表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8.


 あの世てのはずいぶん狭いんだな。

 いや。


 右見て。

 左見て。

 じっと手を見る。

「おれ、いきてる、のか」

 密閉空間だ。光源は不明だが仄かに明るい。

 天井も低い、異様に。

 それが、そうしている内に眼の前で、開いた。

 立ち上がる、見下ろす。

 棺桶と大差ないスペースに押し込められていたことが判る。

 部屋の扉が開いて。

「気が付いたか」

 話掛けてきたのは大男の、トカゲ男だった。

 慌てて自分の姿を見下ろす。

 すっぽんぽんだ。パンツ1枚、ない。

「ここは、風呂場なのか」

 それがファースト・コンタクトの第1声になった。

 男は軽く、笑う、素振り。

「肝があるな。いいぞ」

 孝憲も、何となく事情が飲み込めて来た。

「このまま、喋っていいのかな」

「ああ、おれの声、判るな?1、2、3、4、5」

 声に応じて、孝憲は指を開いて折ってみせる。

「ふん、大丈夫だろう」

 だから、孝憲は名乗った。

「日本国、防衛軍所属、三尉、江嶋孝憲」

「ベイファス宇宙軍、緊急展開派遣第2群、司令、ダスイナス・バイドベイン」

「うわ、偉いさんじゃないですか。尉官ふぜいとタメでいいの?」

「本当に面白いヤツだな。口でいいながら敬意は抜きか」

 地球外知的生命体とそのまま漫談を続けそうになり、孝憲は自身を叱りつける。

 そうじゃないだろ、おれ。

「佳南は!彼女は収容したのか?!」

 バイドベインは凶相をさらに歪めてみせる。苦笑しているらしい。

「えらい剣幕だな。どっちが捕虜か判らんじゃないか。いるよ、隣にな。じきに連れて来る」

「そうか」

 ほ。吐息を漏らす孝憲に。

「あれは、おまえの何だ」

 バイドベインが静かに訊いた。

「なに、って」

 孝憲は言葉を濁す。恋人、っていって通じるのか。それとも。

 だが、バイドベインが何気なく放った言葉ははるかに衝撃的だった。

「そうか、サルが趣味か」

「……あ?」

 機能不全か。理解出来なかった。冗談、とも。

「サルでなければイヌか。何でもいいが、外道趣味か」

 少しずつ、ようやく少しずつ。トカゲ男の言葉の意味が通ってきた。

「彼女が?!」

「そうだが」

 ぐにゃりと視界が歪んだ。そのままへたり込んだ。

 かち割られた頭部から脳みそが垂れて来て視界を白く隠している様な気分だった。

 バイドベインは冷静に続ける。

「例えばそうだな、彼女の“水かき”を見たことはあるか。

 指の水かき。進化の残滓。

「無いだろう?無いはずだ。指の自由が増すと楽になる局面はあるな。演奏、操縦、格闘とか。覚えは」

 ある。

 そして追い討ち。

「ああ、それとシッポがないな、盲腸も。お前さんはどっちもあるな。何れも切除の形跡はないそうだが」

 足元の闇を見据え、孝憲は何か叫びかけ、しかし枯れた声で、いった。

「彼女は、知っているのか」

「知ったはずだ」

 そうか。孝憲はゆっくりと立ち上がり、バイドベインを見上げた。

「彼女と、会いたい、会わせてくれないか」

