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グッラブ! 3  作者: 中川 健司
第10、11話 文化祭
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第11話 文化祭 後編 P.16

「というわけなんだけど……」


とりあえずすべてを二人に話してみた。二人は健斗が話している間茶々を入れるようなことをしてこなかった。二人は健斗の話を聞き終えると何かを考え込んでいるかのように、目をつぶっていた。そんな二人の様子が奇怪に見えて健斗はちょっと不安になった。


「うん……まぁ、とりあえず言えることは……」


山下が先に口を開いて、健斗を見る。健斗はその視線にドキッとなった。


「それってまだ振られてなくね?」


「え?」


山下がちょっと笑いながら健斗にそういった。健斗が唖然としていると、山下はヒロのことを見て「なぁ?」と聞いた。すると、ヒロは難しい顔をしていたけど、なんとなく安堵の色を見せていた。


「まぁーなぁ。それは振られたんじゃなくって、完全に麗奈ちゃんが勘違いしてるだけだろ。」


「勘違いって、やっぱあの場面に遭遇したからってこと?」


「そりゃそうだ。お前が逆の立場だったらどうよ?告白紛いの場面に遭遇して、そのあとそいつから告白されて、信じられると思うわけ?」


山下が呆れるように笑いながら健斗にそういった。まぁ、麗奈がそういう勘違いをしていることは分かっていたが、そういう意味で振られたと思い込んでいた。


「だ、だってよ、私たちはただの同居人同士って言ったんだぜ?それって……」


「お前って本当に女心を分かってないのね?」


「仕方ねーよ。こいつはこういうやつなんだ。」


ヒロと山下は顔を見合わせながら、ヤレヤレとため息をついた。健斗はそのやり取りが気にくわなく、むっとした感情を抱いた。


「な、なんだよ。どうせ俺は……」


「あのさ、そういう風に言わざる得ないじゃん。その場合。その、麗奈ちゃん?はさ。お前のこと好きなんだけど、お前は早川さんのことが好きだと思い込んでるからそう言ったんだよ。」


「まぁ、山下の言う通りだな。結局誤解を解かないで勢いに任せて言っちゃった結果でしょ。」


なんか、やけに責められてる。早く自分の気持ちを伝えろと言ったのはヒロなのに。なんかしっくりこない。


「お互い両想いなのに、気持ちの擦れ違いってやつだな。うわー、面倒くせぇ。」


「う、うるさい!お前に俺の気持ちはわかんねぇよ!」


とは言っても健斗は半ば安心していた。まだ振られたわけじゃないと分かって、ちょっと嬉しかったのだ。先ほどの心のモヤモヤが少し解消された気がした。


すると山下はニヤリと笑った。


「まぁでも、それならそれで案外早く解決するかもよ?」


「え?どういうこと?」


健斗とヒロは不思議そうな顔をしてお互いに顔を見合わせてから、山下のことを見た。山下はやけに自信ありげな表情をしていた。


「だから――」












「で、俺らはなんでここにいるわけ?」


健斗が苦虫を噛み潰した顔で山下に連れられてそういった。健斗とヒロと山下の三人は隣町のシンボルマークといえる大型ショッピングモールに来ていた。


「こういうときは、プレゼントなんかあげて誠意を見せつけてやるんだよ。」


「つまり、何?これからプレゼントを買えってこと?」


「そゆこと。なんか麗奈ちゃんが喜ぶようなものをあげて、お前のマジな気持ちをぶつける。そしたら大概の女の子は一コロだぜ。」


山下はルンルンと楽しそうにしながらショッピングモール内を歩いていく。健斗は不安そうな顔をしてヒロを見た。


「ヒロ……」


「……まっ、山下の言う通りにしてみれば?」


マジかよ……健斗は心の中でそうつぶやいて、小さくため息を吐いた。でも、山下は悪い奴ではないし奴も奴なりに考えて行動してくれているわけだ。まったく事情も知らないだろうが、ここはヒロの言うとおり山下の言うとおりにしてみるのも一つの手かもしれない。


「お、ここよさそうだなー。おーい、お前らー!こっちこっち!」


健斗たちと数メートル離れたところで立ち止まって手を振っている陽気な山下を健斗はじっと見つめた。こいつ、やっぱり何も考えてないのかもしれない。健斗はそんなことを考えながら、ヒロと山下のもとへと急ぐ。山下が選んだ店は……


