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幻獣召喚ヤモリ

作者: 無色なそら

 どんな世界でも争いは生まれる。

 弱者は強者に淘汰され、負けた者は誰からも見向きもされなくなり、その評価が覆ることは決して無い。それはこの世界としても当然の摂理。


 この世界では、召喚獣を使役することでやっと一人前の評価を受ける。 

 召喚獣とは、召喚者の生まれつきの力次第で決まったランクの獣を召喚したものであり、召喚者のみが使役できるようになる。

 しかし、召喚すらできない者は、人としての権利すら失われる。






「──おら、座ってねえでさっさと運べこのグズが! 召喚獣も使役できねえお前はこれくらいでしか役に立てねえんだからよ!」


「ご、ごめんなさい。すぐ運びます……ほら、君も危ないから他所へ行きな」


 俺の名はオーディン。皆からは汚泥のように醜い存在としてオディと呼ばれている。

 召喚獣を使役するのが当たり前の世界で、召喚獣を持たない唯一の人間。

 今は街の建物を造っているユエンさんの下で働かせてもらっている。


「なあオディ、お前は召喚獣すら持ってねえんだ。そんなお前を雇ってやってるのは誰だ? その気になりゃあお前みたいな無能は切り捨てて、他の“人間”を雇うことだってできるんだぞ?」


「お、お願いですから見捨てないでください! ユエンさんに捨てられたら、俺は……」


 俺はこの世界で仕事を見つけられず、野垂れ死ぬことになる。いや、それなら良いほうだ。最悪の場合、この街での居場所は無くなり、外にいる魔物に食い殺されてしまうだろう。


「ッチ、分かってんならさっさと働け。それと、その木材ちゃんと洗っとけよ? 泥の匂いが臭くてかなわんからな」


 ユエンさんは笑いながら去っていく。


「は、はい……そうですよね。はは……ちゃんと洗っときます……」


 普段からこんな仕打ちだが、昔に比べればかは遥かにマシだ。雇ってくれるだけでありがたい話なのだから、精一杯働かなくては。





 ──しかしある時、俺は重大なミスをした。


「お前、自分が何をしたのか分かってんのか!? クソ、お前みたいな奴早く切り捨てておくべきだった!」


 木材を運んでいる途中に足を滑らせ、ユエンさんの召喚獣の足を傷つけてしまったのだ。


「ああ、僕はなんてことを……ごめんなさい! この分は一生かけて償います! だから……」


 必死に謝罪するが、当然許されるはずもなく、その後は酷いものだった。作業中だった者達も集まってから殴られ、蹴られ……終いには召喚獣たちを使って僕を痛めつけた。


 僕は捨てられた。ご親切に街の外まで運ばれて、戻ろうとしたら街中に仕事ができないのに召喚獣を傷付ける疫病神だって張り紙まで出されて、人々から嫌悪の眼差しを向けられて……耐えられなく成り逃げ出した。


 そうして遂に僕の居場所は無くなった。


「いや、そんなもの元から無かったのかもしれないな」


 街に戻ったところで居場所は無いし、このまま街の外に居ても魔物に食い殺される。そんな最期を遂げるくらいなら、今ここで死んでしまった方がマシだろう。


 僕は木に縄をくくり首にかける為に岩に登ると、奥に何かが見える。


「……? あれは、女神様の像? なんでこんな所に……もしかして、僕みたいに捨てられたのかな?」


 僕は気になって、女神様の像に近づいていく。


(随分と汚れてるみたいだし、綺麗にしてあげようかな?)

 そう思うと俺は、最期くらい良いことしたって、罰は当たらない筈だ。


「女神様の像を捨てるなんて、罰当たりなことをする奴が居たもんだな」


 よし、綺麗になったかな。これで僕みたいな奴なんかでも、少しは女神様のお役に立つことはできただろうか?


 僕は女神様の像をその場に立てると、先程縄をくくった木の下へ戻り首に縄をかける。


 これでもう思い残すことは……思い残すこと……せめて皆と同じように召喚獣を使役して、人並な生活を送りたかったな。

 来世というものがあるのなら、それに期待をすることにしよう。


「──そこの人間、止まりなさい」


 何処からともなく声がする。

 僕を止めようとしてくれてる人がいるのかな? って、そんな訳ないか。きっとこれも、僕の幻聴なんだろうな……。


「──あれ、止まんないんだけど……そ、そこの人間、今すぐ止まりなさい! これは女神クリアナの命令です!」


「女神様?」


 岩から降りようとしていた足を止め、目を開ける。


「──そ、そう女神よ! 貴方がさっき綺麗にした私の像あるでしょ? そこから話しているの」


 女神様の像が話して……? やっぱりこれは幻聴だな。銅像が話すわけないし……。


「ちょ、ちょっと、なんでまた足を進めてるのよ!? いいから止まりなさいって! そして一旦私の前に来なさい!