 倉庫を急に片付けたような、少し狭い何も無い部屋に二人は通された。

 今はもう素っ裸ではなかった。太古の貫頭衣のような服装を与えられている。

 部屋の片隅に箱が置いてあり、ベンチの様なそこに二人は並んで腰掛けた。

 どちらもなかなか口を開けずにいたが、先に沈黙を耐えられなかったのはやはり佳南の方だった。

「ね、孝憲、知ってる? 」

 調子っ外れの明るい声で佳南は話始めた。

「私ってね、産まれてまだ2ヶ月なんだって。2ヶ月でこれだけ話して歌って踊れるのってすごいと思わない」

「それは。」

 口を開く孝憲を無視して。

「あ、肉体年齢はきっちり16だけどね。でもどうせならもうちょい若くても、ねぇ」

 孝憲は不自然にならない程度に、体を傾けた。

 佳南の顔を、眼を、今は見たくなかった。

「だから、だ、だぁら、わた、たし」

 黙って、その頭を膝に抱え込んだ。

「言うな」

「た、か、の、り、ぃ、ぃ」

「佳南」

「わたし、にんげんじゃなかったんだよ? 」

 江嶋は佳南の顔を見つめ、言う。

「良かったじゃないか」

「……え、え??」

 江嶋は視線を逸らし、吐き捨てる。

「人間なんてロクなもんじゃない。君の様な存在を造り出しては使い捨て、だ。姉さんか妹さんもそうだったんだろ、甲号もろとも」

「……それは……でも」

 江嶋は再び佳南と視線を絡め、訊く。おれでいいのか、と。

 それもプログラムじゃないのかという胸中の痛ましさは押し殺しつつ。

 そんな江嶋のわだかまりを見透かすが如く、佳南は表情を整える。

「しょうーがないけど信用ないなー。私にだって自由意志くらいあるんだよホントだよ?。既定約定の範囲でしか行動不可能な生体ユニットなんかだったら電子機械の方がまだマシだって」生体ユニット。自ら言い切ってみせた。

「わたしは、ホラ、だいじょうぶだから」

 すいと立ち上がり、バレリーナの様に片足爪先立ちでくるりと優雅に回ってみせる。

「ね。こういうふうに、出来てるの」

 なるほど、人間なんかじゃないなと江嶋は妙に得心した顔で彼女に向かい、頷く。

 凡てを赦し、受け容れる。もし天使が存在するなら、こんな感じなんじゃないか。

 あーそろそろいいかな。どういう表情なのかはいまいち不明だがトカゲ男入室。

「有難う、バイドベイン」

 江嶋は素直に頭を垂れ、はっと顔を上げる。

「ああ!今のは地球の、日本でのローカルな」

 判ったわかったというようにトカゲ男は長い舌を出し入れしてみせる。

「ばいどべいん、さん?」

 佳南の呼びかけに何だ嬢ちゃんと気さくに応え。

「わたしを……人間にして下さい!!」

 ぶ、と江嶋は噴き出す。

 佳南おい何を言い出……。

「それはまあ、出来ない相談じゃねぇけどな」とくにもったいもつけず、バイドベインあっさり首肯。

 それみ、え。

「で、きるの、か?!」

 トカゲ男はまた、わらった、ように見えた。

「半分はおれの趣味みたいなもんだが、ウチの所帯はけっこうカオティックでね。軍医もそれに適したのを頼んでる。確か前にも種族転換みたいなムチャをやって成功させた記憶があるんでな、亜種間同士なら造作もないと思うが」