「また……ここ?」


山下が選んだ店は、麗奈の誕生日プレゼントを買うためにヒロと佐藤といっしょに来た、女の子が好みそうなグッズが売られている場所だった。そのため、店の中には女子高生などたくさんの女の人たちでにぎわっている。


「あれ、ここ来たことあんの?だったら話が早いじゃん。ここで麗奈ちゃんが好きそうなもの選ぼうぜ。」


「……うん……まぁ。」


知らない店ではないとはいえ、やっぱり入りにくい。あのときは佐藤がいっしょだったからまだ入ることができたが、今回は男三人だけだ。入ろうとするも、なんとなく視線が気になった。


「何してんだよ。時間ないんだから、早くしろって。」


「くっ……覚えてろよ、お前。」


健斗は恨み言を吐き捨てながら、思い切って店の中に入って行った。


そんな健斗を見ながら隣でニコニコと笑っている山下を横目で見たヒロは、小さくため息を吐いて言った。


「ったく……強引なんだからな、お前。」


「多少強引にでも行かないと、あいついつまでもウジウジと考え込むだけだろ?」


一理あった。確かに、時にはこういう思い立った行動も必要かもしれない。それはヒロにはないところだった。健斗に合わせて健斗が自分自身で一番だと思う方法を見つけるまで、傍で見守る。それが今までヒロのやってきたことだ。


「それはそうと、大丈夫なわけ?」


「何が?」


「こんな方法で。プレゼントなんかで上手くいくなら、こんなにややこしいことまでにはなってないと思うんだけど。」


「いやー、だってさ、お互い両思いなんだべ?だったら、もう一回アタックするしか他にないじゃん。プレゼントってのはただのプラスαみたいなもんだよ。」


「お前が思っているほど簡単じゃないんだよ。お前が言う、大概の関係じゃないの。あの二人は。」


ヒロが言うように健斗と麗奈の関係というのは、普通の関係とは違う。普通の恋をするには、お互い距離が近すぎているのかもしれない。お互いの良さ、お互いの悪さを二人はすでによく知っている。普通ならそれをこれから見つけていくものだ。だけど、あの二人はそうじゃないからこそ普通とは違う意地を張ったり、気持ちがすれ違ったりする。本当にややこしいし、面倒くさいかもしれないがそういうことなのである。


そんなことを聞いた山下はちょっと理解しがたいというような顔をした。


「まぁ、どんなのかは知らないけど……でも、あいつ見てみろよ。」


「え?」


ヒロが次に健斗に目を向けた。すると、健斗はなんとあちこち探しまわって「これがいいかな?いや、こっちも……でも、あいつこんなの絶対文句言うよな。柄じゃないよな。」なんてことを一人でつぶやきながら意外にもノリノリで店中を物色していた。


「あいつも結構ノリノリじゃん。」


「……俺、最近のあいつの行動がよくわからん。」


「え?」


そんなことを言われていることも知らず、健斗は懸命になっていろんなものを見てはいろんなものを吟味していた。周りの客から可笑しそうにクスクス笑われているのも全く気付かないほどだった。健斗は手にとってものをみて、まず最初に麗奈の気持ちになって考えてみた。


――シュシュか……でも、あいつってたまに髪を結ぶけど、ほとんどそのままおろしてるよな。あんま使わないかな。


――ハートの髪飾りってのも柄じゃないだろうし、キーホルダーなんて渡すような状態じゃないし……


店に入って物色し始めてから三十分以上が経過しようとしていた。外では山下とヒロが退屈そうにしながら健斗のことを待っていた。そして、ちょっと店の奥に進んだところで健斗はあるものに目が付いた。


「これ……」










「結衣……結衣ってば。」


「え?」


ぼーっとしていたらしい。円が顔を覗き込んで結衣のことを不思議そうな顔をしてみていた。結衣は看板に紙で作った花を取り付けようとしたまま動作が固まっていたことに気が付いた。円はそんな結衣を見て、「どうしたの?」という顔をしていた。


