の通貨価値に、それぞれ対応してる。合ってるか?」

「え? ああ、はい。合ってます」

「地球の勤め人の稼ぎをポイントで言うと?」

「一口にはなんとも。幅があるし、詳しいわけじゃないし」

「だいたいでいい。稼いでるやつの年収は?」

「七万から……一〇万ポイントくらい? たぶん」

「その地球基準をそっくり当てはめていいのかどうかは脇に置いとくとして、単純にこっちの高給取りと同等と看做すなら、リストにあるバスタブ、ユーエリカ大陸の相場と変わんねえよ」

「嘘でしょ? こんなにするんですか?」

「需要と供給」とケヴ。「ごく一部の人間しか利用も所有もできない一点ものとくりゃそうなる。あたしの知る限り、毎日たっぷりとした湯で入浴なんてのは大物貴族やガチの資産家くらいのもんだよ。大量の水を買ったり汲んだり湯を沸かしたりとなると、手間もカネもかかる。庶民にゃムリだ」

「じゃあ基本、ざぶんと浸かるお風呂はない?」

「ねえな。入浴っつったら、足首が浸かるくらいの水盤に鍋一杯か二杯の水や湯を張って、石けんとタオルで体をゴシゴシ。夏場で人気がなければ川で水浴びもするが。地球じゃどうやってんの?」

 ごく一般的な地球式入浴方法を説明されたケヴが呆れた風に首を振る。

「湯を雨みたいに降らせるご大層な仕掛けとはね。しかも好きなときにいくらでも湯に浸かれるとか、こっちの上流階級より贅沢してんな」

「お金持ちも体ゴシゴシ?」

「帝国で同僚だった貴族連中によると、週の半分以上はそうらしいぜ」

 アキラはもう一方のリストを出してケヴに尋ねる。

「この〝洗面器〟が体ゴシゴシ用の水盤?」

「そ」

 水盤のほうは比較的安価だ。陶器製や銅製はちょっと手が出せないが、木製のものなら手が届く。なるべく大きなものを探してリストをスクロールする。発見。差し渡し一メートル。深さ三〇センチ。中に座れるゆったりサイズで洗濯も可能と謳っている。地球でこんな木のたらいに五万円の値札がぶら下がっていたら鼻で笑うところだが、この世の地獄にいるアキラは倍の値段でも惜しくないと思う。

「ギリ腰湯って感じですけど、いけると思いません? 湯がアンロックしたの見ました?」

「見た。さすが戦女神」

「では、こんなクソみたいなロケーションではありますが、お金持ちより贅沢しましょうか」

「人生何が起こるかわかんねえな」

 汚れた湯に浸かるのはイヤなので、外で体を流す用途に小さな水盤も合わせて購入する。

「すぐ入ります?」 

「いや、あとでいい。それより――」ピクニックテーブルに顎をしゃくる。「これは?」

「新しい玩具。サブガン。今朝アンロックしました」

「サブガンて?」

「SMGのこと」

「二挺あるけど、あたしのも?」

「もちろん」

「使い方、教えろよ」

 懇切丁寧に教えたいのは山々なのだが、C9H13Nが中枢神経にかけていた魔法が本格的に解けてきて、アキラは虚脱感を覚える。ウルヴァリンの持続効果は約一二時間。それを二時間ほど超過して(しかもほとんど徹夜の身で)活動過多モードが続いていたしわ寄せが大波のように来ている。

「すみません。ちょっと疲れちゃったので、今は――」

「無理すんな。休んでからでいい」

「いえ、マニュアルに載ってない部分だけざっと。日が落ちるまでケヴさんも効率的に練習できるし」

 アキラは増えたマニュアルをすべてコピーし、ケヴのPDAに送信する。

「メモなしでいけます?」

「辞書一冊ぶんの情報量をまくし立てるっていうんじゃなければ」

「せいぜい半ページ分です。まず、サブガンを用意した意図なんですが――」

 アキラは一五メートル標的を設置して、これを至近距離にせまったデカブツ四本脚だと思ってほしいとケヴに言い、射撃ラインに下がり、単射で何発か撃ってからフルオートを実演する。

「穴がちょい上下に踊ってるけど、タイトにまとまってんな」標的をチェックしたケヴが言う。

「こんな風に頭に全弾命中したら、半分吹き飛ぶか、中身がぐちゃぐちゃになって即死するかも。即死しなくても怯んで、もう一秒か二秒、攻撃の時間を稼げるかも」

「スラグよりこっちのがいい感じか?」

「そこはなんとも。結局、ショットプレイスメント次第ですから。デカブツが突っ込んでくる一秒未満に、ケヴさんがスラグを正確に一発か二発叩き込めるのなら、断然スラグ。もっと正確に10ミリを一〇発以上叩き込めるのなら、10ミリのがいいし。選択肢が増えるって意味ではアリでしょ?」

