EP4:新生活//20680418
一晩が過ぎ、住み込み(隔離)インターン初日が始まった。普段寝ているベッドと違うからなのか、朝が弱い俺は6時頃に目が覚めた。軽くシャワーを済ませて俺は食堂に向かった。
昨日の案内で一度見たが、昨日の夜はまゆがご飯を作ってくれたので、ここを利用するのは初めてだ。詳しくメニューを見るとかなり充実していた。モーニングはパン、ご飯から主食を選べて、それ以外はバイキング形式になっていた。まるでホテルなのかと思ってしまう豪華さだ。
「あっ!もしかして、昨日司令に連れてこられた新人さんですか!?」
俺は突然、見ず知らずの隊員らしき人に声をかけられた。
「あれですよね?災害に巻き込まれた候補生の子!」
「えーと……一応そうです」
「あっ!ごめんなさい!びっくりさせちゃいましたかね?私、昨日司令室で見てたもので......」
昨日の司令室には働いてた人が多くいた。明らかに注目されていたのは間違いないだろう。
「突然すぎて驚きましたよね。うちの一番上はああいう人なんです。あなたみたいな人が他にもたくさんいるんです」
彼女は下がった眼鏡をくいっと上げながら話した。
「そうなんですね。ただ、俺はまだインターンなので.......」
「ただのインターンだったらいいんですがね。結構......というかかなりむちゃくちゃする人なので......」
思い返してみれば、人を勝手に東京に輸送したり、詐欺まがいのことしたりとかなりヤバい人なのは間違いない。
「とにかく、この時間も有効に活用しようと思います。将来的にはこういう場所で働くんでしょうし」
「それもそうですね、頑張ってください。あと、総司令から伝言で、『今日の10時から。忘れないで』だそうです」
「大丈夫です。ありがとうございます」
彼女は食堂を離れようとしたが、何かを思い出したかのように振り返った。
「そういえば、まだ名前言ってませんでしたよね。わたしは千代鶴愛衣です。またどこかで一緒に仕事するかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
「俺は御子神雅です。よろしくお願いします」
そう返すと、彼女は手を軽く振って食堂を後にした。
食事を済ませて書類関係のあれこれを済ませて部屋に戻ると、時計は既に9時40分頃になっていた。俺はギリギリになるのも良くないと思い、すぐに部屋を後にして言われていた第一訓練室に向かおうと移動していた。
訓練室に向かう廊下で、俺は一緒にいる楠乃木先輩と代永さんに出会った。
「おはようございます」
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「おはようございます、楠乃木先輩、代永さん。すごくいいベッドでしたので、熟睡できました。」
「それは良かった。ここの生活品は全部いいやつだからな」
「さすがに音声アシスタントがついてたのはビビりましたけどね。本当に電気が消えてすごかったです。話は変わるんですが、昨日送ってもらった資料でいくつか分からない所があって......」
「オッケー、当ててやるよ。適性指数だろ?」
「やっぱり、最初は分かりづらいものなんですか?」
「そうだな。適性指数はファナダイトエネルギーへの適応度合いの数字で、一般には公にされてない。高ければ高いほど強い装備を使ったり、装備を使いこなしやすくなる。代永さん、ファナダイト適性どれくらいだったっけ?」
「私は155です。一般人を100としていますので、私は隊員の中で普通より少し上くらいです」
その数値で高めということはつまり、御前さんはとんでもなく才能があるということだ。ますます不調の原因が気になってくる。
「そういえば今回指揮するのは御前さんだよな?彼女の適正ってどれくらいなんだ?」
「言っていいんですかね......180です。」
「180!?マジで?」
楠乃木先輩は一瞬にして驚いた表情になる。隣にいる代永さんも心なしか瞳孔が開いたように思う