「あ、ご、ごめん。」


「今、すごい状態で固まってたよ?」


「う、うん。ちょっと考え事してて。」


「考え事?」


「う、うん。ちょっとね。」


さすがに円には言えない。昨日のことなんて……


昨日、確かに健斗が言い出したことはびっくりした。でも、途中からそうなんだって納得する感じで聞いていたからさほどの驚きはない。それに、すごくうれしいことでもあった。あの健斗が自分のことをそんな風に見ていてくれてたなんて、思いもしなかった。


中学の時から自分のことを好きでいてくれた。それに今まで気づかなかった自分ってどんなに鈍感だったのだろう。健斗の言ったことはすべて覚えていた。翔の葬式の時、遺影の前で一人たたずむ健斗を発見した。


最初はあのとき声をかけようか悩んだ。でも、正直知りたかった。何を考えているのか、どんな思いでその遺影の前に立っているのか。知りたかったというよりも、苦しかった。それはたぶんわかっていたんだ。きっと、自分を追いつめているって。自分を追いつめるため、その顔を忘れないようにしっかりと見ていたことを。それに気が付いたとき、なんだか胸が苦しくなって……それで……


あのときのことをそんな風に思っていてくれたなんて……自分でも、もう忘れかけていたことなのに。


まぁ、そこはとりあえず置いといて……問題はあのあとだ。まさか、あの場面を麗奈に見られるとは思っていなかった。やっぱり、あのタイミングであんなところを見れば麗奈は……


――やっぱり、勘違い……してるよね。


このままじゃ、自分のせいで健斗と麗奈の関係を壊してしまう。そんなの絶対に嫌だし、なんとかしなくてはならない。


――私が、麗奈ちゃんにちゃんと説明しなきゃ。


そうしなければ、このままだと健斗と麗奈の関係は一生修復できないのではと結衣はそう思った。そんなことを考えていた、そのときだった。


「早川さん、北村さん。」


そのときほかのクラスの実行委員の子が結衣と円に声をかけてきた。


「今日はここまででいいって。あとは、自分たちのクラスの仕事をしてきても大丈夫だってさ。」


「あ、そうなの?じゃあ、クラスの方に行こうかな。ねぇ、結衣。」


「あ、うん。私もそうする。」


助かった。一刻でも早く麗奈ちゃんに会って話をしなくてはならない。結衣は道具を地面においた。


「ごめん、円。私ちょっと急ぎの用があって、後片付けお願いしてもいい?」


「え?あ、うん。別にいいけど……」


円はちょっと戸惑いながら快く承諾してくれた。それを聞いて、結衣は小走りでその場から離れる。


「本当にごめんね。それじゃ!」


それだけ言うと、結衣は急いで教室の方へと向かっていった。そんな風に走って去って行った結衣を見ながら、円は不思議そうに首をかしげた。


「なんか……今日の結衣、変だったな。ずっとそわそわしてたし……」


そう一人でつぶやくと、結衣の置いて行った道具を拾い円は後片付けを始めた。









結衣は階段を一気に駆け上り、廊下を行きかう人を避けながら教室を目指していた。教室に着くころには息が切れていた。教室の中には、ほとんどのクラスの人がいてそれぞれ裏方の仕事をしていたり、演技の練習をしていたりと忙んでいるようだった。しかし、その中には麗奈の姿が見当たらなかった。


「あ、おーい!結衣ー!」


そんな結衣のもとに駆け寄ってきたのは、着物姿のマナだった。どうやら試着を試みていたようだった。


「結衣が借りてきてくれた和服、ちょーかわいいんだけど。どう、似合う?」


「あ、うん。すっごく似合ってる。」


似合っているのは本当だった。マナのトレードマークといえるポニーテールにはいつもの髪留め用のゴムではなく、きれいな紫色のリボンで縛られていてピンク色の着物がよく似合っていた。少々派手に見えたが、マナは見事に着こなしていた。