 が?。なんだ。やはり悪魔の取引か、魂をよこせの類の。

「記憶が無くなる。脳も作り替えるから当然なんだが。それでもいいか」

 佳南は少しだけ戸惑い、しかし決然と頷く。江嶋を見据え。

「貴方の子供が欲しい。だめ?」

「君がそれを望むなら、もちろん、よろこんで」

 ノータイム、正面から受け止めた。力強く、返答。

 バイドベインはしばし宙をにらんでぶつぶつ唱えていたが、向き直ると。

「二月、こじれたら半年コース、だそうな」

 告げた。

「どうする?」

 今度も佳南の言葉は早かった。

「今から、おねがいします」

 バイドベインはちらりと江嶋を見る。

「いいのか」

 江嶋は佳南を、見た。

 思えば。彼女と出合ってまだ3日、なのか。

 彼女が呼び出されたカーリーであるなら。

 おれこそが捧げられた供物であるのやもしれんな。

 それでも、それで済むのなら全くかまわないが。

「ああ」

 バイドベインは素早く舌を出し入れしてみせ。

 部下らしき者が、す、と佳南の手を引いた。

 佳南は背中越しに一度だけ手を振ってみせた。

 バイ、バイ。

 またね。

 少し、待ってて。

 あなたのこと、信じてる。だから。

 扉の向こうに、消えた。

 バイドベインも束の間、それを見送っていたが。

「さて、と」

 江嶋も身構える。

 そう、おれたちをわざわざ生かした理由、だ。

「一つ、頼みがある。なに、そうたいした用事じゃない」

 ようやくトカゲ男が本命に触れ、高級軍官僚めいた言葉を使い始めた。

 もちろん命令だ。基本的に拒否出来る立場ではない。

「その前にそうだな、知りたいだろう。今回の“事件”について少し説明しようか。」

 そしてバイドベインは、彼の立場からだろう“事実”を、かいつまんで伝えた。


 ベイファスに内通した者がズィーグ領内から新型機関を搭載した航宙機を奪取したこと、それが迎撃され地球に落着したこと、偶々アルカが地球を舞台に降下演習を計画したこと、アルカと敵対しているナイナがそれを阻止、回収を企図したこと、結局ズィーグが直接介入に乗り出して来ていたこと、そしてベイファスもまた。


 固有名詞はよく判らない、わからないが。

 なんてことを、なんてことをしてくれたんだ。

 江嶋は淡々と告げる目の前のトカゲ男を殴りつけたくなったが必死に堪えた。バイドベインには罪はない。人間だって軍隊が動けば山一つ、島一つ姿を変え或いは消し飛ばすことは珍しくない。宇宙種族の国軍4つがそれぞれの思惑で作戦行動を取ったのだ。地球が文字通り吹っ飛ばなかっただけでもマシと思ってここは諦めるしかないようだった。


「で、だ。なるべく穏便に済ませたかったんだがどうも収まりそうにない。星連の安全保障理事会は最低限避けて通れなさそうな見通しなんだこれが」

「そこで、証言しろ、と。地球代表としてか」

「早いな」

 バイドベインは嬉しそうに言う。

「そうだ、そこで一言、“はい”と言ってくれりゃそれでいい」

 一言で総てを肯定しろと。無条件に。

 それが要求か、代価か。

「判った」

 取り敢えず即答。

 最終的にどうするか、その瞬間まではまだまだ猶予はあるだろう。

 ふんふんとトカゲ男は上機嫌のように鼻を鳴らす。

「それとその後のハナシだが。別に一生、飼ってやるのは構わないんだがどうだ、おれの下で働いてみるつもりはないか」


 江嶋はまじまじとバイドベインを、見た。


「はたらく?おれが?あんたの下で??」

 正気か。

「本気だぞ。お前は見所がある。知識なんてすぐ揃う、問題はそれを扱う知性と、戦略的センス、そして決断力だ。お前にはその全てがある、そう見た」

 そりゃどーも。

 それじゃ、用が出来たらこちらから呼ぶ、と個室一つを与えられると孝憲はそのまま放置された。面積は三畳ほど、寝床と、奥にはスイッチ一つで切り替わる炊事場兼浴場兼御不浄がある。

 “オリ”に放り込まれなかっただけましか、いや同じなのか。

 することはこれしかないので与えられたアカウントでネットに接続してみる。

 結果後悔した。激しく。


 銀河(彼らは正しく銀渦、と呼んでいるようだ)はズィーグ、ベイファス、そしてミャウを加えた三種族により大別されているらしい。ズィーグがもっとも旺盛な勢力拡張を行っており首位、ベイファスが次位、ミャウが三位。当然のようにズ族とベ族は各所で接触衝突し、ミ族はその間を機会的に行き来するという構図が成り立ち、しかしその紛争に毎回巻き込まれる諸族はたまったものではなく、ズベ対立を牽制する目的で立ち上げられた弱者連合が星連の母体となったモノらしい。そして星連は有力中小諸族を招致し発言力を高め、遂にズベ両族をもオブザーバーとして帰属させるに至った。国連と字面は似ているが全くの別モノだ。実質空気の国連と比べ、所属各族の利害と対立を肯定した上で積極的に調整を図る場としての実務機関として機能させている。“愛”などというおためごかしは一切存在しない。各プレーヤが誠実に全力を以って臨むパワーゲームの盤上だ。