 聞いてる? おい聞け! 聞けっつってんだよッ!」






「──ほ、本当に女神様だったとは……も、申し訳ございませんでした!」


 僕は余りにもはっきりと聞こえ、止めようと必死になっている声を確かめる為、もう一度女神様の像の前に来ていた。

 しかし、まさか本当に女神様だったとは……女神様の声を聞き入れずそのまま死のうとしてしまって、お、怒っていないだろうか……?


「──ぜぇ、ぜぇ……ふぅ、やっと来てくれたわね。コホン、改めまして私は女神様クリアナ。あなたの行い、しかと見させてもらいました」


 僕の行い……今まで多くの人に迷惑をかけてきたこと、見られてたのかな? なら死ぬ前に罰を与える気で僕の前に来られたってことだよね。


「貴方のこれまでの心優しき行い、評価します。ここで命を絶とうというのならば、その前に私が一つ願いを叶えて差し上げましょう」


「え? 願いって……そんなこと……」


「──さあ、行ってご覧なさい」


 僕の願い……それは──。


「僕も人の生活の役に立てる召喚獣を使役して、人並みに生活を送りたいです」


「──あら、そんなことでいいの? もっとこう……世界最強になる! みたいな、男の子ってそういうの好きじゃないの?」


「はい、強い召喚獣は望みません……。ただ君の召喚獣は凄いねなんて言われたりして、困ってる人たちを助けてあげたい」


 まあ僕みたいなのが召喚したところで、荷運びができる大型なのじゃなく、木の実を取ってこれるのくらいの小型の召喚獣だろうな……。


 女神様の像の後ろから、像によく似た女性が薄っすらと現れた、気がする。


「──分かりました。その願い聞き入れましょう。ただ、これは女神が直接関与する幻獣召喚となるので、貴方が想定するものよりかは少し大きいものになってしまうと思います。さあ、私の前で召喚の儀式を行いなさい」


 僕は女神様の像の前で姿勢を正し、手を胸に当てて儀式の言葉を詠唱を始める。


「は、はい。……其の主となる我が身を支え、共に世を生きる伴侶となる精魂よ。今ここに来たれ……召喚」


 女神様の像が光り出して辺りの景色を包み込み、僕はそのあまりの眩しさに目をつむる。


「儀式は完了しました。さあ、目をお開けになりなさい」


 どれくらいの時間が経っただろうか、女神様の像が発していた光は消え目を開くと、先程薄っすらと女神様の像の後ろに見えた女性が、今ははっきりと見え、僕の前に立っていた。


「これは一体……僕の召喚獣はどこに居るのでしょうか」


「ふふっ、それならちゃんといますよ。ほら目の前──」


 女性がそこまで言った時、僕は手のひらに多少の違和感を感じ、胸に当てていた手を解いて確認をする。


「これは……ヤモリ……?」


「えっ、何その子? あなたさっきそんな子、手に持ってたっけ?」


 そんなことを言われても、僕はこんな子を抱えていた覚えはない。つまり──、


「この子が、僕の召喚獣……」


「ちょっと待てえぇぇい! ほんとに何その子?! 私は召喚の儀式をやるフリをして、あれ? 私が召喚されちゃった☆ 的な感じにしようと思ってたのにいぃ〜~」


 僕の召喚獣、ヤモリ……手のひらサイズで凄く小さいけど、すごく嬉しい。可愛いなあ、この子はどんなふうに育ってくれるんだろう。


「ありがとうございます女神様! これで僕もみんなと同じように……」


 僕にもやっと召喚獣が来てくれた! もう死んでなんかいられないよ。

 でも、あの街にはもう戻れないから他の街でだけど……。


 僕は目の前の現れた女神様? にお礼を言って去ろうとする。


「ね、ねえ? 私とも一緒に冒険したくない? 女神クリアナといっしょに居られるなんて、これほどまでに光栄なものは無いと思うけど?」


 そう言って女神様が僕を引き止めようとするが、僕は人並みに生きられるのなら後は何も望まない。


「折角人並みに生きられるようにして頂いたのに、それ以上望めるはずもございません。これ以上強欲になってしまうと罰が当たってしまいそうで……本当に、ありがとうございました」


 もう一度女神様にお礼を伝え、去っていこうとすると──


「…………やだやだやだー! 私も一緒に行くの! いっつも像の中から見てばっかりでつまんないんだもん、私も美味しいものいっぱい食べていっぱい遊びたいのー!」


 まさか、女神様が駄々をこね始めてしまうとは……。

 ここは断らなければいけないのかもしれないが、今の僕には召喚獣を使役させてもらった恩がある。

 こちらの願いを叶えて頂いたのに女神様の願いを断るわけにはいかない。


「分かりました。それでは一緒に行きましょう。女神様故心配はご無用かと思いますが、外はどんな人がいるか分からないので、安易に女神様だと公言されない方が良いと思います」


「本当!? 分かった分かった、やぁったー!」


 こうして僕は、召喚獣のイモリと女神様のふたりと旅をすることになりました。

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