「あの子、入ってからあんまり活躍してなかったイメージあったから、期待してなかったんだ……」
「そうですね。報告書にも不調だと書かれてました。」
「好調になれば、かなりの戦力になるだろうな。原因が見つけられるように頑張ってくれ」
楠乃木先輩はおちゃらけたように言って肩をたたいてきた。
「はいはい、頑張りますよ。それはそうと、もう一つ分からないことがあって、装備品がどんなものか引っかかって……FAT-001ってどんなものですか?」
そういうと、二人は何やら不思議そうに顔を見合わせる。
「私の装備は、柳2式偵察銃撃装甲、です。」
「.......ん?」
代永さんの装備には日本語正式名が付いている。しかし御前さんの装備は型番のようなものしかついていない。この違いが俺には分からなかった。
「あーそれは多分、海外製だろうな。うちは日本製か外国製の装備を使ってるから、適性指数が低い人には外国製の汎用装甲で、適性指数が高い人には日本製のオーダーメイドが作られる......はずなんだけどな」
「......これ、不調の原因見つかったかもしれないですね。」
「......かもな」
「......」
そうやって話をしていると、後ろからヒールの足音が聞こえてきた。
「もう全員来てたのね。時間より早めで助かるわ」
「おはようございます、鹿久保さん........あれ?でも俺の相手がまだきてないみたいですけど」
「亜弥ならもういるんじゃない?この先に」
そういうと鹿久保さんは歩みを止めることなく廊下を歩き続けていく。
長い道を歩くと、右側に大きな窓が見える。その奥には一面が白一色の大きな訓練施設が見える。
その中に、遠目からでもわかるほどの動きをしている人がいた。彼女はここからでもわかるほどの大きな大剣を振り回していた。
「あれが........御前亜弥さん?」
「そう、あんたの相棒になる相手。今はあんまり調子が良くないのよね」
鹿久保さんがそういうと、楠乃木先輩が口を開く。
「御前さんの話は聞きましたが、彼女は適性指数は高いのに、外国製の装甲を着ていて、それがあまりあっていないのが問題なのでは?」
「そうだったら、ちゃんと改善してるはずよ。多分体じゃなくて、心の問題だと思うのよね」
「心?」
「あの子はまだ若いし、ここに来てまだ日も浅い。いろいろあってあんまり馴染んでなさそうだったkら、同じような子をパートナーにしたの」
「そういうことだったんですね......」
「と、いうわけで」
鹿久保さんは近くにあったマイクを手に持ち、話し始める。
『御前亜弥。もう時間よ。顔合わせがあるから一旦上がってきてちょうだい』
すると下にいた御前さんはすぐに練習を終わらせ、向こう側の階段からこちらにやってきた。
「ということで、今日から一か月インターンをすることになった御子神雅。インターン生だけど、ちゃんとするように」
鹿久保さんが話を終えると、今度はこちらの目を見て綺麗な敬礼をした。
「御前亜弥です!今日からお世話になります!」
「お世話になるのはこちらの方です。御子神雅です、よろしくお願いします。」
なんだか堅苦しい挨拶にはなってしまったが、第一印象としては『真面目』だと思った。鹿久保さん率いるファナティクスではかなり珍しい方ではなかろうか。
「まぁ建前でちゃんとしろって言ったけど、若者なんだからもっと緩くいってもいいのよ」
「ですが、インターンシップであっても司令ですので」
鹿久保さんがフォローするも、かなり真面目な性格なのが見て取れる。先程の話から察するに、俺は御前さんの心理面を主に改善するのを期待されているのだろう。それなら心の壁はなるべく低い方がいい。
「俺も堅苦しくはない方がいいかな。敬語はなくてもいいよ」
「そうですか……あっ、ごめんなさい私、あんまり敬語外すのは慣れてなくて……堅苦しくはしませんので」
「大丈夫。全然それでもそれでいいよ」
いい感じに緊張もほぐれてきたようだ。
「顔合わせもいい感じね。それじゃあ本題と行きましょう。亜弥、今から実戦演習をしてもらうわ」
「実戦?」