 自由、平等、博愛。なんとまあ空疎な、無力な掛け声であったことか。

 自分たちがそうした環境に取り巻かれていることを示してやりさえすれば。人類だって一晩で一丸に……無理か。

 なるほど。プレーヤとして盤上に駒を持たないものがゲームに参加出来るワケがない。その場に存在しないモノとして無視されるのは寧ろ当然、必然だ。

 翻って我が手を見下ろし、孝憲はとほうにくれる。

 ましてやおれに出来ることなど、何もない、何も。

 奇矯な玩具を手に入れ喜んでいるトカゲ男のその興味を繋ぎ留めることに腐心し、ささやかな地球の男女ひとつがいの生活の場を確保していくこと、雄の役目として。



「今の説明の通りです」

 孝憲は昂然と胸を張り、言い切った。

「付け加えることは何もありません」

 孝憲の最前、バイドベインは随分長々と言葉を連ねた。それが彼に翻訳されることはなかった。最初それを必死に聞き取ろうとしたが直ぐにその努力を放棄した。いい、もういい。

 もちろんここまで彼が悩まなかったといえば嘘だ。

 どころかさんざん七転八倒している。

 地球に恩義はないか。

 地球、地球人に。

 地球人?。そんなものどこにいる、いた。

 おれは日本人だ。

 日本政府には恩義はたんとある。生命財産の保障、公共の福祉、就業の保障、エトセトラえとせとらetc。

 だが、DFは。

 おれと佳南を遣い捨てただけだ。

 では、日本を救う為に?。何を。

 まさかやつら、辺境の蛮族の、そのまた下部の部族にまで眼を届かせまい。

 眼に見える地球ですら、そこにないかの如く無視して見せたんだ。

 地球ですら。

 無駄だ。何をしても考えても徒労だ。

 ほんとうか、真実そうなのか。

 ただ諦めただけじゃないのか。

 腹が冷える。それは、憤怒だった。孝憲は自分に驚く。この時までそうしたものとは無縁だと思っていたので。

「議長!」

 気付くと彼は叫んでいた。まったく、自分でも意外だった。

「一度でいい。発言の許可を願いたい」

 議場が幽かにさざめく。それを破り孝憲に声が届いた。

「宜しい、私の裁量で認めよう、化外の者よ。但し、簡潔に」

 孝憲は無意識に唇を舐め、口を開く。或いは。この発言に人類の未来が。思考の端を過ぎる影を振り払いつつ。

「まず。この機会を賜った寛大な処置に最大限の感謝を捧げる。真に、有難う」

 一瞬言葉を切り、彼は虚空を見据える。広大な議場は向かいまですら肉眼では見果たせない。

「しかし。私は問いたい。貴方方はこれだけの文明を、技術を、力を持ちながら一片の慈悲をも持ち合わせてはいらっしゃらないのか。我々にも悲しみがあり、命がある。一方的に踏み付け」

「その通り」

 突然、議長が遮る。

「我々は貴君等のチキュウを一方的に踏み付けた。その事実は認めよう」

 孝憲は戸惑う。議長の言葉に感情の揺らぎは、下等生物からその矜持に唾された高貴なるものたる感情の揺らぎは、彼の戦術の効果は、微塵も確認されなかった。

 内心舌打ちしながら孝憲は口を閉じる。

 絶叫したい。

 小指1本でいい、我々の為に動かしてくれ、くれないか、たのむ。このとおりだ。

「なれば私も問おう、エジマよ。貴君は数億の微生物を踏み付けるとき、何らかの痛痒を感じながら足を動かすかね。いや、“アリ”を誤って踏み殺してしまったとき、彼の生を断ち切ってしまった非を天に向かって詫びるかね、そうした経験はあるかな」

 ぐにゃり、と足元が歪んだ。いや視界が。

 そこまで隔絶、断絶しているというのか。

 議長の声は続く。

「貴君等“ジンルイ”についての資料も拝見した。一言で、狂気だよ。通例であれば恐怖で自滅するか、それを回避する為の統合圧力に負けるものだ、しかし貴君等は。訂正しよう、通例、ではない、絶無、なのだ、貴君等はこの“狭い”銀渦の中では無二に異端な存在なのだ。それに思い及ばない貴君等の異常さが理解出来るかね」

 孝憲は軽く口を開き、浅い呼吸を繰り返していた。

「改めて、ジンルイを代表して、問おう、エジマよ。貴君等は限定的ながら航宙能力をも獲得し、こうして私と対話する知性も理性もある。しかしその存在はアリ以下に過ぎん。このことを認めるかね」