「うん。アリだな」

「注意してほしいのは、いま想定したみたいな状況を除いて、フルオートは基本、使わないです」

 なぜなら――(1)連続して揺れ動く銃身が命中率と精度を悪化させ、(2)指でコントロールした短い連射であっても必要以上に弾薬を消費し、そして何より(3)単射とは桁違いの早さで発砲の熱が蓄積されて銃がオーバーヒートしてしまう。

 オーバーヒートした銃は、排莢不良やパーツ劣化加速の温床。

「おそらく地球で最もサブガンを実戦で使ってるSWA――えと、警備隊みたいな人たちも、セミ以外で撃つことはほぼほぼないそうです。ケヴさんがフルオートの練習するとき、面白いからってマグダンプしないように気をつけてください。フルオートでやるとクックオフするかも」

 マグダンプ:間断なしに弾倉を次々と空にする撃ち方。

 クックオフ:異常加熱した薬室に装填された実包が勝手にバンといくマルファンクション。

「目安は?」

「数分間に数百発。気温と銃と弾によりけり。もしフルオートでマグを三、四個空にしたら、薬室を空にして、こんな風にボルトを開いた状態で冷却。どんなに熱くても水はかけないで。サブガンの『射撃ガイド』に銃身が曲がるリスクがあるって書いてありました」

「グロックもすんの? クックオフ」

「ゲーム友達の話だと、セミオート・ピストルでは不可能に近いそうです。意図的にクックオフを起こそうとしても、その前に持てないくらい熱くなるか、ポリマーが溶けるんじゃないかって。じゃあ次。オプティク」

 タープの下に戻ると、アキラはヴェクターからEOテクを外し、ほかの照準装置と一緒にピクニックテーブルに並べる。一つは、自動散弾銃から取り外したエイムポイントRDSと、同社の拡大鏡にしては安価な3XCのコンボ。もう一つは、マイクロプリズム(固定低倍率小型スコープ)分野の暫定覇者、プライマリアームズ製の二倍率SLx。

 ケヴにそれぞれを覗いてもらいながら説明する。

 ホロサイト:窓が広く、レンズが割れても汚れても無事な部分にレチクルが映っている限り機能し続ける。拡大鏡併用時、三倍率の鏡内像の中でレチクルのサイズは一倍率のまま。どちらかというと照準速度よりも照準精度を重視したデザイン。

 リフレクスサイト:窓が狭く、レンズが割れたら終わり。拡大鏡併用時、三倍率の鏡内像と共にドットも三倍率。ドットのサイズが小さなモデルなら特に支障なし。どちらかというと照準精度よりも照準速度を重視したデザイン。

 マイクロプリズム:レチクルがレンズに埋め込まれているため機械的故障や電池切れの心配無用。近距離照準の速度はドットサイトより下。遠距離照準の精度はドットサイトより上。ホロサイトやリフレクスサイトに比して照準時のレチクルの位置がシビア。

「シビアってどういう風に?」

「こう、レッドドットで遠くを狙うとき、ドットが窓の中央からズレすぎてると弾が外れるじゃないですか。プリズムはそれがもっと顕著。撃った感じ、徹底したNPOAでレチクルを中央に据えないと、着弾がドットサイトよりも派手にズレるかミスるかの二つに一つ」

「ホロサイトも?」

「いや、それが面白くて。ぼくもリアルで使って初めて知ったんですけど、ホロサイトはズレとかお構いなしなんですよ。窓の際でも四隅でも、レチクルが標的と重なっていれば、どこでも当たります」

「へえぇ。なんでそんなに違う?」

「ややこしい質問は専門家にどうぞ。マニュアル読んでもレンズの反射方法が違うってことしかわかんなかったし」

「おまえ的にはどれが一番?」

「自分でも意外なんですけど、これ」

 と、マイクロプリズムを指さす。三種の中では一番お安い。

「意外って何が?」

「ゲームで使ったときはあんまし良くなかったんです。固定倍率だから近くのターゲットをぱっと捉えるのがムズくて。でもリアルだとぜんぜん。目の使い方にコツがあって……ていうか、口で言うより実際にやってもらったほうが早いですね。SLxを目元で構えて、両目を開けた状態であの標的を見てください。右目の視線をスコープに据えたまま左目でものを見るように意識を移して……どうですか?」