もう俺も突拍子もないことには慣れ始めてきたのだろうか、あまり驚きの感情がわいてこない。
「実はこの前双害獣を捕まえたのよ。亜弥にはそれを相手してもらって、それを見た彼にいろいろと指導してもらうようにしなさい。倒せなくても柳ちゃんもいるから心配ないわよ」
「了解。精一杯頑張ります!」
御前さんは驚いた様子がない。素晴らしい適応能力だ。
説明からしばらくして、実戦訓練が始まろうとしていた。俺、楠乃木先輩と代永さん、鹿久保総司令は先ほどまでと同じ訓練スペース上の通路で、御前さんのみが下に行っていた。
『間もなく開始します』
御前さんが所定の配置につくと、すぐにスピーカーから合図が流れ始めた。
『3......2.......1.........開始』
その音と同時に、ケージが開き、中の怪物が解き放たれた。近くにいる御前さんに向かって勢い良く走り出した。
鋭い爪を彼女に突き立てる、しかしその手は、彼女の持つ大剣によってはじかれた。
怪物が体勢を崩した一瞬で、御前さんは敵の腹部にめがけて飛び込み、その大剣で敵の体を真っ二つに切り落とした。
『終了』
体感10秒くらいだろうか。勝負は一瞬で終わった。
「どうだ?御前さんの初見の反応は?」
楠乃木先輩が話しかけてくる
「そもそもの話、銃火器とかで距離を取らずに、剣であそこまでできるのがすごいですね。正直、なんで不調なのかさっぱりで…....あれ?」
俺は彼女の方を向いた。彼女はここから見ても酷く疲弊しているようにみえる。
「あれ、大丈夫か?」
「行きましょう」
俺たちはすぐに下へ向かい、明らかに不調な御前さんに駆け寄った
「御前さん!?どうかしたの?」
「だい.......じょうぶです.......いつものことなので........」
「医務室に行こう。代永さん、反対支えてくれるか」
楠乃木先輩と代永さんは2人で彼女の肩を支えた。
「いつものこと?」
俺はその言葉に疑問を感じた。あんな症状が毎回出ていたら、複数相手の実戦なんてできるわけがない。
すると、近くから鹿久保さんが近寄ってくる
「これで分かったかしら?これが彼女の最大の難点なの」
鹿久保さんは真剣そうに話す。
「彼女は高い適応指数と古い装備でも圧倒できる才能がある......だけどファナダイトに適応できることはメリットばかりじゃない。そもそもファナダイトは人体とは相容れないもの、適応しやすいということは、体にファナダイトエネルギーに対する免疫細胞が少ないことを意味する」
「......」
「その結果、彼女の体は少し戦うだけですぐに疲弊する......体に大量のエネルギーが即座に入り込んで、それを異物だと考えた体が抵抗してしまうの」
「それって、体は大丈夫なんですか?」
「幸い、ファナダイトは蓄積されることはないわ。だから日常生活で少しずつ排出されるものなの。でも彼女は体に入るされる総量が多いから、戦闘後は体調不良になって戦線復帰が遅くなる」
これは彼女の体質の問題でもあり、彼女のせいではないのだろう。
「でも、それはもう大丈夫なの。特注の装備や薬があれば、普通に生活したり、戦闘することができる。......問題はさっきも言った、心の方。」
「心......」
俺は遠のいていく彼女の背中を見て、ただ呆然と立ち尽くしていた。
解説話by千代鶴さん
「ファナダイトっていうのは、近年発見され始めた鉱石の名称です。それまでメジャーだった石油の何倍もエネルギー効率が良くて、目を付けたアメリカ、中国、インドなどの国ですぐにファナダイトを使う発電設備や兵器開発が勧められました」
「ただ、生身の人は触れただけで免疫細胞が活性化して、体調不良になってしまいます。一方で、免疫細胞が少ない体質の人は災害対抗者になる素質がありますが、ファナダイトを用いて戦闘を行うと、体がファナダイトエネルギーを体外に放出しようとして、結局熱などの体調不良になるケースがあります」
「さらにはファナダイトは研究が行き届いていない部分が多くあり、各地で大きな事故があったこともあります。同じく近年発生しているドッペル災害とも、関連性が疑われています」