 江嶋は、無言で頷く。頷くしかなかった。

「我々は、貴君等を救済する価値を認めない。その存在を認知した今、可能であれば抹殺してしまいたい、小指1本でそれは実現する。しかし我々にも慈悲はある。無害である限りに於いて貴君等の存在を容認する。狂気は伝播する、故に早急に処置したいのが本意ではあるのだが、な。貴君の問いに対する回答は以上だがまだ異議があれば受け付けよう。如何かな」


 そんなものはなかった。ありませんよ、ええ。

 孝憲はこの時初めて、産まれて来たことを後悔していた。


「すまなかった。許しは請わないが謝罪申し上げる」

 バイドベインとの再会一番、彼は和式に思わずその場で土下座していた。

 それを悠然と見下ろしながらバイドベインは応える「初めてだよ」

 孝憲は怪訝にトカゲ男を見上げる。

「そのまま証言台に立たせたのは、お前が初めてだ」

 ただでさえ怪獣のような面構えのトカゲ男が更に凶悪に顔を歪める。

 彼も気付いていた。

 洗脳するなり何なり、ただのスピーカーにしてしまうことは容易だったはずだ。それをしなかった。

「お前を信用したんじゃない、逆だ。信頼はしてたがな。議長もおったまげたろうな、“自由意志”を維持した星連外の証者と対面させられちゃな。効果十分だ。即興にしちゃ良くやってくれた」

 やはりか。やはりバイドベインの策の上で踊らされただけか。或いは一服盛られたかな。

どこが“そのまま”なんだか。

 それとほれ、とバイドベインは背後に首を回す。

「えじま」

 おずおずと、トカゲ男の背後からあどけない表情の少女が顔を出す。

「嫁さんだ」

 か、なん??。

「えじま?」

 わかるのか。おれが?。

「えじまー!!」

 少女は叫び、孝憲に駆け寄る。

 佳南。

 江嶋は身を起こし、抱き止める。

「一部記憶の移植に成功したらしいそうだ、ああ礼は無用だ、奴もこれで10本は論文が書けるって喜んでたからな、そう伝えてくれればだと」

「また、あえたね!」

 泣き笑いの顔で少女は声を上げた。

 ああ。

 悪いことばかりでもない。

 佳南と向き合いながら、孝憲は顔がほころぶのを感じる。

 それを素直に嬉しく思う。今は。


 そういえば。

 彼は後に気になり尋ねたことがある。

「あれ、はよかったのか」

「あれ?」

 バイドベインは探る様な顔をする。

「3種族で争った、あれ、実験機」

 合点がいったようだ。

「ああ、あれか」

 平然といった。

「あれで良かったんだ」

 不思議だ。

「良かったって。おれたちに壊されて、か」

 バイドベインは舌肯する。

「ある意味最良の結果だった」

 全く意味が判らない。

「何が、どう?」

 そこで初めて打ち明けられた。

「あれは、失敗作だったんだ」

 孝憲は更に判らなくなったのでそのまま。

「失敗作を、何故、いや知っていたのか?!」

「ああ」

 そして、聞いた。

「あれのお陰で図の動き方が、その情報が随分取れた」

 そ、そう来るか。

「おまけにこちらの内部でもだいぶ不審な動きが確認された。諜報屋は大喜びだ」

 彼は二の句が継げなかった。

 そんなことに、地球は巻き込まれていたのか。

 バイドベインは止めを刺す。

「あれはな、一時的に標準現行機の約20倍の出力と5倍の速度を叩きだす。だが、あくまで瞬間最大出力、速度、だ。巡航に耐えられん。それでも安ければまだ使いどころがあるがバカ高い。モータースポーツにちょっと使えるくらいかな、だが軍の蛮用には到底ついていけん。図が恐れたのは技術の流出じゃない、逆だ。そんな下らんものを作ってしまった事実そのものを隠蔽したかったんだ、恐らく。捕獲出来んで良かったんだ。成功してたらこっちの得点が高く付き過ぎるところだった。ま、表立って手抜きも出来んし。ああ助かった、礼を言う……まだだったな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