「あー……なる、ほど? スコープの視野が左目に重なった」

「その重なった視野なら近いターゲットをドットサイトみたく撃てます」

「理屈はわかったけど、これ、ぱっとできなくね?」

「何回もやってるうちに体が覚えますよ。慣れたら視野の切り替えは一瞬。好みもありますし、ぜんぶ試して使いやすいの選んでください。なんならグロックのアクロを外してサブガンに付けてもいいし。あとは……なんだっけ……マグ」

 10ミリ三〇連弾倉の本格導入にあたり、グロックOEM弾倉プラスB&T弾倉拡張キットよりも遥かに安くつく外部製品のトライアル結果をアキラは披露する。

 ピクニックテーブルに落としただけでばらばらに崩壊したり、こめた弾がカラカラかちゃかちゃ音を立てたりするほど作りが甘い製品も少なくない中、最も頑丈でマルファンクションが少なかったのは、SGMタクティカル社のグロック型三〇連弾倉。

 トライアルを進めながら徐々に買い足した二〇個のうち、ヴェクターとグロック双方の調子を狂わせたのは一個。その欠陥個体には白いダクトテープをひと巻きして脇によけてある。

「テープなしの一九個は今のところ大丈夫。もしジャムったら、テープを巻いて取り除けてください。ぼくとケヴさんでダブルチェックして、いけそうなら、マグの半分はSGM製に切り替えちゃうつもり」

「なんで半分?」

 三〇連弾倉の重量も問題だが――アバターを使って計測したところフルロード時で約六五〇グラム――、予備の一部を戦闘ベルトで携帯するには長すぎるのだ。チェストリグに食い込んで動きを阻害する上、抜きにくい。必然的に戦闘ベルトには一五連OEM弾倉。三〇連弾倉の携帯はチェストリグのみ。

 拡張弾倉用TACOポーチをケヴに進呈してから、アキラは最後に、新装備の目玉を取り上げる。

 TIカメラ。名称こそ〝カメラ〟だが、実際はセンサーだ。購入の際、ライカ製品とパルサー製品、どちらにしようか迷い、決め手になったのはズーム機能。前者はデジタルズーム。後者は手動ズーム。操作はより簡便で直感的に行えるほうがいい。というわけで、アキラが選んだのはパルサーXG35。

「はい」とケヴに手渡す。

「これは?」

「サーマルといって……えーと、使えばわかります。こっちが対物レンズで、こっちが接眼レンズ。望遠鏡みたいに構えてぼくを見て」

 ケヴが眉をひそめてTIカメラを片目に当て、アキラに向ける。すぐ下ろし、また目に当てる。地球の技術に慣れっこになったケヴといえど、先ほどのカザルゥと同様の困惑が浮かんでいる。

「おまえの顔とか首、赤と黄色になってる。ほかは青と紫。ナニコレ?」

「熱を見る機械。強い熱源が温かい色、それ以外は冷たい色。ちょっといいですか?」

 本体上部に並ぶボタンの役割を説明し、メニューからパレットアイコンを選ぶようケヴに言う。

「パレットってわかります?」

 ケヴが冷ややかな流し目をちらりとアキラに投げる。

「この世界にも絵描きはいるし、お絵描きの道具もある。尻尾つきの丸いアイコンだな?」

「それ。パレットを選択してメニューボタンを押したら、サーマルパレットが出ます」

「サーマルパレットとは?」

「熱の表現方法の種類。どれか適当に選んで、メニューボタンで決定」

「お、白黒んなった。おまえは白で、背景は黒っぽい」

「ホワイトホットですね。熱い物体は明るいグラデーション、冷たい物体は暗いグラデーション。サーマルの真価は――ケヴさん、ぼくの動きをサーマルで追って」

 下生えの中へ移動するアキラを、怪訝そうな顔のケヴがTIカメラで追う。口が〝O〟の字になる。TIカメラを目から離し、当て直す。タープに戻ったアキラに言う。

「藪の中のおまえが見えた。白い影絵だけど。なんで?」

「短い答えとちょっとテクニカルな答え」

「短いほう」

「サーマルは赤外線だけ感知するから」

「なるほどな。さっぱり意味がわかんね。テクニカルなほうは?」

「受け売りなので細かいことは突っ込まないでくださいよ?」

「いいから言えよ」

「動植物とか石とか土とか水とか、あらゆる物体は赤外線を放射してます。燃えてたり体温があったり陽射しで温まったりだと、たくさん。凍ってたり体温がなかったり日陰で冷えたりだと、逆。そういういろんな物体のいろんなレベルの赤外線をサーマルは感知して、その多寡が示す温度差を機械的に視覚化しているんですが、感知と視覚化のプロセスには、ぼくらが普段肉眼で見ている物体に反射した可視光線は含まれていません。従って、薄い茂みくらいなら、その向こう側の熱源が見えるそうです。同じ理由で、昼夜関係なくものが見えます」