「本当に?きゃー!!やっば、すっごいテンションあがるー!!」


「う、うん。ねぇ、マナ。麗奈ちゃん見なかった?」


結衣がそう聞くと、マナはちょっと首をかしげた。


「麗奈ちゃん。麗奈ちゃんなら……あれ……さっきまで教室にいたはずなんだけど……」


「そうなの?」


「うん。もしかしたらどこかで歌の練習でもしてるのかな。」


「歌?」


「だってミュージカルじゃん。ヒロインはやっぱ歌を歌わなきゃ。ってことで、軽音部の神谷くんが作ってきた歌をどっかで練習してると思うんだけど。」


「そっか……」


「どうかしたの?」


「え、あ、ううん。大した用じゃ……あ、あと……えっと……健斗くん……は?」


「健斗?」


それこそ不思議だと言わんばかりの表情で結衣を見つめてきた。


「健斗は結衣といっしょでしょ?だって、委員会の仕事があるって言ってたじゃん。」


「あ、そっか……」


でも、健斗の姿はいつの間にか見えなくなっていた。健斗は確かテントを立てていたはずだが、その中に健斗はいなくなっていた。確かに最初のころは健斗はいたはずだったのだが、いないということは先に教室に帰っているものばかりだと思っていた。しかし、マナの反応を見る限り教室には一度も戻ってきてはいないらしい。


「そういえば、ヒロのやつもいないんだよね。まったく……いったいどこでサボってんのやら。」


「そ、そう……」


そんな風に落ちこむ結衣を見て、マナは何かに感づいたように真剣な表情になった。


「ねぇ、何かあったの?」


「え!?な、何かって何が?」


「わかんないけど……もしかして、あのことが絡んでるとか?」


マナは意外と鋭い。確かにそう、そうなのだが事態はもっとややこしい。とにかくここでマナとその話をするわけにはいかなかった。


「う、ううん。別に。ちょっと劇のことで麗奈ちゃんに相談があっただけ。」


「そう?」


「うん。だから、やっぱり私麗奈ちゃん探してみるね。」


「あ、ちょっと結衣!」


マナの言葉を待たずに結衣は走って教室から出て行った。残されたマナは唖然としながら結衣の異変になんとなく感づいているようだった。











マナの言う話であれば、麗奈はどこかで一人歌の練習をしているという。歌の練習を一人でする場所なら、一つしか思い浮かばなかった。結衣は急いで階段を一気に駆け上り、四階までたどり着いた。そこにあるのは、音楽室。そこは防音だし、今の時間に使っている人はいないと思う。だから、音楽室にいるのではないかと結衣は予想した。


結衣が四階に着くと、やっぱり音楽室からメロディーが聞こえた。美しい歌声だ。聞いたことのある声だった。結衣はおそるおそる音楽室の方に行き、ドアの窓から中をのぞいてみた。


――いた!


麗奈はやっぱりそこにいた。一人で椅子に座りながら、手に一枚の紙を持って歌を歌っていた。かすかに、その歌の内容が聞こえてきた。






池の水が鏡のように 月の光を照らしていて

風が吹くと揺れてる 心はいつもそんな風で


抱きしめたいと思うたびに胸が苦しくなるような

やけに寂しさが募っていくの

あなたはもうわかってくれないから


例えば 空を映し出している水面月に還れたら

少しは楽になれるのかな?

孤独の波が押し寄せてきても

どうか いつも 強くいられますように









すごく優しいメロディーと歌詞だった。まるで、自分の気持ちを代弁しているかのようなそんな歌だった。そっか……今回の劇のお話も、確かそんなお話だったっけ……


城下町に住む女の子と幼馴染の男の子、その結ばれたくとも結ばれない恋……想い……お互いの気持ちがすれ違って……


結衣はふぅっと深呼吸をした。そして、意を決したと同時に音楽室のドアをガラッと開けた。




今回は場面展開がさまざまで、ちょっと変わったページだったかもしれません。

あまり、結衣目線で物語を描くことはないのですが、今回はお話の筋として結衣目線も加えさせていただきました。実は、今回のお話の後の何話目かで結衣目線を中心としたお話を描こうかと構想中です。この間感想で、結衣は健斗目線でしか描かないところがいいと言ってもらえたのに、ごめんなさい汗


ところで、今回ちょっとした歌詞が出てきましたね。きっと何の歌だろうと思ったでしょうか?


実は、この歌、僕の自作です照


実際する曲の歌詞を入れると著作権や何やらでまずいらしいので、自分で作りました。実は僕、ちょいちょい趣味で作詞作曲をするんですよ。


今回の歌詞には、実はちゃんとメロディーも存在していてそれを読者の皆様にお伝えすることができないのは非常に残念です。

まぁ、ちょっと見ると分かるかもしれませんが、今の麗奈の気持ちを考えながらふわっと浮かんだ歌詞を色々試して構成してみました。

こういうのどうですかね……なんか、恥ずかしい笑




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