「地球はまじイカれてんな」

「要はサーマルを使うと――」

「――化けモンを見つけやすい」とケヴが引き取る。

「ただ、制限もあって」

 アキラは手近な樹の幹に隠れる。

「見えないでしょ? この環境だと……森の奥とか、何重にも重なった深い茂みの中にいる熱源も見えません。遠い対象物の特徴もわかりにくいです。似たようなサイズと形と動きのモンスターが何種類かいたら、どれがどだれだか特定不可能。倍率を上げると一定の距離まではおよそのディティールを把握できますけど」

「倍率の上げ方は?」

 アキラは横から手を伸ばす。「前から二番めのこれが倍率リング。レンズはデフォで二・五倍。その倍数で上下。ただちょっと、このリング固くて。汗とか雨で指が滑るかも。一番前は焦点リング」

 好みに合った設定変更や何かしらの事情で見づらくなったときのために、光度やコントラストの調節方法も教える。レーザー測距計や画面隅の傾斜計に説明が及ぶと、ケヴの顔の中で困惑がぶり返す。

「こいつの熱源の感知距離は一・七キロ。熱源の形がくっきりわかる距離は半分から三分の一。細部の把握は最高に条件が良くてさらにその半分。遠ければ遠いほど、生き物と焚き火の違いすらわからなくなります。今は土砂降りに近いし、パフォーマンスは二〇パーか三〇パー、割引いて考えてください。晴れならもっとクリアに見えますよ」

「そこんとこ詳しく」

「空気中に水の粒子がたくさんあるとき、赤外線が遮られるんです。さっきみたく、樹の後ろの熱源が手前のしっかりした物体に遮られて見えなくなるのと一緒。サーマルは液体もダメです。滝の裏側や水中にいる相手。そういうのは感知できません。パレット、八種類の中から見やすいの選んで」

「どれが一番いい?」

「状況と好みによりけり。スタンダードはブラックホット。周辺環境を一番把握しやすいです。で、ホワイトホットとローテ。ブラックホットのときは気づかなかった遠い熱源を、ホワイトホットでは秒で気づけたり」

「名前からして、ブラックホットはホワイトホットの逆?」

「逆。熱い物体が黒。冷たい物体が白」

「毒ヘビみたいのはどうなんだ? あいつら周りに合わせて体温変わるぞ」

「最初のパレットの、レインボーならいけるかも。コンマ以下の温度差でも暖色と寒色のコントラストでぱっとわかるはず」

「レインボーね」

「この世界、蛇いるんですか?」アキラは異世界で蛇を見たことがない。

「いるよ。細くてにょろにょろした生き物。日本語的にヘビだろ?」

「聞いた感じ、蛇っぽいですね」

「にしてもこれ……索敵の概念がすっかり変わっちまうぞ」

 TIカメラに夢中のケヴに、グレードを落とした予備、XQ35も試してもらう。

「こっちはなんか……絵がぼやけてんな」

「センサーの解像度が半分ですから。でも一・三キロ以内の熱源を見つける用途には間に合います。サーマル高いんですよ。ぜんぶハイエンドで揃えるのはちょっと無理」

「いや、充分に使えるよ」

「あとこれ」

 アキラは数枚のメモを差し出す。

 その一枚にはこう書かれている。


   KRISS Vector、9in Barrel、100m ZERO

   Woodsman 145gr

   ~125m    Chest

   150m     Neck

   175m     Face:eye level

   200m     Top of Head


「ぼくが採ったデータ。これを基準に撃ってダブルチェックお願いします」

「りょ」ケヴがメモを繰る。「HCFNは?」

「ウッズマンの一〇〇メートル・ゼロで撃つとドロップがややこしくて。それにぼくら、HCFNぜんぜん使ってないし。似たような貫通力でデカい穴を開けるスラグがあるし。HCFNは、超接近戦の保険の保険にマグを一個か二個持っとくだけでいいかなと。気になるなら一応、メモありますよ」

 ケヴがHCFN用のメモを受け取り、すぐにアキラに返す。ゼロ距離の中間ではかなり低く狙い、遠くは高く狙い、とミスを誘発しかねない上下の調整をお気に召さなかったようだ。

「二〇〇メートル、グロックじゃ割といけたけど、こいつは?」

「めっちゃ余裕。トルソーショットならわけないです」

 ただし無風状態か、風が弱いときに限られる。

「フツーに吹き始めたらもうダメですね。風が出てからS4G試したんですけど、ピストルの弾で対応できるのはいいとこ一五〇メートル。二〇〇は厳しいです。そういえば、ケヴさん、風を読めたりします? ハンティングの経験とかで」

 読めないそうだ。

 マスケット銃もクロスボウも横風が問題になる距離で獲物を狙うことはまずないらしい。

「試したこともねえよ」とケヴ。「加護持ちの弓兵は感覚的にわかるらしいが」

「じゃあこれ」

 アキラは新たなメモを渡す。『SNAFU』で習い覚えた風速指標だ。

「ライフルをアンロックしたら必須の技術になるので、今のうちに練習しておいてください」

 ケヴが指標に目を走らせる。「けっこう大雑把だな。おまえは読めんの、風?」

「ゲームでは」

「現実では?」

 現実世界の風ときたら……

 現実世界の風は遥かに複雑で、遥かに情報量が多くて、遥かに曖昧模糊としていて……

「練習中」とアキラは答える。

 そして、キル数はずるをできないので留意してほしいとケヴに告げる。

 SMG未開放のケヴがSMGでキルした場合、総キル数には反映されるが、銃種別のキル数としてはカウントされず、自身で開放するまで、SMG個別のアンロックが停滞する。

「生きるか死ぬかでそんなこと気にしてらんねえだろ。なんかマズい?」

「サブガンでは特に。アサルトライフル開放のあとは割と深刻。フローチャート、見て。口径やアクセサリーのアンロック条件がどんどん厳しくなっていくでしょ? 未開放の銃を使ってばかりだと、はぐれるとかして自分一人でどうにかしなきゃいけなくなったとき、どうにもなりません。アンロックの足並みが揃うように、ぼくはしばらくサポートに回ります」

「りょ」

「説明は以上」

「なら休んでこい。げっそりしてるぞ」

 アキラはピクニックテーブルに予備のPDAを置き、後ろ歩きしながら言う。

「お風呂入るときに使ってください」

「わあったから行け」

「あ」と足を止める。「サブガンに付けるのは二点スリング。一点スリングはやめたほうがいいです」

「理由は?」

 武器移行ドリルの折、手を離したSMGはすとんとぶら下がらず、振り子運動の勢いを伴って必ずと言っていいほど股間を直撃したのだ。苦痛のあまり息を呑まされたのは一度や二度ではない。

 ケヴがにやつく。

「男は大変だな」視線が下がる。「性欲もろくにコントロールできねえようだし」

「理性の完全なる制御下に置いてますけど?」

「さっきハグしたとき、あたしが気づいていないと思ったか?」

 頬がかっと熱くなり、目を逸らす。

「なんの話かさっぱり」とアキラは逃げるようにその場を離れる。


 一四時間後に叩き起こされたアキラは、ニーミ川の対岸に小人の姿があったと告げられる。さんざん響かせた銃声や、橋を渡れる程度に水位が下がったことで、この安全地帯はもう安全地帯ではない、と。

「今後は伍長が馬車の操縦を担当し、あたしとおまえは周辺警戒と攻撃を受け持つ。交戦時の動きはすべて教えてある。今朝、馬車で軽く演習もした。ちなみに、教授の詳しい経歴、聞いてないか?」

「元冒険者で元兵隊さんってことだけ」と救命毛布を脇にどける。「〝伍長〟って教授のこと?」

「ああ。実際は〝分隊指揮補佐技能資格者〟みたいな言葉だが、日本語的には伍長。本人があたしに漏らしたのはそれだけだ。どこの国のどんな部隊で何をしていたのかは、もう古い話だからって笑ってかわされたよ」

「何か気になることでも?」

「あの爺さん、只者じゃねえぞ。装備を見ればわかる。徹底的に効率化と合理化が図られていて、手入れがカンペキだ。老人特有のズボラで偏屈なところもない。演習のときなんか、一つ一つに集中しながら、視野を広く保ってた。生半可な精鋭よりもよっぽどしっかりしてるよ。アルマ=クフがおまえに助けさせただけある」

「大絶賛じゃないですか。いや実際、自分のしていることをわかってる人って感じですけど」

「追い追い機会を見て聞き出そうぜ。すげぇ気になる」

「教授は今どうしてるんです?」

「見張りを買って出てくれた」ケヴがテントの外に出ながら言う。「こいつとタープを撤収して、軽く腹に入れたら、出るぞ」

 アキラは簡易広域マップにちらりと視線を落とす。

 ジュリエット6、ホテル3、ゴルフ1、ジュリエット7……

「今日も忙しくなりそうですね」






次回更新は約2か月後です

皆さん、よいお年を

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